FF ニ次小説
 シルバーメタリックのスポーツカーがコレルエリアを南下していた。後ろから少し丸い形の愛嬌のある車がわたわたと追いかけるように走っている。
 運転席のウィンドウを降ろしてザックスが前方を凄いスピードで走る銀色の車に向かって叫んでいた。
「旦那〜〜!!早すぎ〜〜!!!」
 聞こえる訳がないのに前を走る車に向かって喚き散らしているのを、助手席のエアリスがけらけらと笑っていた。
「私もあっちの車がよかったな〜、カッコいいもん。」
「あんな車レンタルで借りられるかよ〜〜」
「そうね、まだ1stだもんね。クラウド君の三分の一だもんね。」
「うぐっ…。み、見ていろよ〜〜〜、後半年か1年で絶対追いついてやる!!」
「ほんと?クラウド君と同じクラスになるの?!ステキ!ステキ!ステキ!!」
 腕を組んできらきらした目で自分を見るエアリスにこの時ザックスは”必ずクラウドとおんなじクラスAになってやる!”と真面目に思ったのであった。

 一方、前を走るスポーツカーの助手席で、バックミラーをのぞきながらクラウドが思わずつぶやいていた。
「セフィ…、飛ばし過ぎなんじゃないの?」
「ん?ああ、ザックスがぎりぎり付いてこられる速さで走っているから気にするな。」
「うわ〜〜、かわいそう。」

 クラウドの剣を鍛えなおす為、セフィロス達がゴンガガエリアのはずれに住んでいる刀工の所に行く事にしたという話しを聞きつけて、ザックスは彼らと同行する事を条件に、ガスト博士からエアリスを連れてコンガガへ行くことを許されていたのであった。

 バイクで二人乗りして行くわけにもいかないので、レンタカーを一週間借りてからクラウドに打ち明けた。
 もちろんクラウドは即OKしたのであるが、二人で旅行が出来ると思っていたセフィロスは内心面白くない、面白くないがクラウドが喜んでいるので”致し方ない”と我慢していた。

 そんな理由でザックスの借りた車の付いてこられるスピードぎりぎりで、セフィロスはとりあえずの行き先であるゴンガガ目指して走っているのであった。

 ミッドガルから出てほぼ一日がかりでゴンガガまで到着した。
 ザックスがエアリスの肩を抱きセフィロス達を自分の家に案内する。
「俺ん家はあそこ、あんまり大きくないけど両親に会ってってくれよ。」
「私達も行くのか?」
「あったり前だろ、セフィロスもクラウドも俺の上司だけどそのまえに友達だろ?」
「ザックス。」
 変わらず友達として接してくれようとするザックスが、クラウドに取って初めて友達だと言える相手だとこの時思った。

「じゃ、そう言う事で。行くぜ〜〜!」
 ザックスがエアリスを連れて村の北口に立っている自分の家に向かって歩いて行くと、その後を軽く溜め息をついたセフィロスがクラウドと共に歩き出した。
 この時クラウドは思わず違和感を感じた。
 いつもならセフィロスはクラウドの腰を抱き寄せて身体を密着するように、彼を”自分のものである”と主張しているのにこの村に入った途端それが無かったのであった。
 その違和感がなぜか気が付いたクラウドは思わずセフィロスに訪ねた。
「ね、セフィ。もしかしてこの村って。」
「ああ、同性婚は認めてられていない。」
「わかった、じゃあそういう風にするよ。」
 クラウドがセフィロスから一歩下がろうとすると逞しい腕が抱き止めた。
 先程の会話とは真逆の行動にクラウドが首をかしげると、セフィロスはにやりと笑いながら答えた。
「ちょっとまて。この辺にはへんな状態変化をさせるモンスターがいる、お前がタッチミーになどならぬようこれを付けさせてもらうぞ。」

 そういうとセフィロスはクラウドの後ろにまわった。
 いつも首もとで縛っているリボンを取り払い代わりに少し上の方で幅の広いリボンで縛る。
 再びクラウドの正面に戻ってきたセフィロスは満面の笑みを浮かべて言った。
「できたぞ、クラウディア。」
 セフィロスの言葉にクラウドは思わずがっくりする
 触っていたあたりに手をやると大きなリボンが付いていた。
「ひどいや、こんな大きなリボンを付けて。」
「何を泣く、それはありとあらゆる状態変化を防ぐアイテムなんだぞ。それに、お前によく似合っている。」
「そんなの、誉めた事になってないよ。」

 そう言いながら青い目をうるうるさせて上目づかいにセフィロスを見るクラウドは、生成りのざっくりしたセーターにスリムなGパンを履いてはいるがどうしたって可愛い女の子だった。
 セフィロスがクラウドの腰を抱いてザックスの家へと歩いていくと、すれ違う住民達から『うわ…、英雄だ。』『きゃぁ!クラウディアだわ。』と声が聞こえる。
 クラウドは軽くため息を漏らすと、自分に向けて柔らかに微笑んでいるセフィロスにふんわりと微笑んだ。

 少し歩くとザックスとエアリスが一軒の家の前で立ち止まっているのが見えた。
 そこにゆったりと追いつくとクラウドがワザと高い声を出した。

「ごめんなさい、遅くなっちゃって。」
「クラウディア・モードな訳ね。」
 クラウドの高めの声の理由に思いついたザックスは納得するが、エアリスは彼が嫌がっていた事をよく知っているので不思議に思った。
「どうして?嫌なんじゃなかったかしら?」
「仕方ないかもね。こんな田舎だろ、同性婚はまだ認められてないんだよな。」
「ふ〜ん。でも便利ね〜、どっちだってイケルなんて普通出来ないと思うけど。」
「便利って、好きでやってないわよ。」
 拗ねたような声のクラウドをセフィロスがゆるやかに見つめているのをクスリと笑うと ザックスが家の扉を開けた。

「おふくろ〜〜!!帰ってきたぜ〜〜!!」
「ザックス、あんた一体どうしたって言うんだよ?」
「まとまった休暇が取れたんだ。」
 ザックスの母親が目の前の美女達に目を留めたので、エアリスとクラウドがおじぎをして挨拶をした。
「こんにちわ。」
「はじめまして。」

 挨拶をする二人の後ろでセフィロスはただ会釈をしていた。

「まあ、美人さんを3人も連れてこの子は。」
「3人??って、おふくろ〜〜あんな図体のでかい女が普通いるかよ?!あれは俺の上司で友達!」
 エアリスとクラウドがザックスの母親の言葉に思わず顔を見合わせると、どちらかともなく吹き出し抱き合って笑い転げた。
「ザックスのお母さん面白すぎ〜〜!!」
「セフィが美人さんですって、くくくくく!!」

 セフィロスは思わずザックスを小突くとクラウドを抱き寄せて軽く唇を塞いだ。
「笑い過ぎだ、クラウディア。」
「ご、ゴメンナサイ。」
「旦那〜〜。どうでもいいけど、おふくろそういうの慣れてないんだよね。もうちょっと抑えてくれる?」
 セフィロスがちらりと見るとザックスの母親は何処を見て言いのか困ったような顔をしていた。ザックスがエアリスの肩を抱き寄せると少し照れたような顔をして母親に紹介した。

「あの…さ、この子エアリス・ゲインズブルーっていうんだけど、さ。その…俺の未来の嫁さん!!」
 エアリスが頬を染めておじぎをする。
 ザックスの母親が思わず二人を眺めてから家の中に入るようにすすめた。しかしセフィロスとクラウドは入ってこなかった。

「すまんが、今日中に会う約束の人がいる。そちらに先に行く」
「ごめんなさい。」
 そう言うと二人は村外れに泊めておいた車に戻ると、海に向かって走り出した。

 2時間ぐらい走ると海岸線が見えてきた。

 やがて岬のはずれに小さな小屋が見えてくる、どうやらそこが目的地であった。
 セフィロスが扉をノックすると中から一人の老人が出てきたので軽く一礼する。
「お久しぶりです。」
「なんじゃ、おぬしか。何しに来た?」
「剣を鍛えなおしてもらいに来ました。」
「見せて見ろ。」
 セフィロスが正宗を老人に手渡すと老人はあっさりと正宗を一振りした。
 正宗はクラウドの持っている剣と同じで、持ち主を選ぶ事を知っていたクラウドがそれを見てびっくりした。老人はそんなクラウドにかまわずセフィロスに問いかけた。
「なんじゃ、ずいぶん荒い使い方をしておるようじゃの。」
「もう一本、こちらもお願い出来ますか?」
 セフィロスはそう言うとアルテマウェポンから抜いた剣を老人に手渡した。
 老人は同じように一振りした。

「これはおぬしには軽すぎるのではないのか?」
「それはここに居る少年の剣です。」
 セフィロスに紹介されたクラウドを老人が見てびっくりした。
「女と思っておったが、本当にこの剣を振れるのか?」
「はい、良い剣だと思うのですが少し違和感があるのです。」
「違和感?」
「まずマテリア穴があるのにまったくマテリアが成長しないのです。それと…、なぜかわからないのですが疲れている方が攻撃力が上がるみたいで、ウェポンから引き抜いた時よりも召喚して疲れた後の方が軽かったのです。」

 老人はクラウドの言葉を目を丸くしながら聞いていた。

「おぬし、本当にこの剣を振れるようじゃの、それがこの剣の特性じゃ。で、どのように打ち直したいのじゃ?」
「マテリアが成長する事と常に同じ力で攻撃出来るように…です。」
「まあ、やってみよう。その代わりちいと高いぞ。」
「かまわん、どのくらいかかるか?」
「そうじゃの、おぬしの剣は明日にも出来るが、こっちの剣は3日は欲しいのう。」
「わかりました、お願いいたします。4日後にまた参ります。」

 そう言うとセフィロスは一礼してクラウドを誘うと、小屋の外に出て行こうとしたら、老人が後から扉の外に出てきた。

「セフィロス、おぬし変わったのォ。」
「そうですか?」
「ああ、死に場所を求めてさまよっていたおぬしが、なんだか凄く落ち着いている。帰るべき場所が見つかったのかのう?」
「ええ、帰りたい所ならあります。」
「そうか、ならその場所を大切にするのじゃぞ。」
「はい。」

 老人はセフィロスに向かって軽くうなずくとまた小屋へ入って行った。

 再び車に乗ってコンガガまで戻ると村に一軒しかない宿屋に入る。食堂で食事を食べているとそこにザックスが現れた。

「旦那〜〜!何処行ってたんだよ。」
「正宗を鍛えてくれた刀工の所だ。」
「おふくろ、あんた達と食事が出来るって喜んでいたのに。」
「4日ほど暇を潰さねばならん、そのうち会いに行く」
「4日?!こんな何も無い所でどうやって時間を潰すんだよ。」
 ザックスがびっくりしているのをよそ目に、セフィロスがクラウドを見つめて柔らかく微笑みながら話しかけた。
「何処に行きたい?」
「えっと、ゴールドソーサーなんて、ダメ?」
「お前が行きたいのであればどこへでも。」
「俺ッち達も一緒に行っていいか?」
「他人のデートにくっついてくるな!」
「ダブルデートしようぜ!な、クラウディア。」
 ザックスが自分も遊びたくてクラウドを味方に巻き込もうとしているのを悟って、セフィロスが溜め息をつくと、目の前の美少女が飛びっきりの笑顔で答えた。
「おもしろそうですわね。ねぇ〜セフィ ダメ?」
 極上の笑顔で微笑まれて、セフィロスの顔が自然とゆるむのをすかさずザックスが突っ込みを入れる。
「うわ〜〜!!部下には見せられねぇ顔!!」
「うるさい!ゴールドソーサーには一緒に来てよいが、これ以上私とクラウディアの間に入ってくるな!」
 ザックスの顔を片手で押しのけて、セフィロスが怒鳴りつけるのをクラウドはいつものように楽しげに眺めていた。