ザックスはエアリスのことが心配で、八番街の店をのぞいたが彼女は店にいなかった。
それどころか母親が言うにはお昼にランチを取ったレストランから帰った後、9番街へ注文の花を配達に行ったまま帰ってこないと言う事だった。
ザックスはその話に嫌な予感がして、九番街へと愛車のデイトナを走らせていた。目の前にバリケードを張っていたソルジャーに気がつくとバイクを止め、メットを脱ぎ捨ててソルジャーに近寄った。
「特務隊のザックスだ、中はどうなっている?!」
「わかりません!!」
「ちぃっ!!」
ザックスは情報が無い事に舌打ちすると中へ乗り込んでいった。少し走るとブロウディーに抱えられてエアリスがやってきた。
「エアリス!!」
エアリスがザックスを認めると思わず泣き出した。
「ザックス!!恐かった!!恐かったよ−!!」
ザックスはエアリスを抱きしめるとケガの有無を調べる。
「よかった…ケガは無いか?」
「ええ、ケガは無いけど。」
「ブロウディー、済まないが彼女を八番街のフラワーショップ『Ange』に送り届けてくれ。」
ザックスに言われたブロウディーが一礼をしてエアリスを促したが、彼女は首を振って足を止めた。
「私、ザックスが戻ってくるまでここで待つ!!待ちたいの。」
ザックスはエアリスの言葉に思わず振り返えり笑顔を浮かべ、ウィンクを一つおくった。
「嬉しい事言ってくれるじゃん、ちゃっちゃと片づけてくるから安全な所にいてくれよ、頼むぜ。」
そう言うとバスターソードを掲げて走り去って行った。エアリスは走り去るザックスの背中を見送りながら、両手をあわせて祈っていた。
「絶対よ、絶対かえってきてね。」
ブロウディーもバリケードを張っているクラスBソルジャーにエアリスを頼むと、ザックスを追った。
エアリスの言葉を背に受けて、ザックスは嬉しくて仕方がなかったが、最前線で闘っている仲間も心配ではあった。
クラウドの強さは知っている、知っているが所詮一般兵の上にまだ16歳と若い、それゆえ体力があまり無い事をザックスだけでなく、彼と組んだことのあるソルジャーなら誰でも知っている事だった。
ザックスが最前線に到着した時すでに特務隊と反抗勢力とで大きな争いになっていた。バスターソードを掲げてザックスがその戦いに参入すると一気に戦局が開けた。
「キッド、姫は?!」
「姫ならど真ん中だ!!」
「さっすが副隊長にもなる男だな しぶといね。」
「馬鹿猿!!姫だって限界がある!!」
そう言うとジョニーがまん中に割り込んでいこうとするが反抗勢力もしぶとい。
ザックスが力で押し込んで行くとやっと道が開けてきた。
ジョニーがザックスの横をすり抜けてクラウドを確保すると引きずってさがる。
ザックスがクラウドにケアルガをかけるとクラウドは頭をふってザックスを見付けた。
「ザックス、サンキュー」
「ったく、無理しやがって。」
「さて…行くか」
再びミスリルソードを握り締めて、ふたたび戦いの輪に躍り込んでいくクラウドに、リックが左から合流し叱咤する。
「馬鹿野郎!力押しだけが鎮圧じゃないだろ!!」
「ったく、この隊は上官を平気で馬鹿呼ばわりか、らしいけどね。」
クラウドがソードを握りなおすと精神統一を始める。
きびすを返してソードを掲げると、ザックスが叫んだ。
「伏せろ!!!!」
ザックスの声に反応して特務隊の連中が地面に伏せると同時にクラウドが魔法を放つ
「ブリザガ!!」
氷魔法の最高位呪文が発動すると同時に氷の刃が反抗勢力に浴びせられる。
一気に反抗勢力の力を削る、あとは一方的な展開だったので敵のボスが悪態をついた。
「くそ!!マテリアを使うなんて卑怯だぞ!!」
「力に対抗するためにもっと強い力を使うのは常套手段だ。力押しでは一般人のお前達はソルジャーには絶対勝てない。武器を買う金を株に変えて反抗勢力でつるめば、大株主にはなれるよ、そうすれば、俺達の出番はなくなるな。」
「ふふふ、おまえは変わってる奴だな。そうか、その手があったか。」
ボスが両手を上げると反抗勢力は全員投降した。
カイルがクラウドに戦闘の終了を報告をする。
「右クリア!!」
「左クリア済み!!」
「センタークリア!!鎮圧終了!!」
リックに引き続きクラウドが隊員に鎮圧の終了を宣言した。
特務隊の隊員が反抗勢力の中の重要人物とおぼしき奴を2〜3人縛り上げていると、クラウドの鎮圧終了の声にクラスBソルジャーが集まってくる。
クラウドは隊を整列させてザックスをとなりに立たせると、集まってきたクラスBソルジャーに捕虜を渡した。
クラスBソルジャー達は敬礼をし捕虜を受け取り、そのままバリケード用のトラックへと乗り込んで行った。
ザックスが姿勢を正して隊の連中に向かって言った。
「第13独立小隊帰投!!」
「アイ・サー!!」
隊員達が敬礼をするとザックスとほぼ同時にクラウドが敬礼を返す。
正式な挨拶を終えると、ザックスはクラウドにむかって一礼した。
「俺、エアリスのご両親の所に彼女を送り届けるわ。」
「OK!ザックス、思いっきり殴られてきてね。」
「うわ〜〜、行きたくねェ!!」
クラウドの言葉に思わず顔を青くしたザックスに隊員達が笑顔を浮かべた。
バリケードゾーンで残っていたクラスBソルジャーに守られていたエアリスを迎えに行くと、彼女は緑色の瞳に涙を浮かべていた。
ザックスがやさしい声で再び訪ねた。
「大丈夫かい?」
「うん…大丈夫。でもよかった無事で。」
エアリスの涙の訳を知ってザックスは微笑んだ。
ザックスがそっとエアリスの肩を抱くと八番街へと歩き出す、その後ろを羨ましそうな視線を送りながら特務隊の隊員はヘリの止まっているビルへと歩いて行った。
ザックスとエアリスが八番街のフラワーショップ『Ange』に付くと、家からエアリスの両親が飛び出して来た。
「エアリス、無事だったの?よかった。」
「うん、ザックスが来てくれたから大丈夫よ。」
「今回はお前が目的ではなかったが、ソルジャーと付き合うといつ命を狙われるかわからないんだぞ。」
ザックスはガスト博士の言葉に何も言い返せなかった。
暗い顔をしてうつむいてしまったザックスからエアリスは離れなかった。
「パパ、私ザックスが好きよ。たとえソルジャーでも、危険な仕事をしていても…ザックスが好き。だからパパの命令なんて聞けない。」
エアリスの緑色の瞳が強い晄を帯びていた。
ガスト博士は思わず目を伏せた、そして再び瞳を開けると、おだやかな優しい瞳でエアリスとザックスを見つめていた。
「エアリスにここまで言わせて、君は何も言わないのかい?」
ザックスは一瞬ガスト博士の言葉にとまどった、しかしすぐに真面目な顔で答えた。
「お嬢さんと結婚を前提に交際させて下さい!!」
エアリスがびっくりしたような顔でザックスを見ていた。
ザックスは深々とガスト博士におじぎをしたまま動かなかった。
「君がいい奴だと言うことはわかっているし、君みたいな男なら娘を嫁に出してもいいと思うが…どうかね?イファルナ?」
「そうねぇ、でもまだ若いからもう少し待ってほしいわね。お料理とか教えないと大変な事になりそうだわ。」
エアリスが両親の言葉を聞いて父親のガスト博士に抱きついた。
ザックスが一礼するとデイトナを轟音響かせてカンパニーへと戻って行った。
* * *
クラウドがカンパニーに戻ると、ちょうど駐車場で帰ってきたセフィロスとクラスSのトップ5と居合わせた。
特務隊の隊員がヘリから降りると整列し、クラスSのトップソルジャー達に敬礼した。
「おかえりなさいませ!」
「何処に行っていた?」
「九番街へ反抗勢力の鎮圧に行ってまいりました。」
「ほぉ…隊長の許可もなしに出兵させたのですかね?」
「特務隊には副隊長にも出兵の権限があるはずです。」
「ええ、その通りです。少し難があるのですが、事情が事情です、致し方ないですね。」
ランスロットがちらりとセフィロスを見ると薄く笑っていた。
「皆さんは何をされてみえたのですか。」
クラウドが逆にランスロットに訪ねた。
「ああ、次のミッションの事ですが、クラウド君には最高に嫌な仕事をしてもらうことになりました。」
「最高に嫌な仕事って…まさか?」
「Lady Cloudeaになっていただきたい。」
「俺、一般兵に戻りたい。」
セフィロスから紙袋を受け取りながらしょげるクラウドを尻目に、クラスSのトップソルジャー達はにこやかに笑っていた。
「では、姫。その血だらけの身体を流してきっちりと化けてきて下さい。任務の内容はそれからです。」
「一時間で仕上げろ、クラスA執務室に迎えに行く。」
「アイ・サー!」
ランスロット達に敬礼をするとクラウドは紙袋を片手にクラスAの執務室へと入る、白のロングコートのそこかしこに血の跡が付いているクラウドを見て残っていたクラスAのソルジャーがびっくりして集まった。
「うわ…あいかわらずキツい所みたいだな、特務隊は。」
「キツイって、もう次のミッションだよ。シャワールーム借りるよ。」
「ああ、どうぞ。そんな血だらけ、傷だらけの格好でうろつかれたくないからね。」
「サンキュー、傷にしみるかな?」
「ケアルかけてきたんじゃないのか?」
「そんな暇ある仕事してないよ。」
クラスA仲間たちと会話を交わしおえると、クラウドは白のロングコートを脱ぎ捨てて、シャワールームへと入って行った。
しばらくしてトランクス1枚で出てきたクラウドが、紙袋の中にある服を取り出した。フリルのついたブラウスは他のソルジャー達の目に異様な物に写ったのかゴードンが尋ねる。
「クラウド、お前どういう服を着てるんだ?」
「ああ、これ?今からクラスS絡みの特務、一番やりたくない仕事。」
「あ、女装か!」
ブライアンの言葉にクラウドがキツい視線を送るが、皆ははにやにやして囃し立てはじめた。
「へぇ、隊長達。クラウドを女装させてどうする気だろう?」
「女装いけていたじゃない?ほら、ハロウィンパーティーの時!」
「そういえば、あの件でLADY・クラウディアの偽物やらされているんだったよなぁ?」
「見せてもらいたいね、どれだけクラウディアに似ているか。」
「俺に惚れるなよ。」
「誰が惚れるか、お前みたいな危険な男に!!」
ソルジャー達から笑いが漏れるが、クラウドはおかまいなしにいつもの通りクラウディアブランドの一点物を身につけはじめた。濡れ髪をくるくるドライヤーで巻きながら乾かし、慣れたて付きで化粧を始めると、クラスAソルジャー達からため息が漏れた。
鏡の前に現れたのは紛れもなく清純な妖精クラウディアだった。
ただ一つ違っているのはその瞳に冷淡な晄が宿っていただけであった。
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