FF ニ次小説
 セフィロスはリックの言う通り血液検査室にいるソルジャー達の前に姿を現した。
 突然のセフィロスの訪問にソルジャー達がざわめく。
 セフィロスは全員を見渡せる位置に立つとゆっくりと正面を向いた。
「我が下士官の為に血液を提供していただき、感謝する。」
 そういうと深々と一礼をした。
 あわてたのは当の血液提供者達だ。
「サ、サー・セフィロス、頭を上げて下さい。我々は自分の意志で、ストライフ准尉を助けたいと思っております。サーに感謝されるような覚えはありません。」
 その場にいたソルジャー達がうなずいた。
 それでもセフィロスはもう一礼してその場を後にした。

 英雄と呼ばれている男の行動には思えなかったのか、その場にいたソルジャーが一緒にいた白ロングの男を捕まえて訪ねた。
「なあ、ストライフ准尉ってそんなに凄いヤツなのか?」
「ん?あいつは俺達クラスAとナイツ・オブ・ラウンド達の憧れの姫君だぜ。」
「意味がわからん。」
「凄い可愛い子ちゃんで美人で女みたいだけど、メチャクチャ強い男。」
 クラスAソルジャーの返事に、その場にいたソルジャー達が思わず笑った。
 しかしそれだけで自分達がクラウドを助た事が良かったと皆思っていた。

 セフィロスがICUに戻ってくると、そこにはランスロットとパーシヴァルがいた。
 リックとザックスが二人と何か話している。
「キング…」
「ご苦労様でした。」
 二人の士官はセフィロスが何をやってきたのか瞬時にわかったようであった、さすが隊長を勤めるだけの士官である。
 セフィロスが無言で二人に向かい合った。
「ランスロット。」
「わかっております。お望みのままに。」
「ほら、ザックス。ICUってのはむさくるしい男がたむろする場所じゃない。さっさと出るぞ。」
「え?!だって…」
「だってもあさってもあるか、姫はキングがいればいい。お前は報告書!!」
 そう言うとランスロットとパーシヴァルはザックスをがっちりと連行する、リックは黙ってセフィロスに一礼すると3人の後をついて行った。

 セフィロスは苦笑するとICUの中をもう一度見る、看護士が血液のパックを交換していた。
 看護士の様子が変わった、急に顔を上げて前にいるセフィロスを見た。
 セフィロスはまわりを確認して中に入った。
「覚せいが始まってます、もう大丈夫でしょう。」
「ありがとうございました。」
 看護士が信じられない顔をした。

 神羅の英雄と呼ばれる男の感謝の言葉など、聞けるとは思っていなかったのである。
 看護士が一礼するとその場を後にした。
 ふと視線を下げるとクラウドのまぶたがぴくぴくと動いている。
 どうやら看護士の言っていた覚せいは間近のようであった。

 そっと点滴コードが刺されている腕を取り、口元に持っていくと、クラウドのまぶたがゆっくりと揺れて開いていった。

 クラウドの瞳がぼんやりと一人の男を見つめていた。
 意識がはっきりすると同時に、自分の視界の中に心配そうな顔でこちらを見ている男が居た。
「……セ……フィ……。」
「頼むから自分を粗末にするな。お前に何かあったら、私はどうすればいいのだ!!」
「…セ…フィ……守って……死ぬ……な…ら……いい。」
「ダメだ、私はお前を失ったら悲しみでこの星を破壊しつくしてしまう。」
「……し…ね…ない……ね。」
「死なせはしない…。お前を、お前だけを愛している。」
 クラウドは初めて聞くセフィロスの告白にふわりと微笑むと、再びまぶたを閉じ、やがて安らかな寝息をたて始めた。
 そんなクラウドの髪を撫でながら、密かにセフィロスはある決心をしていた。


* * *



 クラウドはソルジャー達の献血のおかげで2日で退院出来た。
 その翌日からクラスAの闘技場へと顔を出して、訓練中の仲間から声をかけられた。
「クラウド。もういいのか?」
「あ、はい。ご迷惑かけました。それで、ザックスは?」
「ああ、この2日はリックとやり会ってるらしい、非常につまらん。」
「つまらないって、いい事だね。」
「クラウド、復帰第一戦のお相手のご指名は?」
「ん〜〜、俺もリックかカイルに相手してもらおうかな。」
「そんな〜〜、姫〜〜!!こんなに愛してるのにつれないねぇ。」
 ブライアンが情けない声を出すとまわりの連中が明るく笑う。クラウドがいきなり冷たい目をブライアンに向ける。

「そ〜〜んなに俺に負けたい訳?」
「病み上がりに負けるつもりはない。」
 そう言うとあうんの呼吸で組み手が始まった。
 ブライアンのストレートを余裕で交わし身体をひねると回し蹴りを放つ。
「え?!」

 クラウドは自分の体が自分の物でない感覚に堕ちいっていた。
 いつものように身体を回したつもりが、いつもよりはるかに切れが良かった。一撃でブライアンがふっ飛んだ。

 クラウドはびっくりして自分の体を思わず眺めていた。
 ブライアンが立ち上がる。

「クラウド、お前この間出血多量で輸血しただろ?」
「ああ」
「俺達ソルジャーの血がお前の中に流れているんだ。きっとそれが何か作用して、お前の反応を早くしたんだろうな。血だけでこれだ。ソルジャーとしての手術を受けると、きっとお前はSクラスでも束にならないと勝てないほど強くなるぞ。」
 ブライアンの言葉にクラウドがびっくりする。
 ランディも同じようにうなずいていた。

「お前ならサー・セフィロスと同じぐらいのソルジャーになれるだろうね。」

 クラウドがはにかんだような笑顔を見せると、その場にいたクラスAソルジャーからため息が漏れる。
 ブライアンが冗談半分で口説きにかかった。
「クラウド、そんな顔すると食っちまうぞ。」
 クラウドは急に鋭い目に戻るとブライアンを睨みつけた。
「一人で押し倒せるもんならやって見な、その代わり骨の1、2本は覚悟するんだね。」
「うひゃ!!恐い恐いコレだからウチのお姫様は。」
「だ〜か〜ら!!何でお前らは自分より強い男をそう呼ぶのだ?!」
「いや〜〜、サー・セフィロスに抱かれたお前はどう見てもお姫様だったよ。」
「第一、キングと呼ばれるサー・セフィロスの隣に立つお前を、姫以外に何て呼べばいいんだ?姫が嫌ならクイーンしか無い。」

 ランディがクラウドにウィンクを送るが、クラウドは頭を抱えていた。

「だ・か・ら!何で女なの?!」
「お前が女顔だからだよ。」

 ランディの答えにその場にいたクラスAソルジャーが爆笑した。


 翌日、久しぶりに下級兵用の訓練所へとクラウドは足を向けていた。
 本来はセフィロスの仕事である下級兵の訓練の手本。その役目をクラウドが変わる約束をしていたのであった。
 訓練所を覗くと昔一緒にいた仲間たちが相変わらず教官にしごかれていた。
 教官がクラウドに気がつくと一礼し小走りに近寄ってきた。

「クラウド准尉、わざわざありがとうございます。」
「敬語はやめてください。自分はほんの半年前までここに居たのですから」
「たった半年ですが、遠い感じがします。」
「ええ。では、はじめましょうか?」
「アイ・サー!」
 教官がクラウドに敬礼をすると一般兵が整列した部屋に入った。
 クラウドをともない教官が一般兵の前に立つ。

「本日は特別講師としてクラウド・ストライフ准尉にご足労願った。剣技ではサー・セフィロスに継ぐ腕をお持ちである。君たちもよく知っているとは思うが、ほんの半年前までは君たちと共にここで訓練していた男だから、遠慮無く教えていただけ。」
「少しオーバーな誉め方のような気はしますが…第13独立小隊所属、クラウド・ストライフです。まず見本の立ち会いから。エリック、手合わせを頼むよ。」
「うわ〜!!姫の相手を俺がするのか?!」
「ああ、ここに居る特務隊のメンバーの中で一番俺と手合わせした事があるからね。」
「光栄だこと。」

 エリックは自分の剣を抜くとクラウドの前に立った。
 クラウドがソードを抜くと下段の構えで立った。
 エリックがソードを振り下ろすと、軽々とクラウドは剣ではじく。
 何度か剣が交じり会う音がしたあと、クラウドがエリックの剣を思い切り弾き飛ばした。
 ぴたりとソードの切っ先を首に向けてクラウドがにこりと微笑む。

「姫、いつもの事だけどソードを突きつけておいて、その笑顔はないですよ〜」

 エリックが両手を挙げて降参の意を示した。
 後ろの方でクラウドの剣裁きをぼけ〜〜とした顔で見ていたアンディーは、隣のウェンリーに話しかけた。

「あれ、クラウドだよな?」
「うん、クラウドだよ。」

 ほんの半年前まで自分と一緒に訓練していた可愛い子ちゃんのクラウドが、はるか遠い存在となって自分の前に現れた事実にアンディーとウェンリーはとまどっていた。

 クラウドが先程の立ち会いを一通り説明した後、一般兵がペアになって剣をふるう。
 クラウドがあちこちの兵を眺めながら誉めたり手直ししたりと動いていた。
 ふと見るとアンディーとウェンリーが逃げ腰で剣をふっていた。

「アンディー、ウェンリー。ずいぶんなへっぴり腰だね。」
「クラウド〜〜、どうしたらいい?」
「脇を締める!ほらこのタオルを脇にはさんでごらんよ。」
 アンディーは言われた通り脇にタオルを挟む
 落ちないようにするためには、どうしても背筋をまっすぐにしないといけない。タオル一つで急に剣のふりが鋭くなった感じがする。

「あとはしっかりと目標に当てるだけだよ。」
「簡単に言うけどね〜それが出来ないから苦労しているんだって。」
「昔っから言ってるだろ〜、練習あるのみ!俺だって地道に練習して強くなったんだから。」
「だよなー、俺達の3倍練習してたもん。」
 タメグチで会話する三人に教官が割り込んだ。

「こら!!ひよっこ共!!礼儀をわきまえろ!!」
「うひゃ!」
「ぎゃ!!」
「ひぇ〜〜!!」

 アンディーとウェンリーだけでなく、クラウドも思わず首をすくめてしまったため、まわりの一般兵から苦笑が漏れる。

「す、すみませんでした。ストライフ准尉!」
「教官、俺もまだ入隊一年のひよっこなんですから。」
 教官が恐縮しきった顔で敬礼すると約束の2時間が終わっていた。
 アンディーとウェンリーがクラウドのそばにやってきた。

「ストライフ准尉って呼ばなきゃだめなんだろうな。」
「クラウドでいいよ、特務隊では階級で呼ばれた事など無いからね。」
「知ってる、クラウドって”姫”って呼ばれているんだって?」
「クラスAでも隊の人たちにもそう呼ばれてるの?」
「ああ、”姫”と呼ぶなっていつも言ってるんだけどね。」
「クラウドにはぴったりの”呼称”だ!!」

 仲間だった少年達がけらけらと笑った、クラウドは少し拗ねたような顔をしていた

「クラウドにはバレンタインデーが楽しみなんだろうな〜」
「たくさんもらえるんじゃないの?チョコレート!」
「??誰から?」
「もちろん、カンパニーの女子社員!!おまえ顔がいい上に、すでにクラスAソルジャーを約束されているから、絶対たくさんもらえるって。」

 クラウドは先日撮ったポスターのことを思い出しながら、薄ら笑いをしていた。
「遠慮しておくよ。何しろ俺は立場的に、そういった贈り物を簡単に受け取る訳に行かないからね。危険物が交じってるかもしれないだろ?」
「特務隊ってそう言う危険な所なの?」
「ああ。俺、もう何人の人を殺したか忘れたぐらいだよ。」
 アンディー達がクラウドの言葉に青ざめた。