FF ニ次小説

 クラスA仲間が見つめる中、クラウドは平然とスカートのすそをめくり上げた。
 その仕草に数人のクラスAソルジャーが鼻を押さえるが、おかまいなしでガンベルトを太ももに巻きつけ、拳銃をホルスターにしまう。ベルトの残りのスペースにはスラッシュナイフを10本ほど差し込んだ。
 クリスタルソードから赤いマテリア2個をはずすと、金の髪飾りにはめ込む。その髪飾りを後ろにまとめた髪を止め、回復と治療のマテリアをピアスの枠にはめ込むと、耳に空けた穴にピアスを通す。腕のクリスタルバングルをはずすとソードとともに魔法をかけてサイズを縮めアクセサリーのように服につける。
 紙袋から小さな箱を取り出すと白いレザーグローブをはずして左手薬指にさっとはめる。
 時計を見たらほぼ一時間が経過していた。
 扉がノックされると同時にセフィロスが現れた。

「支度出来たか?」
 そう訪ねた上官に、クラウドはいつものように凛とした姿勢でセフィロスに敬礼した。
「イェス、サー!」
 その姿があまりにも不似合いで、クラスAソルジャーからブーイングが起こった。
「姫、頼むからそのカッコで敬礼なんてしないでくれ。」
「知らないのか?パーシー。ピンヒールで蹴り入れると結構効くんだよ。」
「頼むって、お前はおとなしくサー・セフィロスに守られていてくれ。」
「はぁ?冗談を言うなよ。俺だって一応軍人の端くれなんだよ。戦闘に参加しないでどうするんだ!!」
「男言葉も聞きたくない!!今のお前はクラウディアにしかみえないんだ。清純な妖精のイメージを壊さないでくれ。」
 仲間の言葉にクラウドは肩をすぼめてから鏡に向かうと、しばらくじっと自分自身を見つめて、指をパチンとならした。そして振り返ったクラウドにクラスAソルジャー達が唖然とした。
 嫣然と微笑むクラウディアがそこに立っていたのであった。
 セフィロスが氷の微笑みを浮かべ手を差し伸べると、ゆっくりと近づきそっと手を取った。クラウドがクラスAソルジャー達を振り返ると天使の笑顔を浮かべてささやいた。
「では、皆様。ごきげんよう」

 腕を組んで去って行く二人を唖然とした顔で見送ったクラスAソルジャー達が、気を取り戻していきなり騒ぎ出した。
「上官がショタに走る気が、やっと解った気がする。」
「ショタじゃなくてロリじゃないのか?」
「両方だろ。」
「それにしてもサー・セフィロスは流石と言うか、あれ程似てるのに全く変わらないなんて凄いな。」
 そう言って廊下を歩く二人の後ろ姿を執務室からのぞいていると、すれ違うクラスBやCのソルジャー達が頬を赤らめて直立不動で敬礼している。
 無視して歩くセフィロスはいつもの通りであったが、腕を組んでいるクラウドは、悠然とした笑みを浮かべて軽くおじぎをしている。きっとクラウディアならばそう言う行動をするであろう。

 実態を知っているクラスAソルジャー達が呆然とみていると、不敵にもすれ違ったソルジャーの一人が声をかけた。

「サ、サー・セフィロス。お願いが有ります。クラウディアさんのサインを頂けないでしょうか?」
 セフィロスはちらりと振り返るが、何も言わずに歩き出すと、腕を組んでいたクラウドが済まなさそうに答えた。

「済みません。わたくしサインをしてはいけないとサーに言われていますの。」
 男の声とは思えないやや高めのボーイソプラノは何処をとっても女性の声だ、立ち止まっていたクラウドを促すようにセフィロスが歩き出すのを見て、再びクラスAソルジャー達は感心し切っていた。

「成り切る奴だね。」
「かけるか?」
「何を、だ?」
「業務命令であいつは上司とどこまでやれるか。」
「はぁ?!何考えてんだ?!」
「うわ〜〜!!特務隊の連中が聞いたら殺されるぞ。」
「上司二人のラブシーンなんて想像したくないだろうな。」

 そこへクラウドに報告書を渡そうとリックがやってきた。話をすべて聞いていたリックは鼻で笑っていた。

(こいつら、事実を知ったらびっくりするだろうな。)

 そこへザックスが駆け込んできた。

「リック、クラウド知らねぇ?!」
「ああ、どうやら出かけたみたいだな。」
 ブライアンが二人の声を聞きを振り向くとクラウドの出かけた理由を告げた。
「姫はクラスS絡みの特務で女装中。何の用だザックス。」
「組み手の相手を頼んであったのに、くそ〜〜!!」
「ああ、それなら俺達が相手になってやる。」
「ありがとうございます!!」
 珍しく姿勢を正した敬礼をするザックスをリックが見て思わず微笑んでいた。
「サー・ゴードン。うちの馬鹿ザルを引き取っていただけますか?」
「ザックスを、か?う〜ん、クラスBかAまで上がれば引き取ってやる。」
「たぶん行きますよ。恋人のため意地になってますから。」
 リックはそう言って書類を置くとザックスの肩をポンと叩いてにやりと笑った。

「2年でサヨウナラとは寂しいが、まあ頑張れよ。」
「うるせ〜〜!!俺は特務隊から抜ける気はない!!」
「隊長と副隊長が既にいる上にうちは26人の小隊だ、士官はもういらないから二度と帰ってくるな。」
 最後通告が心につきささったザックスは、思わずリックに食ってかかった。
「リック!!俺だってセフィロスとクラウドのそばに居たいんだ!!特務隊がどんなにキツくてもあの雰囲気が好きだ!!だから…俺、俺。」
「一般人の恋人のいる奴が進んでやる仕事じゃない。特務隊にいると言うことはいつ死んでしまうかわからないって事なんだぞ。あの子を泣かせるな。ソルジャーであるのは仕方がないとしても、せめて命がけの仕事などしない支援部隊の副官でもやっていろ。」

 ザックスはリックの言いたい事がよくわかっていた。わかっていたつもりだった…が、心の底で認める事は出来なかった。
 しかし、リックの言葉にザックスではなくゴードンが突っかかった。
「リック、すごく矛盾を感じるんだけど。サー・セフィロスの恋人も姫の恋人も一般人だろ?あの二人はどうでもいいのかよ。」
「そうだよなー、特務隊にいると恋人を拉致されたりする可能性があるから、あの隊では恋愛禁止だって暗黙の了解があった気がしてたけど。」
「俺様主義の隊長が恋人作った時点で、そんなもの無くなってるし姫は俺が守るからいいんだ。」
 自分達の疑問にあまりにも自己中心的な答えをするリックにクラスAソルジャー達があきれた。
「隊長が俺様主義なら影の隊長まで俺様主義だぜ。」
 クラスAソルジャー達から笑いが起こった。

「サー・セフィロスに恋人がいると言う事の方が俺には信じられなかったな。」
「氷の英雄だったからか?」
「ああ、万年氷河期のあの人がどうやって女性を口説いたのか知りたい物だね。」
「なあ、ザックス。クラウディアさんって幾つなんだ?」
「ああ、たしか16だぜ。」
「うわ!!信じられん!!16であの色気かよ!!」
「そりゃ、旦那に毎晩のように抱かれてりゃ色気も出るわな。」

       ばこっ!!

 ゴードンがいきなりザックスの頭をぶん殴った。

「いって〜〜〜!!なんだよ、いきなり。」
「ブライアン、リックを羽交い締めにしておけ。ランディ協力しろ。」
「あん?何をやる気だ?ゴードン。」
「どうやらザックスは俺の妖精を馬鹿にしたようだ。気に入らないからぼこぼこにしたい。」
「本当のこと言っただけじゃないかよ!!旦那と同棲してもうすぐ一年だぜ!!」
「へぇ、やたら詳しいじゃないか。これはいじめがいが有りそうだな。」

 クラウディア・ファンであるクラスAソルジャー達の言葉にザックスは背中に冷たい物を感じた。
 リックが大人しくブライアンに羽交い締めにされながらもザックスに強い視線を送る。
 その視線の意味する事を理解しているザックスは、本気になったクラスA2人相手に、これから意地でも勝たなければいけなかった。

 ランディとゴードンがザックスと対峙するといきなり組み手が始まった
 リックが見ていてもそれは一方的な展開だった。
 ザックスが正直ここまで出来るとは思っていなかったが、クラスA2人相手は流石に歩が悪い、あっという間に組み敷かれて腕をねじ上げられていた。
「さぁ、ザックス洗いざらい喋ってもらいましょうかね〜クラウディアさんと何処で知り合った!!」
「俺の恋人が彼女の親友なんだよ!!それで知り合った。8番街のコーヒーショップでダブルデートした日だよ!!」
「その割りには詳しいじゃないかよ、同棲してるなんて誰に聞いた?ああん?」

 ザックスの腕を更に締め上げながらランディが聞いているのでリックは気が気でなかった。

「エアリスだよ、偶然スーパーで出合った時に聞いたんだってさ。彼女が料理好きなのは旦那のためなんだからしゃあねぇだろ!!」

 ランディとゴードンがザックスを離した。
「なんだ、つまらん。」
「お前が知ってることってそのぐらいか。」
 ザックスはねじられた腕を何度か振り回し感覚を取り戻してから、クラスAソルジャー達に対峙した。
「悪かったね。俺だって知ってる事には限りがあるんでね。」
 ブライアンがリックを離すと3vs2の組み手を始めた。
 ザックスとリックはお互いをよく知っているので、今度はクラスA3人相手とはいえ、それなりに戦える状況になっていた。
 30分後、荒い息で片ひざをついたザックスがクラスA3人にまっすぐな瞳を向けていた。

「明日もお願い出来ますか?」
「いつでも来い、相手になってやる。」
「ありがとうございます」

 クラスAに一礼しリックに肩を貸してもらいながら、ザックスは武闘場を後にした。