ルーファウスとツォンが事務所を後にしてから、ティモシーがセフィロスにファックスで送られてきた脅迫文と、一緒に送りつけられてきたカミソリの刃と、クラウドの隠し撮り写真を見せて話し始めた。
「このような脅迫文が来たときはよくあるいたずらと思い無視していたのですが、さすがにクラウディアの素顔を撮った写真と一緒に刃物が送られると、私どもも無視するわけにはいかなかったのです。」
「なるほどな。しかしこいつは馬鹿か?この少年を殺してしまえばクラウディアが居なくなるのであろう?そんなこともわからん奴なのか?」
「彼の言い分はクラウディアが男と世間にばれる前に、クラウド君を殺してしまえば永遠にクラウディアは女の子のままだ…そうです。」
「で?これからどうする気だ?」
「そうですね…」
ティモシーは自分のプランをセフィロスに示した。
彼のプランはしばらくの間クラウドにホテルに住んでもらい、その部屋から仕事に出かけて戻る、その間をセフィロスに守ってもらうか、ストーカーがわかったときは拿捕して警察につきだしてもらうというプランだった。
「回りくどいやり方だな、しかも幾分めんどくさい。」
「しかし、彼の部屋はごく普通のアパートですし、周辺住民に迷惑をかけるわけにも行きません。」
「ならば簡単で確実な手段を教えよう、しばらく俺の部屋で生活すればいい。高層アパートの最上階ワンフロア占有している。セキュリティーはミッドガル1と思うがな。」
「サーのおそばならば確かにミッドガル1のセキュリティーですが、どうする?クラウド君。」
「さあ?俺の自由がないのはどっちも一緒だから。」
少しふくれたような顔のクラウドに、ミッシェルがちょっと跳ねた髪の毛をわしゃわしゃとなでつけた。
「じゃあ、あたしと一緒に暮らす?」
「え〜〜?!絶対に嫌!ミッシェル俺を女装させるの大好きなんだもん!」
「スーツ着ているより似合うから良いじゃない、どうせこれからしばらく女装ばかりだし!」
(二人がじゃれている姿はどうみても姉妹だな。)
セフィロスは冷静な瞳でずっとクラウドを観察していた。
コロコロと変わる豊かな表情、時に明るく、時に凜とした輝きを放つ蒼い瞳、話すと同時に手があちこちと動くのは実に見ていて飽きなかった。
「所で、ティモシー。そのストーカーというのはやはり男か?」
「ええ、クラウディアのファンの多くは男性です。もちろん雑誌を見て憧れを持っているという意味では女性ファンもいるとは思いますが、イベントなどでは取り巻きが出来るほどです。」
セフィロスは軽くうなずくとクラウドに向き合った。
「クラウドとか言ったな。お前は料理は出来るか?」
「え?あ、はい。一応一人住まいですから自分の食べる分ぐらいなら作っています。」
「ならば合格だ。さて、どうするね?ホテルであまり自由のない暮らしをするか、俺の部屋で自由に暮らすか?」
「………16の少女に興味はないとおっしゃっていましたね、マスコミに狙われたら何と答えますか?」
「言い訳などいくらでも出来る、たとえば撮影で知り合ったが16とは思わなかった…とかな。」
セフィロスがにやりと笑みを浮かべるとティモシーとミッシェルがあきれたような顔をした。
目の前の英雄は浮いた噂が常に絶えず、付き合った女性の数は星の数より多いと言われているほどである。しかしそのほとんどは一夜だけのつきあいであるということも世間一般に知れ渡っていた。
「英雄セフィロスが16歳のモデルに陥落したと変な噂になっても知りませんよ。」
「クックック…そんな噂の一つや二つ増えても気にはならんな。」
ティモシーがクラウドに振り返った。その意味を察してクラウドがうなずいた。
「わかりました、ルームシェアだと思えば良いんです。シェアの料金がめちゃくちゃ高そうですが食事を用意するだけでよいのですか?」
「その方が俺が楽だからな。」
「では、身の回りの物を持ってきます。」
「クラウド君、サーの部屋で過ごすならTシャツとGパンじゃダメよ。ユニセックスな服を2,3着、レディースを2,3着ぐらい持って来てよね。」
「え〜?!」
「えー?!じゃないの、クラウディアとして過ごすんでしょ?しばらくの我慢よ。」 「はぁーい。ちぇ!仕方がないなぁ…。」
ぶつぶつ文句を言いながら、クラウドは自分の部屋に荷物を取りに戻った。
一時間ほどしてクラウドはスーツケースを一つ持って表れた。
その間に打ち合わせをして、二人のなれそめをでっち上げていたティモシーとミッシェルがクラウドにその内容を告げた。
「神羅カンパニーのポスター?そんな依頼もらったんですか?」
「ああ、事実もらっている。先ほどルーファウス社長直々に依頼いただいた。」
「午後から撮影のためにカンパニーに行くから、腕によりをかけて可愛くするからね〜〜」
「うげぇ〜〜〜、こういう時のミッシェルって容赦ないモンなぁ。」
ミッシェルに連れられてクラウドが衣装を変えると、再び美少女モデルが現れた、先ほどまで悪態をついていた少年が、天使のほほえみを持つ美少女を演じていると思うと、思わずセフィロスは苦笑を漏らした。
「お前、天才詐欺師か名優になれるぞ。」
「モデルの仕事が少なくなったら考えようかな?」
「その時は私を引き続き雇用願いますね。」
ティモシーが真面目な顔をしてクラウドに話しかけると扉を開いた、セフィロスがすっと立ち上がるとさりげなく左手を差し出した。しかし、差し出された手の意味がわからないクラウドは首をかしげていた。
「なんだ、エスコートされたことがないのか?」
「無い…です。」
セフィロスがクラウドの右手を取って軽く引っ張って立たせると、軽く曲げた肘にそのまま右手を絡ませた。
「ティモシー、マナーを一通り習わせた方が良いな。」
「まだ、ドレスの依頼が入っていないので全く考えていませんでしたが…そうですね、そのうちウェディングドレスでモデルウォークなんて依頼が来るかもしれませんね。」
「ティモシー、あんまりドレスの依頼受けないでよ。それでなくても俺、自分が女顔だって落ち込むのに。」
つんととがった唇、ちょっと拗ねた瞳が何とも言えず可愛らしい…言葉と仕草があまりにも対照的で思わずセフィロスが苦笑を漏らした。
「ククク……クックック…。まったく、しばらく楽しめそうだな。」
そう言ってクラウドの頭を撫でながら笑うセフィロスをティモシーとミッシェルが笑顔で見守っていた。
* * *
翌日、神羅カンパニーに張り出された「安全週間」のポスターは多くの兵士を骨抜きにしていた。
しかし、その日のゴシップ誌にすでにセフィロスとクラウディアの2ショットはすっぱ抜かれていたのであった。
見たこともないような柔らかな笑みを浮かべるセフィロスに、がっちりと守られるように腰を抱かれたクラウディアの天使のような微笑みは周りにいる人を魅了してやまなかったようである。
ホテルのレストランで食事をして、その後どうやらセフィロスの自室へ行ったという噂は、女子社員達のおかげで治安維持部全員が熟知していたことであった。
「なぁ、この子サー・セフィロスの新しい恋人なのかな?」
「どうだろうね。サーのお相手にしてみたら、今までの最低年齢じゃない?」
兵士達のうわさ話にとどめを刺したのがセフィロスの持ってきていたお弁当であった。
朝、約束通りに食事の支度をしていたクラウドが、眠たそうな瞳をこすりながらランチボックスを差し出した時は、さすがのセフィロスも受け取るのをとまどったが、旨そうなできばえと、ちょっと拗ねる少年に、仕方なく持ってきたのである。
さりげなく自分の執務室の机の引き出しに入れたのを連隊長仲間が見てびっくりしたような顔をしていった。
「キング、ランチボックスをご持参なさるとは珍しいですね。」
「ん?ああ、今朝押しつけられた。持って行かないと泣かれそうだったのでな。」
「はぁ…、今朝のゴシップ誌にスクープされていたモデルですか?」
「クックック…、表情がころころ変わってな、見ていて飽きないぞ。」
思い出したように緩やかな笑みを浮かべる盟友を、連隊長仲間達はこの時初めて目の当たりにしたのであった。
その日、執務を終えてクラウドが撮影しているスタジオに入ろうとする時、セフィロスは自分に向けての殺気だった視線をたくさん感じた。
ふと見るとマスコミに紛れてまだ若い男達がスタジオを取り巻いていた。
睨まれたお礼とばかりに、鋭い視線を一巡りさせると、不敵な笑みを浮かべてスタジオへと入っていこうとした。とたんにマスコミに取り囲まれる。
「サー・セフィロス!こちらにおいでということはやはりクラウディアがお目当てで?!」
「やはり彼女が新しい恋人という事なのですか?」
「フン!相変わらず下らんことしか聞かないのだな。」
「しかし、サー。昨夜だけでなく今日も…となると、やはり…」
その時、スタジオの中から測ったようにクラウディアとスタッフが出てきた。セフィロスの顔を見るなりクラウディアが極上の笑みを浮かべる。
「あ、セフィロスさん。」
「終わったのか?」
「はい。あ…あの…、今朝の…。」
「ああ、ランチボックスのことか?連隊長仲間に揶揄されたが、なかなか旨かったぞ。」
「よかったぁ。」
にっこり笑って安堵のため息を漏らすクラウディアに、緩やかな笑みを浮かべると、後ろにいるティモシーに目配せをしてから美少女(?)の耳元でささやく。
「これからどこか行かないか?」
「え?い、いいんですの?サーのお仕事は?」
「お前の方が大事だ。」
腰が砕けるような甘い声にクラウドは知らずに頬を赤く染めていた。
(も、もう!何やってんだよ、俺!サー・セフィロスは仕事で俺に優しくしてくれているだけだって言うのに!)
クラウドはふるふると首を横に振るとちらりとセフィロスを見上げて拗ねたような顔をした。
「ティモシーもミッシェルもいるから、大丈夫です。」
「あら?何言ってんのよ、さっきから時間ばかり気にしていたのはどこの誰かな?」
「明日は11時にミッドガルデパートでダイアナの新作発表会です、打ち合わせの9時までに8番街の事務所に来てくださいね。では、サー。よろしくお願いします。」
「ああ、わかった。」
そう言うとクラウディアの細い腰を抱き寄せて、セフィロスはそのまま8番街のショピング・ゾーンへと歩いて行こうとしていた。
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