クラウドがセブンス・ヘヴンを根城にしながら「何でも屋」をはじめて2年が経過していた。彼の仕事は次第に荷物を運ぶ運び屋になっていたが、移動の最中に命を狙われかねない運び屋は腕っぷしも必要だったため、仕事は思いのほか入ってきていた。
 しかし、クラウドの表情は常に曇ったままであった。
 彼の胸に去来するのは、後悔の念だけであった。


 俺は………なぜあの人の元へとまっすぐに進んでいたのだろうか?

 北の大空洞、あの人が選んだ決戦の場所に、俺は仲間と一緒にまっすぐ最奥へ……、あの人が待っている場所へと進んでいた。
 大空洞の最奥で貴方は俺を待っていてくれた。
 銀色の長い髪をなびかせその身長ほどある片刃の剣を握り締め、俺を見てにやりと笑った。

 セフィロス

 憎くて……憎くて……仕方がないと思っていた。けれど俺の心の中のどこかに『逢いたくて逢いたくて仕方がなかった』と、囁く自分が居た。
 そして自分の剣が貴方を貫いた時、セフィロス…、あなたは俺に向かって微笑んでくれたよね?
 あんなに貴方を愛していたのに……。
 あんなに愛されていたと思っていたのに……。
 貴方は俺に殺される事を望んでいた。

 ねぇ…、セフィロス。ライフストリームの中から手を伸ばしてくれたのは……、
 あなたなんでしょ?

 クラウドが問いかけても誰も答えてはくれなかった。

 プレートのはざまから洩れる暖かな光りは、メテオを防ぐ為に自らの命をかけた一つ上の女性を思い出す。
 そういえば、あんたにも嘘をついていたことになるな。

エアリス。あんたと一緒にいた時の俺は俺じゃなかった。
あんた、それを知っていたんだな。
「私、あなたを探している。」そんな事俺に言っていたもんな。
俺はあんたの初恋の人を、そしてあんたを犠牲にしてしまった。
それなのに、それなのに…。ごめんな。

 俺、あの人の事が忘れられない。

 こんな弱い俺じゃなかったはずなのに、おかしいよな?

 そんなことを思いながら、ふらふらと行くあてもなくさすらっていたら、目の前に見覚えのある教会がそびえたっていた。
 5番街スラムの教会だった。
 落ちた屋根のすき間から太陽の光りが降り注ぎ、エアリスの育てた花が微風に揺れていた。
「また、戻ってきたんだな…。」
 左腕はいつの間にか黒い膿のようなものがぽつんとついていた、清潔な布でおさえてから包帯で縛ると、クラウドは教会をあとにした。


*  *  *



 クラウドがセブンス・ヘヴンに戻ると、ティファが心配げな顔をして声をかけようとするが、どう声をかけてよいものが分からなかった。
 そんなある日携帯にティファからの連絡が入る。
「ねぇ、クラウド。レノから連絡が入っているよ。」
(レノ?タークスのレノか?!)
 2年前に死んだと思っていた神羅カンパニー社長ルーファウスも、セフィロスに殺されたと思っていた秘密組織タークスのリーダーツォンも実際は生きていた。
 そしてたまにクラウドに仕事を回してくれたりしていた。
(また、何かの用事なのだろうか?)
 そう思いながらも無視を決め込んでバイクにまたがりエッジを抜けだした。

(そういえば、いつの間にエッジって呼ぶようになったんだろうな?)
 ミッドガルと呼ばれていたこの街の残骸を使える所だけ使って人々は生活をしていた。そんな事を思いながらミッドガルが見下ろせる高台へとやってきた、血塗られた古いバスターソードが地面に転がっている。
 ここは、彼の墓標である。倒れていたバスターソードは彼の持ち物であった。

(この刀で俺はあの人を貫いた。)

 今は墓標としてたてているその刀は既にさびてボロボロだった。バスターソードを突きたててクラウドはその場に少したたずんでいた。
「あんたの分まで生きようって……。そう決めていたんだけどな。」
(ザックス、俺はあんたに命をかけて助けてもらえたほどの男じゃなかったよ、今だにあの人の面影を探し求めてしまっている。)
 そう思いながらフェンリルにまたがるとエンジンを吹かした。
 轟音を響かせてフェンリルが広野を疾走すると俺の周囲を銀髪の男が3人取り囲んでいた。

(銀髪?!やめてくれよ!!あの人を思い出してしまう!!)

 見ないふりを決め込んでバイクのエンジンを加速させると3人はクラウドを追い詰めてきた。

「母さんは何処だ?!」

(やめろ!!やめてくれ!!その言い方、そのセリフ。あの人以外の人から聞きたくは無い!!)

「兄さんが隠しているんだろ?」

(兄さん?!何の事だ?!)

 クラウドの腕の膿は「星痕症候群」と言われていて、彼だけでなく多くの人々に現れていた。
 その星痕が疼くと疼きがあの人のイメージを思い出させる。

 3人組を振り切った後でクラウドは携帯のメッセージを再生したら、バレットとティファからのメッセージが入っていた。
 油田を見付けたバレットのメッセージと、レノが急いでくるようにと言っていたというティファのメッセージを聞くと先程の銀髪3人組の事を知りたくてクラウドは指定された場所へと向かった。

 ヒーリンロッジ、そこでルーファウスが待っていた。
 あの3人の名前を聞く為にルーファウスにあったら、彼はクラウドをボディーガードに雇いたがっていた。
 ミッドガルの復興のためと聞いて少しは考えようか?と思ったらレノがカンパニーの復興のためと本音をさらしたので無視する事にした。
 教会に帰るとマテリアの箱が盗まれていた。
 おまけにティファが誰かに襲われたらしい、助け起こそうとして星痕が疼きクラウドはティファのすぐそばで意識を失った。

 気がついたらセヴンスヘヴンの部屋だった、ルードとレノが運んでくれたらしい。
 しかしティファと一緒に住んでいたはずの孤児達が一人もいなかったうえにバレットからあずかっているマリンまで居なくなっていた。
 クラウドの腕を見たティファが俺に言った。
「星痕症候群………だよね?」
 クラウドは何も答えないでいたが、ティファは話し続けていた。
「このまま死んでもいい。……なんて思っている?」
 彼には何も答えられなかった。ティファはそんなクラウドの無言を了承ととったのであろう。
「やっぱり……」
「治療法が無い。」
「デンゼルは頑張っているんだよ。」
 諦めかけているクラウドに同じ病気にかかっている子供の名前をティファは出してきた。そして一緒に頑張ろうと彼に言う
「逃げないで一緒に闘わない?皆で頑張って助けあおうよ……」
 そこまで言うとティファが暗い顔をした。
「……本当の家族じゃないから……ダメか。」
 そうじゃない、そうじゃないんだティファ。おれは、あの人ですら助けてあげられなかった。
「俺は……誰も助けられないと思う。家族だろうが、仲間だろうが……。」
 クラウドの言葉に呆れたような顔をしてティファはため息をつくようにつぶやいた。
「ずるずるずるずる。」
「ズルズルズルズル、いつまで引きずっているんだぞ、っと。」
 子供を探しに行ってくれたレノが、いつの間にか戻ってきていたのに気が付いて、ティファが振り向いた。
「見つからないの?!」
「あいつらがつれて行った、目撃者がいたんだぞ、っと。」
 子供を連れ去っているのを見た人がいると聞いて、クラウドがレノに訪ねた。
「行き先は?」
「忘らるる都、アジトだ。」
(忘らるる都、あの人がエアリスを刺した所だ!)
 そしてエアリスの亡骸を葬った場所だった。クラウドは忘らるる都へとバイクを飛ばした。

 迷いの森の中を走っている時、彼はエアリスを感じた。

来ちゃったね……、自分が壊れそうな時に。
質問!どうして来たのかなぁ?


(どうして、って言われても……。)
エアリスへの返事にクラウドはとまどいながらつぶやいた。
「俺は……、俺は許されたいんだと思う。うん、許されたい。」

だぁれにぃ?!

 明るい、エアリスらしい声で優しげに笑っている。
(俺を恨んではいないという事なのか?!あんたを、そしてあんたの初恋の人の命を、犠牲にして生きているくせに、二人の命で守られた俺は、一連の事件の元凶である男をいまだに追い求めているというのに!

エアリス……、あんたはそれに気がついているんだろ?

なのに……、なぜ責めない?!
責めてくれていた方が、恨んでくれていた方が俺に取って、あの人を追う事を諦めるきっかけになると言うのに)
 振り返ると、エアリスはそこにはいなかった。しかし、彼女が触った場所にあった星痕の痣がきれいに消えていた。