ニブルヘルムの魔晄炉へと続く橋が切れて落された一行は、気が付くとだいぶ下に落とされていた。
「無事のようだな。元の場所まで戻れるのか?」
「この辺の洞窟は蟻の巣みたいに入り組んでいるから…それにセフィロスさん。ひとり、姿が見えないけど。」
「冷たいようだが、捜している時間はない。さあ、戻れないなら、先へ進むぞ。ここからは一緒に行動する。」
こうして魔晄炉目指して近くの洞窟に入っていくと、ザックスがその洞窟の発する色の不思議な色合いに声を出した。
「ここは?」
「不思議な色の洞窟ね。」
「魔晄エネルギーだな。この山は特にエネルギーが豊富なのだ。だから魔晄炉が造られた。」
セフィロスが自分の知識にある事を思い出しながら説明するそして更に奥へ進むと幻想的な泉が現れた。
ザックスがセフィロスにたずねた。
「これは?」
「魔晄の泉。自然の驚異というやつだな。」
「こんなに綺麗なのに…… このまま魔晄炉がエネルギーを吸い上げ続けたらこの泉も消えてしまうのね。」
ティファはそう言うと、泉の中央に煌めく塊を見つけた、セフィロスがティファの視線に気がつく。
「それはマテリアだ。魔晄エネルギーが凝縮されるとマテリアが出来る。天然のマテリアを見るなんて滅多にない機会だ。」
「そういえば、どうしてマテリアを使うと魔法を使う事が出来るんだ?」
「そんな事も知らずにソルジャーをやってるのか?マテリアの中にはいわゆる古代種の知識が封じ込まれている。大地、星の力を自在に操る知識。その知識が星と我々とを結びつけ魔法を呼び出すと言われている。」
「魔法…… 不思議な力だ……」
ザックスの言葉を聞いてセフィロスがいきなり笑い出した。
「ハハハハハ!」
「何か変な事言ったか?」
「ある男がな、不思議な力なんて非科学的な言い方は許さん!魔法なんて呼び方もダメだ!そう言って怒っていたのを思い出しただけだ。」
「誰だ、それ?」
「神羅カンパニーの宝条。偉大な科学者の仕事を引き継いだ未熟な男だ。コンプレックスの塊のような男だな。」
ティファは感心したように泉を見つめていた。
「魔晄の泉…… この中には古代種の知識が入っているのね。」
一行は先へと進むとようやく魔晄炉に到着した。
「着いたわ。随分遠回りしちゃったけどね。」
「君はここで待っていてくれ。」
「私も中へ行く! 見たい!」
「この中は一般人立入禁止だ。神羅の企業秘密でいっぱいだからな。」
「でも!」
「お嬢さんを守ってやりな。」
セフィロスは一般兵の姿のクラウドにそう伝え、ザックスを引き連れ中に入っていく、ティファは中についていこうとしたが兵士(クラウド)に遮られた。
「ん、もう! しっかり守ってね!」
魔晄炉の奥では何やら大量の大きなカプセルと奥へと続く扉が控えていた。
「JENOVA…… 何だろう。ロックは…… 開かないか……動作異常の原因はこれだな。この部分が壊れているんだ。ザックス、パルプを閉じてくれ。」
ザックスは言われたようにカプセルのパルプを閉じた。
「何故壊れた……?」
そう言ってセフィロスはカプセルの中を眺めると一人納得したようにつぶやいた。
「わかったよ、宝条。でもな、こんな事したってあんたはガスト博士にはかなわないのさ。これは魔晄エネルギーを凝縮して更に冷やすシステムだ、本来はな。さて、更に凝縮すると魔晄エネルギーはどうなる?」
セフィロスはザックスに振り返って聞いた。
「え、ええと…… そうだった! マテリアが出来るんだな。」
「そう、普通ならな。でも宝条はこの中にある物を入れた。……見ろ。窓から中を覗いて見ろ。」
セフィロスが冷却システムのカプセルを指差した。
ザックスがその中を覗くと中には異形の化け物が魔晄に浸かっていた。
「こ、これは!?」
「お前達、普通のソルジャーは魔晄を浴びた人間だ。一般人とは違うがそれでも人間なんだ。しかし、こいつらは何だ? お前達とは比べ物にならないほどの高密度の魔晄に浸されている。」
「…これがモンスター?」
「そうだ。モンスターを生み出したのは神羅カンパニーの宝条だ。魔晄エネルギーが創り出す異形の生物。それがモンスターの正体。」
「普通のソルジャーって? あんたは違うのか? お、おい、セフィロス!」
突然、セフィロスが頭を抱えだした、顔色は真っ青だった。
「ま、まさか…私も?私もこうして生み出されたのか?私もモンスターと同じだというのか?!」
セフィロスは狂ったようにカプセルを斬りつけはじめた。
「セフィロス…」
「お前も見ただろう! こいつらの中にいるのはまさしく人間だ。」
「人間!? まさか!」
「子供の頃からオレは感じていた。私は他の奴らとは違う。私は特別な存在なんだと思っていた。しかし、それは…… それはこんな意味じゃない。」
セフィロスが鋭い視線をカプセルに向ける。
と、その時カプセルの一つが大きく揺れたかと思うと中からモンスターが苦しそうに出てきた。
その様子を見ていたセフィロスが漏らした言葉をザックスは聞き逃さなかった
「私は… 人間なのか?」
セフィロスが何を言っているのかその時のザックスには良くわからなかった。
ザックスは何よりも神羅カンパニーがモンスターを創っていたという事にショックを受けていた。
ザックス達はニブルヘイムへ戻った。
セフィロスは宿屋に篭もり誰とも言葉を交わそうとしない。
そして…ある日いなくなった。
セフィロスが見つかったのはニブルヘイムで一番大きな建物で、村の人達は神羅屋敷と呼んでいた。
クラウド達が生まれた頃にはもう空き家になっていたがそれ以前はその屋敷は神羅カンパニーの人間が使っていた。
ザックスは知らせを受けて神羅屋敷へと向かった。
しかしセフィロスの姿は見えなかった。
「確かに、この部屋に入っていったのを見たんだけど…」
そういわれてザックスは部屋に入ってみると確かにセフィロスの姿はない。
が、壁が少し不自然になっているのを見つけ隠し扉になっているのを発見した、扉の奥は螺旋階段が地下へと続いていて地下は書庫になっており、そこにセフィロスはいた。
セフィロスはそこにある書物を一心不乱に読んでいるところだった。
「2000年前の地層から見つかった仮死状態の生物。その生物をガスト博士はジェノバと命名した。×年×月×日。ジェノバを古代種と確認、×年×月×日。ジェノバ・プロジェクト承認。魔晄炉第1号使用許可…」
セフィロスは本から目を離すとザックスに聞こえるようにつぶやいた。
「私の母の名はジェノバ。そしてジェノバ・プロジェクト…これは偶然なのか?ガスト博士…どうして何も教えてくれなかった?どうして死んだ?」
ザックスが話しかけようとすると拒絶するかの如くセフィロスが背中を向けた。
「ひとりにしてくれ。」
それ以降セフィロスは神羅屋敷に篭もりきりになった。
まるで何かに取り憑かれたかのように書物を読みあさり、地下室の明かりは決して消える事はなかった。
それからしばらくして、ザックスは夜中、ふと目が覚めた。
嫌な胸騒ぎがして、セフィロスの元へと行くと彼の雰囲気ががらりと変わっていた。
「クックックッ…」
地下室に行くとセフィロスの妖しげな声が聞こえてきた。セフィロスはザックスを見るとまるで知らないものを見るかのように怒鳴り散らした。
「誰だ!! フッ…… 裏切り者め。」
「裏切り者?」
「何も知らぬ裏切り者よ。教えてやろう。この星は元々セトラの物だった。セトラは旅をする民族。旅をして、星を開き、そしてまた旅。 辛く、厳しい旅の果てに約束の地を知り、至上の幸福を見つける。だが、旅を嫌う者達が現れた。その者は旅する事をやめ、家を持ち、安楽な生活を選んだ。セトラと星が生み出した物を奪い、何も返そうとしない。それがお前達の祖先だ。」
「セフィロス。」
「昔、この星を災害が襲った。お前達の祖先は逃げまわり隠れたお陰で生き延びた。星の危機はセトラの犠牲で回避された。その後でのうのうと数を増やしたのがお前達だ。セトラはこうしてレポートの中に残るだけの種族になってしまった。」
「それがあんたとどういう関係があるんだ?」
「わからないか? 2000年前の地層から発見され、ジェノバと名付けられた古代種。そしてジェノバ・プロジェクト。ジェノバ・プロジェクトとは古代種、つまりセトラの能力を持った人間を創り出す事だ。創り出されたのは…私だ。」
ザックスがセフィロスの言葉に驚いた。
「つ、創り出された!?」
「そう。ジェノバ・プロジェクトの責任者、天才的科学者ガスト博士が俺を創り出した。」
「そんな事…、どうやって?」
セフィロスはザックスの問いかけに答えずに静かに歩き始めた。
「セ、セフィロス?!」
「邪魔するな。私は母に会いに行く。」
セフィロスは屋敷から出ていった、追いかけるようにザックスとクラウドは慌てて外に出る。
しかし、そこは炎に包まれた地獄と化したニブルヘルムの街であった。
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