FF ニ次小説

 ミッドガルのとあるスタジオに、クラウドはまわりを見ながらこっそりと入って行った。
 クラスAの白いロングを着ているため、跡を付けてこられたら、自分がクラウディアである事を反抗勢力だけでなく、マスコミにもばらしてしまうことになる。
 あくまでクラウディアは女性でないと、セフィロスのためにならないと思っていたからだった。

 スタジオに入ると真っ先にスタイリストのところへ行き、その日の衣装に着替える。化粧をするといつものように特攻服と武器をカバンに隠し、振り返ってスタイリストにカバンを預けて一緒に控え室を出ると、スタッフに挨拶に歩いて行く。
「クラウディアです、よろしくお願いいたします。」
「コチラこそよろしく、今日の撮影はちょっとアクション入っているけど大丈夫ですか?」
「ええっと、どういったものでしょうか?」
 クラウドが可愛らしく小首を傾げているのでミッシェルが思わず見惚れてしまう、撮影スタッフがレイピアを持ってきて今日のCMの内容を話しはじめた。
「ちょっと剣舞をしてほしいのです。」
「剣技ならサーに少し手ほどきを受けていますので大丈夫ですわ。」
「それなら大丈夫でしょう、ではお願いいたします。」
 撮影スタッフがレイピアをクラウドに手渡してスタンバイに入った。
 スタジオには古代の遺跡を模した柱が何本か立っている、クラウディアの格好は神話風のドレープが沢さん入ったもので、髪はアップにして横の髪を少し残しウェーブをかけてある。
 その姿はまるで神話の女神のような格好であった。

 ゆったりとクラウディアがセットのまん中に立ちレイピアを下段の構えに構えると、それまでほんわりとしていた彼女の雰囲気が急に変わった。
 剣を振るうクラウディアは戦う女神の様だった。
 にっこりと笑いながら剣を優雅に振るうその姿にスタッフが見とれているが、クラウディアの顔が少し曇ったのですかさず近寄った。
「どうしたの?クラウディア。」
「ええ、剣が少し軽すぎて…調子が出ないのです。」
 撮影スタッフがその言葉にびっくりした、なぜならクラウディアに渡した剣は、刃先こそつぶしてあるとはいえ本物の剣で、これを研げば実際に戦闘で使える物だったからである。
「クラウディア…。軽いって、その剣、本物だよ。」
「サーが剣を教えて下さった時に使った剣はミスリルソードだったのです。この剣の倍の重さは有りましたわ、だからだと思います。」
 クラウドが自分の本当の職業を誤魔化すためにわざと嘘をついた。
 撮影スタッフも目の前のモデルの恋のお相手が”英雄”サー・セフィロスと言う事を知っているので、クラウディアの話しを真に受けた。

 なんとか軽い剣で撮影をしようとしていたら、飲み物を買いだしに行こうとしたスタッフが、あわててスタジオに戻ってきた。

「た、大変です!!まわりをすっかり囲まれています!!」
「な、何故だ?!」
あわてふためくスタッフを尻目にクラウドがすっと立ち上がった。
「彼らの目的は私です。サー・セフィロスのフィアンセである私を拉致なり監禁すれば、サーの命取りになると思っているからでしょう。でも、彼らは一つだけ誤解をしているようですね。」
「え?!」
「私はサーのご迷惑になるつもりはありません。そのためにサーに剣技や組み手を教えていただいているのです。大丈夫、なんとかなりますわ。」
 クラウドが艶やかににっこり笑うと、スタイリストからカバンを受け取り、中に隠してあったアルテマウェポンを取り出すのでミッシェルが心配げに声をかけた。
「お願いよ。怪我だけはしないでね。」
「俺がそんなヘマすると思う?ミッシェルはティモシー達とTVクルーを危なくない所まで引きずって行ってくれる?」
「もう、本当に戦士なんだから。」
 ぶつぶつ文句を言いながらもミッシェルがティモシーのところへ行くのを見送ると、クリスタルバングルを腕にはめ、アルテマウェポンを片手に撮影衣装のまま戻る。
 クラウドの手に握られていた大振りの両刃剣をみてスタッフがびっくりした。
「ど、どうしたのですか?その剣は。」
「これですか?サーに頂いたのです、万が一のときはコレで身を守れと。」
 そういうと恐がる事なく出口へと歩いて行った。その凛とした姿はまさに戦いの女神そのものであった。

 マネージャーのティモシーがどこかから戻ってくると、クラウドの横に立ってささやいた。
「サー・セフィロスには連絡を付けました。10分で来るそうです。」
「10分ですか、終わっちゃうだろうな。」
「お願いですから足蹴リだけはやらないで下さいね。」
「ピンヒールで蹴り入れると効くんだけどなあ…。」
「ダメダメ!世界の妖精がそんなはしたない真似をしてはいけません。」
「はぁーい。」

 クラウディアが自分のスタッフに説得されて出て行くのをやめると思っていたが、見守っていたCMを発注したスタッフが再びクラウディアが外に出て行くのを見てびっくりして止めようとする。
「ク、クラウディアさん、今外に出たら危ないですよ!!」
「大丈夫です、あの人達の目的は私。まさかモデルの私が持っているこんな大振りの剣を本物だなどと思いませんわ。」
 そう言うと婉然とした笑みを残し扉の外に出て行った。
 扉の外ではまさかクラウディア本人が撮影途中で出てくるとは思っていなかったので、あわてて反抗勢力が拉致しようと飛び出して来た。
 軽くクラウディアの剣が一閃すると持っている武器を正確に攻撃していた。

 その正確な攻撃に扉のすき間から撮影スタッフが唖然として見つめていた。
 ドレスのすそをひるがえしながら悠然と舞い踊るような姿を、いつの間にかカメラクルーが撮影していたのをクラウドも視野の端で確認していた。
(うわ!!撮影してるよ!マジで足蹴リ出来ないじゃん!!)

 そう思いながら4、5人の屈強な男相手に一歩も引かずに剣をふるっていた。
 武器をたたき落とす時にピンポイントでファイガをこっそりとかけているので、ほとんどの武器は二度と使えない状態になっていたので、不思議そうな顔で反抗勢力が焼けこげた武器を見つめている。

 使えない武器をすてて素手で組みかかる者も出はじめた。
 埒が明かないのでクラウドは利き腕を軽く剣で攻撃しはじめた。
 命に別状が無い程度にかかってくる男共の利き腕を正確に傷つけて行くと、その正確さに反抗勢力のリーダーが目を点にさせていた。

 10分経過してセフィロスが特務隊を連れてやってきた時は、すでに戦闘は終わっていた。

 片腕を抑えてうずくまっている男共をロープで縛り上げて、クラウドは優雅にアルテマウェポンを反抗グループに突きつけながらにっこり微笑んで話していた。

「あなた方もおかしな人たちですのね?私がサーから身を守る術を何も教わっていないとでも思っていらしたのですか?」
「う、うるせー!!下手なソルジャーより強いなんて誰が思うか!!」
 反抗勢力の言葉にクラウドが天使のような笑顔を向けた。
「お誉めの言葉ありがとうございます。」
 そこにセフィロスがゆったりと歩いてきた、クラウドがそれを見付けるとはにかむような笑顔を向けた。
「やはり終わっていたかね?」
「ええ、サーのおかげです。」
「あまり剣を教えるのも考え物だな。」
 苦笑いをしながらセフィロスがクラウディアをスタッフへと手渡すためにエスコートをする横で、リック達がロープでくくられている反抗勢力を連れて行った。

 セフィロスがクラウドをエスコートしてスタジオに入ってくると、入り口でカメラを回しているクルーに向かって冷たい視線を送る。
「その画像は没収させてもらう。」
「す、すみませんでした!!」

 クラウディアのスタッフがクラウドのまわりに集まってくると、ミッシェルが乱れた髪をもう一度治し、CMの撮影にもう一度入ろうとした。
 セフィロスがそれを見て帰ろうとするとクラウドがいきなり涙目になる。
「も、もう帰られるんですの?」
「付き合ってやりたいが私にも仕事があるのでな、その代わりと言ってはなんだが、夕食は一緒に食べられそうだ。」
「ほ、本当ですの?!私一生懸命作って待ってます。」
 頬を染めてうるんだ瞳でクラウドに見つめられてセフィロスは思わず抱き寄せて軽く唇をあわせた、そして優しげな瞳で微笑むといつもの”英雄”に戻りカンパニーへと帰っていった。

 クラウドが思わず溜め息をついて撮影スタッフに振り返った。
「あと、どのくらいかかりそうですの?」
「えっと、先程データーを没収されたので、最初からになります。」
 すかさずマネージャーのティモシーが突っ込みを入れる。
「余計な事をするから時間が伸びちゃったじゃないですか。3時から雑誌の対談があるのでそれまでに終わっていただけますか?」
「は、はい。クラウディアさんの剣の腕なら一回で十分です!!」
「そう?じゃあ早くすませましょう。サーのお食事を早く作りたいわ。」
 幸せそうに微笑むクラウディアの笑顔にスタッフは呆然と見入っていた。
 一発でCMの撮りを終えると服を着替えて雑誌の対談場所へと移動すると、スタイリストが選んだ服はクラウディアブランドの一点物。化粧を少し施して約束の場所に付くと雑誌の担当者がそこにいた。

「あ、クラウディア。こちらへお願いいたします。」

 言われた通りにテーブルに付くと目の前にはアイスティーと可愛らしいケーキがおいてあったが、用心のため手をつけないでいると担当者が不審がった。
「どうしたんですか?美味しいですよ。」
「あ、いえ。実は先程サーを敵視する方々に包囲されて…サーのおかげで無事に済んだのですが、そんな理由で今自分で選んだ物以外、食べてはいけないと言われているんですの。」

 雑誌の担当が一瞬びっくりした顔をした。
 しかしその話がどうやら本当なのかクラウディアのスタッフが青い顔をしていたので、マネージャーに問いかける。
「マネージャーさん本当なのですか?」
「ええ、先程のスタジオの外を封鎖されてもう少しで監禁される所でした。」
「私がサーとお付き合いさせていただいている限りこういう事が何度もありますの。以前もグラスランドで拉致されかけましたもの。」

 わざと伏し目がちにクラウドがつぶやくと担当がぐうの音も出なくなった。
「それでもサー・セフィロスを?」
「はい、あの方が望まれる限りおそばに居たいと思っております。」
 あいかわらずほのかに頬を赤く染めうるんだ青い瞳で天使のような笑みを浮かべ、揺るぎのない姿勢でまっすぐ見つめるクラウドに担当者は見惚れていた。
 そして笑顔でうなずき言葉を継いだ。
「そこまでサーの事を思っていらっしゃるんですね。」
「はい、私の全てはサーと共に有ります。」
 カメラマンが思わずシャッターを切っていた、それほどクラウディアの笑顔は今まで見た事ないほど美しかった。