クラウド達がミッドガルの警らにいっている頃、特務隊の執務室ではたまりまくった書類を前に、ザックスがげんなりした顔でパソコンに向かっていた。
「へ〜〜〜っくしょい!!」
「ザックス、風邪でも引いたのか?」
「カイル知らないのか?馬鹿は風邪引かないんだぞ。」
「え?今年の風邪は馬鹿が引くんじゃないのか?」
「ともかく鍛えた俺達ならまだしも、姫の前でへんなバイキンまきちらすなよ。」
「うううう……、おまえら〜〜〜!!!」
特務隊の一般兵とソルジャーの関係などあってなきが如しである。
リックが5年、カイルは4年、ジョニーとユーリはすでに3年の所属暦があるのに、ザックスはまだ1年しか所属していなかった。
組み手をやっても1stソルジャーのトップを張るザックスが、3回に一回は負けてしまうほどの実力を持っているのが、特務隊の一般兵なのである。この隊だけはいくら階級が上でも実力がものを言う世界だった。
思わずザックスが嘆いてしまう。
「ううう……、クラウド〜〜〜戻ってきてくれ〜〜」
「ダ〜メ!副隊長殿はただいまミッドガルの警ら中。しっかりクラスAの仕事をこなしています。」
「俺の部下を返せ〜〜!!」
「わめいてもダメ。姫は強い人と戦うと吸収するかのように強くなる。ザックスのように書類を溜める事もないし、そう言う意味では良い上司だぜ。」
「うううう…、ほんの4ヶ月前までは俺の仕事をせっせと手伝っていくれてた、すんごい可愛い子ちゃんだったのに、あっつ〜間にどっか飛んでいっちまって。それもこれもどこかの旦那が悪い。手取り足取り余計な事まで教えるから、あ〜んなに強い嫁になっちまって、お兄ちゃんは悲しいよォ〜〜!!」
途端に何処からか分厚い本が飛んできた。執務室の窓際で隊員から上がってきた書類を整理していたセフィロスが、手近にあった文献をザックスめがけて投げたのであった。
本はザックスの頭を直撃してカイルの腕の中に落ちる。
「隊長、ナイスコントロール!」
ザックスは本が当たった頭を撫でながら、セフィロスに食ってかかった。
「セフィロスー−!!俺の脳味噌がアホになったらどうしてくれるんだよ!?」
「ほぉ、山猿にも脳味噌があったか?あるのならば、とうの昔にランクアップしてここを卒業しているはずだな。どうだ?今のショックで接続がよくなったのではないかね?」
「ったく〜〜!!俺がここに居なきゃ誰がクラウドを守るんだよ!」
「お前に守られなくともクラウドは一人で闘って行ける男だ。」
「誰がモンスターやテロリストと言った?!あんた相手に守るんだよ!!」
ザックスの言葉にリックが肩をすぼめて諦めたような表情をすると、カイルも溜め息をついていた、ジョニーも呆れたような顔をしている。
「可愛い恋人がいると言うのにまだああいう事言ってるよ。」
「あそこまで行くと病気だね。」
「馬鹿につける薬はないって。」
「ザックスも事務処理能力と真面目に訓練通っていれば、今ごろクラスBぐらい行っているだろうに。」
「俺はここに居たいからわざとやってるの!!」
「ここに居たいんなら、さっさとクラスAあたりまでランクアップして、クラウドから副隊長の座を奪えばいいじゃないか。」
「あのなあリック。バハムートとナイツ・オブ・ラウンドに守られている姫君相手に、そこらへんのソルジャーが束になっても勝てるわけねえだろ!!」
「おまけに姫のそばには隊長がいるから嫌でも世界最強だろうな。」
隊員達が思わず溜め息をついた。
ちょうどその頃、ミッドガルの裏筋でクラウドが思わずくしゃみをしていた。
「クシュン!」
「おやおや、可愛いくしゃみだこと。どうした?」
「わからないよ。でも、俺の母さんこういう時って『1に誉められ,2にそしられ,3に見初められて,4に夜風を引く。』って言ってたなぁ。」
「じゃあ、だれかに誉められているんだな。」
「うん、そうだといいね!」
クラウドはエドワードと顔を見合わせるとにこりと笑った。
警ら時間はゆっくりと過ぎて行き、やがて交代時間となった。
集合場所に集まると、全員何事もなく揃っていた。交代要員がトラックに乗ってやってきた、降りると同時に並んでいた隊員達が乗り込む。
バージルとブライアンが正面を向いて敬礼していた。
「第一隊警ら中、異常なし。」
「ご苦労様でした、第ニ隊ただいまより警らに入ります。」
敬礼からなおるとブライアンがトラックに乗り込む。バージルはクラスAの三分の一を前にして立って何か言っていた。
トラックが走り出すと10分ほどでカンパニーへと到着した。
駐車場で整列しブライアンが解散を告げると各自、自分の執務室へと走っていった。
クラウドが特務隊の執務室に戻ると執務室の中はかなり荒れていた。
「なに?嵐でもきたの?」
「ザックスと隊長のいつもの運動。」
「原因はお前。」
「はぁ、また?仕方がないなぁ。」
クラウドが片っ端から落ちている物を片づけはじめた、そこへザックスがあわてて走り込んできた。
「おう、クラウドおかえり〜〜!!」
そう言うとクラウドを盾にしてセフィロスと対峙する、クラウドは溜め息をついた。
「ザックス、2週間前のミッションの報告書提出期限だ。それと先月のミッションの報告書間違っているから訂正。あと領収書の書き方ぐらい、いいかげん覚えてくれ。」
「うわぁぁ〜〜!!クラウド〜〜!!お前までそう言うことを言うか〜〜!?」
「ザックスはそう言う事が無ければとうの昔にクラスBに入ってると思う。何時でも一個中隊を率いることができる男だよ、力でなくザックスの優しさみたいな物で隊員達を守れると思う。何時までも特務隊に居ないで一回は外を経験したら?それから副隊長として戻ってきても遅くはないんじゃない?」
「うわ〜〜〜!!!一番新入りのお前がそう言うことを言う?!」
ザックスの反応に隊員達が笑いながら集まってきた。
「俺も姫と同じ考えだな、一度外で鍛えなおしてもらった方が絶対にいいぜ。」
「でも、そうしたら姫は何処に行っちゃうんだ?俺は姫がどこかに移動するなら一緒についていくけどさ。」
「うわぁ!!特務隊の影の隊長と呼ばれているリックが抜けたら、誰が要になるんだよ?!」
「カイルがいるだろ?」
「冗談!俺も姫についていくぜ。」
それまで黙って隊員達の会話を聞いていたセフィロスがおもむろに口を開いた。
「ザックスを外に出すのは賛成だが、クラウドは何処にもやるつもりはない。なぜなら私が動けなくなるからだ。」
「そりゃそーでしょうよ。今でさえクラウドが単独でクラスAの仕事をしに行くと、一人で闘える男だと言っておきながら、心配で心配でイライラしちゃって落ち付かないったら無い。これで違う隊の副官なんてやろう物ならクラウドが遠征行っている間中、あんたが使い物にならないって事じゃねェかよ。」
ザックスの爆弾発言にリックが思わず拍手をしていた、カイルも感心したような顔で聞いている。
「リック、死ぬまで付き合う事になりそうだな。」
「ああ。」
ザックスはリックとカイルが少し羨ましかった。
自分だってセフィロスとクラウドと一緒にいたい、だからってランクアップをしないでいるわけにもいかない。
「駆けあがって見るか、クラスAあたりまで。」
「やっとその気になったか?いつでも戻ってこい。でも副隊長は姫だからな。」
「隊長と副隊長が並ぶと白黒金銀でめでたくていいだろー」
「めでたいっつーか、おひなさまっていうウータイの行事の人形みたいだぜ。」
「そんなこと言って…隊長、追い出しにかかりましょうか?」
「よろこんで追い出してやろう。」
「とりあえずたまった書類の提出!!」
クラウドがザックスをデスクに追いやると、隣に立っててきぱきと書類の処理を始める、ザックスはヒーヒー言いながら書類に追われていた。
「結構いい上司じゃない?」
「ザックスではないが、可愛い部下だったんだけど、本当あっという間だったな。」
「基礎値が違い過ぎるんだよ。訓練所を卒業した時のデーターで並のソルジャークラス3rdはあったんだ。特務隊で実戦経験すればあっという間に力が付いてくるのは目に見えていたよ。」
「へ?俺ってそんなに基礎値あったの?」
「知らぬは本人ばかりなり。(笑)」
ザックスは2枚目の報告書に取り掛かりつつ、そんな仲間のやりとりを聞いていた。そして自分がこの場に入れなくなることなど考えられなくなっていたので、思わずセフィロスに聞いた。
「なぁ、セフィロス。俺やっぱり外に行きたくないよ。」
「わからんでもないが、一度外を経験して見るのもいいぞ。」
「俺、この雰囲気が好きだから。」
「ならばクラウドと同じ手を使うんだな。一気にクラスAのトップまで上がれば、外に行く事はない。」
「と、言うことでよろしくな。クラウド。」
ザックスは隣に立つクラウドにウィンクを送った。
「いいよ、遠慮無くメガフレアの標的にしてあげるね。」
にっこり笑って恐いことを言うクラウドに、ザックスは思わずめまいを起こしそうになっていた。
翌日からザックスはクラウドに組み手と剣術の相手をしてもらっていた。
いつのまにか自分よりはるかに強くなった弟分に舌打ちしながら、ザックスは必死でクラウドに食い下がっていた。
そこにクラスAソルジャーのパーシーがやってきた。
「あん?姫、ザックス相手に何やってんの?」
「ザックスがね、やっとクラスアップする気になったんだ。あ、パーシーも一緒にやらない?」
「お〜〜!!いいねえ。ザックスとは一戦交えて見たかったんだ。」
クラウドがパーシーと入れ代わると、ザックスが半ばやけくそでクラスAソルジャーにかかっていった。
激しい組み手に徐々にギャラリーが増えていく、その騒ぎにトリスタンが顔をのぞかせた。
クラウドのそばに近寄るとトリスタンがたずねた。
「姫、何をやってみえるんですか?」
「ああ、サー・トリスタン良い所へ。ザックスを教育していただけませんか?」
「ザックスの上司である姫君の許可があるのでしたら、遠慮無くさせていただきますよ。」
「うわ〜〜!!クラウド!俺を殺す気か?!」
「コレぐらいで根を上げてもらっちゃ困るんだけど。俺なんてクラスAソルジャー3人と組み手だよ、ザックスにはせめてクラスA2人相手の組み手に勝ってほしいんだけど。」
「メチャクチャ言うな〜〜!!」
そう言いながらザックスはトリスタン相手に組み手を始めていた。
トリスタンが笑いながらザックスに回し蹴りを放つのをクラウドは視野の片隅で見ていた。
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