月日は流れ秋の刈り入れが始まる頃、クラウドは小屋の物をすべて処分して、セフィロスと共にミッダーガルデン王国の王都へと旅立っていった。
やがてたどり着いた王都では、すでに武術大会に参加する強者や、大会の見学を楽しみにしてきた観光客でごった返していた。
「凄い人ですね〜。」
人里離れて生活していたクラウドは、大勢の人を見るのは初めてであろう。しかし臆することなくセフィロスに付き従って、王宮前の広場へと行くと選手として登録した。
「セフィロスさんは出ないのですか?」
「俺か?俺が出てはおまえが勝ち抜けないであろう?」
「あ……、そうですよね。万が一初戦で当たると言うことだってありますからね。」
そうは言いつつも、セフィロスもこっそりと後から登録するつもりであった。
クラウド一人の力で勝ち残れるほど世の中甘くは無い上に、警備隊の者達も参加しているであろう。あまり表舞台に出たくはなかったセフィロスであったが、ザンカンの命がけの願いだけは、聞き入れなければならないと思っていた。
参加登録をした人が登録の順に会場に案内される。
クラウドが呼ばれるまで一緒にいたセフィロスは、係員に連れられていく彼を見送った後、再び広場に戻り参加登録した。
セフィロスが呼ばれて係員に案内される頃、クラウドはすでに初戦を戦っていた。
まだ幼さを残す金髪碧眼の美少年が、熊を思わせるような大男の剣を、はたき落としたのは開始後ほんの10分のことだった。観客は小柄な少年が大男を倒してしまったことに一瞬信じられないような顔をしていたが、それでもクラウドが勝ち名乗りを受けたときにはやんやの拍手を浴びせていた。
照れながらお辞儀をして控え室に戻る頃、ゆったりとした足取りでセフィロスが控え室に現れた。周りの選手達を圧倒する雰囲気を醸し出すセフィロスに気がついて、クラウドがにっこりと笑いが駆け寄った。
「あ、セフィロスさん!見てくださいました?!」
「すまんな、ちょっと用事があって見ることが出来なかった。」
セフィロスが見てくれていると思っていたクラウドはいきなりシュンとなった。
そんなクラウドを見て少しは済まないと思ったセフィロスだったが、勝ち抜いた者が別の部屋に案内されるのとほぼ同時に、これから戦う者も競技場へと呼ばれたので一旦別れ別れになった。
セフィロスがあっという間に相手を倒して、クラウドの後を追いかけたのは、それから一時間後だった。
すでに夕食の時間になっていたのか、クラウドが二人分のトレイを持って、右往左往しているのが遠目にもよくわかる。足早にそばによると、寂しげな蒼い瞳がぱあっと晴れたように輝いた。
「あ、セフィロスさん!」
「何も俺の分まで持って、待っていなくともよいのに。」
「で、でも……。俺、セフィロスさんと食べたかったし…。」
上目遣いで拗ねるクラウドは傍目から見ても可愛い。
しかし目の前の少年は、自分の姿が周りの男共の視線をさらっていることに、全く気がつかない。このまま捨て置けば、力ずくでクラウドを物にしようとする輩が、出ないもと限らないので、仕方なくセフィロスは自分の気を少し放出した。
(こいつに手を出したら、俺がゆるさん。)
周囲からの視線をそんな意味を込めて威圧したのである。おかげで一気にクラウドに集まっていた視線が散った。
そんなこともつゆ知らず、クラウドは空いたテーブルを見つけるとさっさと歩いていきトレイを置くとセフィロスを呼んだ。
「セフィロスさん、こっち空きました〜!」
クラウドの甲高い声に思わずセフィロスが苦笑する。
「まったく……わかった。」
クラウドのそばに行くと、セフィロスは頭をくしゃっと撫でて、テーブルに座った。目の前に少年が座ったのを確認すると、トレイの中の食事を取り始める。しかし、クラウドはなかなか食べようとしなかった。
「ん?どうしたんだ?」
「セフィロスさん……、ずるいです。参加されていたなんて……。」
「ああ、天覧試合となる16人に入れば、少なからず金貨をもらえるらしいと聞いてな。路銀も心許ないので、もらえるならもらっておこうと思ったのだ。」
「天覧試合??」
「16人に絞られると、国王夫妻や宰相達が試合を見物するのだそうだ。」
「王様が見られるんですか、すごいなぁ。僕も参加できると良いな。」
そう言いながらも、この時クラウドは『路銀ももらえて実力も照明されるんだから、16人に残れたら、絶対セフィロスさんに付いていくんだ!』と思っていたのであった。
武闘大会は宮廷仕えを目指す者がたくさん集まっていた。おかげで大会の日程は一週間以上かかる。その間、参加している者達は宿舎を宛がわれていて、競技場に張り出された試合予定の表を見ては、自分が出場する1時間前に競技場へと出かけることになっていた。勝ち残った者は宿舎に戻り、負けた者はその場で去っていった。
クラウドはザンカンの教えもあったが、セフィロスの剣をしっかりと見て覚えたおかげで勝ちあがって行った。セフィロスは常に圧倒的な力の差を見せつけて、勝ち上がっていった。
ベスト16に残った人は、競技場に国王夫妻と宰相親子を出迎えることになっている。そして準決勝まで勝ち残れば、準決勝前日の夜に国王に謁見できるのであった。クラウドがそこまで勝ち残れるとも思えなかったが、自分だけでも勝ち残ればクラウドを国王に謁見させることも出来るであろうとセフィロスは考えていた。
そしてそれは現実の物となっていった。
クラウドはセフィロスの旅に付いていきたい一心で、必死に勝ち抜いた。
そして16人の中に勝ち残り、競技場で国王夫妻や宰相親子を出迎える列に、セフィロスと共に並んでいた。華奢で見た目が少女のような容姿をしているクラウドは、他の勝ち残った者達とはまるで好対照のようであったが、胸を張ってその場に立っている姿は一番目立っていた。
玉座に国王夫妻が着席すると同時に勝ち残った者達を一瞥した。すると王妃の顔が一瞬こわばった…、がすぐににこやかな笑顔を浮かべた。それは周りのお付きの者達も気がつかなかった変化であった。
しかしその日も、その次の日も…何らアクションがなかった。
そして二人ともなんとか準決勝まで勝ち残って王宮に呼ばれた。
帯剣したままで良いとのお達しに首をかしげながら謁見の間に通された。
玉座に座っているのは上品でおとなしげな国王と、クラウドにうり二つの王妃だった。
(これでは証明する手間も省けるか…)
セフィロスがそう思っていた時、クラウドは王妃を見てびっくりしていた。
(え?!ぼ、僕にそっくり?!)
みるみるうちに国王夫妻の目に涙があふれ出していた。
「優秀な戦士達よ、諸君に出会えて私は嬉しい。」
涙をこらえきれない様子で話しかける国王の様子に気がついたのか、近衛兵があわてて駆け寄るが、王は片手で兵を制した。
「大丈夫だ。予は嬉しくて泣いておるだけだ。」
王妃が玉座から立ち上がりクラウドの近くにすっと寄ってきた。
「クラウド……、クラウドなのね?」
「ど、どうして僕の名前を?」
「母を……母を忘れたのですか?」
「え?!」
「覚えていないのも仕方ありませんね。貴方はまだ赤ん坊でしたもの……。貴方の命を守るためとはいえ、ザンカンに託さねばならなかった私たちを許してください。」
「ど……どういう事なのですか?ねえ、セフィロスさん。嘘だと言ってください。」
クラウドの悲しげな声が、セフィロスの心に暗い影を落とす。しかしこれは決められていたことと、クラウドに諭すように話し始めた。
「ザンカン殿はこの国の警護隊長だったそうだ。昔、おまえの命が危ないと国王夫妻に頼まれて、まだ乳飲み子のおまえを王宮から連れ出して、遙か遠くの山奥に隠れ住んでいたのだ。おまえの腰の剣、守り刀と言われていたであろう?剣の腹に王家の紋章が掘ってある、それが証拠だ。」
クラウドがおそるおそる剣の腹を見た。すると玉座の上にあった紋章と、自分の剣に彫ってあった紋章が一致した。
「ぼ……ぼくが…、この国の……?」
「ああ、この国の皇子だ。」
クラウドはショックのあまり放心状態だった。
王妃がクラウドを抱きしめて離さないので、王が近衛兵に言ってイスを一つ用意させる。そのイスを玉座の王妃のイスの隣にしつらえて、クラウドを座らせると国王が言葉を発した。
「この少年は予の息子、クラウドである。従って次の試合は棄権させる。」
国王の宣言で次の試合が3人での戦いにとなった。
自分のどこか遠くで話が進んでいくのを、クラウドはぼーっと聞いていたが、選手達が部屋から去ろうと一礼すると急に立ち上がった。
「僕も……行かなくちゃ……。」
ふらふらっとセフィロスの所まで歩いていこうとするが、衛士の一人に止められる。
「いけません、皇子様はこちらに……。」
「嫌…だ。僕……、僕、セフィロスさんと一緒に行く!!」
クラウドは衛士の腕をふりほどいて、セフィロスの元に駆け寄るが、彼は冷たい瞳で一瞥すると、一言言った。
「この先の試合は皇子様のお遊びとしては危険です。」
「嫌だ!!僕、皇子じゃなくてもいい!セフィロスさんと一緒に行くんだ!!」
「残念ですが自分はザンカン殿から、貴方を国王夫妻にお返ししてくれと頼まれたのです。一緒に行くわけにはなりません。」
泣きわめくクラウドをあやすこともせず、その場にいた衛士に軽く肩を押して渡すと、セフィロスはその場から退出した。
無事クラウドを王室に返したとはいえ、セフィロスにはまだやらねばならないことがあった。
クラウドを亡き者にしようとした宰相親子の魔の手が、再びクラウドを襲うことが考えられるのである。宰相をせめて閑職に追いやらねばクラウドが生き延びられるとも思えなかったのであった。
そのためには少しの間でも良いから、王宮に入りクラウドの身辺を守るか、衛兵にそれなりの人物を見つけてそのことを託さねばならない。
そんなことを思いながらセフィロスが宿舎のベッドに横になっていると、不意に扉をノックする音が聞こえた。
「どなたかな?」
「自分はこのたび皇子警護を任された、王室警護隊のザックスと申します。皇子のことでお話がありますので、入ってもよろしいでしょうか?」
扉の向こうからまだ若そうな男の声がした。
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