FF ニ次小説


 中央で見事なまでのダンスを踊り出したクラウドとジョニーを視野の端に置きながら、セフィロスが少し苦々しげに会場の中を詮索していた。

「まったく、後で覚えていろよジョニー。」
 ちらりと冷たい視線をジョニーの背中に送ると再び会場を詮索し続けていた。
 会場の半分を詮索し終わった所でどこかで見たような覚えのある女性と男性が笑顔で会釈していた。
「お久しぶりです、サー・セフィロス。」
「ああ、たしか市民病院の精神科のDrグレイスでしたか?」
「ええ、一度しかお会いしていないのによく覚えてみえますね。」
「それが仕事のような物ですから。」
「よろしいんですの?素敵なフィアンセをジョニーなんかにお相手させて。」
「ライザ、よさないか。」
「クックック、たまには私以外の男の相手をさせないと私の良さがわからんだろう?」
「ふふふ、自信家ですのね。 でも、それだけではないのは存じています。」
「あのおしゃべりめ!」
「おい、ライザ。おまえジョニーの首を絞める事しかしていないぞ。」
「いいのよ、このぐらいで。ちょっと嫌な事があったぐらいで家出する馬鹿は天下の英雄にいじめられて戻ってくればいいのよ。」
「ライザ。フィアンセをたくせるほど信頼している部下であるアイツがサー・セフィロスにいじめられた程度で戻ってくるはず無いだろう?」

 セフィロスは男の発言を聞いて少しばかり感心していた。この男ならこの場をたくしてもよいと思い軽く手をあげて二人の前を去って行った。

 会場をほぼ一周した所でジョニーとクラウドのダンスが終わった。
 手を取り合って中央から去るとクラウドがセフィロスを見付けてさっそく近寄った。
「どう?セフィ」
「まだ行動を起していないようだ。」
「そう?どうやってあぶり出してやろうかしら。」
 セフィロスはクラウドのこの言葉にいささか苦笑した。目の前の”美少女モデル”はどうやっても戦士のままだったようであった。
 クラウドがセフィロスの腕をとってホールの隅に有るバーカウンターへと歩きはじめる。バーコーナーのスツールに腰かけると何も言わないでもドライマティーニとカシスソーダが出てきたので、セフィロスがにやりとバーテンダーを見ると、やはり特務隊仲間のリックだった。
「クックック、副業か?」
「ジョニーに頼まれてアルバイトです。一応統括の許可も出ています。」
 クラウドがリックを認めてびっくりするが声には出さない、セフィロスはドライマティーニのグラスの下になっていた紙のコースターを取り上げ、中に書いてある文字を読むとにやりと冷たい笑顔を浮かべる。

「クラウディア、少し出かけねばならなくなった。」
「え?!セフィ 出かけるって……どこへ?」
「急な用事が入った。すぐ戻ってくるからここにいろ、いいな?」
「そ、そんな……」

 クラウドの青い瞳に涙が浮かんでくる。
 それをあえて見ないふりをして、セフィロスがスツールから離れると、早足で会場を出ようとするので、クラウドがあわてて追いかけた。

「待って!!連れて行ってください!」
「クラウディア、わかっているだろう?」
 厳しい態度でセフィロスがクラウディアを冷たく睨むと、さっとエレベーターホールへと早足で出てエレベーターのボタンを押す。そこへクラウディアが追いついてセフィロスの背中にすがりついた。
「ご、ごめんなさいサー。せめてお見送りを……」
 切なげに揺れる青い瞳が必死に泣きたい感情を抑えているのが手に取るようにセフィロスにはわかる、緩やかにほほえんで軽くクラウディアを抱き寄せると唇を塞いだ。

「いつもすまないな、必ず戻ってくる。」
 「チン!」と鳴ってエレベーターの扉がが開くと、セフィロスが乗り込んだ。クラウディアが必死になって笑顔を作り手を振っていた。
「いってらっしゃいませ、どうかご無事で。」
 しかし虚勢はほんの少しで崩れてしまった。エレベーターの扉がしまると、クラウディアがその場で泣き崩れたのである、そこへ今日のゲストの一人である製薬会社の重役がさり気なく現れた。

「Lady Cloudea、そんなにお嘆きにならないでください。さあ、ジャック・グランディエ氏がお呼びですよ。」
 そう言うとクラウドをジョニーの父親のところへと連れていくのであった。

 グランディエ会長はクラウディアの表情を見てびっくりした。
「いかがなされました?Lady Cloudea。」
「サーがお仕事で中座されましたの。」
「そうですか。おい、ジョニー!お前そんなところにいていいのか?お前の上官は仕事に行かれたぞ!」
「隊長が?自分には緊急招集かかっていないから特務隊の任務ではないようですが?」
「そうですの?ではどちらに行かれたのかしら?」
 ジョニーはクラウドのせつなげな瞳に思わず見惚れてしまいそうになったが、どこかから異様な怒気を感じ取って背中に悪寒を感じた。

(なんだよ、隊長殿いるじゃないか。あ、そうか。隊長がいたら闇取引なんて出来ないから消えたんだ。)

 首を巡らせてふとウェイターの中からある一人の男を見付け出すと、クラウドを誘ってドリンクを取りに行くふりをしながらジョニーは小声で囁いた。

「クラウド、安心しろ。隊長はどこかからこの部屋を見ている。」
「え?」

 クラウドが一瞬びっくりしたときにウェイターが恭しくトレイを差し出した。そのウェイターをどこかでみた気がすると思ったら、特務隊のカイルであった。クラウドがにっこりとほほえんでグラスを取った。
 目の前のウェイターはいつもならクラウドの笑顔にしまりのない顔をするが、任務中だからか冷静な顔をしていた。

「良くお似合いですわよ、カイルさん。」
 特務隊の一般兵トップ3が勢揃いしていた。

 グラスを受け取ってゆっくりと部屋の中を一瞥すると、先程自分を会長のところまで案内しに来たヴェッティンガーが何やらこそこそと動いていた。
 クラウドがジョニーに目くばせをするとジョニーもうなずく、首をめぐらせるとジョニーの友達の男性も気がついたようだ。クラウドがそっと動きはじめた。

 ヴェッティンガーが一人の男と何処かへ行こうとしていた。
 ウェイターに扮したカイルがそっと二人の後ろについているのを確認し、クラウドがジョニーに伴われてテラスへと出た時に上の階からセフィロスがロープをつたって舞い降りてきた。
 しかしいつもと違うのは髪の毛は黒く染められ瞳はアンバーのコンタクトレンズで魔晄の光を隠すようにされていた。
「隊長。ヴェッティンガーです、今カイルが張っています。」
「やはり私がいては動けなかったか。」
「隊長はここでお待ち下さい、あとは我々が…」
「クラウディア様、待ってください。」
 完全にクラウディアから特務隊の副隊長に戻ってしまったクラウドを止めようとジョニーがあわてて腕を軽くつかんだ。
「レディ・クラウディア。女性が危険な所へ行ってはいけません、ここは我ら特務隊の隊員にお任せ下さい。」
 クラウドは一瞬、顔を曇らせたが自分の格好を見てつまらなそうな顔をした。
 柔らかな笑みをクラウドに送ってすぐにジョニーの雰囲気が変わった、戦闘モードに入ったらしくまっすぐに会場の中を目的の人物に近寄って行った。
 その後をセフィロスが追いかけようとしてふとクラウドに振り向くといきなりキスをしてきた。
「いいな、ここで待っているんだ。」
「は、はい。」
 セフィロスがクラウドから離れて入り口へとあわてることなく歩いていった。

 残されたクラウドがやれる仕事と言えば任務に行った皆の事を気づかれないようにホールの方に人目を惹きつけておく事だった。
 ホールのゲストの間を天使のような笑みを浮かべてあちこち挨拶しては、見知った顔とは話し込んだりとまるでホストのように行動しはじめていた。

 やがて会場内にピアノの音色が広がった。

 Dr・グレイスが会場にしつらえてあったグランドピアノでピアノ協奏曲を弾きはじめていた。
 ふとみると手の開いたパートナーの男が扉の方へと歩いて行っていた。何かあった時に逃げ出されないよう袋の口を締めておいてくれるつもりらしい、クラウドがピアノを奏でているDrグレイスのそばへと歩いていた。

「お上手ですのね。」
「ふふふ、ストレス発散にはもってこいですのよ。」
 ピアノの調べは協奏曲から聞き覚えのあるメロディーへと変わっていた。
 Dr・グレイスがクラウディアににこりと笑いかける。
「ご存じでしょ?」
「え?え、ええ。」
 クラウドはピアノのメロディーに合わせて歌いはじめた。

 曲の内容は”夢はいつかかなう”というものだった。

 会場中の人がクラウディアの歌う歌に聞き惚れていたが、ライザだけはピアノを弾きながら隣の部屋をにらみつけるような表情をしていたが手は休まずに優雅なメロディーを奏でていた。
 クラウドが部屋を一瞥しするとリックがバーカウンターから小走りでバックヤードに走っていくのが見える。

 曲が終わった。
「夢か……信じてもかなわないから 夢って儚いのよね。」
 そう言いながらうつむきがちに溜め息をつくクラウディアがライザにはどうも腑に落ちない、職業柄か思わず聞いてしまう。
「あれだけかっこよくて素敵なフィアンセのいる美人モデルさんは何をそんなにお悩みになってみえるのかしら?」
「最高の相手を得ても、置いていかれて一人で待っているのも寂しい物ですわよ。」
 正面を向いたクラウディアの悲しげな微笑みがライザに真実だ告げていた。

 神羅カンパニーの治安部に所属しているゆえ、デートの最中だろうと、夜の就寝中だろうと何かあったら飛んでいかねばならない立場の人とただ『そばにいたい』と言う気持ちだけでは結婚を考えることなど出来ない。
 ライザは思わずため息をついた。
「そうね、待っているだけと言うのは精神的にもよくないわね。もう少しお仕事を入れてもよろしいんではなくて?」
「わたくし、モデルのお仕事あまり好きじゃないんですの。お仕事させていただいている以上多くは望みませんが、あの方に迷惑がかからないようにいつも考えてしまいますの。」
「大変なのね、英雄の恋人と言うのも。」
 ライザがすこし首を横に振ってから次の曲を奏ではじめた。

 静かになった会場にライザの奏でるピアノの音だけが会場中に響き渡っている。
 クラウドがふとロビーを見ると、ロビーからライザのパートナーの姿が消えていた。