サウスキャニオンに向かう飛行機のファーストクラスのキャビンの中に、セフィロスはクラウディアとなったクラウドと一緒に、広くてゆったりとしたスーパーシートに身をゆだねていた。
飛行機はすでにサウスキャニオンに到着しようとしていたので、シートを起してベルトを締めていた。
軽いショックと共に飛行機が滑走路にタッチダウンすると、途端にクラウドの顔が真っ青になる。
「まったく、乗物酔いするとは…お前は可愛いな。」
クラウドの金髪をくしゃくしゃとかき回しながら、セフィロスがおでこにキスをするのを、キャビンアテンダントが羨ましげに二人を見つめている。
しかしすぐに真顔に戻ると機内アナウンスをした。
「お待たせいたしました、当機はサウスキャニオンに到着いたしました。」
光を集めたような銀色のロングヘアーに、サングラスに隠されているが魔晄を帯びたアイスブルーの瞳、誰が見ても”自分はソルジャーのセフィロスだ”といわんがばかりの雰囲気は、周りの人の注目をどうしても浴びてしまっていた。
キャビンアテンダントもそれと知っていてセフィロスに話しかけた。
「サー・セフィロス。ご存じとは思いますが、サウスキャニオンは銃刀法が非情に厳しいのです。決して刀などを持ち込まないようにお願いいたします。」
「プライベートだ、安心しろ。正宗は置いてきた。だいたいサウスキャニオンでクラウディアを守るぐらい、素手でも大丈夫だ。」
「大変失礼いたしました、ではよいご旅行を」
キャビンアテンダントがハッチを開けて一礼すると、すでに空港へと通路ができていた。
ハッチの反対側に政府の高官であろうか?濃紺のスーツを着たビジネスマン風の男が出迎えに来ていた。
「サー・セフィロス。ようこそ、サウスキャニオンへ。私は当市の観光課に所属しておりますニックと申します。」
「観光課など必要ない。もめ事を起こすつもりもない。クラウディアとゆっくりさせてくれ。」
「ですが……。」
「煩い!ただゆっくりと過ごす為に来ただけだ!しばらくシェフォードホテルのシーサイドコテージに泊まる。まったくミッドガルならまだしも観光地に来て接待などされたくない!」
不機嫌この上ない顔でクラウドの腰を抱いたまま、ニックを置いてさっさと空港の入関に入る。
荷物検査、身体検査を受けて、何も危険物を持っていないことを証明されると、やっと入国する事を許された。
しかし街の社交界が神羅の英雄と呼ばれているソルジャーのセフィロスと、世界の妖精と呼ばれている美少女モデルのクラウディアを招かない理由がない!
シェフォードホテルに投宿している事は、すでに社交界の連中の耳にも届いているであろう。
それはセフィロスが狙っていた状況であったが、クラウドは不平不満だらけであった。
ホテルにチェックインすると、すでに何件かメッセージが入っていた。すべてパーティーのお誘いで、投宿予定期間中ほぼ毎日の様に入っていた。
「もう、二人っきりだって思っていたのに。何処にいってもサーって人気あるんですのね。」
メッセージの多さにクラウドの言葉が思いっきり険を含んでいた。
ホテルマンに先導されてシーサイドコテージに移動しようとすると、電動のカートがぴたりと目の前に止まった。
その運転のくせにどこかで見覚えがあったクラウドは、運転者の顔を見ると思わず声をあげたくなったのを必死で押さえた。
すでにジョニーがホテルスタッフの制服を着て目の前の電動カートを動かしている。
セフィロスもすぐに解ったのであろう、にやりと一瞬口元をゆるめた。
「そういえば、おまえのお気に入りの食器を届けさせておいたぞ。」
「たった2週間の為に?」
「言ったであろう?お前の為なら世界すら手に入れる、と。」
耳元で腰が砕けそうな甘い声で囁かれるとクラウドが顔を真っ赤にさせた。そんな様子も初々しいと喉元で”ククッ”と笑うとクラウドの額に唇を寄せる。
コテージに入るとジョニーが慣れた手付きで部屋の案内をしがてら、既に持ち込んでいたシェフォードホテルのマーク入りのケースをテーブルに置いた。
「カードキーの説明はいいですね、2枚ありますが、万が一無くされても再発行が可能ですから安心して下さい。そしてこれがご注文の品です。」
テーブルのケースを開けると、銀食器にまぎれてナイフとは形状の違う、棒のような銀色の棒が2本入っていた。
クラウドが持ち上げようとすると思ったよりずっしりしていたので取り落としそうになった。
「重たい。」
「ミニマムでサイズこそ縮めてはいるが、重さは変わらないからな。で、ジョニー。その後なにかつかめたか?」
「いえ、自分達も3時間前に到着したばかりですから、まだ何もつかめてはいません。」
「この街の名士で私が行けるような店の主人はいない物か?」
「この街の産業の一つである宝飾業界ならば、隊長殿が姫を連れて行ってもなにもおかしくないと思います。トップクラスの宝石商ならば後でお連れします。」
「なんだか、楽しんでいない?」
「クックック…否定はせぬ。」
ジョニーがなにげない仕草で部屋のあちこちを調べていると、扉をノックする音が聞こえた。二つ叩いて少し感覚を開け3つ叩く、それはあらかじめ決められていた隊員同士の合図だった。
「ブロウディーか?ユーリか。」
「ブロウディーです。隊長殿、ユーリと共に周囲を確認しましたが、今のところ怪しい動きは見つかりませんでした。」
「ご苦労、とりあえず街に出て見るか。クラウド、拗ねていないで行くぞ。」
「行ってらっしゃいませ。」
ホテルマンらしい深いおじぎをするジョニーを見てブロウディーが呆れていた。
「俺もそれやらないとダメ?」
「当たり前だ、ホテルマンに化けているならそれらしく振る舞え。」
「行ってらっしゃいませ、お帰りを御待ちしております。」
ブロウディーが深いおじぎをするのを見ながら、クラウドはセフィロスの腕をとって、部屋の外に歩き出していた。
あらかじめ調べてあった地図では、このホテルを出て南に行くと中央通りに出る。その通りを左右に横切っているのが商業エリアであった。
ショッピングモールをセフィロスがクラウドの腰を抱いてゆっくりと歩いていると、目の前に大きな宝石店が軒を並べていた。
店に飾ってあるのは珊瑚や真珠が多かったが、一番多いのはダイヤモンドであった。
その中でも一番ダイヤの品揃えがよさそうな店のウィンドウをのぞくと、カナリア・イエローの大きなダイヤが飾られた王冠がディスプレイされていた。
ウィンドウをのぞいてセフィロスがつぶやいた。
「ここだな、さっきジョニーが言っていた宝石商は。」
「え?どうしてそんなことがわかるの?」
「普通ダイヤモンドは透明な物の方が高価ではあるが、色がはっきりと出ている物はかえって希少性があるのだ。あれはティファニー・イエローと呼ばれている、イエローダイヤでも最も高価なダイヤだ。そんなものがあのサイズで置いてあると言うことは、この街一番の宝石商ではないのかな?」
「なるほど…理にはかなっているけどちょっと待って、今自己暗示かけるから。」
クラウドがウィンドウに写る自分の顔をじっと見てすっと瞳を閉じる。そして振り返った顔は紛れもなく世界の妖精と呼ばれているクラウディアの笑顔だった。
「では、入りましょうか?」
セフィロスが左腕を軽く曲げるとクラウドがそっとその腕に自分の腕を絡め、少し照れたような顔で見あげた。
満足げな顔でセフィロスがうなずくと、アンダーソン商会と書かれている店の扉を押し開けた。
「いらっしゃいませ。」
店員が最敬礼で出迎えておじぎから直って入ってきた客を見て表情を変え、あわててバックヤードに戻り店主らしき人物を呼んで来たらしい。
店の奥から仕立ての良いスーツを着こなした、初老の紳士が優しげな笑顔でやってきた。
「ようこそ、サー・セフィロス。本日は何をご所望ですか?」
「ティファニーイエローのペンダントは無いかな?」
「はい、ございます。二階になりますので、どうかこちらへ。」
そう言うと丁寧な仕草で店の2Fに上がる階段へと案内する。
どうやらこの店には1Fの普通のフロアのほかに、2Fに高額商品用のフロアがある様だった。
2Fにあるスペースは落ち付いた雰囲気の内装で、並べられている商品は少なかった。
しかし、その金額はクラウドの給料の何倍であるか…。とにかくクラウドの常識では買えるような金額ではなかった。
セフィロスとクラウドが宝石商に接触していた頃、サウスキャニオンに近い海岸から少し入った小さなスペースで、ザックス初め第13独立小隊の隊員達がキャンプを張っていた。
そこにユーリとブロウディーが接触をしようとしていた。
「リック、ザックス、入るぞ。」
「お、ユーリか。そっちはどうだった?」
「まだ何も無いが、少し話したい事がある。」
そう言ってユーリがサウスキャニオンのホテルの周辺や街の雑踏で聞いた会話をかいつまんで話しはじめた。
「社交界が動いていないのは、ただ単にまもなくハロウィンだからじゃないかと思うんだ。実際ショップに行くとお金持ちが色々とアイテムを揃えていた。」
「それで?」
「俺もハロウィングッズを探すふりをして店に入ったんだけど、不穏な空気どころかいたって平穏。マジで天国のような街だぜ。」
「ユーリ、おまえマジでこれがミッションだと思ってんの?」
ザックスの言葉にいらだちの様な物が含まれている、それを敏感に感じ取ったリックが訪ねた。
「ザックス、何怒っているんだよ。」
「あの俺様英雄。クラウドと婚前旅行に来たくて、ミッションを起したんだろう。」
「ザックス、ちょっと間違っているぞ。」
「あん?絶対間違っていないはずだぞ、カイル。」
「まあ、ミッションを起したのが隊長と言うのは多分間違いないだろうな。」
リックの言葉にザックスが問いかけた。
「え?じゃあ…何が間違っているんだよ。」
「お前らが知らないだけで、すでに隊長殿と姫は正式な夫婦だ。」
「ふん、やっぱりな。この前のクラスSでのミッションがそれだろ?ったく、俺に内緒で結婚しちまいやがって。しかし、何も無い所に、セフィロスが堂々と乗り込む事はない。万が一の事は考えてクラウドだけを守ってくれ。」
「了解!」
ユーリがザックスの言葉を了承した時、今度は逆にカイルがザックスにたずねた。
「ザックス、なぜそこで”姫だけ”なんだ?」
「おまえなぁ、あの世界で一番強い男が一番恐いのはどう言う時だ?クラウド絡みの時だけだろうが、ならばあいつが安全なら全員無事だろう?」
「ザックス、そこまでわかっていればリーダー合格だな。ユーリ、そう言う訳で俺達は事が起こるまでのんびりしているから、何かあったら連絡してくれ。」
影の隊長と呼ばれている男がのんきにしている姿からしても、あまり過酷なミッションにはならないであろうと思っていたユーリだった。
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