ホワイトデーにザックスにもらった指輪を眺めながら、エアリスは思わず顔がにやけていた。
小振りだがダイヤモンドが付いているおしゃれなデザインで、その指輪を見るたびコレをくれた時のザックスの顔が思い出された。
今までになく真剣で、それでいて少し照れたような…素敵な表情で、ポケットからさり気に取り出して、いきなり左手を取ったかと思うと、さっと薬指にはめて彼の思いを伝えてくれたのであった。
「俺、絶対エアリスを嫁さんにするつもりでいるから、エアリスもそのつもりでいてくれよ。」
そう言って優しくキスしてくれたザックスを思い出しては、エアリスは頬を赤らめたりはしゃいだりと、くるくると表情を変えていた。
そんな愛娘の態度にガスト博士とイファルナは嬉しさ半分寂しさ半分だった。
「まったく、エアリスはそんなにあの彼が好きなのか。ちょっと前まではパパ、パパって私を追いかけていたのに〜〜」
「もう、あなたは…。娘なんてそんなものですよ。」
あきれたような妻の言葉にガスト博士は溜め息をつきながら、自分の仕事を早く完成させねばと、新たに決心をした…。その時だった。
娘の部屋から悲鳴のような声が聞こえたのであった。
「きゃあああ〜〜〜!!!素的!綺麗!!カッコイイ!!!」
隣の部屋でTVを見ていたはずなのだが、何事かと思い夫妻があわてて駆け込むと、エアリスはTVを見ながらうっとりと画面を見つめていた。
画面には可憐で清楚な花嫁が青い瞳に涙を浮かべながら幸せそうに微笑んでいた。
「エアリス、何を騒いでいたのかね?」
「あ、パパ。私結婚するならシェフォードホテルで結婚式あげるからね!」
「エ、エアリス!!ザックス君とはもうそんな話が出ているのかね?!」
「え?違うわよ。今の花嫁誰だかわからなかった?クラウド君よ。すんごく綺麗だったの〜〜!!セフィロスと二人でCMに出てたんだけど、それがシェフォードホテルのブライダルサロンのCMだったのよ〜〜!!マダムセシルのプロデュースなんだって、憧れちゃうな〜〜!!」
ガスト博士は娘の言葉に一気に気が抜けた。
自分とてザックスの気質が好きで、エアリスと付き合う事を許していたが、可愛い一人娘を嫁に出すのはまだ考えられなかったのかいきなりの発言に一気に”娘を取られてたまるか!”となりかけたのであった。
しかしエアリスがガスト博士に照れながらザックスに言われた言葉を話した。
「あ…でも、ザックス”絶対私をお嫁さんにするから”って言ってくれたよ。」
頬を染めながら左手薬指の指輪を見ているエアリスにガスト博士は放心状態だった。
後ろで見ていた母親のイファルナが思わず吹き出した。
「あなた。覚悟しないといけない事になっちゃいましたね。」
「うう〜〜〜!!俺は認めんぞ!」
ガスト博士の剣幕にエアリスが思わず涙ぐんだ。
「パパ…、そんなにザックスが嫌いなの?」
「うぐっ!!」
「パパはね、お前を連れて行ってしまう男の人は、みんな嫌いになる人なの。」
「そんなー!それじゃ私、誰とも結婚出来ないじゃない!」
「うぐぐぐぐ……。」
妻にキツい所を突っ込まれて真っ赤になって口ごもる。
神羅カンパニー科学部門統括としての顔とは全く違う子煩悩な父親は、結局は娘には一番弱く、涙を浮かべて困った顔をしている愛娘をみて、諦めに似た溜め息をつくしかなかったのであった。
* * *
翌日。いつものようにカンパニーに出社したクラウドはクラスA執務室に入ると、自分の机に向かってたまっている書類を整理始めた。
同じように入ってきたキースとゴードンがそんなクラウドを見て声をかけた。
「おはよう、姫。今日も仕事熱心だね。」
「どうせどこかのクラス1stが書類溜めているんだろ?」
「当たり、アイツ書類の提出日を何だと思ってんだろ?」
「相変わらずだなぁ、もうちょっとしごいてやるか?」
「腕だけはいいんだけどなぁ、あいつ事務処理能力無いからね。」
「誉められてるんだかけなされているんだか。」
「こんなに皆に認められてるのだから早く上がってくればいいのに。」
「あー、それも困るな。リックだけでなくザックスまで上がってきたら俺達どうなる?」
キースの一言にクラスAが輪になって討議を始めた。
「リックに勝てると思う奴、いるか?」
「冗談じゃない、あいつが実力出せば俺達なんて一ひねりだろう?」
「パーシーでもダメか?ではザックスはどうだ?」
ブライアンの問いかけにランディが答える。
「エディならなんとか勝てるんじゃないか?」
「俺か?どうしてだよ、俺は輸送部隊の副官だぞ。」
「この所クラスAで何かあるとリックにいちゃもん付けられているだろ?」
「姫のお相手に思われているからなぁ…、可哀想に。」
「実際はキングなんだろう?何故俺じゃなくて直接キングに向けないんだ?」
「あー、それは無理。あいつの実態を知らないからそんな事を言うんだ。」
スティーブの思わぬ一言にクラスAがざわめいた。
クラウドが小首を傾げて問いかけた。
「リックの実態?」
「なんだ、姫もわからないのか。まあ、仕方がないか。あいつが特務隊・影の隊長と呼ばれる由縁は、憧れのソルジャーの真似をしているからなんだよ。」
「…って事は、リックの憧れの人ってセフィロス?」
「そう言う事。お前に惚れた何て言っているが、あいつは実際はメチャクチャストレートな奴で、男なんて恋愛対象にはならないはずだ。それをあえて公言する理由は一つ。憧れのキングの真似をし、なおかつその恋人であるお前を守るためだ。」
「うわ〜〜〜、ハンスも真っ青なセフィロス・フリーク!!」
「俺、一度あいつと同じ寮になったことあるんだ。その時にあいつの身の回りの物がキングの持っていると公表されている物とほとんど一緒でさ、メチャクチャマニアだって知ったんだ。」
「へぇ〜〜、知らなかった!!」
クラスAソルジャー達がスティーブの言葉に驚くと同時に、その行動の理由が余りにもあてはまっていたので全員が納得して笑っていた。
そこへランスロットとパーシヴァルが入ってきたので、クラスAソルジャー達が一斉に敬礼をした。
パーシヴァルの副官であるアランが上官達に問いかけた。
「連帯長殿、本日は何の御用でしょうか?」
「ああ、ちょっと姫を借りて行っていいかね?」
「え?自分に何の御用でしょうか?」
「副業の方でちょっと困った事が起こっているんですよ。」
「姫の副業って、お前また何か尻尾つかまれたのか?」
「そんなヘマするかよ!」
ランスロットがクラウドとブライアンの会話を聞いてびっくりして思わず聞いた。
「ブライアン、姫の副業が何か知っているのか?」
「クラスA全員が知ってますよ、姫のお相手も誰だかわかってます。」
ブライアンの言葉にびっくりしてランスロットがクラウドに聞いた。
「まさか?!話されたのですか?」
「いいえ、誰かさんのおかげでバレちゃったんです。」
「ちょいと自分が姫を抱きしめている時にこちらにいらっしゃった時です。絶対零度の怒気をはらみながら、姫を見た途端コロッと態度を変えるんですよ。」
「それは誤魔化せんな。」
「ええ、バレバレでしょう。」
「しかし姫は姫です。たとえ上官の奥様であろうと、自分達の仲間である事には変りません」
クラウドはブライアンの言葉に嬉しくなって思わず微笑んでいた。
その笑顔にランディがクラウドを抱き寄せて、頭をわしゃわしゃと撫でる。
「こんなに可愛い子と一緒に仕事出来るならそんな事無視です。」
ランディの言葉に思わずクラウドが拗ねたような顔をした。
「俺は、一体なんなんだよ?!」
「俺達クラスAのアイドルだって前から言ってるだろ?」
クラスA仲間の笑顔ににクラウドが溜め息をつくと、ランスロット達に向き合った。
「それで、副業で困ったことって一体なんでしょうか?」
「ああ、それなんだかね。キングが君のスタッフに奪われそうなんだよ。」
「はぁ?!」
「今、社長室に行ってみえるんだけどね、例のCMの反響がかなりあるらしいんだよ。」
クラウドは頭を抱えながらうなずいた。
「隊長殿も英雄と呼ばれる男ですから、引き合いも沢山来るでしょうけど。ルーファウス社長がどう出るか…。ともかく行ってきます。」
そう言うとクラウドは二人の上官に敬礼し、カンパニー本社69Fに向けて早足で歩いて行った。
歩きながらルーファウスの携帯に電話をかけると4コール目で出た。
「クラウドです。そちらに隊長が居るとお聞きしましたが。」
「ああ、いい所でかけてきてくれたよ。今、呼び出そうとした所だ。」
「では、そちらに行けばよろしいですか?」
「そうだね、少し相談したい事があるからそのつもりで。」
「アイ・サー!」
クラウドは携帯をたたんで本社ビルへと走り出した
* * *
本社ビル69Fに到着し社長室をノックする。扉のむこうにはルーファウスとセフィロス以外に、クラウディアのマネージャーのティモシーがいた。
ティモシーがクラウドに気が付いて立ち上がった。
「あ、クラウディア。貴方も来てくれたのですか?」
「カンパニーの中では部下の手前本名で呼んで下さい。」
「ああ、すみませんクラウド君。ついクセで。」
苦笑するティモシーを横目にルーファウスがクラウドに問いかけた。
「クラウド、単刀直入に聞く。サー・セフィロスをモデルに出来るか?」
「仕事が半減すれば可能ですね、しかし隊長殿は多忙でそんな暇有りません。」
「ハイデッカーがもう少し仕事をしてくれればよいんだがな、ティモシー、そういう理由で今は出来ない。」
「クラウド君みたいにイメージモデルや写真モデルだけでもよいと、かなりの業種の会社からアタックが来ているんですけど。」
ティモシーが契約依頼書の束を見せると、受け取ったクラウドが一通り目を通す、有名高級腕時計、有名高級車、有名紳士服メーカー、一通りの名前が通ったブランドのデザイナー達からの契約依頼書だった。
「うわ、凄い。俺がデビューした直後よりも多くて有名どころばかりだ。」
「サー・セフィロスは”英雄”とすら呼ばれている方ですから、そんな方をモデルに使えるとあらば、ブランドに取ってプラスにしかなりません。」
クラウドが書類の束をティモシーに返してセフィロスを振り返った。
「少しは俺の気持ちがわかった?」
「ああ、嫌ってほどわかったよ。」
セフィロスが溜め息をつくとルーファウスに向き合った。
「今の仕事を半減してくれたら考えてもよいぞ。」
「今の言葉忘れるなよ。」
「貴様にそんな事出来るのか?」
「ハイデッカーには統括を降りてもらうつもりだったし、魔晄の力を使わないシステムが出来れば反抗勢力が半減する。治安部も人員削減するであろうな、その時は君にもモデルでもやって稼いでもらうよ。」
ルーファウスが嫌みな笑顔を浮かべ、セフィロスは思わず舌打ちをした。
「ガスト博士の実験がうまくいかない事を祈っているよ。」
そう言うとセフィロスはクラウドを伴って社長室から出て行った。
残されたルーファウスはティモシーに契約依頼書を見せてもらっていた。書類を二つの山に別けて多い方の書類を返すと冷静な態度で言い切った。
「私が知る限りそっちの束のブランドはセフィロスが使っていない所だ。別ブランドを愛用しているので諦めろと言え。こっちは時間をかけて口説くことになる事を許可した所だけを残せ。」
「わかりました。」
ティモシーはルーファウスに一礼をすると社長室を出て行った。
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