ザックスはリックの肩を借りながら、特務隊の執務室へ向かう廊下を歩いていた。
「心配させたか?リック。」
「少しは…な。」
「信用無いね。」
「お前は知り過ぎているからな。」
「それにしてもよくバレていないもんだな。」
「特務隊はわかるが、バックスタッフから漏れてこない理由がわからん。輸送スタッフとか衛生スタッフあたりから、漏れても不思議はないんだが。」
ザックスも移動する輸送機の中でいちゃつく二人を嫌ってほど見てたので、輸送機のスタッフが見て見ない振りをしてくれているのは知っていた。
「セフィロスの旦那がにらみを利かせているか、英雄がショタに走ったなんて信じないかのどっちかだな。」
「いえてる!!」
肩を組みながらザックスとリックが笑っていた。
* * *
翌日も翌々日もザックスはクラスAの執務室に顔を出しては、組み手の相手をしてもらっていた。
そんなある日、セフィロスがクラウディアの扮装のままのクラウドを連れてやってきた。扉を開けると恭しくランスロットが傅いている。
クラスAソルジャーはセフィロスの連れているのが、クラウドなのかクラウディアなのか区別出来ずにいた。さも不快そうな顔をしながらセフィロスがランスロットに話しかけた。
「ランスロット、クラウディアをここで待たせる気か?」
「キング、これだけのソルジャーが集まっている場所はほかにはありません。」
「クラウディア、むさくるしい所だが少しここで待っていてくれ。」
「はい、わかりました。」
華奢なモデルのクラウディアが深々とおじぎをする姿はあまりにも優雅だった。
ランスロットがそっとエスコートして椅子へ座らせると、クラウディアがザックスを見付けて天使の笑顔を送った。
「まあ、ザックス様ではありませぬか。お久しぶりでございます。」
「ああ、クラウディア。元気?」
「ええ、おかげさまで。そういえば先日エアリスさんにマダムセシルの店で、お会いいたしましたわ。なにか寂しそうにしてみえましたけど。」
「ああ、その事なら聞いたよ。大丈夫、そのとこは心配しなくていいぜ。」
「そう、よかったわ。」
にっこり笑うクラウディアの笑顔を独り占めしているザックスが、その場にいるクラスAソルジャーの癪に障ったらしい、ブライアンとランディが前に進み出た。
「ザックス”様”だって〜〜〜??」
「わかってるんだろうな?」
(うわ〜〜!!こいつら目が座ってるよ!!)
ザックスはなぜ今日に限って、クラウドがクラウディアのままなのか恨んでやりたい気分だったが、彼も好きでここにモデルとしている訳でも無い事ぐらいわかっていた。
クラスAのトップ2vsザックスと言う組み手が始まろうとした時、セフィロスが舞い戻ってきてクラウディアの腰を抱き寄せる。
クラウディアはザックスに軽く手を振ると、セフィロスと共にその場を去って行った。
「何だったんですか?一体。」
「何なんでしょうな、一体。」
ザックスの独り言に同意しながらも、ランスロットがにやりと笑い後ろを指差した。
「まあ、可愛がってもらえ。」
そう言ってランスロットも武闘場を後にした。
ザックスが振り返るとブライアンとランディが先程よりも怒気をはらんで立っていた。
(鬼〜〜〜!!!!)
心の中で悪態をつき、背中に冷や汗をかきながらもザックスは武闘場のまん中に進み出た。
二週間ほどで特務が終わったクラウドが、執務室で報告書を書いていた。リックに聞くとザックスは毎日のようにクラスAに行っては組み手をやっていたらしい。
「クラウディアの格好で戻ってきたんだって?」
「ああ、ワザとね。あいつら俺のファンだから、目の前でザックスに微笑んでやれば、もっといじめるだろうって、ね。」
「うわ〜〜〜!!!鬼の上司。」
「バレないかこっちだって冷や汗だったんだから。」
「バレるわけないだろ、隊長の対応が違い過ぎる。」
「それもあらかじめ隊長と示し合わせていれば簡単な事だな。」
「さて、俺も少し行ってくるか。この所ハイヒールばかりはいていて調子出なかったからな。」
「付き合おうか?」
「クラスS相手だけど、いい?」
「姫が行く所なら何処へでも!」
「俺も行く!!」
クラウドとリック、カイルの3人が揃ってクラスSの訓練所を覗くと、その中にはなぜかザックスがいた。
「おっせーぞ、クラウド。」
「ザックス、クラスSで何やっているの?」
「この前のお落とし前を付けさせてもらおうと思ってね。」
「ああ、わかっていたんだ。いいよ、今日のパートナーは誰?」
「サー・ガーレスにお願いしてある。」
「OK!じゃあカイル行こうか?」
「姫のご指名とあらば喜んで。」
クラウドのご指名を受けてカイルが一歩前に出ると、ザックスの後ろにいたガーレスが出てきた。
2vs2の組み手が始まった。
カイルとクラウドのペアはもう組みはじめて一年にもなるので、意思の疎通などお互いの目を見ずともできている。それは組み手を横で見ているリックが焼き餅を焼くほど呼吸が合っていた。
一方ザックスとてこの2週間クラスAに徹底的にいじめられてかなり力をつけてきた。
激しい組み手の応酬に徐々にギャラリーが増えていった。
通りすがりのクラスSソルジャーがそのギャラリーの後ろから覗き込みうなずいていた。
「ほぉ、ガーレスとザックスが組んでいるのか。」
「相手は姫とカイルですか、どっちが勝つでしょうかね?」
「相性の良さで姫達でしょうな。ソルジャー二人が一般兵二人に押され気味っていうのが不思議なものですが。」
右ストレートをかいくぐって、カイルがザックスにボディーブローを浴びせる。ほぼ同時にカイルの背中を足場にジャンプしたクラウドの延髄蹴りをガーレスが浴びた。壁までぶっ飛んだザックスが頭を振って立ち上がろうとするが、足がよろけていた。
「勝負アリ!!」
遠巻きにして見ていたクラスS三銃士が割って入ってきた。
「ガーレス、クラスSと1stが組んで何故一般兵に負ける?」
「クラスA2人とやってるようなものだ。ずいぶんザックスに助けてもらったな。」
「サー・ガーレスに誉められた、イシシシシ。」
「へんな笑い方するな。」
ザックスはカイルに思いっきりぶん殴られた。
壁際で腕を組んで薄ら笑いをしていたセフィロスが、おもむろに中央に歩いてきた。
「ガーレス、さがっていろ。クラウド組むぞ。」
「アイ、サー!!」
姿勢を正して敬礼したクラウドがセフィロスの隣に並ぶ。ザックスが自分とペアを組む相手を見極めるためにゆっくりとまわりを見まわす。
「リック、カイル、頼むわ。」
「俺達でいいのか?」
「姫の味方に回ると思わないのか?」
ザックスはゆっくりと首を振った。
「いいや、お前達がいい。クラウドみたいにはいかねえかもしれないが、戦い方を知っている男と組んだ方がうまくいきそうだし、いざ試合が始まればお前らが味方を裏切ることがないことは俺が一番知ってる。」
ザックスの言葉にリックとカイルが笑顔で返す。
「でもなぁ。隊長と副隊長のコンビ相手に勝てると思えないんだけど。」
「言えてる。」
「でも強くなりたいならやってみる価値有るんじゃない?」
カイルの言葉が引き金となった。
ザックスがいきなりクラウドにパンチを浴びせかけた。クラウドがそのパンチの力をうまく流して、ふわりと投げ飛ばすと、いきなりザックスが床にたたきつけられた。
クラウドがしゃがみこむ所にリックが回し蹴りをし掛けるが、セフィロスがリックの向こうずねを蹴り返しす。
カイルがクラウドをつかまえようとして、身体をひねっていたセフィロスに思いっきりぶん殴られて、壁までふっ飛んでいった。
ゆっくりと頭をふりながらカイルが立ち上がると、ザックスと組み合っているセフィロスに殴りかかって行く、そこにリックを蹴り倒したクラウドが割って入る。
特務隊のトップ5の組み手はし烈を極めていた。
その組み手を見ながらパーシヴァルが隣りに立っていたガーレスの瞳に思わず笑みを浮かべながら聞いた。
「ガーレス、何羨ましそうに眺めている?」
「我が隊にあの中の一人でもひき抜けない物かな…と、ね。」
「あの中で唯一引き抜けそうなのはザックスだな。」
「キングと姫は一隊を率いる士官だから無理だし、リックとカイルは姫から離れやしないからな。」
「あと一週間ですかどこまで上がってくるかな。」
ランスロットは黒髪のソルジャーがここへきて、やっとランクアップする気になった事をうれしく思っていた。
たとえそれが恋人のためだろうとなんであろうと、彼ほど人付き合いの良い男が士官になるのであれば、すべてのナイツ・オブ・ラウンドが喜んで迎え入れるであろうと密かに思っていた。
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