一人の美少女が何度もセフィロスの腕の中にいる所を確認されている。
大衆紙はその少女の素性を知るために躍起になっているが、まったく姿を現わさない。
あまりにも完璧に姿を現わさないため、逆に”英雄セフィロスの本命の恋人”とまで言われはじめていた。
FF7 クラウド神羅時代偏 ー Millefeuille ー
クラウド・ストライフは神羅カンパニー治安維持部に所属する訓練生であり『神羅の英雄』とまで言われるソルジャー・セフィロスの唯一の下士官だった。
成績は優秀で、すでに”ラ系”の魔法がかけられるほど魔力が高く、住んでいた地域のモンスターが強かったせいか腕っぷしも度胸もなかなかの訓練生で、すでに実戦に投入されても無事なすべき事をして生還すると言う成果をあげていた。
最初こそ『容姿でセフィロスに取り入った』と言われていたが、その実力はあっという間に治安維持部中に知れ渡っていた。
そんなクラウドがパタパタと書類を持って走っていると、その形相からか、それともその書類の行き先を想像してなのか、廊下を歩いている兵士が道を譲ってくれる様になっていた。
今日も訓練を終えて総司令の執務室へと行こうとするクラウドに、教官やソルジャーが見かけると自分の書類をついでに持って行ってもらうべく声をかけていた。
「ストライフ、この書類を総司令に頼む!」
「すまん、クラウド!これ今日提出期限の報告書だけどサーに持って行ってくれ!」
頼まれたら嫌とはいえない身分であるうえに自分の仕事になる可能性のある書類なのでクラウドも嫌とはいえず、敬礼して受けとっては執務室へと急ぐのであった。
カメラを持ち腕章をはめた記者と思える男とすれ違ったが、気にすることもなく走り去って行ったのであった。
本社ビルに到着すると専用エレベーターで一気に67Fへと移動する。
乗り物が苦手だったクラウドも次第に色々な乗り物に慣れてきつつあったのか、エレベーターのふわりとした感覚もやっと違和感が無くなってきた。
長い廊下の先に有るマホガニーの天然木の扉をノックし、開けると同時に敬礼をする。
「クラウド・ストライフ、入ります!」
この執務室に入る時は必ず名前を名乗り敬礼するのが決まりであったのであるが、返事が帰ってくる時はほとんどなかった。
大きな窓を背に憂鬱そうな顔で書類を眺めている男は光を集めたような長い銀髪に秀麗な顔だち、やや冷淡なかがやきを持つ緑色がかったアイスブルーの瞳に、戦場での豪胆さを微塵にもださ無い指先。
鍛えられた身体を仕立ての良いスーツに隠しているこの部屋の主は”英雄の中の英雄”とまで言われる男、ソルジャー・セフィロスであった。
いつもの様に目の端でちらりと自分の下士官を捕らえるとセフィロスが珍しく名前を呼んだ。
「クラウド、ちょっと来い。」
「あ?は、はい!」
急に名前を呼ばれて首をかしげながらクラウドがあわてて駆け寄ると、セフィロスがさも嫌そうな顔で一枚の新聞記事をさしだした。
クラウドがその記事に目を通すと目の前の司令官に問いかけた。
「サー・セフィロス。もしかしてこの”謎の美少女”とは…まさか?」
「ああ、どうやらそのまさかの様だ。先ほどルーファウスのところにゴシップ誌の記者が来て、根掘り葉掘り聞き出そうとして失敗して帰ったそうだ。」
「失敗してよかったです。もし、これが自分だとわかったら何といわれるか、気が気ではありません。」
「ならばせいぜい気をつける事だな。」
セフィロスは冷たく言い放つと自分の執務に戻った。
クラウドがため息をつきながら自分の仕事を始めると、いつもの様にひっきりなしにソルジャー達が書類をもらいに来たり持ってきたりと出入りが激しい。
その扉の向こうに先程すれ違った記者らしき男が立っているのがちらりと見えたのでクラウドは思わず頭を抱えた。
その時相変わらず大きな足跡を響かせながらザックスが駆け込んで来た。
「クーラーウードーー!!俺の書類手伝ってくれ!!」
「サー・ザックス、また提出期限ぎりぎりなのですか?」
「悪い、悪い。何しろ多すぎて一々覚えていられないんよ。えっと…コレとコレとこれ…それからコレも今日だからよろしく!!」
と、言って逃げ出そうとするザックスの腕にクラウドがしがみついた。
「ザックス!!いつもいつも逃げて!!俺がどれだけ苦労しているか知っているのかよ?!」
「あ〜〜?!だって、俺これからデートだもん。」
「俺に書類を頼んでデートとは…いい性格していますね?サー・セフィロス。本当にザックスってクラス1stのソルジャーなのですか?」
クラウドに話しを振られてセフィロスが二人のいる所まで歩いてきた。
「クラウド、そんな書類は捨てておけ。書類が提出出来ないような1stは必要ない。月に10枚未提出の書類がたまったら降格決定になった。すべて自分が悪い、お前が責任を負うことも無かろう。」
「げえ?!マジですかぁ、セフィロス!!」
「そうなのですか。では遠慮無くシュレッダーに掛けさせてもらおうかな?」
「待ったーーー!!お待ちになって!!せっかく英雄セフィロスと組ませてもらっているんだ、誰が譲るかこんな美味しい位置!」
そう言うとザックスはあわててクラウドから書類を奪うと、パソコンの前で書類とにらめっこをしはじめた。
しかし30分も経過すると書類嫌いのザックスに取ってすぐに逃避行動が始まってしまった、高いびきをかいて居眠りを始めたのである。
クラウドが呆れたような声を出した。
「30分しか持たないなんて信じられない。」
「クックック…進歩のない奴だな。」
「いつもの持ってまいります。」
そう言うとクラウドは執務室の片隅に有るミニキッチンへと歩いていくと、置いてある冷蔵庫へと手を伸ばし中からとある物をもって戻ってきてザックスの首元を大きく開けて手に持っていた物を首元から突っ込んでいれた。
「あんぎゃーーーーーー!!!!」 < 怪獣か?!
いきなり叫んだザックスの声にクラウドが耳を押さえた。
「も〜〜う!普通に起きてよ!!」
「あ?ああ、クラウド、おはよう。おまえセフィロスの旦那の所に嫁に行ったんじゃなかったのか?」
「お、俺は男だーーー!!!」
ザックスの”嫁”発言にクラウドが思わず背中にエルボーを突きたてていた。
「みぎゃぁ!!」 < 怪獣か?!part 2★
顔面を机にしたたかに叩きつけてザックスがやっと目を覚ました。
「ひどぉい〜〜、クラウドちゃん。お兄ちゃんにこの仕打ちは無いんでないかい?」
「自分は一人っ子です、ソルジャーを兄に持った覚えはありません。」
「クラウド、馬鹿猿はそのままにしておけ。それよりもこちらの書類を頼む。」
セフィロスが一枚の書類をクラウドに手渡すと内容を確認して軽く一礼しその場をパタパタと走り去って行った。
その様子をぼんやりと眺めていたザックスがセフィロスに問いかけた。
「なぁ、セフィロスの旦那。クラウドを何処に行かせたんだ?」
「さあな。それよりも早く書類を何とかせねば降格決定だぞ。」
「うひゃあ!!マジでヤバい!!」
あわててザックスが書類を処理しはじめた。
本気になったザックスがあっという間に書類を片づけて行くのをクラウドが目を丸くして見ていた。
「うわぁ…信じられない。」
「ふふ〜〜ん、俺様だってその気になれば出来るって事だよん。」
「サー・ザックスが真面目に書類を片づけていると悪い事が起こらなければいいんだけれどなぁ。」
「なんじゃそれ?!」
ザックスがクラウドに文句を言おうと振り向こうとするが、後頭部を思いっきりわしづかみにされていたので振り向けなかった。
「あ・・頭が動かん。」
「クックック…そのまま書類を片づけるまでこうして画面を見ているのだな。」
「ひ〜〜〜ん!クラウドォ〜〜!!助けてくれ〜〜〜」
「クラウド、俺の机の上に有る書類をルークのところへ持って行け。」
「アイ・サー!」
セフィロスの言う事を聞いて、クラウドが机の上の書類をもって執務室を出て行こうとすると、ザックスが頭を押さえられながらもわめいていた。
「ク…クラウド〜〜〜!!俺を見捨てる気か?」
「サー・ザックス、自分はサー・セフィロスの下士官です。残念ですが上官であるサー・セフィロスの命令を優先いたします。」
「クックック…それでよい。」
「クラウドチャ〜〜ン、お兄ちゃんは待ってるからなぁ〜〜」
何を待っているんだ?!と突っ込みを入れたいのをぐっと我慢してクラウドは書類を第一小隊隊長のサー・ルークに持って行くべく廊下を歩き出した。
扉を開けた途端に先程から扉に張り付いていた新聞記者がクラウドの正面に飛び出したので、思わずぶつかりそうになってびっくりする。
「あっ!!」
「す、すみません!!サー・セフィロスの事でお聞きしたいのですが…」
「サーに直接お聞き下さい、俺はただの下士官です。」
「ちょっと、君!!」
取材をしようとした新聞記者を思いっきり睨みつけて、クラウドは駆け去って行った。
そんなやりとりが聞こえてきたのか、重たいマホガニーの扉を開けてセフィロスが絶対零度の怒気を身にまといながら立っていた。
「貴様、俺の周りで何をうろうろとしている?」
「あわわわわわ…」
並の反抗勢力や力の弱いモンスターなら尻尾を巻いて逃げ出すと言うセフィロスの冷たい視線を正面から浴びて、新聞記者の身がすくんでいた。
「あ〜、そいつ?あんたの恋人の事を聞き回っていたんだぜ。」
ザックスがやっと自由になった首を伸ばして横から口を挟んだ。
「恋人?」
「ああ、金髪碧眼で年下のフリルの似合う可愛い知り合いがいるだろう?」
「ふん、あいつの事か。」
「あんたが同じ子を連れ回す事なんて無いから躍起になって探しているみたいだぜ。」
「それはご苦労な事だな。」
「そ、それで…何という名前の女性なのですか?」
新聞記者が急に顔を明るくさせながら聞くがセフィロスの態度は相変わらず冷たいままだった。
「失せろ、さもなくば消すぞ。」
腕のバングルに嵌められているマテリアの一つから力強い光があふれ出していた、その力が何の魔法の発動か悟ったザックスがあわててセフィロスに声をかけた。
「デスをかける気か?!一般人だぞ!」
「ここは一般人が来る所では無いはずだ。しかも俺には不法侵入者を始末する権利を持っている。」
セフィロスの言葉と本気の殺気に半分腰を抜かしながら新聞記者はほうほうの体でその場を逃げ出した。
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