FF ニ次小説


 マダムセシルの言葉がクラウドの心を揺さぶっていた。

(セフィロスを独占している??そ、そう言われると……そうかもしれないけど……)

 クラウドが口ごもってしまった所に店員が思わず声をかけた。
「神羅の英雄と言われ世界中の女の子の憧れであるサー・セフィロスが、ドレス選ぶのにつき会ってくださるというだけでも、クラウディアさんがサーに取って特別な人である証拠ではないですか?私の彼なんて服を選ぶのにつき会ってなんてくれないんですよ。」
 店員の言葉にクラウドが更に赤くなりながら、セフィロスを上目づかいで見上げ、恥ずかしげに隠れるように更衣室の中へ戻ってしまった。
 そんなクラウドの様子にマダムは笑顔でセフィロスに話しかけた。
「もう、クラウディアったら。照れちゃって……」
「クックック、本当に可愛いであろう?知り合ってすでに一年たとうというのに変わらないままなのだ。」
「サー、どこから聞いてもそれは”惚気ている”としか聞こえませんわよ。」
「ふふふ……そうだな。認めたくはないが、そうなるのであろうな。」
 セフィロスが独り言のようにつぶやいていると、試着室のカーテンが開きクラウドが真っ赤になったままもともと来ていた服に着替えてドレスを片手に出てきた。

こ……これが……   い、いいな
「そうか。では、マダム頼んだよ。」
 そう言ってセフィロスがポケットからカードを取り出してマダムに手渡すと、一礼してマダムがそのカードから代金を引き落とす手続きを取った。その間にセフィロスがパーティー会場となっているホテルの一室を抑えると、ほぼ同時にクラウドが自分のスタイリストに電話を入れていた。

「あ、ミッシェル?クラウディアですけど……ええ。シェフォードホテルでのパーティーに出席するんだけど、メイクとヘアーをお願いしたいの。ええ、お部屋はセフィが。あ、うん、ありがとう。」

 携帯をたたみ終わるとセフィロスに目で合図をする。
 すかさずセフィロスがクラウドの腰を抱き寄せるようにして歩きはじめた。

 マダムセシルがゆっくりと店の前まで出ると二人が車に乗り込み、走り去っていくまで見送っていた。


 シェフォードホテルのスウィートルームでクラウディア・スタッフのミッシェルが待っていた。
 クラウドからドレスとアクセサリーを受け取るとミッシェルがびっくりする。

「うわ!!クラウディア。こんなに胸の開いたドレスを着るつもり?」
「あ、それならガスト博士がこんなもの作ってくれたんだ。」
 クラウドはバッグの中から袋に入った物をとり出すと袋を開ける。中にはふよふよとした手ざわりのモノが二つ入っていた。
「うわ、これってもしかして……」
 クラウドが真っ赤になりながらうなずいた。
「結構リアルでしょ?このところ仕事絡みでクラウディアになることが多いからダメもとで頼んで見たら、予想以上に博士がのっちゃって……乳がん患者の為にもいいって、コピーライト取っちゃってるんだ。」
「そんないいものがあったら、今度の仕事からちょっと胸の開いた服もOKにしちゃうからね。私も欲しいわ。」
「じゃあ、着替えるから待っててね。」
 クラウドがドレスと偽乳房を持って隣の部屋に入るのを見送ると、思わずセフィロスが苦笑を抑え切れずにいたのか、珍しく笑っていた。
「まったく、あのガスト博士ともあろう方が……クックック。」
 科学部門統括のガスト・ゲインズブルー・ファレミス博士は、セフィロスに取って堅物と言うイメージしかなかった。その堅物だったはずの博士が偽の乳房を作ったり、あまつさえ同性同士の遺伝子を組み合わせて、クローンコピーの要領で赤ん坊を作り出そうなどと考えたり、それを実行するような人物には思えなかった。
「人と言うのは、変われば変わるものだな。」
 そんなセフィロスの独り言を、スタイリストのミッシェルが笑いながら受けた。
「サー・セフィロス。他人の事など言えませんよ。私からみればあなた様もずいぶん変わられました。」
「…………。」
 何も言わないで首をかしげているセフィロスにミッシェルが苦笑を漏らす、その苦笑を横目で捕らえながらも悪い気はしない自分がいるのに驚いていた。

(クラスS仲間が一番先にそれを言いはじめたな。最近ではクラスAの連中にも気軽に話しかけられるようになった)

「そうかもしれないな。」
 セフィロスの優しげな瞳の先にはクラウドが着替えに入っている部屋があったのを、ミッシェルは見逃さなかった。

やがてクラウドが赤いドレスをまとって部屋から現れると、すかさずメイク道具を持ち出しミッシェルがメイクをし始める。
「せっかく胸が大きく開いたドレスを着たのだから、きょうは色っぽくし上げちゃうわよ〜」
「厚化粧だけは止めてよね、息苦しいの。」
「はいはい、わかっているわ。おとなしくしててね〜」
 てきぱきと化粧を施して髪の毛をささっとアップにし、手渡されたアクセサリーで髪を飾り胸元を飾ると、一人の淑女ができあがった。
 ミッシェルがマネージャーのティモシーに言われてきたことを思い出したのか急に仕事の話をし始める。
「そうそう、明日は朝8時スタジオ入りで9時からCM撮影だから、あまり夜更かししないようにお願いしますよ。それからキスマークはダメですからね。サー・セフィロス。」
 ミッシェルが思いっきりセフィロスをにらみつけるようにしていた。
 クラウドはミッシェルの言いたい事がわかったのか真っ赤な顔をしている、一瞬言われた意味がわからなかったセフィロスがにやりと笑った。
「さぁな、保証はできかねん。」
 セフィロスの言葉にクラウドの顔が更に赤くなった。
 うつむいたまま拗ねたように唇を少しとがらせて青い瞳をうるませていた。

 セフィロスが時計をみるとクラウドを抱き寄せる。
「時間だ、行くぞ。」
「あ、アイサー!」

 クラウドがいつものクセで言ってしまった言葉にミッシェルがすかさず突っ込みを入れた。
「こ〜ら、クラウディア。レディが使う言葉じゃなくてよ。いくらミッション中だって言ってもあなたは今女の子なのよ。」
「あ……」
 日頃、戦士としての習性で思わずやってしまった失敗に、にっこりと笑ってミッシェルがクラウドとセフィロスを送り出す。
「いってらっしゃい、Lady Cloudea。忘れないでねあなたは”世界の妖精”よ。」
 ミッシェルに言われてクラウドが嫣然と微笑んだ、その笑顔は”天使のような”と称されるクラウディアの物であった。


 パーティー会場は盛況だった。
 エレベーターを降りて受け付けを通るとドアボーイが恭しく扉を開ける。
 扉の向こう側で大勢の人がこちらを注目していた。

 社交的な場所をあまり好まない神羅の英雄がスーパーモデルのフィアンセを連れてパーティーに出席することはあまり無かったのでどうしても注目を集めてしまうのであった。
 今日のホストのグランディエ財団会長が挨拶にやってくる。

「ようこそ、お久しぶりですサー・セフィロス。本日いらっしゃるとは思っていませんでした。」
「ご子息から連絡がいっていると思っていましたが?」
「ウチの放蕩息子はそんな事一言も言わずにイエローゾーンだからとか言って仲間と来たと言っておりました。」
「そこに私が来たと言うだけで理由はわかりますね?」
「ええ、しかし私の胸の内だけにとどめています。どうか会場にいるゲストに被害が及ぶことの無いようににお願いいたします。」
「ご安心くださいゲストへの被害は出させません。それから、ご子息はしばらくお返しできないほど優秀な兵士です。」
 会長が振り返って一人の背の高いタキシード姿が似合っている男性を呼ぶ、振り返ると特務隊仲間のジョニーだった。
「ようこそ、サー・セフィロス。」
「特務隊の任務に入れていた覚えはないぞ。」
「統括の命令です。父には危険地帯だからといってあります。」
「そうか。では、少しの間クラウディアを頼む。」
「光栄です、サー。」

 ジョニーがクラウドの手を取って軽く跪き手の甲にキスをする。手慣れた様子は流石、上流階級の子息であった。
 クラウドがにこりともせずジョニーにだけ聞こえるようにささやいた。
「クラウディアとジョニーは初対面に近いって事だからよろしくね。」
「わかってるさ。そのぐらいの区別は付ける。」

 セフィロスがクラウドから離れて単独行動を始めた。それはあちこちをさまよいながらさり気なく怪しい人物を特定するためだった。
 その間クラウドはジョニーに引きずり回されてあちこち挨拶させられていた。

 ジョニーの旧知の間柄である経団連会長が声をかけてきた。
「ジョニー。上官のフィアンセとはいえ”世界の妖精”を独り占めとはいいご身分だな。」
「うらやましいでしょ?フレディー叔父さんにはこんなおいしい役を渡しませんから。」
「お久しぶりです、Lady Cloudea。今宵は特にお綺麗ですな。」
「クリスマス以来ですわね。お久しゅうございます。」
「そのでき損ないではサー・セフィロスの足下にも及ばないでしょう。何かそそうしても大目に見てやってくださいね。」
「ひどい言われ方ですね。まあ、仕方が有りませんが。あ、失礼。」
 ジョニーが何か気がついたのかクラウドをさっとエスコートをして歩き出すとその先にはどこかで見た事のある金髪美人とやはりどこかでみたような茶髪にアーバンの瞳の長身の男が立っていた。
 ジョニーがその男に軽く手をあげて声をかけた。

 クラウドは目の前の二人にどこかであっているような気がしてならなかったのであった。
「よぉ、サトルそれにライザ。堅っ苦しいパーティーへようこそ。」
「ジョニー、どうしたんだ?そんな美人連れて。」
「クラウディアさんですよね?」
「はい、クラウディアです。」
「いいだろ〜?!世界の妖精を独り占め!」
「知らないわよ〜、あとでサー・セフィロスになんて言われるかしら?」
「あんまりいじめるなよ、上官の婚約者のお相手申しつかってこっちは冷や汗タラタラなんだから。」
「ふふふ……お前にはいい薬だよ。」

 ジョニーが手をあげて二人の元を離れるとクラウドだけに聞こえる声で話しかけた。
「あの二人は大丈夫だ。信頼出来るし、俺がここにいる理由がわかっている。さて、隊長殿はどこにいった……ああ、いたいた。」
 ジョニーが会場を一瞥するとセフィロスが会場全体をうかがいながら、色々と探っているのと見付けた。
 その時、会場にワルツがかかった。

「Shall we dance?」
「Yes。」

 会場の中央でジョニーがクラウドを見事にリードして踊りはじめた。