街中にある商業ビル。その壁に大きなポスターが飾られていた。


セフィ・クラ(♀)転生パロディ 完全無欠のバカップル



 ポスターには金髪碧眼の目の覚めるような美少女が、綺麗な花とぬいぐるみとギフトボックスに囲まれてにっこりとわらっていた。
 美少女の名はクラウディア・ストライフ
 全寮制のハイスクールに進学するため故郷を後にし、勉学に励みながら学校の購買でバイトをしたり、雑誌に素人モデルとして載せてもらい、小遣いを稼いでいた。
 その雑誌が出たとたんに売り切れるほどの人気を発揮したためか、それともハイスクールのミス・コンで、ぶっちぎりの優勝をさらったためか、あっという間に有名なモデル事務所から声がかかり、今では世間も認める超人気美少女モデルとなっていたのであった。
 かといって、クラウディアは学業をおろそかにすることは無かった。
 事務所と契約する際に、学業を優先することと、年齢的に無理のない衣装を着せないことをしっかりと約束させて、自分のスタッフにもそれを認識させていた。
「それにしてもクラウディアはしっかりしてるな。契約とかの細かいことは、まだ判らないのは仕方が無いとは言え、ティーン・エイジャーがここまで自分を持っているのには本当びっくりさせるよ。」
 銀縁のめがねを指でついっとあげながら、苦笑するかのように笑っているのは、彼女の専属マネージャ、ティモシーである。事務所が用意した敏腕マネージャーではなく、クラウディアが事務所と契約を結ぶために訪れた際、ちらりと見た姿に何を思ったのかいきなり「ぜひ自分にマネージングさせて欲しい。」と懇願した内勤の社員であったが、彼の『クラウディアのイメージつくり』は事務所が考えていたものと同じため、そのまま任せていたら、あっという間に天賦の際を発揮し、彼女をトップモデルに押し上げたのであった。
「でも、お仕事だけじゃなくって、勉強もがんばらないといけないと思うのは一緒だわ。何事も知識は必要でしょ?可愛いだけで、お馬鹿なモデルなんてすぐに使い捨てられるわよ。」
 次の撮影で使うドレスにブラシをかけながら話しかけている女性は、専属のスタイリストのミッシェルであった。クラウディアが読者モデルの時代から「この服は彼女には似合わない。」とか「このデザイナーは彼女のイメージではない。」と文句を言うので知られていたのであるが、それが本当に彼女の言うとおりだったので、事務所が正式に専属スタイリストとして雇ったのであった。
 クラウディアとしても、なぜかこの二人と一緒に仕事をするのに違和感が無い。
 それどころか自分の思っていることを率先してやってくれる敏腕マネージャーと、凄腕スタイリストに感謝したいぐらいだった。
「うん、そう思う。たまに頭の中に誰かの声がするんだ。強く、賢くなって欲しいって。」
「クラウディア、家族のこと聞いていい?」
「え?あ…やーだ、パパじゃないわよ。だってパパ生きてるし。」
「じゃあ…誰の声?」
「それがわかっていたら、私この仕事してないわよ。」
 そういいながら頬を染めるクラウディアは、壮絶なまでにかわいらしい。ミッシェルは思わず抱きしめながら話しかけた。
「う〜ん、もう!何でこんなに可愛い子がこの世に居るのよ!あなた、その声の人が運命の相手だとか思ってないわよねぇ?!」
「う〜ん、どうかなぁ?でも、もしかすると、心のどこかで探しているのかもしれない。この仕事やっていたら、巡り会えるんじゃないかな?って思ったから、モデルの話し引き受けたんだもん。」
「でも、アクション・スターにあこがれていたからって、剣道と空手と体操を習っているっていうのは、どう考えても美少女モデルの考えることじゃないよ。」」
「ま、それが世間で知られているおかげで、次の仕事が入ってきたわけだけどね。さ、クラウディア。このドレスの次はCM撮影のため5番街のスタジオに移動よ。」
「はぁーい。」
 そういってクラウディアは、次の衣装に着替えるのであった。


* * *



 次の撮影スタジオへの移動の車の中で、ミッシェルはティモシーに問いかけた。
「クラウディアが学生のうちはモデルだけでいいと思うけど、卒業したらモデルだけで売っていくの?それとも何か考えがあるの?」
「そうだな…美少女モデルというだけで売れるのは、せいぜいあと1,2年だな。そのあとは彼女しだいだが、タレント転向だな。真面目にアクション・スターでも目指すかい?」
「え?いいの?」
「得意なことを生かして、タレント・デビューは、戦隊物のヒロインなんてどうかな?って思うんだが、それなら演技の勉強も必要だよ。」
「ティモシー、クラウディアがやるとヒロインが自ら戦ちゃうことになりそうよ。」
 けらけらと笑うミッシェルに釣られてクラウディアもくすくすと笑う。
「戦うヒロイン?!それなら出来るわ!」
「クラウディア、マジでやめてくれないか。君はいま妖精と呼ばれているんだから。」
「横暴だわ、私そんな品のいいモデルじゃないと思うんだけど、どうしてそんなイメージ作っちゃったのかなぁ?」
 武道をたしなんでいるからか、立ち姿が凛としていて、それでいてなぜかはかなげで…天真爛漫な笑顔を見せたかと思うと、ふと暗く曇った顔もする少女は、いつのまにかその容姿からか、妖精と呼ばれ始めていた。
「第一印象がそうだったからね。これに関しては事務所も同じ見方をしているんだ。おっと、到着だ。」
 CMを撮影するスタジオに到着し、スタッフに連れられて中に入ると、撮影クルーがニコニコと笑って待っていた。
「お待ちしていました。」
「お待たせしました、撮影コンセプトは既に熟知しています、衣装はどちらですか?」
「はい、こちらになります。」
 手渡たされた衣装は、スクール水着のようなものに透明な布を沢山つけた、それこそ妖精のようなイメージの衣装に、白いハイヒールブーツであった。
「確かに冒険活劇ゲームのヒロインの衣装ね。いつものようにふんわりとしたイメージじゃないほうがいいかしら?」
「そうだね、依頼は強く、かっこよく、そして美しく…だったかな?」
「むちゃくちゃだけど、まあそれもありかな。じゃあクラウディアの髪をちょっと立たせますね。」
「うわ、いつもの衣装と全然違うわ。水着顔負けってのはちょっと嫌だけど、ふわふわのドレスよりもこっちがいいな。」
「えー、そのふわふわが似合うのに何言うのよ。さ、カッコ可愛くするからじっとしてて。」
 ミッシェルが手際よくクラウディアの髪を少し固めてつんつんにする。衣装とあいまって、美人でかっこいい戦士が出来上がると、撮影クルーが軽くうなずいていた。

 その時、扉が開いて共演者が入ってきた。
 黒い中世の騎士風な衣装を身にまとっているのは、これまで何度か撮影であっていた人気男性モデルであった。その男に気が付いたティモシーが起立して挨拶する。
「おはようございます、宝条さん。あなたもこのCMに?」
「ああ、そうだ。どうやら身長差で君のところの妖精君の相手に選ばれやすいようだね。」
 セフィロス・ゲインズブルー・宝条という、目の前の男性モデルは2m近い身長にしっかりとした体格、そして嫌味なほどに整った顔立ちと長い足を持っていた。いつも有名ブランドのスーツのCMなどに起用されていたので気が付かなかったが、身体にぴったりする服を着ている今では、彼の身体が鍛え上げられているとしっかりとわかるのである。
「モデルにしておくには惜しい筋肉の持ち主ですね。」
「スーツを着こなす時に逆三角形の体型をしているほうがいいらしい。おかげで女性のあこがれであるお姫様抱きも出来るな。」
 気さくな青年は、ニコニコと笑いながら気安く話しかけてくれる。そんな青年をティモシーも気に入っていて、相手の必要な撮影の時は指名するほどのモデルであったので、クラウディアも顔を合わせたとたんに、にっこりと笑って挨拶をする。
「あ、セフィロスさん。おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
「ああ…。こちらこそよろしく。今日は君の敵役だから、せいぜい怖がられるようにするよ。」
 そういいながら手渡されたカツラを装着して、自分のスタイリストに「目の印象をきつくしてくれ。」と注文を出していた。その姿にクラウディアは目を丸くしてティモシーに振り返った。
「ね、ティモシー。アクション女優を目指すのやめようかしら。」
「え?どうして?」
「だって…セフィロスさんみたいな、気さくで優しい方を敵としてみないといけないって、凄く難しいもん。」
「あははははは、クラウディアが普通の女の子でよかった。」
 ミッシェルがけらけら笑っていると、撮影スタッフが近づいてきて話しかけた。
「さ、クラウディア。まず雑魚敵との戦闘シーンの撮影だよ。ショートソードの両手持ちだって言うけど、大丈夫?」
「ええ、何度かやったことあります。」
「じゃあスタートポイントにたって。10秒後に開始だ。」
 撮影スタッフに指示された位置に立って撮影を開始する。スタートの声と同時に、黒い服に何かのポインターをつけたスタントマンが、決められたとおりの行動で襲い掛かってくると、まるで殺陣でもやるかのように華麗にポーズを決めながら、クラウディアが剣を持って舞い踊っている。
「なぁ、ミッシェル。なんか違う気がするんだが、気のせいかな?」
「武道じゃなくって武踊だったりして。」
「それ、洒落にならないよ。」
 二人で顔を見合わせてくすくす笑っていると『カット!』と声がかかる。あわててミッシェルが、クラウディアの化粧を確認しに近づくと同時に撮影スタッフも近寄ってくる。
「凄いじゃないか、クラウディア。アクション・スターになりたいというのは、嘘じゃないんだね。」
「う〜ん、ちょっと考え直しているところです。だって知っている人をにらむようなことが、出来るか心配なの。」
「じゃあ次のシーンできるかな?Mr・宝条とは親しいんだろう?」
「最初にらみつけて、それから驚き、悲しそうな顔をするんですよね?セフィロスさんの顔に、物理式でも書いておいてください。」
「あはははは!クラウディアは物理が嫌いなんだ。」
「学校の授業に付いていくだけで、必死で好きになれないの。」
「それは願い下げだな。」
 スタッフとの会話に割り込むように入ってきた青年は、先ほどまでの好青年振りをどこか遠くに置き去りにした顔をしていた。
「え?!」
 セフィロスを見たクラウディアは、一瞬固まってしまった。
 目の印象をきつくしたためか、笑顔でさえぞくっとする冷たさを感じる。そこにはまるでゲームから抜け出したようなラスボスがいた。 「セフィ…ロスさん?」 「ひどいなぁ、お化けでも見たような顔で。そんなに怖い顔をしていたかな?」
 ウェーブのかかった胸まで届くようなプラチナブロンドのウィッグをつけ、瞳はカラーコンタクトによって、アクアブルーに変わっている。しかし彼から発する声が温かみのある、いつもの声だったのでほっとする。
「男の人もかつらやお化粧で変わっちゃうのね、かっこいいというよりも怖い感じがしたわ。」
 そんな二人を割るように監督が話しかける。
「宝条君、もう少し低い声だせるかな?そんな明るい声で話しかけられたら、ラスボスの黒騎士役できないよ。」
「このあとワイヤーでつるされるんですよね?姿勢を保つのに必死になるだろうから、力が入って声が低くなります。」
 そういうと、少しすそがほつれたようなマントをまとい、キャットウォークに続く階段へと歩いていった青年を見送ると、監督はクラウディアを伴って次のシーンの撮影開始ポイントへと歩いていったのであった。

 カメラが回り始めると送風機であおられた黒い羽がひらひらと舞い落ちてくる。その光景は既視感にあふれていた。上を見上げるとワイヤーでつるされているセフィロスが、ゆっくりとおろされてくる。見上げているクラウディアの瞳がすぅっと細くなると、寒気を覚えるような低い声が宙で止まっている男から発せられた。
「久しぶりだな。」
 その声を聞いたとたん、まるで雷に打たれたかのごとく青い瞳を見開いたかと思うと、クラウディアの瞳から一粒の涙がこぼれた。
 ゆっくりと舞い降りてきた男が左手に持った剣を下段に構えようとすると、その所作に反応し思わず自分も持っている剣を中段に構えるが、クラウディアは泣きはらした瞳で首を振っていた。それは信じられないものを見た姿にしか思えず、撮影しているカメラマンは美少女モデルの顔を思わずアップで取っていた。
 揺れる剣先を必死で押さえて、いわれたとおりの形で剣を振る。振り下ろされた剣先をいなすかのように軽く跳ね上げられ、これもまた決まっていたとおりに剣を脇で抱えながら相手の懐に突っ込んでいく。その間クラウディアはずっと涙を流しっぱなしにしていた。
「カット!」
 監督の声がかかって、やっと現実に戻った気がしたクラウディアは、うまく剣を小脇に抱えるようにして止めていたセフィロスに抱きつきながら泣きじゃくっていた。未だにぼろぼろと涙をこぼす少女をセフィロスがあわてて慰めるように抱き寄せ頭をなでると、その腕の中で少しクラウディアは安心感を覚えるのであった。
「ごめんね、そんなに怖かったかな?」
「ちょっとびっくりしちゃっただけ、驚かせてごめんなさい。」
 そういって離れたクラウディアには既にいつもの笑顔が戻っていた。