FF ニ次小説

 店主に巧く取り入ったザックスが明後日にはミッドガルに帰る事を告げると、ミッドガルにいる知人に持って行ってほしいと、あまり大きくない箱を手渡された。
 やたら軽い箱を受け取り渡す相手を確認すると、ザックスは先程のブレスレットをほぼ半額で入手することができた。

 (はは〜〜ん、この箱の中身が『危ないモノ』って事か。)

 証拠物件になるかもしれない箱を両手で抱えて満面の笑顔で店をでると、スキップするかのような足取りでウィンドウモールを歩いて行った。
 窓に写り込む姿を見て尾行者がいる事を悟ったザックスが、なんとか尾行者を巻いてシェフォードホテルのコテージに入ると、セフィロスとクラウドがすでに戻っていたので、店主から受け取った箱を手渡しながら状況を話した。

「この箱を手渡す約束をしたら500ギルのブレスレットが半額だ、絶対怪しいとおもうんだが?」
「渡す相手はわかっているのか?」
「明日の17:40サウスキャニオン発ミッドガルエアライン302便があって、それに乗るとミッドガルの空港のゲート出口でこの男が待っていると言われた。」

 ザックスから一枚の顔写真を受け取りちらりと見ると、セフィロスはにやりと笑った。

「良くやったな、麻薬のバイヤーだ。おまえはその飛行機で一足先に帰れ。カンパニーにはあらかじめ報告しておくから、あとは向こうの連中に任せるんだな。」
「あっちのバイヤーはそれで何とかなるだろうが、こっちの”タヌキ”はどうする気だ?」
「実質明日の深夜が期限か、少々難しいが何とかする。まったく、本来なら警察の仕事なのだが、クラスSでも問題になっていたからな。」
「セフィロス、あんたハニィムーンに社費で来ただけじゃなかったのかよ?」
「クックック…それで社費が落ちるのであれば苦労はせぬ。」
「……だな。一応民間企業だ、どこかの公務員の様にはいかないか。」

 ザックスとセフィロスの会話を聞いて、クラウドは初めてこのミッションが意味のあるものに思えた。要するにカンパニーの治安維持部でも、その麻薬に手を出す隊員がいると言う事であろう。
 それを探り元から根絶するならば立派な任務であると思う。
 クラウドもやっと任務をこなしている気になってきていた。

 ザックスは残っていた隊員に報告してからジョニーと接触する。ジョニーから状況を確認すると、隊員から自分の荷物を受け取り安いホテルに移った。


 そして時間はあっという間に経過してパーティーの時間となった。
 スーツ姿のセフィロスとロイヤルブルーのワンピース姿のクラウドをホテルのスタッフに扮したリックが迎えに来る。
 さり気なくリックにザックスの行動を伝えると、一瞬びっくりしたような顔をしたが、にやりと笑うと冷静にセフィロスとクラウドを案内しながら答えた。

「馬鹿猿って言うのはどこまで正しい評価なのでしょうか?」
「さあな、しかし1年も私の元にいて成長が無い訳ではなかったようだ。」
「見下さないように気をつけます。」

 リックの運転する電動カートがホテルの本館に横づけすると、さっとドアマンが来て扉を開ける。
 セフィロスがさっそうと現れると、クラウディアを優雅な仕草でエスコートする。その姿はあまりにも似合っていて見惚れるばかりであった。
 リックがぼ〜っと突っ立っているドアマンに苦笑をしながら、カートを駐車スペースへと滑り込ませて、あわててバックヤードへと駆込みパーティー会場へと入る。
 すでにジョニーが色々と動き回っているのでリックが思わず笑ってしまう。

「ジョニー、俺の担当は?」
「バーテンダー出来るか?」
「酒なら一通り作れる。」
「なら黒服来てそこのバー・カウンターにいてくれ。」
「アイ・サー」

 ジョニーに言われた通りに黒服を着て、バーカウンターに入って見ると会場全体を見渡せる。その位置取りに満足しつつ用意されたグラスやシェイカー、酒の場所を確認した。
 やがてパーティーが始まり、リックの目の前できらびやかな世界が広がった。
 その中央でセフィロスとクラウドが並んでいる姿は一枚の絵画であり、仲睦まじい姿は以前の感情を表に出さない氷の英雄だった頃を知るリックにはあまりにも違う人物にしかみえなかった。

 二人に接触するゲストに注意しながらカウンターに来た客にカクテルを作っていると、目の前にセフィロスとクラウドがやってきた。
 何も注文していないというのに、ドライマティーニとカシスソーダがすっと目の前に出てきたので、セフィロスがちらりとバーテンダーを見た。にやりと笑うと、さも聞こえるような会話をした。

「クラウディア、どうする?明日はゴールド商会のMrオルドマンがお昼をご一緒したいと言っていたぞ。」
「お昼はムリですわ、エリカ様に先にお誘いいただいてます。でもお屋敷に綺麗な薔薇があるっていうから…」
「おまえは薔薇が好きだな。では午後からのお茶の時間にお邪魔するか?」
「ええ、それでしたら。」

 セフィロスとクラウドの会話を聞いてどうやら”例の麻薬の売買グループの片割れ”である人物に、明日の午後接触するとリックは判断した。
 その夜のパーティーはごく普通にお開きになった。

 翌日、モーニングを食べながらセフィロスがジョニーと打ち合わせをしていると、ユーリがザックスの情報を持ってきた。
 ザックスの話しによると、ゴールド商会のオルドマンが昨日の箱の中身を確認し、なにも手つかずでテーブルの上に置いてあったので安堵したような顔をしたらしい。
 しかもザックスが宿泊しているホテルが、若者向けのカジュアルホテルだったのも、ザックスを疑わずにすんだらしい。満面の笑顔で帰って行ったと言う。
 食事を終えたクラウドが女装をしてメイクアップをすませると、ローファーの靴を履いて鏡の前で全身をチェックしていた。
 誰が見てもそれはモデルのクラウディアの行動であったため、見ていたリックとセフィロスが思わず苦笑した。

「姫、だんだんとモデルのクラウディアも板に付いてきたな。」
「むう〜〜〜。リック、嫌いだぁ。」

 拗ねるクラウドの肩を抱いてセフィロスはコテージを後にした。

 ショッピングモールに出ると時間を確認する、約束の10分前であった。
 直接Mrアンダーソンの自宅を尋ねると婦人が笑顔で迎えてくれた、婦人とクラウドは料理好きという接点で繋がってしまったらしい。
 今日も一緒にキッチンに立って婦人に手料理を習っている。
 婦人はニコニコとまるで娘に教えるように、昨日とは違う料理を教えていた。
 その後ろ姿をセフィロスはゆるやかな笑顔で見つめていた。
 婦人とクラウドが作った手料理を堪能し、丁寧な礼を言ってオルドマンの家に行くと、花の好きな少年が庭に植えられたバラに青い瞳を輝かせた。

「うわぁ……スカーレット、レディ・ローズ、ミスティールにブルーサファイヤまで……すごぉい。」

 青い目をきらきらさせて薔薇に見入るクラウディアの様子をオルドマンが悦に入ったような顔をして見ている。
 咲き誇る薔薇の中にあってもクラウドの笑顔は眩しいばかりで、その笑顔を独り占め出来ない事に舌打ちをしながらも、セフィロスはバラに見入る恋人を見つめていた。

 やがてお茶の時間になると3段のシルバートレイに入っているスコーンや一口ケーキ、サンドウィッチがティーポットと共に出てきた。
 ティーポットの中には香の良いローズティーが入っていて、口の中に広がる薔薇の香を楽しんでいた。
 しばらくするとオルドマンからパーティーの誘いが入った。
 迷惑そうな顔をしつつ渋々了承すると、オルドマンの顔に安堵の色と共になにか”裏”がありそうな笑みが現れていた。
 支度があると一旦オルドマン家を出てコテージに戻り周りの安全を確認すると、クラウドが思いっきり悪態をつきはじめた。

「あ〜〜〜もう!!虫酸が走る!!あのオヤジ俺の事をじろじろと見て!!」

 エクステンションを付け、フリルのブラウスとフレアスカートと言うお嬢様スタイルで悪態をつくクラウドに、部屋にいたブロウディーが苦笑するが、一通り悪態をつき終わると清々したような顔をして再びモデルの顔に戻る。
 そしてパーティーにふさわしいドレスをバッグから引っ張り出した。
 やがて時間が来てジョニーがカートで迎えに来た時には、にこやかな笑みを浮かべた美少女モデルに成り切っていた。

 パーティーはオルドマンの自宅で行われ、どうやら参加者は主催者の知り合いばかりのようであったので、セフィロスとクラウドの存在はどうしても浮いていた。
 あちこちのゲストから声をかけられ握手攻めに合いクラウドはいささかげんなりした。
 それでも顔に出さない当たりはさすが”ミッション中”というお約束の為だったようだ。しばらくフロアを漂うようにあるいては挨拶を繰り返していた二人だが、20時30分を過ぎた頃クラウドが化粧を治すと言ってフロアから退出した。

 クラウドがパウダールームに入ると人の気配を探る。
 どうやら無人のようだ、安心してドレスをすっぽりと脱ぐと白いレオタード姿になる。
 道具を入れたポシェットを腰に嵌めるとドレスは丸めて掃除道具入れに隠し、トイレのふたを締めて上にのり換気口をこじ開けその中へと入り込んだ。

 クラウドだから出来る潜入方法である。排気口を伝わってあちこち部屋をめぐり歩くと、不思議な装飾をした誰も居ない部屋へと行き当たった。
 あらかじめセフィロスと話し合って、この家のどこかに麻薬の取り引き場所があると踏んだ二人は、クラウドが不可思議な部屋を探り出す事を目的にパーティーに参加したのだった。
 ポシェットに入れてあったプラスチック爆弾をあちこちに隠して、クラウドは換気口から垂らしたロープをつたってまた戻ると来た道を戻った。
 トイレの扉を少し開けて人の有無を確認する。

 人がいない事がわかると扉を開けてパウダールームに戻り、掃除道具入れに隠してあったドレスを身にまとうと、鏡で自分が汚れていないか確認する。
 バッグの中から口紅を取り出して引きなおした。口紅の色が綺麗な赤にかわる、セフィロスと約束した準備終了の合図だった。

 ゆったりとした歩調でフロアに戻るとセフィロスが高官のご夫人達に取り囲まれていた。クラウドがすねたような目でセフィロスを見ていると背の高い爽やかそうな青年が近寄って来た。

「どうされましたか?LADY Cloudea。」
 一人に声をかけられたら急にクラウドのまわりが独身の男共で埋めつくされた。
 クラウドが困り果てていた時に、セフィロスから声がかかった。
「遅かったじゃないか、MY SWEET ANGEL。私を置いて何処かに行ってしまったと思ったじゃないか。」
「セフィ。」
 クラウドがセフィロスに天使の微笑みを向けるとまわりを囲んでいた男共から言葉にならないため息がもれた。
 セフィロスがクラウドの唇の色に気がつく。
「そうやって唇とがらせていると、まるで誘っているようだな。」
 そう言ってセフィロスはクラウドの唇に口づけをした後、Mrオルドマンが近づいて来たのを見て取ると、そのままの姿勢で耳打ちした。

「来るぞ」
「ええ。」
 オルドマンの後ろには屈強な男共が壁を作っていた。
 周囲の雰囲気が邪悪な物へと変わっていた。
 セフィロスがクラウドを背中に庇うと後ろから近づいてきた男に腕を取られたようであった。
「キャア!!」
「おとなしく従わないと女の命は保証しないぜ。」
 セフィロスは何も言わずに両手を上げた。