忘らるる都には銀髪の男に集められた子供がたくさんいた。
男たちはクラウドを兄とよびながらも裏切り者と言う。
(裏切り者…そうなのかもしれないな。)
3人組の男たちと戦いながら、クラウドは助太刀してくれたヴィンセントに問いかけた。
「罪って許される物なのか?」
「さぁな、試したことがない……。」
ずっとエアリスやザックス、セフィロスのことを救えなかったクラウド自身のことを引きずっている、おかげでマリンにまで言われてしまった。
ミッドガルに戻ると仲間がバハムートと戦っていた。
クラウドは仲間の力と……、エアリスに助けられてバハムートを退けた。
高速でのバトルの後でもう一度カダージュと名乗る男と対峙した。彼の手にはカプセルが一つ、それを胸に強く宛った。
「僕のリユニオン、見せてあげるよ。」
カダージュがそういった次の瞬間、クラウドは目を見張った。
風になびく銀色の長い髪、魔晄をあびた翡翠の瞳…
「久しぶりだな…。クラウド。」
カダージュがいた場所に立っていたのは、子供のころからの憧れの存在。そして彼に殺される事を望んでいた男で、クラウドが恋い焦がれるように追い求めていたセフィロスだった。
「いったい、何が望みなんだ?!」
追いかけて、追う事に疲れた頃に姿を現す。まるでクラウドがセフィロスの事を、忘れないようにしている
(俺の中にある星痕が消えたからって、それがなんなんだよ?!)
セフィロスはクラウドに愛刀正宗を突きつけながら、昔と変わらない低い声で話している。
「星痕を宿した死者の思念。それはライフストリームと共に星を巡りやがて星を侵食する。私の望みはな、クラウド。この星を船として宇宙の闇を旅する事だ。かつて母がそうしたようにな。」
いつのまにか暗雲が立ちこめ空が見えなくなっていた。雨がぽつぽつと降り出す中を微動だにせず、セフィロスは話し続けている。
「やがて我らは新しい星をみつけ、その星で新しい未来を創造する。」
(違う!違う!!!違う!!!あの人じゃない!目の前に居るあれはセフィロスの姿をしたJENOVAの思念!!)
クラウドは迷わず剣を取っていた。
正宗と、クラウドの剣が何度か交わると、セフィロスはさも知っているかの様に彼に話しかけた。
「ほう、何がお前を強くした?」
「あんたには言いたくないね!!」
(貴方を追う為に強くなったなんて、誰が言えるかよ?!)
「お前への贈り物を考えていた」
(贈り物?!気を使わないでくれ!!)
「絶望を贈ろうか?跪き、許しを乞う姿を見せてくれ。」
(そんなもの……、さんざん貴方には見せていたじゃないか!!)
「お前の最も大切な物は?それを奪う喜びをくれないか?」
(大切なもの?!わかっているくせに!さんざん奪っておきながら、これ以上奪う気か?!)
「……哀れだな。あんたは何もわかっていない。大切じゃない物なんて無い!!」
(あなたに憧れていたニブルヘイムの子供時代も、貴方と暮らした神羅時代も…貴方を敵として追っていた時も……思い出にしようとして出来なかった時間すらも……俺に取っては大切な物なんだ!!)
「思い出の中でじっとしていてくれ。」
クラウドは目の前のセフィロスに超武究神覇斬・改をしかけた。
しかし技が決まったと思った瞬間、セフィロスの背中に黒い片翼が生えていた。翼に隠れて、彼はクラウドに一言残して再び目の前から消えた。
「私は……、思い出にはならないさ。」
(セフィロスが残した言葉の意味……、それは俺にいつまでも追ってこいと言うのか?!)
やるせない気持ちがクラウドを包むと、目の前でセフィロスだった男がカダージュに戻った。あわてて剣を構えなおすが、奴はすでに限界だったのかがくりと倒れ込んだ。
優しい雨に包まれて奴は消えた。
(エアリス…あんたは誰にでも優しいんだな。)
クラウドがそんな事を思って空を見上げていたら、不意に背中から撃ち抜かれた。振り向くとヤズーとロッズが今にでも消えそうに立っていた。
撃ち抜かれた苦痛に耐えながら、剣を構えて切りかかろうとしたが、二人の腕にはめられていたマテリアが魔法を発動させる。
クラウドの意識が飛んだ。
真っ白な世界に彼はいた。
優しい手がクラウドの額をなでる……、その感触に彼は思わず母親を思い出していた。
「か…あ…さ…ん?」
「まぁた?何度目かな?母さんって呼ばれたの。」
「いいんじゃねぇの、慕われてさ。」
「こんな大きな子供 いりません!」
「残念。おまえの居場所ここには無いってよ。」
クラウドの耳に飛び込んできたのは、なつかしい声だった。以前と全然変わっていない明るいあいつの声。
クラウドが5番街の教会へ戻ると教会に泉ができたと言う。泉は星痕を癒す水だった。
子供たちの星痕が綺麗に消えて行く。
ふとクラウドは子供に花をもらって扉へと歩くエアリスを感じた。教会の扉を開けて振り向いたエアリスは彼に優しく微笑んだ。
「もう、だいじょうぶ、ね。」
そう言うと扉の向こうにザックスと消えた。
「うん、俺は一人じゃない」
(ありがとう、いつもそばにいてくれて……。いつも見守っていてくれて……。俺は行くよ、思い出にさせない為にも。)
フェンリルにまたがって再びクラウドは走り出した。
過ぎ行く風景の中エアリスが悲しげに……、そしてやさしく微笑んでいた気がした。
(俺が生きている限りあの人は死なない!!何処かに必ずいるはずだ。ならば必ず探し出してやる!!)
しかし、どこを探しても…セフィロスはいなかった。
■ ■ ■
クラウドがミッドガルを飛び出したが、世界各地をめぐりっても、どこにもセフィロスを見出すことができなかった。
次第に探す場所も残りが少なくなってきて、あと北の大空洞を残すだけになっていた。
この場所を探し終わってしまえば、クラウドには希望という文字が消えてしまう。一縷の望みをかけていつ崩れてもおかしくないほど足もとの悪い道をゆっくりと降りて行った。
階段のようになっている岩棚を飛び降り、少し開けたところに出る。
あの時、クラウドが飛ばされて気がついたところだった。
誰かに見られているような気がして振り向くが、誰もいなかった。クラウドは今にも泣き出しそうな顔をして次第に細くなっていく地下への道をゆっくりと降りて行った。
まだうろついているモンスターを切り捨てながら、洞窟の奥へと続く道を進んで行くと急に視界が広がった。ライフストリームがやさしくその場を緑色に輝かせていた広場に降り立った。
(あの時、貴方が俺を呼んだ所に…また来てしまったんだな。星の息吹が聞こえる空洞の奥深くで…あの時、貴方は俺を待っていた。俺にその宿命を止めてほしくて…呼んでくれたんだよな。ねえ、気がついていたんだよね?最後の最後で優しげに俺に微笑んだんだもん…)
星の胎内。ここはセフィロスが最後にクラウドに微笑んだ所。
その場に立ちすくんでいるとクラウドは耐えられなくなってきた。地面に座り込んで思わず涙が流れそうになるのを必死で我慢しているのか、声を詰まらせながらつぶやいた。
「ねえ、知ってた?俺にはもうここ以外探すところがないんだよ。」
座り込んで膝を抱いた腕の中に顔をうずめていたクラウドを星の意志が優しく取り巻いた。
「あ−あ、また泣かせてちゃって。」
「え?!」
「セフィロスも意地悪だよな。マジでお前しか見ていないってぇのによぉ。」
「ザックス?!」
「来ちゃったんだね。」
「エアリス?!」
「う−−ん、でもここに来ても何も無いと思うんだけどなぁ。」
「わかっているよ。でも…せめて今日ぐらいはアンタたちに触れていたかった。」
「だぁれにぃ?!」
「素直じゃねぇなぁ。」
ザックスとエアリスの気が近くにあった。その優しい気持ちに思わずクラウドは涙を流がした。
「ありゃりゃ…本格的に泣きはじめちゃったよ。」
「だめでしょ、こんなに泣かせちゃ。」
二人の気配の後ろに懐かしい気配がした。それはクラウドが恋い焦がれていたあの人の気配だった。
その優しげな気配にクラウドは顔も上げられずにボロボロと涙を流していた。
顔を上げたら…本当は彼がいないのだと…現実を見せられたくなかったのであった。
しかし、その気配はしだいにクラウドに近づいてきていた。
膝を抱えた腕にさらりと触れる銀色の長い髪。
「クラウド…」
優しく諭すような低い声、そしてクラウドの頭を撫でる大きい手のひら。あまりにも懐かしい…待ち望んでいた感覚に、クラウドは顔を上げられないまま声をあげて泣き続けていた。
「泣くな、お前に泣かれたら…」
「じゃあ俺を泣かせるな!!」
泣きながらクラウドは声のする方向に両手を伸ばし思わず抱きついた。逞しい胸板に頬をすりよせて背中にまわした腕に力をこめて声をあげて泣き続けた。
「いやだ!!いやだよ!!もう離れたくない!!あんたのいない世界なんて…俺はいつでも捨てられる!お願いだよ!俺も…俺も連れて行ってくれ!」
力強く抱き込まれたおかげで懐かしいセフィロスの香が鼻孔をくすぐった。
二人はむさぼる様にお互いを求め合い、いつのまにか身体を重ねていた。
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