反抗勢力の鎮圧に成功し中央でセフィロスと再び出合えた喜びで、クラウドはゆるやかに微笑んでいた。セフィロスもまた口元にゆるやかな笑みを浮かべていた。そのまわりに特務隊の隊員が自然と整列しているので、正面を向いたセフィロスとクラウドが隊員達を見渡すとクラウドが毅然とした態度で言い渡した。
「第二種非常体制解除!ただいまより帰投する。隊長殿、お車はどういたしますか?」
「そうだな…ジョニー、任せる。」
「アイ・サー、カンパニーの駐車場に入れておきます。」
「では、総員トラックに搭乗。」
クラウドが隊員達に笑顔を向けると、その天使の笑みを受けて隊員達にも笑顔がこぼれた。隊員達が撤収を始めると同時にお約束の雑談が始まった。
口火を切ったのはザックスだった。
「おっせーぞ、クラウド。」
「ばーか。姫は今日副業で6番街のスタジオだったんだ。隊長殿が一緒じゃなかったら、もしかするとお前ケガの一つや二つしてたかもよ。」
「はいはい、全くウチの影の隊長と来たら、よくもまあ惚れた女のスケジュールまで覚えているもんだな。」
セフィロスが正宗を取り出そうとする寸前に、クラウドの回し蹴りがザックスの腹に思いっきり決まっていた。
「誰が女だ〜〜〜!!!」
「ぐげぇ!!」
前のめりに倒れ込むザックスをカイルとリック、ジョニーが白い目で見ていた。
「あ〜あ、また地雷踏んでヤンの。」
「お前なぁ、姫に何度のされたら気がすむんだ?」
「馬鹿は死んでも治らん。無駄な事だ、姫。」
「いいんだ、ナース服なんて着せられてむしゃくしゃしてたから。」
クラウドの答えに思わずおなかを押さえながらザックスが叫んだ。
「バ……バカヤロー!!八つ当たりじゃねェかよ!!」
「とうとう姫まで隊長と一緒になってきたか。」
「え?どう言うこと?」
笑顔で頭を撫でるジョニーにクラウドが小首傾げて青い目をまん丸くさせて尋ねる。その顔は世界一可愛らしい。=by英雄
ジョニーは背後から感じる絶対零度の冷気を必死になって我慢していた。
「た、頼むからそう言う可愛い顔は隊長の前だけにしてくれ。俺、ただでさえ昨日の夜から何度死にかけたかわからんのだぞ。」
「ふん、貴様みたいな3が姫とダンスをしたり手の甲にキスする事すら許せん。」
「リック、そりゃセフィロスのセリフだ。」
「リックがこう言う事をおおっぴらに言うのは良くて、俺が任務でダンスを踊ったのはダメって矛盾してるよなぁ。」
ジョニーのなにげない一言にクラウドが目を丸くしてうなずいた。
「言われて見ればそうだよね。」
そう言うとセフィロスに正面から詰め寄ると、その視線にほんの一瞬セフィロスがたじろいだ。神羅の英雄と呼ばれるセフィロスにこんな芸当が出来るのは、彼の愛妻であるクラウドただ一人だけであろう。
(クラウド おそるべし……)
この時、隊員達は『クラウドだけには逆らわないでおこう』と、心に誓った。
一方、にじり寄るクラウドに詰め寄られているセフィロスは相変わらず平然とした顔をしている。もっとも愛妻がいくら目をつり上げていても彼にとっては”可愛らしい顔”でしか過ぎないのであった。
「セフィ……一体どういう理由でリックだけ特別扱いするの?」
「リックは他の男と違って私からお前を奪おうとは思っていないからだ。」
「だ・か・ら、どうしてそれがわかるんだよ?!」
「フフッ……簡単だ。リックは6年前からずっと私の真似をしてきた。だから私の影とも呼ばれるようになったのだが、常に私の立場になって物事を考えてきている。そんなこいつがお前の気持ちも考えず行動するとは思えない、それだけだ。」
(ちぇ!!しっかり見抜かれてるぜ。)
リックが思わず舌をまいた。
クラウドはいまだに納得し切ってはいないが、今までリックは自分のことを”惚れている”と公言しているわりに、他の連中と違いセフィロスとの事を認め、見守ってくれていることはわかっていた。リックがセフィロスの事をずっと慕っていると言うことも、クラスA仲間から聞いたことがあったので、思わずクラウドがつぶやいた。
「リック……お願いだから俺からセフィを取らないでね。」
少しうるんだ青い瞳ですがりつくようにお願いされて、リックの精神が普通でいられるわけがなかった。クラウドの細い肩に手を伸ばして華奢な身体をだきしめようとしたのである。しかし、もっとまともでいられなかったのは、独占欲の強い英雄だった。有無を言わさず天下の宝刀を一閃させる。
「リック!!貴様、私の妻に何をする気だ!!」
間一髪で正宗の切っ先を避けるとリックがあわててクラウドをセフィロスの元へと突き飛ばすように渡した。
「だ、誰が自分よりも強くてでっかくて可愛い気のない隊長に惚れるか!!冗談も休み休み言え!!」
リックの一言に今度はクラウドの機嫌が一気に急降下した。
「むぅ〜〜〜。」
「どうしたと言うんだ?クラウド。」
「リックなんて嫌いだ〜〜!!ふぇっ………ふぇっ……そんなんじゃ、俺がリックよりか弱くて小さくて可愛いって事じゃないか。」
涙混じりのクラウドの言葉にセフィロスが苦笑した。
「全くもってその通りではないかね。」
いつものように雑談をしながら迎えに来たトラックに、特務隊の隊員達は乗り込んでいった。
ハンドルを握る男はクラウドに憧れの眼差しを送っていたが、彼の視野には残念ながら入っていなかったようだ。セフィロスに肩を抱かれながらリックに向かってブーブー文句を言い続けている。
「大体さー、リックってなんで俺がいい訳?」
「ん?純粋でまっすぐで可愛いくて守ってやりたくなるから。」
「うう〜〜〜やっぱり俺の事、女としてしか見ていないだろ!!」
「あれ?知らなかった?おまえ、俺達の憧れの姫君だろ?」
「うううう……やっぱリック嫌いだ〜〜!!」
「こら、クラウド。輸送チームの男がびっくりしてるぞ。」
セフィロスに指摘されて、クラウドがトラックの運転席に目をやると、見覚えのある男がハンドルを握っていた。
「あ、エディの所の……えっとイェンだったっけ?えへ、へんな所見られちゃったな。エディには内緒にしてね。」
「あ……は、はい!!」
クラウドの無防備な笑顔に、ハンドルを握る一般兵の顔が真っ赤になったのを見逃すようなリックではなかった。無言でその一般兵から運転席を奪い取ると冷淡な笑みを浮かべる。
「悪いな、姫は乗物酔いするんだ。お前みたいな初心者マークにハンドルを任せる訳にはいかないね。」
リックの視線に怒気を感じ取ると青い顔でうなずき、イェンが助手席に移ろうとすると、助手席のドアからカイルが乗り込んできて、同じように新入りの一般兵をにらむ。
「おまえか、姫に一目惚れした身分違いの馬鹿は。」
一般兵の目標の男でもある2人に挟まれて、イェンは居づらいのか身体を小さくしていた。イェンはこういう状態におちいってやっとあの時、自分の上官がこの美人を恋人にするのを諦めるようにいわれたのかわかったのであった。
車は滑るようにカンパニーの駐車場へと戻ってきた。
リックが運転席から飛び降りて後部の扉を開けて思わず溜め息をついたので、不思議に思ってイェンが後ろから回り込むと、 あぐらをかいたセフィロスの太ももの上に、姫抱きにされて眠り込んでいるクラウドのあどけない寝顔が目に飛び込んできた。
リックがセフィロスにつぶやいた。
「隊長、自分の運転がそんなに信じられませんか?」
「私が寝かせた訳では無い、昨夜ろくに寝ていなかっただけであろう。」
「結局、誰の責任なのかなぁ……」
いつのまにか来て一緒にのぞき込んでいたザックスの頭にセフィロスの拳がヒットした。リックが隣で唖然としているイェンにドスを効かせた声をかけた。
「悪いが、今見た事は忘れろ。もし、部外に漏らしたら貴様の命は無いと思え。」
「は、はい。」
隊員達を降ろし終わりイェンがあわててトラックを収納庫へと回送するが、先程見た光景が忘れられない。トラックから降りて2年先輩の一般兵に声をかけた。
「俺、もしかすると見てはいけないものを見てしまったかも……」
「ああ、おまえ今日特務隊のお迎えか。なるほどね。」
「え?……って、事は?」
「ああ、部外秘だが俺達輸送スタッフとか治療班では有名な話しだ。ストライフ准尉はサー・セフィロスの恋人だ、リックさんはそれをかばうためにあんな行動をしている…とな。」
「しかし、サーには凄い美人モデルの婚約者がいるとお聞きしていますが?」
「どっちかっていうとそれの方が怪しいんだぜ。あの氷の英雄と呼ばれているサー・セフィロスが、クラウド准尉にだけは優しいんだ。おまえ、それを聞いてどう思う?」
「どうって……」
イェンが答えに窮しているときに上官であるエドワードが入ってきた。声が聞こえて来たのでなんとなく聞いていたが話しの内容に苦笑いをしている。
「ジーン、命が惜しければそれ以上話すな。」
「あ、副隊長殿。すみませんでした。」
「しかし、輸送班や治療班はそんなことを邪推していたのか。リックに殺されるぞ。」
「あ、はい。そういえば副隊長殿はストライフ准尉と同じクラスでしたっけ。」
「同じクラスどころか、今ペアを組んでいる。おかげでよくひどい目にあっているよ。」
「姫の笑顔を独り占めするな、ですよね?」
「よく知ってるな、まさかお前もか?」
「は、はい。鋭い目でにらみつけられました。」
「そりゃ、生きた心地がしなかっただろうな。しかしだな、キングがいくら姫を気に入っているからとはいえ、そんな噂を流してみろ。どうなるかはわかっているだろうな?」
「はい、我々とて死にたく有りません。」
「わかっているか。まあ、そう言う事なら今までのようにしていろ。イェン、これで解ったか?」
「は、はい。でも、本当はどうなのですか?」
「クラスAまで駆けあがってきたら教えてやるよ。」
エドワードはそう言うとクラスA執務室へと歩いて行った。
* * *
クラスA執務室で自分のデスクに向かってたまっている書類を片づけながら、クラウドは思わず溜め息をついていた。
キースが憂い顔のクラウドに声をかける。
「どうしたの?姫」
「ちょっとね、自己嫌悪。」
「暗いなぁ、一体どう言う失敗したんだ?」
「………言いたくない。」
どんよりとした雲を引き連れながらクラウドが事務処理をしていると、エドワードが執務室に入ってきて、自分のペアを組んでいる相手の様子に気がついた。
「おやおや。落ち込んでるな、姫。」
「あ?ああ、ちょっとね。」
「トラックの中で姫抱されて眠り込んでいたんだって?」
「や、やだーー!!!何処でそれを?!」
「一応これでも輸送班の副隊長だけどなぁ。」
エドワードの言葉にブライアンがクラウドの落ち込んでいる理由に思わず吹き出す。
「クックック……なるほど、それで落ち込んでいた訳ね。」
飛空挺師団の副隊長であるユージンが口を挟んだ。
「今だから言えるけどさ、輸送班や治療スタッフの間では去年の5月過ぎあたりから、すでに姫とキングの事は有名だったらしいぞ。」
「へぇ?そんなに早くから?」
「そりゃ、目の前でいちゃつかれてますからね。」
「で、いつものようにリックがにらみつけるって?」
「当たり。なにしろ相手はあのリックだからなぁ、生きた心地しないぜ。」
「俺、後方支援部隊じゃ無くてよかった。」
クラウドはみんなの話を目を丸くして聞いていた。
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