FF ニ次小説

 9月最終週の月曜日に、資格見直しのための無差別武闘会が始まった。まず一般兵が入隊年ごとにわかれて組み手を始めると上位年の兵達からいきなり声が上がる。
 新兵のトップがいきなり決まっていた、20分もかからずに50人からの兵士をクラウドがなぎ倒してしまったのであった。
 泡を食った上位年の兵がクラウドを潰しにかかるが、あっという間に片っ端から返り討ちにあっていた。
 一時間もかからずに残りの兵士が20人を切っていた、顔を見合わせるとみな笑顔がこぼれた、全員が同じ隊の仲間だった
 クラウドがその場にいた仲間たちの名前を思わず呼んだ。
「ブロウディー,ユーリ,キッド,エリック,ケイン…みんな、どうして?」
「言っただろ?第13独立小隊に選ばれるのはダテじゃない、って。」
「クラウドが強いから俺達が目立たないだけ。」
「強くなければ第13独立小隊には来れない。」
「そう言う事、じゃあ遠慮無く行くぜ!!」
 19対1の完全不利な状態ではじまった組み手は20分もせずに、クラウドの圧倒的勝利で終わった。

 教官がにやりと笑うと武闘会の終わりを告げる。
「クラウド,ユーリ,ブロウディー,キッド,ケイン。君たちは明日ソルジャー達と手合わせしてもらうぞ覚悟しておけ。」
 名指しされた5人が敬礼をすると、教官がその場を去って行くのを見届けた後、先輩たちがクラウドに声をかけた。
「クラウド、本当に強くなったな。」
「今ですら俺達なんて目じゃないんだから、身体が出来たら恐いものがあるな。」
「だてに俺達にしごかれていなかったって事だね。」
「自分で自分を誉めるなよ。」
「いいじゃんかよ、クラウドにはもっと上に行ってほしいんだ。」
 照れたように微笑むクラウドに隊の仲間はにやけていた。

 しかし思い出したようにケインがつぶやいた。
「あ、でも隊長以外の所に行ってもらっても困るな。」
「うちの隊長以上の人はここには居ないだろ?クラウドは何処にも行かないさ。」
 ブロウディーの答えにその場にいる皆がうなずくと、クラウドは礼を言ってその場を離れた。
 定時になると一般兵はそれぞれ官舎へと帰っていくが、クラウドはいつものように住んでいるアパートメントの近くにあるスーパーへと出かけようとする。
 エリックがそれに気がつくとクラウドに声をかけた。
「クラウド、送って行こうか?」
「あ、いいよ。買い物もしないといけないし。」
「そう、素敵な恋人によろしくといっておいてくれ。」
 エリックの想わぬ一言にクラウドが頬を染める、それを見ていた他の一般兵がエリックを取り巻き問いただした。

「エリック、おまえクラウドの相手が誰だか知ってるのか?頼む、教えてくれ。」
「ああ、知ってる。知っているが口止めされてて言えないな、知ってどうする?」
「俺達だってあんな可愛い子の恋人になりたいって思うだろ?チャンスがあればその恋人から奪い取ってやろうかと思って。」
「無理だと思うけど。クラウドに思いを寄せているのはおまえらだけじゃない。俺達第13独立小隊を敵に回すつもりがあるなら、やってみるがいい。」
「うわ!!マジかよ。クラウドってそんな高嶺の花だったのか。」
「もっとも、あのクラウドの幸せそうな顔を見ると、今の恋人と一緒に居られると言う事が、あいつにとってどれだけ大切な事かわかるだろ?あんな顔、俺達に見せた事など一度も無い。アイツが幸せならば俺達は見守ってやるしか、手はないと思うけどな。」

 エリックの言葉に一般兵達がうなずくのを見届けると、なるべく無表情にその場を離れた途端に特務隊の仲間に囲まれた。

「おいエリック、あまり不用意な事を言うな!」
「姫をどこかに連れ去られたいのかよ?」
「す、すまん!」
「ともかく、姫が何処にも引き抜かれないように、俺達は細心の注意をはらわないと…。」
「ああ、これだろ?」
 ケインが首の前で手を回した。
 その場に居た全員が青い顔をしてうなずく。
「とにかく、あのお方の機嫌は姫しだいなんだから全員気をつける事!」
 その場にいる特務隊の隊員達が青い顔でうなずいた。



 クラウドは買い物をすませて部屋に帰ると、いつものように食事の支度を始める。今夜はミートローフとシザーサラダにオニオングラタンスープの予定だった。
 この5ヶ月の間、毎日のようにキッチンに立っては食事の支度をしているので、クラウドの料理の腕はずいぶん上達していた。

 やがて時計が20時を回る頃、この部屋の主が戻ってきた。
 いつものようにそっと長い銀髪をひっぱると、ゆるやかな笑みを浮かべてセフィロスが軽くかがむ。クラウドは一生懸命背伸びをしてセフィロスの唇に軽く唇をあわせると、ほんのり頬を赤く染めて上目使いで照れたようにささやく。
「お、おかえり、セフィ……んっ!」

 いきなりセフィロスがクラウドを抱きしめて深い口づけを何度も施しはじめた。
 しばし腕の中で抵抗をしていたクラウドだが次第に抵抗出来なくなってきた。
 頭がボーッとなり身体から力が抜けそうになった時セフィロスが唇を離した。
「ただいま、クラウド。」
 部屋に帰ると灯がともり温かい食事ができていて愛しい少年が微笑んでいる、ほんの半年前まではありえなかった事だが今では無い事の方が考えられない。
 知らないうちにずいぶん生活感のある部屋になったなと思う、難しい学術書の隣に料理の本が数冊並んでいるのを見ると思わず笑みが漏れる。

 クラスSである証の黒革のロングコートを脱いでシルクサテンのシャツとGパンに着替えると、いい香が漂っているキッチンへと入る。
 テーブルに並ぶ料理を見てセフィロスがつぶやいた。
「ほぉ、今夜はいつにもまして美味そうだな。」
「エヘヘヘヘ。」
 照れてにっこりと笑うクラウドはこの上なく可愛い。   by 英雄視点
 この笑顔を独り占めしながら食べる食事は最高の味であるとセフィロスは思っている。
 クラウドが今日あった事をいつもの様にセフィロスに報告するのを聞きながら、愛妻の手料理を味わっていた。

「でね、ザックスが俺をクラスAソルジャーの中に並べて見比べたんだ。ザックスったら俺のペアの見定めしていたみたいでさ、『サー・ブライアンは魔法部隊の副隊長だからクラウドは任せられん。やっぱサー・キースだな。サー・エドワードと一緒にいるといい男過ぎて、クラウドが可愛い女の子にしか見えなくなる。』っていうから…」

 クラウドが言い出し辛そうに口ごもった。セフィロスはクラウドから聞いた話と、彼の性格を考えるとその先がどうなったか簡単に推測が付く。
「クックック…、またザックスを気絶させたのか?」
 クラウドは済まなさそうな顔をしてうなずいたあと黙ってしまった、セフィロスは相変わらず優しげな瞳でそんな彼を見つめていた。
「当然の報いだ、気にするな。明日もその調子で頼むぞ。」
「ソルジャー達との試合ですか?うん、胸を借りるつもりで頑張るよ。」
「明日の結果しだいでは他の能力も査定される。1st以上のランク付けは全能力の査定が必要だからな。楽しみにしているよ。」

 食事を終えるとテーブルの食器を片づけて、クラウドがクラウドがリビングに戻ると、セフィロスは学術書を読んでいた。
 隣に座って料理の本を手に取りながら、クラウドは明日の食事を考えていた。セフィロスが学術書からふと視線をクラウドに向けるとレシピ本相手にクラウドが百面相をしているので思わず笑みがこぼれる。
 クラウドがセフィロスの視線に気がつくと頬を赤らめてちょっとすねた顔をした。
その顔はセフィロスに取って”キスして下さい”という顔にしかみえなかった。
「こら、そんな顔をして私を誘うな。」
「え?誘ってなんか…、あ……ん……。」

 クラウドの言葉がセフィロスの口づけでふさがれた、明日のことを思うと抱いてはいけないのは目に見えていた。
 しかし感情が言うことを聞かない。
 理性で必死に感情を抑えようとするセフィロスがクラウドにはとてもいとおしかった。

「いいよ……、セフィ。」
「クラウド…、しかし明日は……。」
「俺、そんなやわじゃないつもりだけど。」
「いや、やっぱりやめておこう。そのかわりお前が1srソルジャー以上の資格を得た時は、どんなに泣き叫ぼうともやめないからな」
「何て返事したらいいかわかんないや…。でも、ありがとうセフィ。」
 クラウドはセフィロスにゆったりと抱きしめられたままその夜は眠った。

 翌日。
 士官用武闘場にクラウド達5人と各レベルのソルジャー達全員が揃っていた、3rdクラスのソルジャーと対峙する。

「はじめ!!」
 ランスロットの号令で3rdソルジャー達が一斉に飛び掛かった。
 しかし戦いなれているのかそれぞれが3〜4人の3rdソルジャーを倒している、その様子を見てパーシヴァルが感心をしていた。

「毎回の事ですが…、第13独立小隊の実力は凄いモノですね。」
「あの連中4人とも1stあたりまで上がってくるだろうな。」
「姫はどのくらいまで上がりますかね?」
「間違いなくクラスAだろうな。」
「おっと、これは凄い。」

 30分後たった5人の一般兵に3rdソルジャー達は叩きのめされていた、2ndソルジャー達があわてふためくが彼らも一時間と持たなかった。
 5人の連係プレーは見事に統率されていた上に金髪のベビーフェイスがメチャクチャ強い、にっこり笑ってケリを繰り出す姿はさながら闘う天使だった。

「クラウド・ストライフ、前へ出ろ。」
「イェス・サー!」

 ランスロットに呼ばれたのはベビーフェイスだった。
 (今年はあいつが一般兵のトップか。)
 誰もがそう思ってベビーフェイスを眺めていた。
 クラス1stのソルジャー達から5人が進み出た。
「これからは一対一の5人抜きだ、はじめ!!」

 号令と共に1対1の組み手が始まった。
 クラウドの拳はクラスSのトップソルジャーに鍛えられた拳だったので、クラス1stなどひとたまりもなかった、あっというまに4人抜きをこなしてザックスと対峙する。

「うっわ〜〜!!やりにく〜〜!!」
「まったく、ミニスカートでも履くか?」
「それじゃ余計お手上げだ!!」

 ザックスのストレートがクラウドを襲うが軽く左手で掴まれ、体制を低くしながらその腕を思いっきりひねり上げると軽々とザックスが投げ飛ばされる。
 腹を上にして床にたたきつけられたザックスに正拳付きをみまわせるが…クラウドは腹にあたる寸前で寸止めした。

「はい、おしまい。」
「ったく、おまえ合気道なんてやってたんかよ。」
「強くなるためにはありとあらゆる武道に通じないとだめだって、教えてくれた鬼教官がいるのでね。」
 軽くウィンクするクラウドをその場にいるソルジャー達の半分が見とれていた。