以前、寮仲間だった二人にクラウドは自分の体験を話していた。
「ソルジャーになるってことは、人を沢山殺すって言う事だよ。」
寂しげな笑顔を残してクラウドはその場を去って行った。
”バレンタイン”かあ…。
本来、恋人や友達,家族などがお互いにカードや花束,お菓子などを贈る日だったはずだが、某チョコレートメーカーの販売拡張戦略のおかげで、いつの間にか”女の子が好きな男に告白する日”という感じになり、やがて”告白できない男が好きな女の子に告白する日”にもなってしまっていた。
(セフィロスって甘い物好きじゃなさそうだもんね。お世話になっているクラスSの皆さんとか、クラスAの皆とか、隊の仲間に俺がこっそりとチョコをあげたらどうなるのかな??あ、でも…。セフィロスにばれたら後が恐いや ヤメヤメ!!)
クラウドはちょっとしたイタズラ心を働かせては、独占欲の強い最愛の人を思い浮かべてはイタズラ心を否定した。
その日マーケットでココアパウダーと無塩バター,エヴァミルクを買い込んで、適量を混ぜてコニャックを少し垂らすと板状にして冷蔵庫で寝かす。
”なんちゃってチョコレート”である。
クッキー型でハートにくり抜いてココアパウダーとシュガーパウダーで覆う。
そこへセフィロスがかえってきた。
部屋から嗅ぎなれない甘い香が漂っているのでクラウドにたずねた。
「何を作っている?」
「あ、おかえりなさ〜い。偽チョコ作ってるの。」
「偽チョコ?」
「うん。ココアパウダーで作っているから偽物。お世話になっている人たちに配るつもりなんだ。」
「70人以上になると思うが?」
「あ、いっけな〜い。そうだよね、特務隊の隊員が27人、クラスSの皆さんが26人でクラスAの皆が32人だもんね。う〜〜ん、どうしよう?」
「クックック。まったく、良くそれで戦場での指揮が出来る物だな。」
「だって〜、去年までは訓練生だったからチョコなんて無縁だったし、こんな事なら何も作らないほうがいいかな?」
「つれないな、私の分も無いのかね?」
「もう、意地悪なんだから。」
そう言いながら先程作ったチョコをぽいっと口にほおりこむと、セフィロスの髪の毛を一束つかんで自分の方に引くとそっと唇を合わせる。
チョコをセフィロスの口に押し込むと身体を離そうとして、逆に抱きすくめられた。
チョコが押し返されると同時に、舌が差し込まれてクラウドの口の中をうごめくと、次第に息が上がり腰がゆらいできた。
「…んうっ!!セフィ……ごはん…ん!冷めちゃう……よ。」
途絶え途絶えに食事のことをセフィロスに伝えるとやっと唇が離れた。
「クラウド、良いことを考えたぞ。20個ぐらいなら作れるな?それをかけて皆でバトルさせればよい。」
「うわ〜。セフィったら考える事が恐い。」
「お前の手作りチョコがもらえるとあらばリック達が本気を出すだろう。」
「え?リック達って資格見直武闘会の時に本気でやってないの?」
「気がつかなかったのか?あいつらは特務隊に残りたいがため、わざと準ソルジャークラス1stで止めてるんだ。」
「なるほど…、わかった。」
食事を取りながら明日のバレンタインデーの事を思うと、ほくそ笑んでしまうクラウドに、思わず苦笑するセフィロスだった。
翌朝、任務の都合上クラスAに編入した時に、バイクの免許をとっていたクラウドは、新車で買った750CCのバイクに跨がりアクセルをふかすと一気に高速へと駆け抜ける。
バイクを官舎の駐車場に停めるとシートの下から小さな包みを取り出し、代わりにヘルメットを入れて鍵をかける。
クラスAの執務室に入ると、自分のパソコンを立ち上げて今日の任務を確認する。今日はこれと言って仕事は無いので、先日のミッションの報告書を仕上げにかかる。
やがてクラスAのみんなが一人、二人と執務室に入ってきた。
「おはよう、姫。今日も早いな。」
「姫って外で生活してるのだろ?それなのにここには一番に来るもんな。」
「新人は一番に出社するのがセオリーでしょ?」
「まあ、姫の気持ちもわからないでもないな。」
クラスAが全員揃った所で急にクラスSからの回線が入った。
「クラスSソルジャーより報告。ただいまよりクラウド・ストライフ准尉のお手製チョコレート20個をかけてバトル大会を開く、姫のチョコが欲しい奴は士官専用武闘場へ10分以内に集合せよ。」
クラスAソルジャー達が連絡事項の内容に全員が固まった。
「姫、本当か?」
「ああ、サー・セフィロスに頼まれたんだ。リック達の本当の力が知りたいんだって。」
「20個って少なすぎ!!特務隊の隊員だけでも手ごわそうなのに!!」
「男の俺がココアパウダーで作ったようなチョコで本気でバトルする気?」
「なんちゃってチョコだろうとなんだろうと、お前のお手製とあれば…。お先!!」
「おーお、パーシーの奴恋人いるくせに…と、いいながら面白そうだから行こう。」
クラスAソルジャー達のほとんどが武闘場へと歩いて行ったので、クラウドが思わず溜め息をついた。
「何を考えているんだろう?」
パソコンを終了させると自分も紙袋を持って闘技場へと歩いて行った。
闘技場にはクラスSナイツ・オブ・ランド達と特務隊の隊員、そしてクラスA以外にもクラスBやC、1st達まで交じっていた。
クラウドがセフィロスの隣に歩いて行く。
「まったく、たった20個のなんちゃってチョコに…、何考えているのでしょうね。」
「たった20個のチョコで本気の戦いが見られるんだ安い物だろ?」
「どうでしょうかね?はい。これお約束の物です。」
そう言うと今朝、家から持ってきた包み紙を手渡した。
「ところでキング、我らも参加してもよろしいでしょうか?」
「クックック…。ランスロットともあろう男が、なんちゃってチョコでこれからバトルか?それは見物だな。」
「うわ、クラスSの皆様も参加されるのですか?」
「ああ、姫のお手製とあらばぜひ欲しい物です。」
「キングは?」
「私は甘いものは好きではない。それに私が参加したら一個減るであろう?」
「では、姫よろしくお願いいたします。」
ランスロットに促されて一歩前に出たクラウドは、その場にいる皆に一礼した。
「ココアパウダーで作ったようなチョコを男からもらって、何が嬉しいのかわからないけれど、上位20人にさし上げますので頑張って下さい。」
クラウドがそう言うとあちこちで一斉に組み手が始まった。
クラスS達が低いクラスの隊員達を潰しに行こうとした時、特務隊の隊員達が先に低いクラスの連中を叩きのめしていた。
「特務隊!貴様等そんなに出来るならなぜもっと上がってこない!」
「俺は隊長と姫のそばに居たいから、わざと上がらないの!!」
「以下同文!!」
クラス1stとクラスCを排除して、特務隊の仲間たちがクラスBに一斉にかかった。
クラスA相手にヒーヒー言っていたクラスBソルジャー達は、特務隊が加わった事で、あっという間に倒れて行った。
リックがクラスAソルジャーに向かって脅しをかける。
「日ごろうちのお姫様を連れて行っている恨み、晴らさせていただきます。」
リックの低い声にクラスAの連中がひるむ隙に、一気にたたみかけるように、特務隊の隊員がクラスAソルジャーを一人、また一人と倒しはじめる。
その様子を見てクラウドが目を丸くしていた。
「うそ?!」
「クックック…、やはりそうか。質の悪い隊員達だな。」
クラスSがリック達を倒す事を諦め、同じクラスS同士で人数を削りはじめた。特務隊の隊員達もさすがにクラスAとかSを相手にすると歩が悪いのか一人、また一人と人数が減って行った。
クラスSが20人、クラスAが10人、特務隊の仲間が5人残った所でリック達がいきなりチームプレイを開始した。
「特務隊!!チームプレイとは卑怯だぞ!!」
「なんとでも言ってください!!」
「こうでもしないと、クラスSの人数を削れません!!」
特務隊5人vsクラスSという図式が出来上がりつつある所へクラスAが乱入した。
「リック、協力するぜ!あと15人削ればいいんだもんな!!」
「何時も姫と一緒に居られる下級ソルジャーに美味しい思いをされたくない!」
入り乱れての乱戦は力の均衡の崩れから弱いところがすぐにやられて行く、特務隊の5人がクラスAやクラスSに対等に戦って居られる事の方が、クラウドには信じられなかった。
「リックー!!カイル!ジョニー!!ブロウディー!!ユーリ!!凄いよ!!クラスAにおいでよ!!」
「冗談じゃない!!特務隊の仕事だけで十分だ!!」
「俺は考えようかな〜、姫と組みたいもん!」
「冗談キツいぜ!!カイルやリックが来たら俺達が姫と組めなくなる。」
「やっぱりシメてやる!!」
リックの蹴りを浴びてブライアンが倒れるとクラスAが全滅した。
残っているのがクラスSが17人特務隊が5人
クラウドが残っているリックをわざと煽るようなことを言った。
「優勝したらほっぺにキスぐらい付けてようか?」
「マジ?!よっしゃ、リック覚悟しろよ!」
「何故だ?」
「隊員公認で何度も姫を抱き上げてるだろ?」
「じゃあランスロットも遠慮してもらいましょうかね?この間のミッションで回復するためとはいえ抱きしめていた。」
「ほぉ…、では全開でやらせていただきましょうかね。」
クラウドは隣のセフィロスの雰囲気を感じ取って背中に冷や汗をかいていた。
セフィロスはいつもと変わらないようであったが、目が冷淡に光っていた。クラウドが思わずセフィロスにささやいた。
「サー・セフィロス、今日はクラウディアさんとはお会いにならないのですか?」
「クックック…、同居しているのだから遠征が無ければ当然会うだろうな。せいぜい楽しみにしていよう。」
(うわ〜〜!!最悪な展開!!明日の仕事確認しておかなくちゃ!!)
クラウドが内心そんな事を思っていたらいつの間にか残りの人数が20人になっていた。
残っているのはクラスSが15人と特務隊の5人だった。
「姫、ほっぺにキスってのはマジでOKなの?」
「一旦言ったからには撤回出来ないでしょう?」
「ふふふ、覚悟はよろしいですかな?ナイツ・オブ・ラウンドの皆さん。」
「まったく、貴様達なんでこんなにむやみに強いんだ?」
「任務の都合上、最前線に回されて生きてかえれるのですから強くもなります。」
そう言いながらクラスSの下の方から順にひとりずつ倒して行く。
しかしクラスSもさすがトップソルジャーである、返り討ちになって特務隊の隊員も減って行った。
残っているのはリックとカイル、そしてガーレス,トリスタン,パーシヴァル,ランスロットだった。
そこにおもむろにセフィロスが加わった。
「うわ!!キング!なぜ?!」
「本気になったお前達と一度戦ってみたかったのだ。」
セフィロスが入った途端トリスタンが、そしてカイルが倒される。
クラウドは二人にチョコを渡しながらハラハラしていた。
「姫、何をそこまで心配されてみえるのですか?」
「だって…、まさか。」
「隊長は元からああいう人だ。」
ガーレスが敗れてパーシヴァルが敗れるとリックとセフィロス、ランスロットが対峙した。
リックとセフィロスが阿うんの呼吸でランスロットに向かっていく。
セフィロス一人だけでも強いと言うのにリックとコンビを組んだらあっという間だった。
セフィロスとリックが対峙した。
「隊長に勝てたらクラウドの隣りに立てると言うのは自分にも有功ですか?」
「クックック、私を倒すことができると思っているのか?よかろう、その時は考えてやる。」
「では、遠慮無く奪わせていただきます!!」
リックが気を充実させつつ構えると、セフィロスも圧倒的なオーラをまとう。
ランスロットがクラウドからチョコをもらいながらつぶやいていた。
「リックの奴、あそこまでやれるとは思わんかったな。」
「特務隊の影の隊長ですから…。」
そういいながらクラウドは激しい組み手を繰り広げている二人を見つめていた。
組み手は一方的な展開だった。
リックは確かに強いが、本気になったセフィロスにかなう男など居ない。
身体に触れることすらできずに、ボディーブローを寸止めされてリックは両手を挙げる。
クラウドの顔に安堵の色が見えた。
「リック、凄いよ。一緒にクラスAの仕事やろうよ。」
「冗談じゃない、準クラス1stで十分だよ。」
「それこそ冗談ではない、お前のような士官むきの男がなぜランクアップしてこない?!」
「魔晄の耐性が無くても士官にはなれるぞ、上がってこい。」
「サー・ランスロットとサー・パーシヴァルのお二人に薦められて断るのは悪いとは思いますが、自分は特務隊以外に所属するつもりはありません。しかし我が小隊には副隊長が既にいるのですからこれ以上士官は不要。自分が士官になったら特務隊に所属し続ける事ができません。だからあえて準クラス1stのままでいさせてもらいます。」
そう言うとクラウドからチョコをもらい特務隊の執務室へと、仲間と共に歩いて行った
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