FF ニ次小説
 ロープーウェイがたくさんの人々を吐き出した。
 その中にひときわ映える美男美女のカップルがいた。神羅の英雄セフィロスとその恋人でモデルのクラウディアであった。
 一緒にロープーウェイに乗れた人々は、プライベイトで訪れているであろう二人を思わずじろじろと眺めてしまい、セフィロスににらみつけられていた。
すぐ近くにザックスとエアリスもいたのであるがごく普通のカップル…いや、こちらも普通よりは美男美女なのだが、セフィロスとクラウディアの影に隠れて、全くと言っていいほど普通のカップルになってしまっていた。

 クラウドが着ているシルクサテンで出来ているエメラルドグリーンのおしゃれなドレスは、デヴィッドがデザインしたクラウディア・ブランドの一点物だった。
 黒いジャケットを羽織ったセフィロスと腕を絡めながら悠然と歩いている。
 入り口で会員証を提示して中に入るとエアリスがクラウドに問いかけた。
「ね〜、何処から行く?」
「俺。チョコボレース!」
「お前に聞いてはおらぬ」
「えっと……。今、武器もマテリアも持っていないからなぁ〜。」
「バトルスクエア?ダメダメ!お前、今世界の妖精なんだからバトルなんてダメ!」
「じゃあイベントスクエアは?」
「あ、ちょうど始まるわ。行きましょ?セフィ。」
「ああ、わかった。」

 4人でイベントスクエアへと入っていくと、入り口でパスポートを見せるといきなり係員が声を出した。

「おめでとうございま〜〜〜ッす!!あなた方がちょうど百組目のお客様です!!って、え?サ…、サー・セフィロス?!しょええええ〜〜!!」
 係員がセフィロスを目の前にしていきなり大声を出した。その声を聞き付けて、イベントスクエアの支配人があわてて飛んできた。
「サ、サー・セフィロス。すみまぜん、うちの者がご無礼でも?」
「いや、何やら百組目の客がどうのと言っていただけだが」
「え?!ではサーが…。大変失礼いたしました。説明いたしますと、このイベントスクエアの目玉として、イベントごとに入館した100組目のお客様にイベントに参加していただいているのです。」
 支配人の説明にザックスが目を輝かせて喜んだ。
「え?!メッチャ、ラッキーじゃん」
「うわ〜〜!!出たい出たい!!クラウディアはどうなの?」
「え?私はサーがお認めになって下さらないと…」
「あんたも出ればいいじゃん。ただの一個人としてな!」
「一個人か、それもよいな。」

 支配人がセフィロスの言葉に硬直した。

「で、では出ていただけるのですか?!」
「二言は無い。」
「ではコチラへどうぞ。」

 うやうやしく4人を支配人が案内した。
 支度部屋に入るとエアリスとクラウドはきらびやかなドレスを着せられて化粧をさせられた。隣に座って化粧されているクラウドを鏡越しに見たエアリスが大喜びした。
「きゃ〜〜!!クラウディア、綺麗!綺麗!!綺麗!!!」

 髪を結い上げて縦巻きロールにコテでクセを付けられ、化粧をしたクラウディアはあまりにも美しい姫君になっていた。
 エアリスも可憐な精霊になっていたのであるがやはりクラウディアの足元にも及ばなかった。

 支度部屋のスタッフも思わず本音を言い合っている。
「うわ〜〜、やっぱり本物のモデルは綺麗ね〜〜」
「この衣装がこんなに似合う人なんて他にいるのかしら?」
 わいわいと支度をしていると、ADがやってきて衣装を着込んだ二人に軽く舞台進行の説明をしはじめた。
「二人とも打ち合わせ行くよ。話は簡単、クラウディアさんは王女様。悪魔に魅入られて人身御供になる所を勇者が助けに来る。で、勇者が悪魔と対決。勇者が悪魔にやられる寸前に姫が身を挺して守るの。自分を守って傷ついた姫を勇者が抱きしめると悪魔が愛の力で消える。そこへエアリスさんが現れてその杖を一振りすると、姫は傷一つ無く生き返ってハッピーエンド。」

 その説明にクラウドは思わず聞いてしまった。
「ま、まさか。勇者様がセフィで、悪魔がザックス?」
「あたり〜〜、あまりにも衣装がぴったりなのよ〜あのお二人!!」
 クラウドが頬を赤くすると同時にエアリスが思わず吹き出した。
「それ、今考えたお話しじゃないでしょうね?」
「まさか、たった今考えて衣装がすぐ用意出来ませんよ。」
 その時、舞台の袖の方から『本番1分前!』と声がかかった。
 クラウドがADに言われた通り舞台中央に座ると、まわりに王様役、王妃役のキャストが集まりはじめ、支度が整ったところでADがカウントダウンを始めた。

『本番5秒前!4、3』
 あとはADが指で2、1と指すとくるりと腕を回したと同時に緞帳が空いた。

 ナレーターが劇の進行を始めた。
「ここはかなり昔のとあある小国、この国には大陸1美しいと評判の姫君がいました。」

 王様役のスタッフが唄いながらセリフを言いはじめる。
「おお〜〜美しき我が娘クラウディア。お前の美しさに魅入られた悪魔が、お前をよこさないと国を滅ぼすと言うのだ〜〜〜」
「無力な私達をゆるしておくれ〜〜」
 あらかじめ教えられていたセリフを思いっきり棒読み状態でクラウドが口に出した。
「いいえお母様、お父様。クラウディアはお父様お母さまが、この国の人々が好きであります。国の人たちのために私は参ります。」
「あな悔しや〜〜どこかに強い勇者はおらぬものか〜〜」
「ただいまおふれを出しておりますが、魔王相手と言うのでどなたも来ませぬ〜」
「ああ〜〜、風の噂に聞く勇者セフィロス様さえこの国に居て下されば〜〜」
「泣くな王妃〜〜、泣くとクラウディアとの別れが辛くなる〜〜ルルル〜〜」
「ああ。お父様〜お母さま。」

 舞台の中央で王様役とお后役とクラウドの3人が丸くなって泣くふりをしていると、舞台が暗くなりドライアイスのスモークと共に黒いマントを羽織ってザックスが登場した、ADが言った通り凄くはまり役であった。

「ガハハハハハ!!おお、これは美しい姫だ。我こそは魔界の王!お前のような美しい姫を探しておったのじゃ〜〜〜!!」

 与えられたセリフを言うとザックスは改めて座っているクラウドを見た。
 胸まである金髪を綺麗に結い上げて頭には輝くティアラ、白い肌に映える薄い藤色のドレスはたくさんのフリルとギャザーのついたお姫様仕様、ほのかに施された化粧のおかげでとてつもなく綺麗だった。

 (やっべ〜〜!!マジで惚れそう!!)

 ザックスは言われていた通りゆっくりとマントを広げてクラウドに近寄った。
「さあ、来るのだクラウディア姫。」
 クラウドがゆっくりと立ち上がりまっすぐザックスに向かって歩こうとしたら、いきなりBGMが鳴り響き奈落の底からセフィロスがせり上がってきた。

「待て、お前は私が退治してやる!」

 クラウドはセフィロスの姿をうっとりとした表情で見つめていた。
 RPGの主人公よろしく赤いマントをまといどこかの王子様のような姿は全く隙がなかった。

 完全に役になり切っているのか、ザックスがおおげさな素振りでセフィロスを見下したような言葉を言った。
「小賢しいわ、たかが人間が魔王である私に勝てると思っておるのか!?」
「クックック、いい気になるなよ。」
 いつものように冷淡な笑みを浮かべると、そう言いながらセフィロスが腰に帯びた剣(もちろん偽物)をはらりと抜いた。
 ザックスはその姿を見て思わず背中に冷たい物を感じた。

 (うわ〜〜〜、マジですぜ旦那〜〜!!)

 下段に剣を構えたセフィロスから発せられるオーラは本物だった。クラウドが思わずセフィロスに見とれてポ〜っとした表情で立っていた。

 セフィロスが偽物の刀を自分に向けて振り上げるのを見ると、あわててマントで振り払いながらザックスが悲鳴を上げた。
「うわ〜〜!!旦那!!マジでやんないでよ!!」
「うるさい!貴様、私のクラウディアに見惚れていただろ?!」
「だれが!?俺にはエアリスがいるだろうが〜〜!!」
「ちょ、ちょっとセフィ。それにザックス、こんな所で!!」
 役上セフィロスを庇う立場のクラウドが偶然とはいえ二人の間に割って入った。だが、セフィロスが左腕に抱きかかえてしまいザックスにぴたりと正宗(偽物)を突きつけた。

「覚悟を決めてもらおうか。」
「しょえ〜〜〜!!!だからお遊戯でマジになるなよ〜〜!!」
「知らなかったのか?私は戦いのときはいつでも本気だ。」
「うひゃ!!!」

 セフィロスは左腕でクラウドを抱き寄せているとはいえ、英雄と呼ばれているほどの男だ、ザックスに正確に攻撃をくわえようとするが彼も1stソルジャーの端くれ、いや、日ごろセフィロスの正宗の餌食になっている経験か見事なまでに避けまくる。
「こら!筋肉ゴリラ!そう逃げ回るな!」
「じょ、冗談じゃない!!俺はまだ死にたくないよ〜〜!!エアリス〜〜!!」
 ザックスの悲鳴と共にエアリスが呆れたように現れた。

「うん、もう。お話しがメチャクチャじゃないのどう終わらせればいいのよ!?」
 エアリスの言葉に客席から爆笑が巻き起こった。
 乗りやすいザックスが思わずピース・サインで答えるとエアリスが持っている杖で小突いた。
「もう、ザックス!おふざけが過ぎるわよ!!」
「いってぇなぁ〜〜まったく俺の女神は誰の味方なんだよ〜〜」

 後ろであっけにとられている王様役がやっと元に戻す筋を思いついたのか突っ込みを入れた。
「なんじゃ、魔王殿は既に女神様と言う奥方が見えるのにクラウディア姫に見とれていたと言うのか〜〜」
 終らせ方を敏感に感じ取ったのかエアリスがザックスに振り返った。
「ザックス〜〜?どう言う事かしら?」

 エアリスが持っている杖を握り締め満面の笑みを浮かべている、その笑顔に思わずザックスは背中に冷たい物を感じた。
「え?あ…。」
「浮気はしないって言ってたじゃないの〜〜ひど〜〜い!!!」

 エアリスがザックスめがけて杖を振り回しながら追いかけると、ザックスはひたすら謝りながら舞台袖へとずるずると下がって行った。
「う、浮気なんてしてねェよ!!俺はエアリスが一番なの!!」
「あなたっていっつもそうでしょ?!可愛い女の子がいるとついつい目が行ってるわよ!」
「それは男の摂理ってもんで……、ぎゃぁああああ!!」

 ザックスとエアリスの痴話喧嘩を生でみていたクラウドはその場で固まっていたが、いつのまにかセフィロスに抱きしめられているのに気がつくとふと顔をあげた。
 セフィロスと目が合うと思わずクラウドが問いかけた。
「ねぇ…セフィは…。しないよね?浮気。」
「何度言えばわかる?愛しているのはお前だけだ。」
「うれしい。」

 クラウドが背伸びをしてセフィロスの唇に軽く振れると、お返しとばかりセフィロスが深い口づけを始めた。
 舞台中央で完璧二人の世界に突入をしているセフィロスと、クラウドを見てザックスがADに声をかけた。

「早く幕引かないといつまでたっても終わんないぜ。」
「え?あ…。は、はい。」
 あわててADがボタンを押すと緞帳が降りてきた。

 舞台中央でまだ口づけを交わしているセフィロスとクラウドをザックスが控え室に引きずってくる。
 舞台そででエアリスが待っていた。

「ザックス、本当にクラウディアに見とれていたの?」
「う〜ん、ちょっとはな。でもエアリスの方が可愛かったよ。」
「本当?!」
「本当、本当。だって俺の女神って言っただろ?」
 ザックスがエアリスを抱き寄せてほおずりしていた。

 クラウドは青い瞳をうるませてうつむきかげんにセフィロスを見つめていた。
「セフィ…。」
 セフィロスはクラウドを抱きしめると耳元でささやいた。
「悪くはないな。」
 そう言うとクラウドの腰を抱きザックスたちに振り返った。
「で?次は何処に行きたい?」
「旦那〜〜やたらやる気じゃん。どうしたん?」
「いや、こうして遊ぶのも悪くないなと思っただけだ。」
「じゃあね〜、スピードスクエア!!」
「何があるの?」
「コースターに乗ってシューティングだぜ。」
「ええ?!そんなの…の、乗れない。」
「何かに集中していれば酔う事はない。それにお前の射撃の腕もみたいな。」
 耳元で囁かれてクラウドは真っ赤になってうなずいた。
「え…。あ、うん。」
その可愛らしい顔にセフィロスは満面の笑みを浮かべて、スピードスクエアへと歩いて行った。