ナース姿のままカメラの前に現れたクラウディアに、カメラクルーがぼーっと見とれている。
共演する5歳ぐらいの男の子が母親に連れられて現れるが、子供独特の気まぐれでスタジオ中を走り回っていた。その子供が母親に叱られてセットに上がろうとして、足を引っかけて蹴つまずくと大きな声を出して泣きじゃくりはじめた。
クラウドがあわてて駆け寄って抱き起こした、すかさずビデオカメラが二人を狙う。
「お膝すりむいちゃったね、痛いの痛いの飛んでいけ〜〜〜」
何とも気の抜けたおまじないの言葉だがクラウディアの天使の笑みと共に、ケガの場所にクライアントの作っている絆創膏を張って軽く唇を触れながら、隠し持っているマテリアの力で軽くケアルをかけると、ケガの痛みが消えたのか、子供がいきなり泣きやんで目の前の美人ナースを不思議そうな顔で見つめている。
カメラクルーがその横顔をずっと狙っていた。
子供が黙ってクラウドに手のひらを差し出しすと、にっこりと笑ってうなずく。その笑顔に思わず幼いながらも照れた様子がありありとわかった。
「あら、お手手もケガしちゃったの?じゃあここもおケガにさようならしようか?」
クラウドの天使の笑顔にこどもがうなずく。子供の手の先にふたたび絆創膏を張り、唇を寄せてクラウドが再び軽くケアルをかけると、ケガの痛みが再び無くなってこどもがにっこりと笑い美人ナースの頬に軽くキスをした。
「ありがとう。」
クラウドがにっこりと笑うと子供が照れたような笑顔を浮かべる。
その様子をカメラクルーがずっと撮影をしていた。
撮影をいったん止めると再生して映像を確認する、その画像に思わずクルーがうなった。
「いいモノが撮れましたね。」
「これはクライアントが喜びそうだな。」
モニターで画像を確認すると監督がうなずいていた。
「いいんじゃない?キャッチで”天使の優しさを貴方に”なんて入れたら最高!」
CMの事でワイワイやっているスタッフとは別の場所で、クラウドはまだ子供の相手をしていた。子供がクラウドから離れないのだ
ミッシェルがあきれたような顔をしていた。
「懐かれちゃったみたいね」
「子供にもモテるんだ。」
クラウディアスタッフの笑顔とは別に、セフィロスは一人でなぜかイラついていた。理由は簡単、たとえ幼い子供とはいえクラウドにキスした上に抱きついて離れないのだ。
ゆっくりとクラウドの後ろから近づくと子供を凄い目でにらみつける。子供は子供なりにセフィロスの雰囲気を感じ取ると恐怖感からまた泣きじゃくりはじめた。クラウドが抱きついて泣いている子供を抱き上げて振り向くと、まるでモンスターに対峙しているかのような雰囲気のセフィロスが立っていた。クラウドはこのとき初めて正面からセフィロスの怒気を感じたのであった。
「セ……セフィ 何をそんなに怒っているの?」
「何でもない、終わったのならば帰るぞ。」
セフィロスがそう言いながらクラウドから子供を引き剥がそうとするが、子供は恐怖心から更に大声で泣き喚くので、あわてて母親とクラウディアスタッフが飛んできた。
クラウドが子供をかばっていた。
「セフィ、こんなに小さい子供に乱暴な事をしちゃダメだよ。」
「す、すみません。お手数をおかけして。」
マネージャーのティモシーがセフィロスと母親の間に割って入った。
「お手数と言うよりはサーのヤキモチだと思います。」
「え?英雄サー・セフィロスともあろう御方が子供にヤキモチですか?」
「ええ、サーはクラウディアの事になると前後不覚になりますの。もっともそれだけ彼女の事を愛してみえる証拠なんですけどね。」
ティモシーとミッシェルの言葉にクラウドと母親が目を丸くしてセフィロスを見つめると、何ともいえない顔をしてマネージャーとスタイリストをにらみつけ、ぷいっと背中を向けて何処かへいこうとした。
「あ……サー、待ってください。」
子供をその場に降ろしてクラウドがセフィロスに駆け寄ると、いきなり振り返ったセフィロスに抱きしめられた。
「子供とはいえ立派な一人の男だ、一瞬正宗を突きつけたくなったぞ。」
「もう……独占欲強すぎ。」
相変わらずの二人のバカップルぶりに、クラウディアスタッフはもう慣れた物だが、クライアント側のスタッフが目を丸くしている。クラウドの唇にセフィロスの唇が触れる寸前に胸ポケットの携帯がいきなり鳴り響いた。
「まったく、邪魔ばかり入るな。」
セフィロスがそういうと携帯を取り出して電話に出た。
「私だ……ああ、そうか。わかった、すぐ行く。」
会話の内容を想像してクラウドの顔がいきなり引き締まると、更衣室へと駆けだした。
CMスタッフが駆け去っていこうとしていたクラウディアにあわてて声をかけた。
「あ、クラウディア!!打ち上げは?」
「すみません、次の仕事が有りますのでコレで失礼します。」
マネージャーとスタイリストが撤収を始めると、CMスタッフも諦めたような顔をした。
ミッシェルがスタジオの出口でクラウドに声をかけた。
「クラウディア、いつもの服はあるの?」
「はい。セフィの車のトランクに。」
ナース服を受け取り代わりに化粧落しを手渡すと、素っぴんのクラウディアが現れる。CMスタッフが唖然として見つめていた。
化粧をしている時よりもさらに中性的で少年とも少女とも区別のつかない容姿は、まるで天使を実体化したような雰囲気だった。
クラウドがTVスタッフに一礼するとセフィロスの一歩後ろをしたがうように早足で歩きはじめた。
クラウディアスタッフがセフィロスの車まで二人を見送る。
トランクから紙袋を取り出すと中にあった服と大振りの剣を取り出し、助手席に座ると窓を開けてクラウドがスタッフに一礼をした。その顔はすでに神羅カンパニー治安部の精鋭部隊である第13独立小隊副隊長の顔だった。
「では、失礼いたします」
クラウドがスタッフに敬礼するとセフィロスが愛車のアクセルを一気に吹かし、タイヤを鳴らして銀色のボディーが公道へと飛び出して行った。
* * *
移動中の車の中で、クラウドがセフィロスに訪ねた。
「どういうミッションなの?」
「4番街のはずれで反抗勢力が暴れているらしい。お前を3番街との境で降ろす、そこから合流してくれ。」
「アイ・サー!!」
クラウドは器用にも高速移動する車内で、クラスAの制服である白のロングコートに着替え、バングルと剣のマテリアの装備を確認すると、偽物の胸の中側に隠してあった治療のマテリアを抜き取りバングルに装備し、セフィロスに向かってうなずいた。
「準備OK、いつでも出られます。」
セフィロスがカウンターで車を止めると、ほぼ同時に扉を開けてクラウドが飛び出して行くのを見届けて、ふたたび車を発進させて4番街の中心部へと進んでいった。
クラウドはまっすぐ4番街の戦闘地域を目指して走っていた。
2kmも走るとすぐにカンパニーから派遣されている警ら中のソルジャーが、封鎖を行っている場所に行き当たった。見覚えのあるソルジャーがそこにいた。
「ニーダ!!中はどうなっている?!」
「はい、ポイント04・56地点が中心でただいま特務隊と副隊長達が突入しています。」
「ランディか、わかった。負傷者が居たら手当てを頼んだぞ。」
「アイ・サー!!」
どうみても華奢で小柄で一般兵と言ってもおかしくないクラウドに、自分達の上官であるクラスCソルジャーが最上の礼を尽くしていた。その様子があまりにも不自然な為、その場にいた一般兵達が訝しんだ。
「小隊長殿、あの男一体何者ですか?」
「ストライフ准尉か?まだソルジャーでこそないが実力はクラスA。特務隊の副隊長、つまりサー・セフィロスの副官だぞ!!」
「ええ?!あんな華奢でぜい弱そうな女みたいな少年が?!」
「おまえ、それを准尉の前で言って見ろ。間違えなく5秒で気絶させられるぞ。」
一般兵とはいえ、特務隊の厳しさは噂でしかないが聞いたことはある。その副隊長を勤める男の話しを耳にしたことは少なからず有る。実力と容姿があまりにもかけ離れてはいるが強力な召喚獣を2体も従え、クラスSソルジャーですらその実力を認めていて、英雄サー・セフィロスの右腕と言われている男。
「あの人が……姫?」
「お、知ってるじゃないか。そーだ、俺達の憧れの姫君。しかし反抗勢力には”白い悪魔”とか”地獄の天使”って呼ばれてるらしいぜ。」
一般兵は走り去って行った金髪碧眼の美少年の背中を信じられないような顔で見送っていた。
4番街のポイント04・16地点にリックがいた、駆け寄るクラウドを確認すると状況を教える。
「西からカイルが、東からザックスが、先程正面に隊長が入ったらしい。」
「わかった、行くぞリック。」
「お前と一緒なら何処へでも!!」
アルテマソードを右手に握りリックと自分にウォールをかけてから、反抗勢力まで一気に駆け寄って行く。後ろを突かれた反抗勢力がバラけた。
ランディがいつの間にか近寄ってきていたクラウドに気がついて声をかけた。
「姫!!助かったぜ」
「何してんだよお前!!この程度の連中に押されててどうする!!」
見事なまでの剣裁きで反抗勢力をあっという間に削っていくと、リックがランディを押しのけてクラウドのとなりで珍しくソードを操っていた。その腕はクラウドほどでは無かったが下手すれば自分以上とみたランディが舌打ちする。
「リック、姫にケガさせたらあとでシメテやるぞ!!」
「ハン!!この俺にそんなこと言える立場か?!死にたくなかったらさっさと自分の隊の連中を安全な所まで下げろ!!」
敵を正確に捕らえながら自分よりもはるかに地位が下の男が命令を下す。しかしランディにはリックに逆らえるだけの実力は無かった。
『自分の小隊が特務隊の邪魔にならないよう下げさせる。』
味方の被害を最小限に抑える方法である、ランディはおとなしく自分の隊を撤退させた。その間もクラウドとリックは徐々に敵の数を減らしていた。
反抗勢力の向こう側に銀色に光り輝くものが目に入る、クラウドはその晄に思わずにっこりとほほえむと、アルテマソードを握りなおし反抗勢力のど真ん中に切り込んでいった。
反抗勢力のど真ん中に金色の晄を見いだした時、セフィロスが正宗を片手にその晄を目指して切り込んでいく。中央を寸断された反抗勢力がすべて倒れるのはそれからすぐの事だった。
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