飛空挺の中でクラウドはチームのみんなの前で取り戻した記憶のほとんどを話していた。
「ジェノバ細胞とセフィロスの強い意志、そして俺の弱い心が生み出した人間…それがみんなの知っていた俺…クラウドだ。」
「それで…クラウドはん。これからどないするおつもりでんねん?」
「メテオが落ちてきているのは俺の責任だ。だからセフィロスを…止める。」
まるで泣きだしそうなその顔は、悲壮なまでの決心の表れであろうか?とにもかくにもこのとき一緒にいたティファは「クラウドを守ってあげたい!」とまで思ったのであった。
大きく開いたクレーターのような洞窟の入口のそぐそばに、なんとか着陸できるところを見つけ、飛空挺は翼を休めた。
装備を確認して大空洞の中へとはいっていくと、今まで度は比べ物にならないぐらい強いモンスターたちがあちこちにはびこっていた。倒しながら進んでいくとぽっかりと空いた穴の奥に光をたたえた空洞が見えた。
この先にセフィロスがいる。
俺が…セフィロスを助けるんだ
クラウドの決心は一緒にいた仲間達のものとは少し違っていた。
ライフストリームが渦巻く空洞の最奥に、その男はいた。
ジェノバの言葉を口にするその男には、クラウドの姿は見えていなかった。ただひたすらに星をわがものとし、強大な力を得ようとしていた。
クラウドはそんなセフィロスを見ていたくはなかった。
涙ながらに下した刃がセフィロスの体を貫くのを、まるで他人が行っているかのように見つめている。いつかのように信じられないような顔をするかと思ったら…セフィロスは昔、自分に向けたような優しい笑顔を浮かべてライフストリームの中に落ちて行った。
そのとき、クラウドには「ありがとう…クラウド。」というセフィロスの声が聞こえていた。
空洞が何かのバランスを崩したのかあちこちで崩落が始まっていた。
あわてて出口に向かおうとする仲間が振り返ると、思わぬ声と笑顔にその場でボーっとしていたクラウドに声をかける。
「クラウド!何してる早く来い!」
「クラウド!大丈夫?!」
崩れる壁、揺らぐ足元、必死にクラウドを呼ぶ仲間たちを見上げながら、クラウドは悲しげな笑みを浮かべていた。
(ごめん、行けないよ…。)
クラウドは自分の無力感に襲われていた。
俺は…何もできなかった…
初めて俺のことを友達だと言ってくれた人を……
守らなければいけなかった人を…
愛する人を……俺は…俺のせいで殺してしまった。
この先、セフィロスのいない人生なんて…俺には考えられない。
このまま崩落に身を任せていれば…セフィロスのところに行ける。
クラウドがそう思っていた時、どこからか右手が現れて強い力で引っ張られた。
崩落が一段落した時、クラウドは降りてきたときに途中にあった平らな地面に横たわっていた。
起き上がって周りを見渡していると、先に逃げたはずの仲間たちがあわてて駆け寄ってきた。
「クラウド、いつのまに?!」
「お前…土砂崩れがかなり激しかったみたいだけど、よく怪我ひとつせずに…」
「どこかに近道でもあったのか?」
仲間たちに尋ねられても答えられなかった、クラウド自身どうやってここまで来たのかまったく記憶がない。ライフストリームの渦巻く空洞の最奥でセフィロスとともにずっといるつもりだったのに、力強い手に引っ張られて…いつのまにかここに来ていたのだった。
(あの腕は…まさか………。)
思い当たる人は一人しかいなかった。その人が「生きていてほしい」と願っているのであろうか?それとも……
「クラウド!早く地上に戻らないと!」
ティファがクラウドの手を引っ張って飛空挺へと駆け出していく。
やがて光の当たる場所に出てきた。すでに飛空挺には仲間たちが乗り込んでいて、クラウド達の到着を待っていた。
クラウドとティファを載せて飛空挺が離陸をすると、激しい光の渦が空洞の奥底から飛び出してきた。
「な、なんだ?!あれは!」
光の渦は波となり、次第にある方向に延びていた。
「あの光の先は?」
「ミッドガルだ!」
飛空挺で光の波を追いかけると、その先にはメテオが今まさにミッドガルをつぶさんがばかりに覆っていた。しばらくライフストリームを追いかけるように飛空挺を飛ばしていると、星のあちこちから同じようにライフストリームが集まってくる。
集まってきたライフストリームが落下し続けるメテオを徐々に押し上げようとしていた。
「す…すごい。これがホーリー?」
エアリスが命をかけて唱えていたホーリーの魔法。セフィロスが唱えたメテオを防ぐ唯一の魔法と聞かされていた。
その発動を強大な力で抑えつけていたジェノバが、依り代であるセフィロスがいなくなったことでやっと効力を発揮し始めたのだった。
「しかし…これではメテオが近すぎる。」
「遅かったの?私たちのしたことは手遅れだったの?!」
その頃、先にミッドガルの街で住民を避難させようとしていたユフィとヴィンセントが、視野のほとんどを覆っているメテオを睨みつけていた。
その時、いきなり空が明るい光に覆われた。
「え…エアリス……?」
今は亡き優しげな女性の微笑みが脳裏に思い浮かぶ。
メテオの影響で街のあちこちが崩壊していた。それなのにユフィにはなぜか安心感を感じていた。
やがて徐々にメテオの力が弱まってきたのか、町の崩落も収まりかけていた。ほっと一息ついたところで、再び街の安全を確認し始めた。
* * *
メテオが崩壊してしばらくたってから、飛空挺はミッドガルの端へと着陸した。
仲間たちが争うように街へと飛び出していくのを見届けてから、クラウドはゆっくりと飛空挺を降りた。
いったん、ミッドガルに背を向けて小高い丘の上へと歩いていくと、その場にずっと持っていた大きな刃の剣を突き立てた。
「生きなくちゃ…いけないのか?ザックス。」
魔晄中毒に陥っていたクラウドを守ってここで命を落とした初めての親友。もし、あの時ザックスがクラウドを見捨てていたら、きっと彼は生き延びていて、今頃エアリスと一緒にどこかに逃げ伸びていたかもしれない。
その方が…よかったのかもしれない。
なーに言ってんだよ、あの時お前を守り切れなかった男が、エアリスを守れると思ってんのか?
でも…ザックス……。
デモもストもないぜ。俺はお前を守り切れた。だからお前は俺の生きた証、それでいいじゃないか。
俺は…ずっとこんなに重いものを引きずって生きていかないといけないのか?
引きずんな!あいつが望んだことなんだ、おまえが笑っていられる…その方が重要だ。
笑えないよ…俺は……エアリスも…
もう、クラウドったら!
エ、エアリス?!
大丈夫、わかっていたんだ。それにやっとザックスと会えた。
ど、どういこと?!
うふっ、どういうことかな?行こう、ザックス
おう!じゃあな、クラウド。
あ!エアリス!!ザックス!!ちょっとまって!
わりぃなぁ、あの人がお前に生きていてほしいって思ってんだよ。
でも!おれは…
ダーメ!まだ来ないの。
ふと気がつくと足もとに小さな花が落ちていた。
その花をポケットにしまってクラウドはミッドガルへと歩いて行った。
* * *
ミッドガルに戻ったクラウドは行くあてもないので7番街スラムのセブンス・ヘヴンのあった場所へと向かった。
あちこちで空を覆っていたプレートが崩落し、空が見える。
セヴンス・ヘヴンの周囲は偶然にもあまり被害にあっていなかったようだが、途中の道はがれきがあちこちに落ちていて、足元に注意していないとと、てもではないが歩けるようなものではない。
クラウドがセブンス・ヘヴンに到着した時、すでにティファが店の周りを片付け始めていた。
やがてユフィとヴィンセントがやってきて、顔を合わせて同じことを聞いた。
「ここがセブンス・ヘヴン?オーナーはバレットのはずよね?」
「バレットはどこに行った?」
「さあ…」
クラウドが首を横に振っていると、ティファが声をかけた。
「あ、みんな。来てくれたんだ。」
「ねー、バレットは?」
「マリンを引き取りに行ってるわ。」
「マリン?!ああ、コレルプリズンで戦ったあの人の?」
「うん、エアリスのお母さんに預かってもらっていたんだけど…タークスに見つかって、キーストーンをとられた時に人質に取られて追いかけられなかったでしょ?ケット・シーの操縦者がリーブだとわかっているから問い詰めたら居場所を教えてくれたの。」
「そうか。」
「とりあえず中に入って、まだ片付いてはいないけど、座れるスペースぐらいはあるわ。」
ティファがすこし斜めにかしいだドアを軽くたたくと扉が開いた。ヴィンセントとユフィは背中に冷たいものを感じながらもその扉をくぐる。しかしクラウドはうつむいたままその場に立ち尽くしていた。
「どうした?クラウド。」
「いや…ちょっと、な。」
ヴィンセントに招きいれられるように、小さなカフェ・バーに入ると。店の奥のカウンターにグラスが並べられていた。 「ちょっと直せば営業できそうだわ。とりあえず、おなかがすいていては何もできないでしょ?簡単なパスタぐらいなら材料あるから待っていてね。」
ティファがくるくると動き回って、トウガラシとコショウとオリーブ・オイルでできたパスタを人数分作り上げた。
「さて、みんな。これからどうするの?」
「あたしはマテリアをたっぷりともらって帰りたいところだけど…しばらくは無理そうだから、ここを手伝うって言うのはナシ?」
「いいわよ、片付けもたくさんあるし…ヴィンセントも手伝ってくれると嬉しいな。」
「あ、ああ。しかし、クラウドがいれば私なぞ…」
「あら、クラウドも当然手伝いの数に入っているから。」
にっこりと笑っているが、右手に握っているガラスのコップにひびが入りかけている。その有無を言わせない態度にクラウドは顔を青くさせながらただうなずくしかなかった。
こうして、クラウドはセブンス・ヘヴンを根城にしながら「なんでも屋」を続けることにしたのであった。
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