クラウドの意識が回復した時…すでにエアリスは宿屋からいなくなっていた。蒼い顔をして探していたティファに夢で見たエアリスの言葉をクラウドは告げた。
「セフィロスはメテオを唱えてしまう。それを防げるのは自分しかいないと言って…古代種の都へと行った…。」
 古代種の都へはボーンビレッジから眠りの森を通っていくらしい。北に進路をとりボーンビレッジから眠りの森を抜け、古代種の都へと到着した。
 ここにエアリスがいる、そしてセフィロスもいる。理屈じゃなくクラウドにはそう思えた。
 古代種の都をあちこち歩いているうちに、少し高くなっている祭壇のようなところで彼女は何か一心に祈っていた。何かに導かれるようにクラウドはふらふらとバスターソードを片手にそんなエアリスに近寄って行った。
 目の前にたたずんでいるエアリスに自分の意志とは関係なく、腕が大剣を振りかざそうとしている。まるで何者かに支配されているかのように自分の体が思うように動かない…そして、エアリスを貫こうとする。
「い…いや…だ……、やめろーーーー!セフィロス!!」
 自分の意識を支配しようとするセフィロスにクラウドは必死に抵抗していた。その時、正宗を振りかざしてセフィロスが降臨してきた。
 重力を無視するかのようにゆっくりと降りながら、正宗をエアリスに突き刺すと、勝ち誇ったように消え去った。
 エアリスはその場に倒れたまま、いくらフェニックスの尾を使おうとも、蘇生のマテリアを何度使っても…生き返ることはなかった。
 そんな彼女の亡骸をこの都にある湖に沈め、改めてクラウドはセフィロスを止める決心をした。

 セフィロスはまっすぐ北を目指している、だからクラウドたちもアイシクルロッジから大絶壁を越えて北にあるクレーターをめざした。
 竜巻が道を閉ざすように発生している岩だらけの道をセフィロスの後を追いかけていたはずだった。しかし…
「この体はここまでだな。」
 セフィロスの声が耳に聞こえたとたん、追いかけていた男が倒れこむと同時に姿を変えた。
「セフィロスじゃない?!」
「どういうこと?!私たちが追いかけていたのはセフィロスじゃなかったの?」
 意識がもうろうとしている男は「リユニオン…」とつぶやきながら死んでいった。
 リユニオン…そういえばアイシクルロッジのガスト博士の家にあった書類の中に『ジェノバ細胞を持つものはリユニオンする。』と書いてあった。細胞同士が呼び合うのであろうか?ひとつになろうとするらしい。
 先に進もうとすると、再びセフロスが現れ、クラウドにもう一度ニブルヘイムの事件を思い出させようとした。
 セフィロスが見せた幻影にティファが蒼い顔をしながらうなずいている。そんな彼女を無視してクラウドは自分を惑わせるためにセフィロスが見せつけたものだと決めつけていた。
 道の先を見ると、あちこちに黒マントの男が倒れている。様子を見ると皆死んでいる、その中の一人が黒マテリアを持っていた。
 このままセフィロスと対峙したら、また自分が自分でなくなってしまい、セフィロスに黒マテリアを渡しかねない。だからクラウドは自分が黒マテリアを持つことを拒否した。
 シドに持っていてもらい、そのままセフィロスを倒すために北の大空洞の中に入ると、すでに神羅カンパニーの宝条やルーファウス達が待っていた。
 空洞の中には魔晄の大きな結晶があった、そのなかにセフィロスが眠っているのが見える。
 クラウドがシドに預けていた黒マテリアを受け取り、ふらふらとセフィロスに近寄って行った。そして黒マテリアを結晶の中に眠るセフィロスに渡してしまった。そんなクラウドを見て宝条がにやりと笑った。
「クックック…素晴らしい!私の実験がパーフェクトに成功したわけだ。おまえ、ナンバー幾つだ?ん?入れ墨はないのか?」
「宝条博士…俺、ナンバーありません。俺、失敗作だから博士がナンバーをくれませんでした。」
 クラウドはすでに一緒に旅をしてきた仲間たちを見ることはなかった。まるで何かに操られているかのようにうつろな瞳で宝条博士に近寄っていく。
 そんな男の様子にルーファウスが首をかしげて宝条に訊ねた。
「あいつは…何者だ?」
「……5年前、セフィロスが死んだ直後に、私が作ったセフィロスコピーの一つ。」
 ジェノバ細胞がお互いに呼び合い再び一つになろうとする力があるらしい。クラウドは自らセフィロスを追いかけていたはずだったのだが、実際は彼の中にあるジェノバ細胞に呼ばれていたのであった。クラウドが独り言のようにつぶやく言葉は宝条の話と合致していた。

 いきなり地面が大きく揺れた。
 目の前の魔晄の中から禍々しい気配がいくつか飛び去っていくと、空洞が崩れ始めた。
 あわててシドが飛空挺に飛び乗ると仲間を拾うためにロープを垂らす。崩れる土砂のおかげでかなり揺れているが何とか仲間が昇ってくる。しかしいつまでもこの場にとどまることは出来そうもない、そう判断したシドは飛空挺を上昇させた。
「まって、まだクラウドが…」
 そう言ってすがりつくティファだったが、土砂崩れは激しさを増していた。揺れる機体を必死で操作していたが、噴き出すライフストリームの嵐に翻弄され、振り飛ばされそうになる。必死で舵を取りながら大空洞を後にしたところで、ティファは気を失った。

 ティファが再び目を開けたのは北の大空洞を飛び出してから3日たっていた。
 神羅カンパニーにつかまって処刑されるところを何とか抜けだして、飛空挺に乗り込むと、旅をした仲間が全員そろっていた。みんながクラウドはきっとどこかに生きているから探し出そうといった。
「じっちゃんが言うにはミディールの近くにライフストリームが噴き出るところがあるって。」
 レッドがコスモキャニオンの長老プーゲンハーゲンの言葉を伝えると、シドが飛空挺の操縦士に進路を指示する。飛空挺が即座に反応して南に進路をとった。
 ミディールに到着して街のあちこちを探し歩くと、診療所に先日倒れていたのが見つかったの青年がいるという情報を入手した。診療所に行くとその青年はやはりクラウドだった、しかし彼はライフストリームに長い時間浸っていたからか、魔晄中毒におかされていたのであった。
 そんなクラウドを看護したいとティファがミディールに残った。

 クラウドの魔晄酔いはかなり酷く、意志の強かった瞳は何も見つめることはなく、常に冷静な判断をしていた思考は何も考えてはいなかった。





ここは…どこ?
まだ、あなたは…来てはいけない所よ。
かあさん??
ざーんねん!おれの彼女!
誰??
うっわー、最低!マジで完璧忘れているよ。
俺は…?
だぁいじょうぶ。ちょっと迷子になっているだけ、ね。もうすぐ元のクラウドに戻れるよ。
でもさぁ、あの記憶は戻さねぇほうがいいんじゃない?
あの記憶?
ちょっと優しくて…暖かいけど、それを取り戻すと…クラウド、辛くなっちゃうかな?
でも、俺の記憶なんだろ?
うん、あなたの…おそらく一番大事な記憶。
それ、ないと困る
そうかもしれない…、でも、無いほうが幸せかもしれない…
どうする?クラウド、真実を知って…それでもセフィロスを止められるか?
セフィロスを止めるのは俺の宿命だ!
そっか…じゃあ、ちょいとばかり辛いかもしれんけど…頑張れよ、クラウド
一つだけ…忘れないでね。真実を知った後でも…自分を責めないでね。





「……ウド。………クラウド?」
 どこかでティファの声がする。
 もうろうとした意識がはっきりなるに従い、クラウドは独り言のように言葉をつぶやいていた。
「ティファ…の…お母さん…死んじゃった。……山…おい…かけない…と…」
「クラウド?!」
「俺…ニブル山……てぃ……ふぁ……ああうううううう……」
「そうよ、クラウドは私を追いかけてニブル山に登ったの。」
 クラウドのうつろな瞳が次第に光を取り戻し始めていた。
「思い出して、クラウド。あなたが…あなたである証拠を…」
 ティファの声に導かれたのか…それ以外の何かが働いたのか、クラウドの意識が過去へと飛んでいた。

 幼い頃、村のみんなに無視されて…みんなが仲良く遊ぶのを窓の中からうらやましそうに見つめていた。そんなある日ティファの母親が急になくなった。

 死んだ人の魂はニブル山に登って天へと召される。

 そう信じていたティファは母親を追いかけると言ってニブル山に登って行った。
 ニブル山は険しくすでに薄暗くなっている細い道は足元すら不確かで、崖の端っこから小さな石がころころと落ちている。
「道…から…落ちた。」
「うん。よく知ってるね。」
 ティファの後を追いかけてクラウドもニブル山を登っていたのだった。足を踏み外してがけから落ちようとするティファをなんとか捕まえたが、子供の力では引き上げることはできない。腕がしびれて離してしまった。
 ちょうどその時、村から追いかけてきた大人が到着したのだった。
 おかげでクラウドがティファを落としたことに話がすり替わってしまい、彼は更に村でつまはじきにされてしまったのだった。

 クラウドはある日、神羅カンパニーの治安維持軍募集ポスターに写っているセフィロスを見た。
 神羅の英雄と呼ばれる男、強い男の象徴セフィロス。そんな彼にあこがれてソルジャーになることを決心したクラウドは、ニブルヘイムを出てミッドガルへ行くことを決心した。
 そして、星のきれいな夜。村の中央にある給水塔にティファを呼び出し、ソルジャーになると告げた。
「そう、そうだよクラウド。その記憶は私とクラウドにしかない記憶…」
「俺は……ソルジャーに……なれ……なか…った。」
 クラウドの記憶が徐々に今に近づいてきている。

 そしてその記憶は唐突に戻った。

 優しく見つめるアイスブルーの瞳、そっと触れる大きな掌。ゆるやかに流れる時間の中、ずっとそばにいたかった大好きな人の姿がはっきり脳裏に浮かぶ。

そうだ、俺は…俺はあの人を愛していた。


 クラウドの中で何かがはじけた。