アレクサンドリアの城下町を麦わら帽子をかぶった小さな子供があるいていた。
 石畳に蹴つまずき転んでしまった子供に駆け寄る人影があった。

「大丈夫かい?ビビ。」
「え?お姉ちゃん誰?」
 倒れた子供が帽子をかぶり治しながら、目の前の美人を見上げるがどうも思い浮かばない。不思議そうな顔をしていると美人の後ろから声が掛った。
「なにをしている、行くぞ。」
 その男には会った事も、話した事もあるのでビビが声をかけた。
「あ、セフィロス!ひさしぶり!!」
「なんだ、黒魔導士の子供か。そういえばお前、アレクサンドリアの女王陛下と親しいと聞いていたが。」
「あ、うん!ガーネットのお姉ちゃんならよく知ってるよ…。ねえ、セフィロス。この綺麗なお姉ちゃんってセフィロスの奥さん?」
「ああ、私の妻だ。」
「セ、セフィロス!!あんた何てことを!!」
「え?その声はクラウド?」
「ああ、俺だよ。こいつにこんなカッコをさせられたんだ。」

 怒り心頭のクラウドはさわさわしたドレスにアップにした髪、細い首元には瞳と同じ色の宝石のネックレスが飾られていた。その姿がよく似合っているので、ビビが笑顔でうなずいた。
「うん、にあってる。僕がガーネットお姉ちゃんのところまで案内してあげる。」
 そう言うとビビはセフィロスとクラウドを先導して、アレクサンドリアの城へと向かった。

 城の前には水路が有ってゴンドラに乗り換えねばならなかった。
 ビビがゴンドラを呼んで乗り込むと、セフィロスが乗り込みクラウドの手を取った。それを見てビビとゴンドラ乗りがにこりと笑う。
 少し揺れるゴンドラで水路を渡りきると、アレクサンドリアの城が見えてきた。
 船着き場で降りたビビが先に城の中へと走っていった。やや遅れてセフィロスとクラウドが城の入り口までたどりつくと、目の前に尻尾のはえた好奇心旺盛そうな少年が立っていた。

「ヒュー!!こいつはスッゲー美人さんだ。ダガーよりも綺麗じゃないかよ。」
「貴様は?」
「俺?ジタン・トライバル 盗賊さ。」
「おかしな国だな、盗賊が朝から堂々と城の入り口に立っているのか。」
 ジタンと名乗った少年がにやりと笑って二人に話しかけた。
「あんた達ダガーに会いに来たんだって?」
「ダガー?」
「ああ、アレクサンドリアの女王様。」
「ミッドガル、神羅カンパニー社長ルーファウスの名代で参った。」
「それはご苦労様、こっちだよ。」
 ジタンという男が二人を先導するように歩いて行った、閲見の間に座っているのは長い黒髪のまだうら若い女王だったが、玉座から立ち上がり丁寧に挨拶する姿は流石に一国の女王であった。
「ようこそアレクサンドリアへ、私が女王のガーネットです。」
「ミッドガル、神羅カンパニー社長ルーファウスの名代で参りましたセフィロスです。」

 そこまで言うと、セフィロスの後ろに従っていたクラウドが、気持ち悪そうにうずくまった。

「う、うぐっ!!」
「まあ、どうなさいました?!」
「いや、心配無用だ。病気では無い。」
「病気じゃないって……、こんなに顔が真っ青じゃないか。今エスナで……。」
「回復魔法の多用は身体によくないからやめてくれないか。」
「まあ、では……。」
 ガーネットがあわてて玉座から飛び降りて衛士を呼びつけた。

「ベアトリクス、この方をどこか横にできる部屋へ」
ベアトリクスが敬礼をしてうずくまっているクラウドに近寄るが、彼は手を払いのけた。
「だ、大丈夫です。それよりも神羅カンパニー社長から書簡をあずかっていますので受け取って下さい。」
 手元にある書簡を見せて中を取り出し、ガーネットへと渡す為、目の前に居る女性騎士に手渡した。
 一礼して受けとるとベアトリクスがガーネットに手渡す。ガーネットが渡された書簡をさっと読んで返事をした。

「まあ、そうですか。了解いたしましたわ。さっそく書かせていただきます。ベアトリクス、お客様を控えの間にお通ししてお茶をさし上げて下さいな。」
「承知致しました。さあコチラへどうぞ。」
 ベアトリクスに先導され、セフィロスとクラウドが閲見の間を退出した後で、ジタンがビビに向かって話しかけた。
「なあ、ビビ。おまえ何処であんな美人と知り合ったんだ?」
「ん?ジタンだって会っていると思うけど……。」
「え?あんないい女この俺が忘れるわけないんだけどなぁ?」
「女?セフィロスもクラウドも男だけど?」
ビビの一言でガーネットもジタンも大声を上げた。
「ええ〜〜〜?!男?!」

 閲見の間から大声が上がった時、ベアトリクスに連れられて控えの間に入っていたセフィロスとクラウドは、出されたお茶を飲みながらゆったりと待っていた。
そこへ服を着ているんだか、着ていないんだかわからないような衣装の銀髪の男が入ってきた。
 男は入るなりクラウドの目の前に来てにやりと笑った。
「これはこれは、お美しい。ようこそ僕の小鳥」
「?!」
「露出狂か?!出て行け!」
「嫌だね。美しいご婦人は美しいこの僕の為に居るのさ。」
「このすっとこどっこい!!てめえ何処に目をつけてやがる!!」
「オテンバはいけないなぁ、君みたいな美しいLADYがそんな汚い言葉を使ってはいけないよ。」
 クラウドが持っていたバスターソードを目の前の露出狂の男に振るより早く、セフィロスの持つ正宗がぴたりと露出狂の男の首筋にあたっていた。
 銀髪の露出狂が冷淡な笑いを浮かべながらセフィロスを睨みつけた
「クククク……、お前はこの美しいご婦人のなんなのだ?」
「夫だ!」
「ふふふ、彼女はそうは思っていないようだが?」
「当たり前だ!!だいたいお前がおかしい、俺は男だ!!」
「嘘はいけないよ。」
「コレが嘘か!!」

 そう言ってクラウドはドレスを脱ぎ捨てた、思ったより逞しい上半身が日の光にさらされるが、銀髪の露出狂がその肌に刻印された物を目ざとく見つける。
「おやおや、こんなにイタズラされて。君の白い肌にこんなに跡を付けた奴は誰だい?」

 クラウドがあわてて自分の体を見ると、裸になった上半身のあちらこちらに昨夜の名残が見受けられた。一瞬にして真っ赤になったクラウドは、思わず胸を隠しながらつぶやいた。
セ………セフィロス。」
 隣りに立っている背の高い男をちらりと見あげているクラウドを見て、その肌に跡を付けた男が隣りの男であると解った露出狂(だからクジャだってば!)がいきなり動いた。
「き、貴様ぁ〜〜〜〜〜!!!!」
 クジャがセフィロスに詰め寄ろうとすると、その間にクラウドが割り込みセフィロスを背中に庇う。その様子を見てクジャが石化していた。

「クックック、先程言ったではないか、クラウドは私の妻だと。ほら、早く服を着ろ。私以外の男に肌を見せるな。」
「うぅ………。」

 クラウドが真っ赤になりながら再びドレスに袖を通すと、ベアトリクスが二人を呼びに来た。

「セフィロス様、クラウド様。紹介状が出来ましたので閲見の間へどうぞ。あら?クジャではないか。」
 クジャはベアトリクスに声をかけられても動けなかった。
「石化か?金の針は生憎持っておらぬが…。」
 ベアトリクスがエスナの魔法をかけようとする前に、クラウドが腰の剣を抜きエスナの魔法をかけた。
「エスナ。」
 しかしクジャの石化は戻らなかったのでベアトリクスが首をかしげる。
「おかしいですね。エスナはしかと掛っているはずなのに。」
「ふん、何かあったのであろう。そのうち解ける。」
「そうでしょうか?」
「セフィロスがそういうなら大丈夫ですよ、脈も息もある事だし…。」
 クジャの頚動脈をさわり、鼻の近くに手をかざしてクラウドが振り返ると、ベアトリクスがうなずいた。
「では、こちらへ。」
 ベアトリクスに付いて行くと閲見の間に通されて女王から直々に紹介状をもらった。

ガーネット王女がおずおずと訪ねた。
「あ、あの。セフィロス様とク、クラウド様でしたよね?バロン王国とミッドガルとは交流が無いのですか?」
「交流が無いと言う事はないのですが、なにぶんわが国は王制ではないので何事も手順と言う物が必要なのです。」
「めんどくせぇな。それならフィガロも一緒だろうに。」
「フィガロにはつてがある。それにあそこの王様が我が妻を見れば通してくれない訳がない。」
「そりゃそうだ、エドガーは女好きだからな。」
「貴様とてさほど変わりなさそうだが。」
「では、タイクーンにも紹介状をお書きしましょうか?」
「ありがとうございます、あそこの女王陛下の姉君と私の仲間が懇意にして降ります。アレクサンドリアでの知り合いはビビだけでしたので……。」
 横柄な返事をするセフィロスとは違い、クラウドは丁寧な説明をするとガーネット女王もやっと意味がわかりにっこりとほほえんだ。

「ビビは私の大切なお友達です。お友達のお友達でしたら私どもにも大切な友達です。また近くを通られたらいつでもお越しください」
「それはありがたい…が、国王自ら盗賊と偽る国が信用出来るであろうかな?ガーネット女王」
 セフィロスのなにげない言葉に、ガーネットが眉をしかめてジタンを怒った。
「ジタン!!あなた、また政務を抜け出してあちこち歩いていたの?!」
「ひえっ!!な、なんでばれたんだよ。」
「え?セフィロス。こいつがこの国の王様なの?」
「ああ、ルーファウスからアレクサンドリアの国王は一筋縄では行かぬと言われていたのだが…、他国から使者が来たと言うのに国王らしき人物が見当たらぬ。そのかわり女王の隣に目の前に、自称盗賊が居るとなれば、この男が国王だろうとは思ってはおったが盗賊と名乗るとはな。」
「いいんじゃない?自殺したくて国を滅ぼそうとした上に、俺に殺されたくて呼んだ馬鹿な英雄だっているんだから。」
「お前、言って良いことと悪い事があるぞ。」
「俺、今だにあの時の事悔やんでいるんだから。」
 クラウドが泣きそうな顔をすると、セフィロスが苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

 そんなふたりのやりとりを見てガーネットがふわりと微笑む。
「お二人とも仲がよろしいのですね。バロンの国王陛下ご夫妻も仲睦まじいと評判です、もし行かれましたらよろしくとお伝え下さい。」
「承知した、では間もなく迎えが来る予定になっておりますので、コレにて失礼いたします。」
「美人歓迎だからいつでもおいで。でも、俺の兄貴には気をつけろよ。あいつ、美しい人や物に目がないから。」
 ジタンの言葉にクラウドは先程であった銀髪の露出狂(だからクジャだってば!)の事を思い出した。
「さっき会ってきた。なぜか知らないけど石化してるぜ。」
「それはきっとあんたに振られたショックって奴さ。」
 そう言いながら豪快に笑い飛ばすジタンを、ガーネットが何かのロッドで叩いているのを横目で見ながら、セフィロスとクラウドはアレクサンドリアの城を後にした。