FF ニ次小説

 退社時間になるとクラウドは一度部屋に戻り、制服をドレッサーにかけてしばらく眺めていた。革のコートはセフィロスの常に来ていた黒いコートと、色ちがいのお揃いであるので眺めている口元が思わずゆるむ。
 時計を見ると約束の一時間前だったので、あわてて服を探し出した。
 ホテルのロビーで待ち合わせなのだが、クラウドのままだとおかしいのでクラウディアになる事にした。

 フリルのゆったりした白いブラウスに、パステルブルーのプリーツスカート、ハニーブロンドのセミロングの付け毛をピンクのカチューシャで抑えて、白いピンヒールをはくと、その姿は何処から見ても深層の令嬢だった。
 はめていた手袋をはずし、セフィロスからもらったブルーダイヤを左の薬指に付ける。着替えをちょっと大きめのバッグに詰め込んで、ショルダーバッグにハンカチとサイフを入れ、部屋のセキュリティーを確かめて扉を締めた。

 マンションの前に電話で呼んでいたタクシーにのり込むと、待ち合わせのホテルへと直行し、20分ほどで待ち合わせのホテルへと到着した。タクシーの運転手にお金を払うとドアボーイが恭しく扉を開けてくれる。
 にっこりと笑って軽く会釈をすると、ボーイがすこし見とれていた。

 クラウドはすでにその場にいるだれもが、その存在を知っている有名モデルになっていた。

『クラウディアだわ…。』
『綺麗、それにあんなに細い。』

 感嘆の声が密やかに聞こえる中、クラウドはロビーを横切った。
 クロークに手荷物を預けると、待ち合わせのラウンジに入りオレンジジュースを頼む。クラウドはオレンジジュースを飲みながらぼおっと外の風景に目をやっていた。

 噂の人気モデルにナンパをかけようと数人の男が近寄ろうとした時、少女の顔が急にほころびた。
 ホテルの入り口にどうやら待ち合わせの相手が来たようである。
 美少女の視線の先には黒のスーツを着こなした”神羅の英雄”が悠然と歩いていた。

 セフィロスが美少女の視線に気がつくと優しげに微笑む、テーブルに座っていた美少女が思わず照れてうつむいてしまった。
 悠然とセフィロスが美少女のところへ歩いて行くと、軽く腰を折って美少女に会釈をした。

「待たせたかな?」
「い…いいえ。」
「そうか、では行こうか。」
 レシートを片手に美少女をエスコートして歩くセフィロスと、はにかんだように照れながらも、たくましい腕に自分の腕を組める美少女があまりにも似合っていたので、まわりに居た人々からは感嘆の声しか聞こえなかった。

 エレベーターに乗り込むと最上階のレストランへと入る、オーナー兼シェフが恭しく出迎え、VIPルームへと招かれた。
 通りすがりの客が”神羅の英雄”とその恋人と言われている美少女に目を奪われていた。

 テーブルに付くと食事が運ばれてくる。
 ウェイターが仲睦まじい二人の姿を微笑ましく見つめていた。

 食事の合間に交わすなにげない会話は、恋人同士の会話であった為、だれもが二人の仲を疑う事などなかった。

「そういえば、次の仕事は何をやるのであったかな?」
「もう、クリスマス・バザーのポスター撮りですって、このお仕事やると季節感が無くなっちゃう。」
「クリスマスか。今年はどれほどお誘いが入るかな?おまえのおかげでかなり引っ張り出されそうだ。」
「ごめんなさい。サーはお仕事なんですもの。何も私なぞに付き合って下さらなくても…。」
「ふっ…、何を言っているんだ?おまえのエスコートは私の仕事だろう?」

 ゆるやかな笑みを浮かべながらまだ丸みのある頬を右手でするりと撫でると、真っ赤になってうつむくクラウドが何ともいえずに可愛らしい。
 ゆるやかに流れる時間はいつも戦いに身を置いていたセフィロスに取って、味わった事が少ない経験だったが、クラウドと一緒にいるとそのゆるやかな時間すらもあっという間に過ぎてしまう。
 食事を終えてセフィロスはギャルソンにカードを渡すと、恭しくカードを受けとりすぐにチェックを終えてカードと共に領収書を持ってきた。
 深々と会釈するギャルソンからカードを受け取ると店の前に黒服の男がセフィロスを待ち受けていた。
 黒服の男はホテルのスタッフでVIP扱いのセフィロスの為に宛われたコンシェルジュだった。
 クラウドがクロークに預けてあったカバンを持って、コンシェルジュが深々と一礼した。

「お帰りなさいませ、お部屋までご案内いたします。」
 コンシェルジュがVIPルーム専用のエレベーターへと先導し、スペシャルスウィートしかない特別な階へと案内する。
 そのフロアには常に一人ホテルスタッフが24時間体制で詰めていて、ゲストの要求にすぐに答えていた。
 コンシェルジュがその場に詰めていたスタッフに目くばせをすると、立ち上がって何かを操作して深々と一礼した。

 コンシェルジュの前で自動的にドアが開いた。
 扉を開けて一礼すると悠然とセフィロスがクラウドの肩を抱いたまま部屋の中に入った。
 毛足の長いじゅうたん,落ち付いた調度品、いつも暮らしている部屋ほど広くはないが、それでもクラウドが訓練生時代暮らしていた寮が3つは余裕で入りそうだった。

 部屋の説明など一切せずコンシェルジュが一礼して部屋から去ろうするとセフィロスが呼び止めた。

「すまないが、スパークリング・ワインのロゼがあったら持ってきてくれないか?」
「かしこまりました」
 コンシェルジュが再び一礼をして部屋を去っていったのを見届けると、セフィロスがクラウドをゆったりと抱きしめた。

「よくやったな、たった半年で私の隣に並び立てるようになるとは…。」
「セフィ…。うん。ありがとう、セフィのおかげだよ。」
 そう言って微笑むクラウドの唇を奪うようにキスをする、何度も角度を変えて深く口づけていると扉がノックされた。
 クラウドが真っ赤な顔をして離れるとセフィロスが扉を開ける。
 コンシェルジュがスパークリング・ワインのロゼを氷の入ったワインクーラーに入れて運んできた、ワゴンにはフルートグラスのほかにカナッペの皿も一緒に載せられていた。

「カナッペはサービスでございます、コルクはこちらで抜きましょうか?」
「いや、私が抜きたい。祝ってやりたいのだよ。」
「承知致しました、ではごゆっくりとどうぞ。」
 本来ならアルコールは20才になるまで禁止されているのであるが、グリュ−ワインや祝い事の時のワインならば、少量であれば許されていた為、コンシェルジュも何も言わずに一礼をし、セフィロスに抱かれるようにして立っている美少女モデルへ視線を送った。
 職業柄どんなゲスト相手でも顔色を変えなかったコンシェルジュが、美少女を正面に見て言葉を失った。
 流れるようなハニーブロンドに綺麗な青い瞳、ほのかに赤く染まったばら色の頬、英雄の隣に並んで立ってもなんらおかしくない飛びっきりの美少女に一瞬とはいえ目が釘付けになっていた。

 (さすが英雄セフィロスのお相手になるだけの女性だ。)

 そう思いながら美少女に笑みを贈るとコンシェルジュは部屋を去って行った。

 テーブルにセットされたグラスとシャンパンの前にクラウドを座らせ、自分もとなりに座ると、針金をゆるめてゆっくりコルクを抜く。ポンと言う軽い音を立ててコルクが抜けた。
 フルートグラスにひえたシャンパンを注ぐと、やや薄いピンク色の液体に細かな泡が一列、綺麗に立ち上る。
 グラスを一つクラウドに手渡すとじぶんもグラスを持ち上げた。

「おまえの、副隊長昇進とクラスA昇格を祝って。」
「あ、ありがとう…セフィ。」
 軽くグラスを会わせそれぞれが口に含む。
 カナッペをつまみながら二人で一本を飲み干すと、アルコールにあまりなれていないクラウドが、ぽーっとした表情をしている。
 どうやらアルコールが回ってかなり気分が良いようだ。
 そんな顔がとても色っぽいのでセフィロスは思うままにクラウドに口づけをする、クラウドはアルコールのせいで少しからだが温かかった。
 口づけで温かい口の中を蹂躙すると、いつもよりは積極的にキスを受け入れる、そんな様子がセフィロスにはたまらない。
 ブラウスの前あわせを開きながら首元にキスを落すと、頬を朱に染めたクラウドが艶やかな声をあげながら身体をよじった。

「ぁっ…ダ、ダメェ……。」
「ダメと言っても止めないと…、一昨日言っただろ?」
「…う……ふう。お願い……ベッドで……。」

 そう言うとおずおずとセフィロスの首に腕を回し唇を重ねる、そんなクラウドを抱き上げて、セフィロスがベッドルームへと歩いて行った。
 キングサイズのベットにそっとクラウドを横たえゆっくりと身体を重ねていくと、クラウドの細い両腕がセフィロスの首にまとわり付いてすがりつくようにはなれない。

「ん?一体どうしたと言うのだ?」
「だって…セフィ。さっきお祝いだっていってたよね?…だから……、セフィに愛されているって…、体中で感じたい。」

 そんな可愛いおねだりをされてセフィロスが冷静でいられるわけがない、極上の笑みをうかべるとそっとクラウドの唇を塞ぎ耳元でささやいた。

「私を誘うとは悪い子だな。」
 そう言うと自らスーツを脱ぎはじめた、上着を脱ぎネクタイをゆるめて取り去ると、Yシャツを脱ぎ去る。
 鍛えられた筋肉が部屋の明かりに照らされている、その見事な創造美にいつもクラウドは頬を染めて見惚れるのだった。
 やがて一糸纏わぬ姿になったセフィロスはゆっくりとクラウドに覆いかぶさった。

「覚悟しろよ。」

 そういうとクラウドの首筋に唇を這わせると深い溜め息をひとつ吐き出すとセフィロスの頭をゆるやかに抱きしめる。
 わずかに残されていたクラウドの衣服をはぎ取ると、セフィロスはルームライトに照らされたクラウドの白い肌に高ぶる自分を抑え切れずにいた。






 クラウドはその夜、あんな約束をするんじゃなかったと後悔したが、それはもう遅い話しであった。