FF ニ次小説
 第一大隊第一小隊の隊長であるルークの所にも先程ぶつかりそうになった新聞記者が来ていたらしい。
 クラウドが書類をもって顔を出すとルークに声をかけられた。
「やあ、クラウド。お前のところに新聞記者が行かなかったか?」
「サー・ルークの所にも現れたのですか?あ!まさか変な事言っていませんよねぇ?」
「安心しろ、お前は将来的に自分の部下にしようと思っている兵なんだ。いくら似合っているとはいえ言わないぜ。」
「嬉しい様な泣きたくなるような言葉ですね。はい、サーから頼まれた書類です。」
「お、サンキュー。次のミッションかな?」
「では、自分は失礼いたします。」
 書類に没頭しはじめたルークに敬礼をするとクラウドは急いでセフィロスの執務室に戻るのであった。

 執務室に戻ると先程の新聞記者が居なくなっていたのでホッとして部屋に入ると、セフィロスが珍しく手招きをしていたのであわてて走り寄る。
「何か御用でしょうか?」
「ああ、この書類を確認してくれ。」
「はい。」
 セフィロスから書類を受け取るとパソコンを起動させもらった書類に目を通して、クラウドはびっくりして振り返った。
「サ、サー!!これって…」
「ああ、ザックスの書類だ。」
「へぇ…凄いや。その気になれば本当に出来るんだ。見直さないとダメかな?」
 クラウドの手元に有る書類はザックスが提出するべき書類である。
 一通り揃っているので中身をサッと確認するが、欠落している所は無い様であったのでクラウドは思わず感心するのであった。
「あまり感心する事も無かろう、それだけやると燃えつきたようにここで居眠りをしているのだからな。」
 ザックスとて成規手順を踏んで1stソルジャーとなったのである、出来ない理由は無いのであるが、元来考えるよりも動くのが先の性質のようで形式張った書類は苦手だったのであった。
 そこへ慌ただしく靴音が響いたかと思うといきなり扉がノックされて先程別れたばかりのサー・ルークが飛び込んできた。
「すみません、サー・セフィロス。次のミッションですがどうやってこれを遂行するべきなのかお考えをお教え下さい!」
「何か不備でもあったかな?」
「ええ、どうやっても女性の協力者が必要の様ですが、余りにも危険です。」

 クラウドはルークの言葉に思わず背中に冷たい物を感じて、自分のはるか上官であるセフィロスに振り返りながら恐る恐る問いかけた。
「あ、あの…まさか…また…ですか?」
 クラウドの言葉にルークがハッとしたような顔をすると同時にセフィロスがにやりと笑う。
「クックック…と、言うことだルーク。」
「はぁ…クラウド。お前絶対に利用されるんだな。」
「きょ、拒否したいです!」
「もう無理だ。と、言うことはまた自分が兄役ですか?」
「いや、今回のミッションの内容を考えろ。お前では無理であろう?」
「はい。」
「と、言うことだクラウド。」

 セフィロスの最後通牒のような言葉にクラウドは思わず小さい声でつぶやいた。
「俺、何の為に神羅カンパニーに入ったのでしょうか?」
 そんな小さなつぶやきですらソルジャーの耳にはしっかりと届いているので、同じようにため息をつきながらルークがクラウドに話しかけた。
「利用出来る物は利用しつくすのがこのカンパニーのやり方だ。お互い死なないように頑張ろうな、レイア。」

 クラウドに向かって話しかけているルークにセフィロスが話した。
「ルーク、そいつの女装には名前がある。ミルフィーユと言うのだ。」
「ミル…フィーユ?それって確か何処かの地方の言葉で千枚重ねという意味ではないのでしょうか?」
「ああ、そうらしいな。もっともこいつはそんな事を知らないで、自分がそのケーキが好きで可愛らしい名前だからと付けたようだがな。」
 セフィロスの言葉にルークが目を丸くしてクラウドを見下ろす。
「なんだ、名前があったんだったら前の時に教えてくれればよかったのに。」
「任務に関係有りませんでしたし、聞かれませんでしたから。」
 ブスッとして答えるクラウドにいつの間にか騒ぎを聞きつけて、ザックスがすぐそばに居たのか頭をわしゃわしゃとなでつけていた。

「お、またミルフィーユちゃんにあえるのか。今度はどんな衣装なのかなぁ?」
「ミッションからすると今度はどう考えてもロングドレスだな。」
「ええ〜〜〜?!足蹴リが出来ないじゃないですか!!」
「可愛い子ちゃんが足蹴リなんてはしたない真似はしちゃダメよん!」
 可愛い子ちゃんと言われてカチンときたクラウドが、反射的にザックスに回し蹴りを放つと、不意を討たれたのか前かがみになった所にすかさずエルボーが後頭部に炸裂した。
「ぴぎゃ!!」        < 今度はブタか?!

 あっさりとノックアウトされたザックスを見下ろしてルークは思わずかぶりを振った。
「クラウド、おまえ成りたてとはいえよくもまあ1stソルジャーをノックアウト出来る物だな。」
「あ…ご、ごめんなさいザックス。」
「ま、まあ良いって事よ。俺もクラウドに対しては無防備な所が有るからさ。」
 クラウドにヒジ撃ちを落された場所を撫でられているザックスをちらりと見てからルークは目の前の訓練生をしばらく眺めては首をかしげていた。

 ザックスはセフィロス以来の実力者として鳴り物入りであっという間に1stまで駆けあがってきたルーキーであった。
 そのザックスをいくら気を許しているからとはいえ、一訓練生がノックアウトするなど普通は考えられない物であったのでルークが首をかしげるのも仕方がないのであるが、彼は任務遂行中以外その力を封印するかのように表に出さないのであった。
 そのザックスが1stに上がると同時にセフィロスが副官として指名したのでさぞ出来る奴なのか?とルークは思っていたのであったが、普段の姿は隙だらけのソルジャーには思えないような奴だったのであった。

 カンパニーの実質的な司令官であるセフィロスと組む事になっても臆することもなく、任務ではきっちりと仕事をこなすザックスはトップソルジャーであり神羅の英雄とまで呼ばれているセフィロスを特別視していないどころか友達になろうとして躍起になっていたのであった。
 そんなザックスをルークはいささか羨ましくも思うのであった。

「それで、どのような任務なのでしょうか?」
 クラウドが不安げにルークに訪ねてきた。
 ルークは先程もらった書類の中味を思い出すとクラウドに掻い摘まんで説明した。
「パーティーへの潜入とおとり捜査だ。」
「だからロングドレスなのですか?」
「はーい!!フリフリのドレス姿を激しく希望!!」
「ううう…ザックス!!絶対書類手伝いませんからね!」
 涙目でザックスを睨むクラウドをルークが思わず頭を撫でてやっていた。

「しかしだな、今回ばかりはそのフリルの沢山あるドレスでなければ任務遂行は難しそうなのだが?」
 セフィロスの言葉にクラウドは情けない顔をする。
「絶対に楽しんでいませんか?」
「クックック。さあな、お前の嫌がる顔を見るのは楽しいがな。」
 この時ルークは一訓練生がはるか上官である総司令を思いっきり睨みつけているという姿を始めて見る事になったのであった。
「クラウド、お前勇気ある奴だな。俺は治安維持部の軍人の全員が総司令であるサー・セフィロスを睨みつけるなんてできっこないと思っていたぞ。」
「サーは自分を使えるとおっしゃいますが、普通に兵士として使えると言うのであれば自分も誇りに思えます、しかし実際は同じ訓練所仲間にいくら聞かれても恥ずかしくていえないじゃありませんか!」

 確かにそうである。
 普通、どんなに優秀でも訓練生はミッションに参加出来ない。
 それを無視してまで一訓練生をミッションに連れて行くにはその訓練生でしか出来ない事でもなければいけない。
 ルークはクラウドに優しく話しかけた。
「クラウド、お前がいくら総司令の下士官だからといえミッションにつれて行く訳にはいかない。しかしお前しか出来ない事があるからこそ規定を無視してお前をミッションに参加させているのだぞ。」
「だからって…いつもいつも…何だかサーが楽しんでいる気がしてならないのです。」
「クックック…否定はせぬ。実際楽しみであるからな。」
「は〜〜い!!俺もミルフィーユちゃんのドレス姿が楽しみで〜〜〜っす!!」
 二人の上官の答えを聞いてクラウドは思わずため息をついた。
「ははは。今回のお相手は総司令になるからな。せいぜい高いドレスを買ってもらうんだな。」
「ドレスなんてどんなに高いのねだっても嬉しく有りません。」
「い〜〜や、お前も頭が回らん奴だなぁ。そのドレスを売っぱらってうまいものでも食べようとか、高いアクセサリーを経費で買おうとか考えられない物かねぇ。」
「サー・ザックスではありません。」
 ふくれっ面をしながらもクラウドは半ば諦めの境地に入っていた、どんなに自分が拒否をしようともミッションは既に起されていて、遂行するためにはどうしても女性が必要だが危険をともなうとなればタークスや総務部の女性に頼むわけにもいかない事を悟っているのであった。
「わかっているのであろう?手配をしておくから、明日訓練が終ったら駐車場に来るのだな。」
 全てを見通したようなセフィロスの言葉に、いまだにうらめしそうな顔をしたクラウドはうなずく事もせず顔を背けるのであった。

 そんなクラウドにルークは苦笑いをしながらも頭を撫でながら話しかけた。
「大丈夫だ、会場はお前の知り合いなど一人も入れない社交界のパーティーだからな。周りは俺達一隊が固める、それにお前のとなりにいる男はこの世の中で一番強い男なんだ。安心して守られていろ。」