クラウドはクラスAの仲間に思わず聞き返していた。
「何でそんな顔をするんだよ。クラスSのトップ3って…。俺サー・ランスロットにもサー・パーシヴァルにも何も言ってないのは本当なんだから。」
「ばーか!おまえも副官ならわかるだろ?!隊を動かせるのは隊長だけ。その枠を無視して、お前が俺達を動かしたってことは、それを連隊長達が認めたと言うことだろ?」
「言われて見れば…。でも、それでも二人じゃないか。」
「サー・セフィロスがお前の指揮に文句を言わなかっただろ?だから3人なんだ。」
「文句って?隊長は俺に隊を指揮させていじめてるだけじゃないか。」
「いじめられるほど指揮出来るって事だ。そのうちクラスSからお呼びがかかるんじゃないのか?」
「冗談じゃない、俺まだ一般兵なんだけど。」
「忘れてた!!」
その場で笑いの渦が巻き起こった。
小首を傾げながら笑い転げるクラウドに、すぐとなりにいたエドワードが思わず固まった。
「クラウド、おまえ本当に恋人いるんだな。」
「え?な、何を急に。」
「髪の毛に隠れてわからないけど、しっかりここにキスマークがついてる。」
エドワードが指差した当たりは、昨日の夜にセフィロスが強く吸い上げた覚えがある場所だ。
クラウドは思わず真っ赤になって目をうるうるさせた。
「え…、エディの意地悪。」
するとクラウドを取り囲んでいたクラスAが、その表情に思いっきりノックアウトさせられた。自分の彼女だってこんな可愛い反応はしない、エドワードなど思わずクラウドを抱きしめていた。
「ん〜〜〜!!やっぱお前ってめっちゃ可愛い!!」
「ちょ……、やめろ〜〜!!こら〜〜!!」
あがくクラウドがまた可愛くてクラスAソルジャー達から笑顔が漏れる。
しかしその瞬間、執務室の中が急に冷え込んだような感じがした。
「あ……れ?エアコンが壊れたかな?」
ブライアンが首をめぐらせると執務室の扉が開いていた。
そこにはサー・セフィロスが絶対零度の怒気をはらんで立っていた。
「サ、サー・セフィロス。」
ブライアンがその怒気を感じ取って青ざめる。
同じようにクラスAソルジャー達が直立不動になった。
ゆっくりとセフィロスが執務室に入ってくると、まん中に自然と道が出来る。青ざめて直立不動になったクラスAソルジャーのまん中を、エドワードの前まで足を進めるとセフィロスは冷たい目で目の前の男を睨みつけた。
「エドワード、何をしている?」
「あ…はい。ストライフ准尉に次のミッションの知恵を借りようと。」
「そうなのかな?」
モンスターさえ脅え上がると言われている、セフィロスのにらみつけをまともに浴びて、エドワードが背中に冷たい物を感じ青ざめていた。
いや、エドワードを含むほとんどのクラスAソルジャーはフリーズしていたのであったが、ただ一人その冷気を物ともせずにいた男がいた、クラウドであった。
「はい、エドワードとパーシーにそう言われましたけど。」
クラウドはエドワードの腕から逃れたと言うのに、今だに頬を赤らめうつむきながら、うるんだ瞳でセフィロスを見つめていた。
その視線を感じたのか、セフィロスから絶対零度の怒気が消えうせていた。
「わかった。それが終わったら特務隊の執務室に来るように。次のミッションが入った。」
「アイ・サー!」
クラウドが敬礼する後ろでクラスAソルジャー達が思わず溜め息をついた。
セフィロスがクラスAの執務室を出て行くと、ブライアンがそれを見て思わずつぶやいた。
「あんなにわかりやすい人だったっけ?」
「凄い変りようだったな。」
ブライアンとパーシーが独り言の様につぶやくと、フリーズしていたエドワードがやっと言葉を出した。
「なんだか、俺すんごいにらまれてたような気がする。」
「気のせいじゃないぜ、確実ににらまれていた。」
「至極簡単な問題。サー・セフィロスが絶対零度の怒気をはらんでいました。それをクラウドが簡単に解除しました。クラウド、お前一体…何奴?」
「お、俺はサーの副官で、クラスA扱いの一般兵だけど。」
「問題その2、一般兵からクラスAに上がって、すぐにお前はバイクを新車で買ったよな?たしかあのとき即金で買ったっていっていたが、入隊半年の一般兵何処にそんな収入ある?」
「うっ……。」
クラウドが返答につまった。
困り果てているクラウドの周りをニヤニヤしながらクラスA仲間が取り囲みはじめた。
キースの問いかけに追い打ちをかけるように、ランディが突っ込みを入れた。
「早い話がかなり収入のあるアルバイトでもするか、パトロンがいないと買えない。恋人がパトロンだとしたらそれはお金持ちってことで終わっちまうが、残念ながらお前はあのバイクを自分で買ったと言った。」
「そんな収入のいいアルバイトなど、クラスAの仕事をしながら簡単にできない。まあ、あったとしてもそんなものすぐカンパニーにバレる。」
「問題その3、カンパニーにばれない高収入の副業をもつにはどうしたらいいか。」
「カンパニー自体がそれを斡旋していればいい事だな。」
クラウドはいつの間にかクラスAソルジャー達に壁を背にして囲まれていた。
思わず背中に冷たい物を感じている。
「な、何が言いたいんだよ。」
「結論。おまえが本当のサー・セフィロスの恋人である、違うか?」
「は……?何故そうなるんだ?!」
「違わないだろ?アルテマウェポン襲来の時から不思議に思っていたんだ。なぜ連隊長達がクラウドの事を”姫”と呼んでいるのか…。」
「それは特務隊でもそう呼ばれているからだろう?」
「しかし、俺は見ているんだよな。ジュノン南東の森のミッションだ。誰を庇って倒れたか知らないが、あのサー・セフィロスが立ち上がれないほどの出血を負って担ぎ込まれた。そのとき躍起になってキングにフルケアの魔法をかけようとしていた一般兵がいたよな。」
ユージンが半年前のミッションの事を持ち出してきた。
その時周りに誰が居たのか覚えていないほど取り乱していたクラウドは、真っ青になってユージンの顔を見詰めていた。
「だって、あの時はサーが死にそうで!!」
クラウドが言い訳がましく抗議したのだが、ブライアンが手を上げてその抗議を受け流した。
「治安維持部の軍人である俺達が、そのトップであるサー・セフィロスを心配するような事はない。あの方の強さを嫌と言うほど見ているからな。そんなキングに対して”死にそう”だとか思うのは、失礼にあたると思うぐらいだ。しかしお前は平気でそう思っている、その思いが特別じゃなくてなんなのだ?」
「それは…だってそれは同じ人間なんだもの!万が一って事だってあるだろう?」
「残念だがそれも思った事はない。俺達はキングのそんな弱い所など見たことがないんだ、それこそ考えられない。」
「サー・セフィロスだって俺達と同じ人間だもん、弱い所があって当然じゃない。」
「それを見たことがないからわからない…。と、いうか。おまえにしかみせたことがないんじゃないのか?」
「そ、そんな……。それはそうかもしれないけど…。」
そこまで口走った時、クラウドは思わずハッとした顔をしたが、それを見逃すようなクラスAソルジャーではなかった。
「はい、陥落。」
「あ!!」
”しまった!”と瞬間的に思ったクラウドが思わず溜め息をついた。
しばらくうつむいていた顔をあげた時、クラウドの瞳は迷いが無く澄んでいてまっすぐに皆を見つめていた。
「誘導尋問かよ。まったく、へんに頭がいいな。」
「これでもクラスAのトップをやっていますのでね、楽勝だよ。」
「クラスSがお前の事を姫と呼ぶのは彼らのキングの恋人だからか?」
「それはクラスSの皆さんに聞いて下さい。俺も嫌なんですから。」
「…って事は、俺達が妖精と呼んでいるモデルのクラウディアも、似てるってわけじゃなくて本人か。」
思わず嘆くようにつぶやいたゴードンの言葉に、クラウドが所在なげにうなずいた。
クラウドは今までクラスAの仲間に隠しごとをしていた気まずさでずっと顔を伏せていたが、クラスAソルジャー達はそれ以上追求しないどころかクラウドに対する囲みを解いた。
「やっと全部のピースがつながった。ああ、すっきりした!」
「クラスSがお前に敬語使う理由もこれでわかったし、リックやカイルや連隊長達がかっさらえない理由もわかったな。」
「そしてその白いレザーグローブをはずさない理由もな。」
ランディに指を差されてクラウドがとっさに左手を隠す、その素直な反応が答えを出していた。
その様子を見て思わずブライアンが吹き出した。
「お前って本当可愛いな。そんなんじゃNOって言えないぞ。」
「あ…。」
クラウドの手に嵌められたグローブの理由がすっきりと解ったのかキースが吹き出した。
「まったく、誘導尋問に弱いね。マリッジリングをもらっていて、それを隠すためだろ?だからザックスがたまに旦那って呼ぶんだな。」
キースの言葉にアランとパーシーが顔を見合わせながら話していた。
「って事は俺達の連隊長は上官の奥様に横恋慕してるって事?」
「そう言う事になるな。」
「頭痛てぇ。」
ふとランディがブライアンの顔を見て首をかしげた。
「待てよ。キングとクラウドが入籍した後ならなぜ同じ治安維持部にいるんだ?」
「それは簡単な事だ。キングはトップソルジャーで治安維持部の実質的長だ。この場合移動が有るのならばクラウドということになるが、唯一バハムートを従える事が出来る兵を何処に移動させると言うのだ?誰が考えても答えは一つ、事実を隠して治安維持部に所属させるだろ?」
ブライアンが時計を見るとセフィロスが去ってからすでに30分が経過していた。
ゆっくりとクラウドにみえるように時計を指差して言った。
「まあ、これ以上突っ込んでも仕方がないからな。それよりももうあんな時間だぞ、俺達が氷らされちまうから早く行け。」
「あ…、うん。」
クラウドは特務隊の執務室へと駆けだそうとした、その後ろ姿にランディが声をかける
「頼むから俺達にいじめられたって旦那に泣き付くなよ。」
クラウドはランディの言葉に思わず立ち止まり真っ赤な顔をして怒鳴った。
「もう!!お前達覚えていろよ!!ギッタギタに叩きのめしてやる!!」
「そんな可愛い顔で言われても全く恐くないな。」
「まったく、これだから黙っていたんだ。」
「…だろうね。」
肩をすくめて笑うクラスAソルジャーに、クラウドはぷいっと背中を向けて駆けだして行った。
* * *
特務隊の執務室にクラウドが入るとすぐに、セフィロスに怒鳴りつけた。
「セフィの馬鹿〜〜!!!!」
「い、いきなり馬鹿とは何だ?!」
「あんたがクラスAの執務室で感情を表に出すから、皆にバレちゃったじゃないか!!」
クラウドが泣き叫んでセフィロスの胸に拳をたたきつけているとリック達がまわりを囲んだ。
「隊長〜〜、何をしたのですか?」
「私はクラスAの執務室に行ってクラウドにここに来るように告げただけだ。」
「それが問題なんだよ!!あんな絶対零度の怒気をはらんでおきながら、俺が正面見た途端にその怒気を消すもんでバレるんじゃないか!!」
「あ、あれはお前がエドワードの腕の中にいたからだろう?!」
セフィロスとクラウドの会話を聞いたリックとカイルが、思わず顔を見合わせて吹き出しそうになった。
「隊長がヤキモチ焼いたあげく感情を表に出したのですか?相手はクラスAだ、バレるわな。」
「ああ、奴らだって副隊長だ。それなりに問題点を洗い出して答えを導き出せるだろうな。」
「おかげで俺は連中ににらみつけることすら出来なくなっちゃったじゃないかよ!」
「わ、わかった。わかったからもう泣くな。」
痴話喧嘩の最中にザックスが扉を開けて入ってきた。
「セフィロス〜、クラウド。痴話喧嘩もいいけど扉の前なら丸聞こえだぜ。」
「で、俺達を集めたってことはミッションなんでしょ?」
「ああ、それで皆に集まってもらった。」
クラウドにミッションの指令書を手渡すセフィロスは既にいつもの”氷の英雄”だった。クラウドがミッションの指令書に目を通すと顔を上げる、戦いを前にした男の顔になっていた。
隊員達が整列するとセフィロスとクラウドが前に立つ。
「明日よりジュノンの海底魔晄炉の調査に行く、ミッションタイプCもしくはS。」
「うわ!俺近寄れない。」
「よ、お荷物〜〜」
「うるさい!筋肉ゴリラ!!」
「黙れ!!近寄れないものは後方支援に回れ。ザックスはこれから俺と、海底魔晄炉の事で打ち合わせだ。」
隊員達が一斉に敬礼した。
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