FF ニ次小説

 ひと騒ぎ終わった武闘場は徐々に人がいなくなり、祭りの後の物悲しさを訴えかけていたが、まだその場には20〜30人のソルジャー達が雑談をしていた。
「姫、どうされますか?」
 ランスロットの言外の意をくみ取って、クラウドはイタヅラっぽい瞳でセフィロスを振り返ると、いきなり駆け寄った。まわりのソルジャー達が何事かと注目した時、背伸びをしたクラウドがセフィロスの頬にキスをした。注目していたソルジャー達の目が点になった。
「隊長、優勝おめでとうございます。」
「ああ。」

 それだけの事だったが、今までのセフィロスを知っているソルジャー達には全く信じられない光景だった。あわててブライアンがかけよってクラウドに話しかける。
「ク、クラウド。そんな事サー・セフィロスにして大丈夫か?」
「お前殺されるぞ、早く逃げろ。」
「え?何故?」
「何故って…、あんなふざけた事されてサー・セフィロスが黙っている訳無いだろ?!」
「そんな事ないよ。ほら…。」

 クラウドが指さした方向にはクラスSのトップ4と話ながら、ゆっくりと退出するセフィロスが居た。
「あの程度で隊長が俺を殺していたら、ザックスなんて何度殺されているかわからないよ。」
 悠然と去っていくセフィロスを見送って、ブライアンは、いまだに自分が信じられないものを見ている気がして仕方がなかった。


* * *



 仲間と話しながらクラスA執務室に戻ったクラウドは、そのままいつもと変わらない仕事をこなしていた。
 昼の休憩を終えて戻ってくると再び上がってきた報告書を片づけていた。
 やがて報告書を書き上げて総務に送信するとクラウドは、コーヒーサーバーにコーヒーを取りに行き一息ついた。

 その時、背後で扉の開く音がした

 甲高い女性特有の声が部屋の中に響き渡ると同時に、女子社員がお目当てのソルジャーめがけて凄い勢いで駆け寄ってきたので、ブライアンが時計を見てつぶやいた。

「おっと…、時間か。」
「え?何?何の時間?」
「姫、知らないのか?バレンタインの15時から一時間は告白タイムの始まりさ。」
「クラウド、お前覚悟しろよ。今年のカケの目玉だぜ。」
「カケの目玉って…、俺が幾つチョコもらうかって事でカケるなよ!!」

 クラウドが叫ぶと同時に女子社員が殺到する。ブライアンが冷静のその人数を数え、ランディが女子社員を整列させる。

「はいはい、クラウド・ストライフ准尉は任務の都合上、知らない人からのプレゼントは検閲無しで受けられないんだよ。わかったらここにおいてさっさと出て行く。」
「え〜〜!?直接渡せなければ意味無いじゃない!!」
「付き合ってって告白も出来ないの?!」
「あ〜、それも無理。恋人と同棲してる奴に告白してどうするよ。」

 キースの一言に女子社員から一斉に悲鳴が上がった。
「ええ〜〜〜?!そんなぁ!!」
 女子社員がチョコを置いてすたすたとかえっていくと、今度はソルジャー達がこっそりとやってくる。ランディはブライアンに尋ねた。
「姫が男にももてる事忘れてた。これも数に入れるのか?」
「当然だな。」
「何考えてるんだよ!!」
 クラウドが叫んでいると扉の向こうからランスロット、パーシヴァル、トリスタンとリックとカイルが入ってきた。

「ランディ、私達の物も検閲するのかね?」
「うわ!!サー・ランスロット、貴方まで!!」
 ランスロットとランディが向かい合っていた隙に、リックがクラウドをかっさらってチョコを手渡した。

「姫、あの人と別れても俺がいるからな。」
 そう言うと素早くほっぺたにキスをすると、カイルも同じように反対側のほっぺにキスをしながらチョコを渡す。
「リックと一緒。俺も待ってるから。」
 クラウドが複雑な顔をしているとリックとカイルはランスロットに殴られた。
「こら!!私のセリフを取るな!!」
「リック、カイル。君たちは、半殺しの目にあいたいのですね。」
「今一度マテリア使用の本気のバトルをやりますか?」
「うわ!!カイル、逃げるぞ!!」
「アイ・サー!!」

 リックはそう言ってカイルと共にクラウドをがっちりつかまえたまま、特務隊の執務室へと駆けだした。

「あ、こら!!リック!!」
「姫をさらって行くな!!」

 二人を追いかけてランスロット、パーシヴァル、トリスタン達が駆けだして行った。
 クラスAソルジャー達は自分の上官であるクラスSのトップ達と、特務隊のトップ達のクラウド争奪戦を呆れたような顔で眺めていた。
「なんだかサー・セフィロスがいない事の方がおかしく見えてきたよ。」
「特務隊のトップとソルジャーのトップクラスがラブコールしてるなんて…モテルねぇうちの姫君は。」
 ブライアンとランディはのんきに話しているが、ゴードンが青い顔をして頭を抱えていた。
「うわ〜〜!!上官がショタだって?……どうしてくれる?!」
「今更〜!おおっぴらに”隣に立ちたい”ってずっとラブコールしてたじゃないか。」
「じゃあ姫はキングにラブコールしてることになるな。キングの隣にしか立ちたくないって言ってるじゃないか。」
「そう言う意味では全員ふられてるってことか。」

 クラスA執務室でチョコの箱を数えつつ駆けの勝敗が決まりつつあった頃、特務隊の執務室にクラウドをかっさらったリックとカイル相手にクラスSのトップ達がいまだに追い駆けっこをしていた。
 リックに引っ張られながらもクラウドがやめさせようと叫ぶ。
「もう、いいかげんにしてください!!これ以上何か事を起こしたら俺、明日出社出来ないじゃないですか!!」

 クラウドの言葉にリックとカイルが立ち止まった、ランスロットとトリスタンは頭を抱えパーシヴァルにいたっては鼻を抑えて真っ赤になっていた。
「す…すまん、あの人がめっちゃ独占欲が強かったこと忘れてた。」
「こんな事ばれたら…お仕置きだよな……きっと。」

 クラウドが顔を真っ赤にさせながらうなずくと、運がいいのか悪いのか目の前になぜかセフィロスが現れた。

「ランスロット、トリスタン、パーシヴァル!!貴様等何やっている!!リック、カイル、お前らは明日にもミッションが来る身だろうが!!」
「うわ!!まずい!!」
「姫、ごめん!!」

 リックはクラウドの背中をセフィロスの方へ突き飛ばした。つんのめるようにセフィロスの腕の中へ倒れ込んだクラウドは、思わず顔を見上げて頬を赤く染めていた。
「リ…リック、何すんだよ〜」
 セフィロスがクラウドを抱き止めた瞬間、リックとカイルはその場を逃げ出していた。ランスロットがその素早さに溜め息をついた。
「なるほど…ああいう風に逃げることができるのか、覚えておこう。」
「感心するな、ランスロット。我らの身が危ない。」
 青い顔をしながら後ろずさりするクラスS仲間に向けて、ついっと一歩足を進ませながらセフィロスが話しかけた。
「さて、何があったのか教えてもらおうか。ん?」

 ”氷の微笑み”と呼ばれている冷たいまでの薄笑いを浮かべたセフィロスを見て、クラスSの三銃士は背中に冷や汗をたっぷりとかいていた。
「い…いえ、その……。」
「姫に日ごろの感謝をこめて……。」
「チョコをプレゼントしようと…。」
3人の言葉を聞いてセフィロスが、腕の中のクラウドの耳を甘噛みしながらささやいた。
「そうなのか?ん?」
 感じやすい耳を軽く唇で噛まれてクラウドのからだが震えている。真っ赤になって何かを我慢する姿が、まるで悪魔にいじめられている天使のようだった。そんなクラウドを見るに忍びないランスロットが口を開いた。

「すみませんでした、セフィロス。」
「刹那的な生き方をしている我らのような者が、精神的に安らげるそういう存在を持っているキングが羨ましくて仕方がないのです。」
「だから姫が欲しいと…思うのでしょうな。」
「ならば探せばよい。何処かに必ずいるはずだ。」
「簡単にいいますけどね、巡り会っていたら横恋慕などしていませんよ。」
ランスロットの首に冷たい物が当たる、セフィロスの正宗だった。
「クックック、やはり貴様は……。」
「うわ〜〜!!!セフィロス、頼みますから刀をひいて下さい!!」
 ランスロットが真っ青な顔をして叫んだ。
 いつもならザックス相手にやっている冗談のような行動を、セフィロスはランスロット相手に繰り広げていた。
 クラウドはそんな様子を見て追いかけられているランスロットに向かって言った。
「良かったですね、サー・ランスロット。セフィがそう言う事をする相手って、かなり親しいか、信頼しているかのどちらかですよ。」
クラウドの一言でランスロットがぴたりと止まってセフィロスに向かい合った。
「セフィロス、姫が言った事は真ですか?」
 セフィロスは何も無かったように正宗を鞘に治める、しかしその表情は何ともいえず複雑な顔をしていた。
「キング…かっわいい!!」
「ふざけるな!!」
 トリスタンめがけて正宗を一閃させるとせき払いを一つして、セフィロスはクラウドを抱きかかえて自分の執務室へと歩いて行った。
「姫…ごめんなさい。」
「明日の休暇届出しておきますからね。」
「くわばらくわばら……」
 クラスS三銃士は廊下の向こうへ消えたクラウドに向かって思わず両手をあわせていた

 特務隊執務室に入ったセフィロスは自分の机でたまっていた書類を片づけていた。その膝にはクラウドを座らせて、隊員達に見せびらかすように身体を触っていた。
 耳元にかかるセフィロスの吐息に、クラウドは身体が疼いてしかたがなかったが、さすがに人目のあるオフィスであると言う事で感情を必死にコントロールしていた。
 書類を一緒に片づけながらちらりとセフィロスを見ると、いきなり顎を捕らえられて軽く口づけされる。

「セフィロス、ここ仕事場なんだから…」
「お前を狙ってる男が2人もいるからしっかり見せつけておく。」
 リックとカイルがその言葉にぎくりとすると、ジョニーとブロウディーが二人を小突いた。
「バカ!!火に油注いでどうすんだよ!!」
「ったく、姫がクラスAに編入して、執務室でいちゃつく事が無くなったっていうのに、元どおりかよ。」

 居辛い雰囲気を我慢してリックが書類のテキストをパソコンで入力していると、ふと顔を上げクラウドに向かって話しかけた。
「姫、先程明日の休暇届だされました?」
「いや、明日は定期警らが入っているはずだから休みなんて取れないよ。」
「サー・ランスロット達じゃないの?さっきの事で明日の姫は使い物にならないって思ってんじゃない?」
「ん〜〜、俺もそう思うな。」
 真面目な顔でうなづくリックにクラウドは軽いめまいを覚えた。
そしてその”思いやり”をセフィロスが裏切るような事はしなかった。

はい、ここで右ドラッグさせたあなたは立派なセフィクラーです。しかし残念ですがここは”無し”です(w)

翌朝、爽やかな笑顔で出社したセフィロスを見送るどころか、ベッドから起き上がることすらできないほどの腰の痛みを感じて、クラウドは一人激しく文句を言っていた。

「あ〜〜もう、明日出社したら何て誤魔化せばいいんだろう!?」

 しかしクラウドの心配するような事は何も起こらなかったのであった。