団長に懇願されたとはいえ、女装などこれ以上したくないクラウドが、嫌がる自分を腕尽くで連れて行こうとするセフィロスに抵抗している。

「あ、アンタって人は〜〜!!アンタが舞台に出ればいいじゃないか?!」
「私のようなガタイで女役が出来ると思っているのか?相手の男よりも遥かに大きいではないか。」
「それは俺に喧嘩を売っているのか?!」
「喧嘩では無い、事実だ。それにお前は誰よりも可愛いからな。」
 耳元で甘く囁かれて一瞬クラウドの頬がピンク色に染まると、それを見て団長が満面の笑みでうなずく。

「うん、美人だ。君なら間違えない!台本はコレだよ、セリス将軍だって一度で覚えたんだ。君にできないことはなかろう?」
「俺は……。」
 クラウドの負けん気に一瞬火がついたが、台本をペラペラとめくって軽くストーリーを読むと、遠くに行ってしまった恋人を思いながら意に添わぬ結婚を迫られる女性の役であったので、読んでいるうちに一抹の不安が浮かんできた。

「お、俺にはこんな役出来ない。だって相手はどっちも知らない奴なんだろ?そんな奴相手に感情を込める事なんて出来ない。」
「しかし……。」
「遠くに行った恋人を私がやろう。お前の恋人役は誰にも譲らぬ!」
「ちょ…それ…。」
「ふん!こいつを舞台に引きずり出したいのであれば我慢するのだな。」

 相変わらず俺様なセフィロスであるが、団長も目の前の男を見て、その容姿はきっと客を引きつける物であると思ったので了承した。
 クラウドも思う相手がセフィロスならば出来ると思っていた。
 台本を暗記し衣装をもらい、着替えてメイクスタッフにメイクしてもらうと、鏡に映った自分の姿にクラウドは思わずため息をついた。

「はぁ……。」
 クラウドのため息に気がついてセフィロスが近づいてくる、セフィロスの格好は剣士の格好であった。いつものロングコート姿とは違いかなり凛々しい。しかしなぜか剣だけはいつもの通り正宗であった。
 クラウドが見惚れていると団長が支度部屋に入ってきた。セフィロスとクラウドであろう目の前の二人組を見ると目を見張る。
「ううむ……、なんと、ここまで似合っているとは。」

 しかしクラウドもセフィロスもそんな事はOUT OF 眼中!、もう既にお互いの事しか目に入っていません。
「セフィ…、カッコイイ。」
「お前は何時見ても可愛いな。」
 一生やってろと言いたいが、幕の上がる時間が近づいているので、団長が二人をつついて自分の存在を知らせた。

「あ、あの。そろそろお時間なのですが……。」
「うむ、仕方がない。行くぞクラウド、軽いミッションだと思え。」
「アイ・サー!」

 いや、ミッションじゃないんですが……     (^^;;

 とにもかくにも舞台の指定された所にクラウドが立つと、すでに開演5分前になっていたので幕の向こうのざわめきが聞こえてくる。
 シナリオを思い浮かべてもう一度頭の中でシュミレートしていると、開演1分前の声が掛る、クラウドは意を決して開演のブザーを待った。

---------------------------- 開演 --------------------------------

 ナレーションが掛り緞帳が上がって行く。
 中央に立っているクラウドにスポットが当たった途端、会場から『ほぉ〜〜〜』というような感嘆の声が聞こえる。
 光に映えるハニーブロンド、整った顔だち、こぼれんばかりの青い瞳、そしてきめ細やかな白い肌、どれをとってもその場にいるすべての女性より美しかった。

 クラウドが遠く離れた恋人の事を唄い出す。
 その声には真実が隠されていたので聞いている客も思わず涙ぐむ。
 舞台袖からセフィロスがさっそうと登場する、スポットを浴びて光り輝く銀色の長い髪、神が作ったとしか思えないほどの容姿、そしてその男らしい態度は会場にいたすべての女性を一瞬でとりこにした。

 セフィロスが伸ばした手に躊躇せずクラウドは手を重ねる。

        いきなり抱き込まれた。

「ちょ、セフィ。ここダンスシーン。」
「踊ればいいのだろう?」

 セフィロスに耳元で囁かれてクラウドは思わず腰が砕けそうになる。
 そんなクラウドを余裕で抱き止めてセフィロスが優雅にリードして踊りはじめると途端に会場から黄色い声が飛びはじめた。
 セフィロスが踊りながらクラウドの唇を奪いはじめたのであった。
 軽くついばまれるようなキスを何度も交わし、踊り終わるとガシッと抱きしめられて深く口づけあう。

(こ、こんなストーリーだったっけ?)

 とか思いつつ、クラウドはすでに実力行使に走り出したセフィロスに丸め込まれていた。

            暗転

 暗転している間に団長とその一派が、セフィロスを引きずって舞台をさがる。代わりにクラウドの足元に花束を置いて行った。

 明かりが付きクラウドはその花束を抱えて舞台装置の階段を上がって行く。1番上部からその花束をほおりなげたその時、いきなり舞台上空にフックの付いたロープが下がってきてそのロープをつたって一人の男が舞い降りた。

(げ!!セッツァー?!)

 クラウドがあわてて階段を駆け降りて、舞台袖にいるセフィロスの元に行こうとした。セフィロスもセッツァーを認めて、クラウドを守るべく飛び出して行った。
 しかし上から飛び降りてきたセッツァーの方が一歩早かった、二人の間に割り込むといきなりクラウドを抱きかかえようとする。
 クラウドがドレスだと言うのに回し蹴りをすると、セッツァーが体制を崩し倒れた。セッツァーを思いっきり踏みつけて乗り越えると、クラウドはそのままセフィロスの腕の中へと飛び込むように逃れて行った。

「く、クラウド。俺と言う男がいると言うのに!」
「嘘!!あんな奴の言う事を聞く事ないから!!」
「わかっている。お前は私のモノだ、これまでも、これからもな。」

 舞台の袖では団長達があわてふためいているが、観客は『まあ、どろどろの三角関係?!この先どうなるのかしら?』と期待に胸を膨らませて見ていた。

 セッツァーが懐からカードを取りだし、セフィロスを攻撃しようとすると、クラウドがその前に立ちはだかる。

「ダメーーー!!!セフィロスを殺すなら俺を殺して!」
「どけ、クラウド。お前にケガをさせたくない。」
「嫌だ!!どかない!俺、俺。もうアンタが傷付くのを見るのは嫌なんだ。アンタが俺を残して何処かに行ってしまうなんて、もう耐えられない。俺に追ってこいというなら見える所にいろ!」
「ふふふ、可愛い奴だ。」

 舞台上だと言うのに、強烈なキスシーンを見せびらかすように繰り広げているセフィロスとクラウドの二人に、セッツァーがフリーズからやっと立ち直った。

「く、クラウド。お前は、あの時俺の目の前で泣いていたのは、その男のための涙だったのか?!」
「ああ、そうだよ!悪かったな!」
「と、言う訳だ。お前に勝ち目は無い」
「たとえ99・99%勝ち目がなくとも残りの0・01%にかけるのがギャンブラーの醍醐味と言う物だ。」
「悪いけど、100%だ なんならここで証明しようか?」

 クラウドがセッツァーに腕にはめているバングルを見せびらかすように掲げた。
 銀色に輝くバングルには不思議な色に輝く石がはめられていた、その中の一つ、赤い石が意志を持ったように輝きを強くしはじめる。

(げ!!あれは以前見たマテリアとかいう魔石?!しかも強烈な召喚獣が13体も代わる代わる出てきた奴か?!)

 赤い石の正体を知っているセッツァーがあわててクラウドを止めようとする。
「ま、まてクラウド!こんな所で召喚獣を召喚する気か?!劇場が木っ端微塵に破壊されるぞ!!手を引くから止めろ!!」
「じゃあ、あのスケベそうにこっちを見ているタコもついでに引き取ってくれる?」

 クラウドが指を差した先には、だらし無さそうにデへデへと笑い、完璧ににやけた顔をし、おまけによだれまで垂らしているタコ(?!)が一匹いた。

「お、オルトロス?!」
「あのタコ、焼いて食べると美味しいかな?」
「止めておけ、食あたりしそうだ。」
「オルトロス!!引け!!」
「ゲヘヘヘヘ。あんないい女、目の前にしてのこのこ帰れません。」
「馬鹿が!!たこ焼きにされるぞ!!」
「ゲヘ?! わっしゃ〜〜〜!!!」

 オルトロスが脱兎のように逃げて行った、見送るとセッツァーも飛空挺から下がっていたロープに飛び付いた。

 二人(?)が去って一安心した時セフィロスがクラウドに声をかけた。
「行ったか?」
「うん、セフィ。信じてくれてありがとう。」
「二度と私を背中に庇おうとするな。」

 ガシッと抱き合う二人に、観客が割れんばかりの拍手をすると、団長があわてて緞帳を降ろした。
 拍手をしながら団長がにこやかにセフィロスとクラウドに話しかけた。
「いや〜〜なんとか終った。一時はどうなるかと思ったよ。これがうちの劇団が贔屓にしている花屋の1番のブーケだよ。」

 そう言って渡したブーケは大振りで香の良い白いユリが沢山あるキャスケードブーケだった。
 ドレス姿のクラウドが受け取るとやたらにに合う。セフィロスがクラウドの耳元で囁いた。
「似合うな。」
「なんだか複雑な感じ。」
 そう言いながら二人はオペラ座を後にした。

 近くに停泊したシエラ号に戻るとちょうどセリスから連絡が入っていた。
 シドが応対していると、セリスの視野にクラウドとセフィロスが入ったらしい、青い瞳をまん丸にしてびっくりしている。

「うわ、何処の美人さんかと思ったらさっきの君なの?まるでウェディングブーケね。あ、そうだモブリズにちょうどレース編みで有名な教会があるの、行って見たら?」

 シドがセリスから場所を聞くとシエラ号はその教会へと向かった。

 モブリズの教会はすぐに見つかった、噂に違わず質の良いレース編みのヴェールを手に入れると一路シエラ号はスピラ国へと針路を向けた。

      スピラ国

 聖ベベル寺院でふたりの男が話しあっていた。
「ユウナ様にお会いしたいという他国の使者が来るとの知らせですが、いかが致しましょうか?」
「ユウナ殿に?また、なぜ?」
「なんでもユウナ様に聞きたい事があるとか。」
「何処のどなただ?」
「ミッドガル神羅カンパニーのソルジャーでセフィロスと言う男とクラウドと言う男だそうです。」
「とりあえず許可をせねば国際問題になるな。」
「わかりました。」

 その10分後、シエラ号はビサイドの海岸に着陸した。