時計の針が18時をさす、1直勤務の退勤時間である。
 任務を終えて仕事もきりをつけたクラウドが、いつものように駐車場へと早足で歩いて行く。その後ろ姿をクラスA仲間が揶揄するように声をかけた。

「姫、今夜は何を作るんだ?!」
「昨日が確かひらめのムニエルだったから、今日は野菜料理か?」
「そういえばウータイの料理ってヘルシーなんだってな。」
「おお?!そういえばネオ・ウータイとかいうレストラン、すっげー行列なんだぜ。今度食べに行こうよ。」
「いいねぇ、いつ行く?」
「善は急げで今日ってどう?」
「うっしゃ、決定!!」
 浮き浮き顔で会話していた仲間達が執務室を出て行った。そんな様子をちょっと羨ましいと思いつつクラウドは駐車場へと駆けだした。

「ウータイ料理か…よし!作って見よう!」
 駐車場からバイクを引きずり出し、ヘルメットをかぶりエンジンに火を入れると、アクセルを全開にして高速へと駆け抜けて行った。

 そして数時間後。ミッドガルでもセキュリティーの高い事で有名なマンションの最上階に、長い銀髪に黒のロングコート、長身の男がエレベーターから降りてきた。
 玄関のチャイムを鳴らすと金髪碧眼の愛妻が、可愛らしいエプロンを身につけ迎えに出てきていた。
「おかえり…セフィ。」
「ただいま、クラウド。」
 クラウドはいつも挨拶をした後、長いセフィロスの髪をちょっと引っ張るように握り、背伸びをして軽く唇を重ねてすぐに離れようとするが、いつも力強い腕が身体を離してくれず深い口づけを交わす。
 存分に柔らかい唇を堪能したセフィロスがやっと唇を離すと、頬を染めた愛妻が上目使いで尋ねてきた。
「ねぇ、セフィ。セフィってクラスSのみなさんと一緒に食事に行ったりお酒を飲みに行きたいと思わないの?」
「ん?なぜ仕事が終ってまであいつらの顔を見ていなければいけないのだ?」
「今日ね、クラスAの皆に言われたんだ。酒も飲めるし女も口説き放題、何が楽しくてその年で結婚しているんだかわからんって言うんだ。」
 クラウドの言葉に思わずセフィロスが思わずむすっとする。しかしそれに気がついていないのか話を続けていた。
「俺、皆にそう言われたけど、悔しいとか思わなかったんだ。だって…エヘヘヘヘ…」
 クラウドはちょっと照れたようにうつむいてとびきりの笑顔で囁いた。
セフィのそばにいられるほうがいいもん

      ”ズギュ〜〜〜ン!!!”        英雄のハートが射貫かれた音(w)

 凶悪なまでに可愛らしいクラウドをセフィロスはがっちりホールドしたまま、いい香りがするキッチンへと足を運んだ。テーブルを一瞥するといつもの手料理とは違ったウータイ地方の料理が並んでいた。
「ほぉ、ウータイ料理か…一体何があったんだ?」
「今日は何も無いよ。リック達がネオ・ウータイとかいうレストランに食べに行くって言うから、ウータイ料理もいいかなって思ったんだ。」
「おまえは…クラスA仲間と食事に行きたいのか?」
「違うもん!!和食がヘルシーで身体にいいって言うから、あの…その…セフィに食べさせたいなって…

 照れてうつむく姿は反抗勢力さえ名前を聞けば恐れるような戦士の姿では無かった、セフィロスがかすかに笑みを漏らしながらリビングへと入り、黒のロングコートを脱ぐと、鍛え上げられた黄金分率の身体がリビングの明かりにさらされ、すぐにしなやかなシルクのシャツを身にまとう。
 その間にクラウドがテーブルセッティングを終えて、小さなグラスに冷えた透明の液体を注いでいた。
 セフィロスがキッチンに戻るとその透明なグラスに目をやる。

「ほぉ…ウータイの地酒か。良く買えたな。」
「うん。行きつけの酒屋さんにお願いしたんだ。ウータイ料理作るから合うお酒が有ったら少しでいいから欲しいって…そうしたら「旦那さんが羨ましいねぇ」って言いながら持ってきてくれたんだ。」
「フフフ…」

 小さなグラスを手に取るとキンと冷えていた。口に運びながら美味しそうに盛りつけてあるクラウドの手料理を堪能すると、目の前に座っているクラウドが小首をかしげて尋ねてきた。
「どぉ?美味しい?」
「何を作らせても美味いな。」
「うふっ…そう?嬉しいな。」
 にっこりと笑う笑顔は天使の笑顔と呼ばれるクラウディアのものであった。
 美味しそうに食べるセフィロスをしばらく眺めた後やっと箸をもって食べようとするが、なれない箸で無理して食べようとしておかずをポロポロとこぼす。
 ちらりとセフィロスを見ると難なく使いこなしているので思わずムキになったクラウドは一生懸命、箸を使おうとして努力する。
 そんな姿もセフィロスには可愛くてしかたがない
 ちょっと席を立ってクラウドの後ろに回るとクラウドの手に自分の手を添えてやる。
「箸の持ち方が違っているんだ、こう持つんだぞ。」
 クラウドの手を包んだまま箸で料理を掴み口元に持って行ってやると、愛妻は真っ赤になって瞳をうるませていた。
「もう…緊張して食べられないじゃん。」
「クックック…本当にお前は可愛いよ。」

 一緒に暮らしはじめてすでに1年以上。あと一ヶ月もすれば結婚して1年が経とうと言うのに、今だに出合ったばかりの頃の初々しさを残しているクラウドはセフィロスに取っていつも新鮮な反応を返してくれていた。

 二人だけの穏やかな時間を切り裂くように、いきなりマンションの玄関口にある来客を知らせるチャイムが鳴った。
 クラウドがあわててインターフォンに走り出して行った。自分の腕の中から逃れてしまった愛妻にセフィロスは

(来客が誰でも叩き斬ってやる…)

 などと物騒な八つ当たりをしていた。
 そこへクラウドが満面の笑顔で戻ってきた。
「ねぇ、セフィ。ザックスとエアリスが来てくれたんだよ!!もう…わかっていたら、もうちょっとお料理作るんだった。」
 冷めかけた料理を温めなおしながら、エアリスたちが上がってくるのを待っていると、やがてフロアにエレベーターが到着し待ち人が玄関に到着した。
「なぁ…マジで来ちゃったけど大丈夫かよ。」
「だって、クラウド君が『いい』っていえばセフィロスだって嫌とはいえないわよ。」
「それはそうだけどよォ…」

 ザックスはセフィロスの独占欲の強さを嫌と言うほど知っていた。
 知らずに何度も二人の邪魔をして、セフィロスの愛刀”正宗”の切っ先を向けられ、命からがら逃げまくった事か…
 あんな思いをエアリスにさせたくはなかったのである。
「ともかく、何があっても君は俺が守ってやるからな。」
 いつにもなく真顔で言われた言葉にエアリスの頬がほんのりと赤く染まる。その時扉が開いてクラウドが二人を招き入れた。
「いらっしゃいエアリス、ザックス。」
「ゴメンねいきなり来ちゃって。電話で話せないことがあったんだ。」
「友達だろ?遠慮せずに来ればいいんだよ。」
「だ〜ってさ。お前の旦那って世界一嫉妬深いんじゃないのか?なんかあると正宗振り回すし、絶対零度の怒気をまき散らすし…俺はソルジャーだからよけられるけど、エアリスをそんな目に遭わせたくないんだ。」
「ありがとう、ザックス。でも、セフィロスってそれだけクラウド君の事を愛しているのよね〜〜、いいなぁ…いいなぁ…。」
 エアリスに言われた一言でクラウドが真っ赤になった
「きゃぁ〜〜クラウド君ったら真っ赤!可愛い〜〜!!」
 女の子であるエアリスに可愛いと言われても嬉しくは無い、クラウドがちょっとむすっとするとザックスにからかわれる。

「クラウド、お前旦那と一緒になった時から、男なんだか女なんだか、わからなくなっちまったな。」
「むう〜〜〜」
「だってよぉ、あの男の象徴!!って感じの旦那と結婚すれば、お前が女っぽく見えても当たり前なんじゃないのか?」
「私が、何だと言うのだ?」

 クラウドの後ろから怒気をはらんだ視線をザックスに投げかけて、セフィロスが立っていた。
「クラウド、いくら馬鹿ザルとはいえ玄関にいつまでも放置しておくな。」
「あ、ゴメンナサイ。さ、二人とも入って!」
 クラウドに招き入れられてエアリスとザックスが部屋へと入ってきた。とたんにキッチンからいい匂いがするのをザックスがかぎつけた。
「うわ〜〜、すっげ〜〜!!これってウータイ料理って奴?お前本当に料理上手だな。」
「エヘヘヘヘ」
「わぁ、美味しそう。今度また教えてよ…ね?!」
「うん、いいよ。結構簡単だったんだ。」
「ムッシュ・ルノーにべた誉めに誉められただけあるな。うんめぇ!」
 ザックスがつまみ食いをしながらクラウドに振り返ると、エアリスに後頭部をはたかれた。

「お行儀悪いわよ!ザックス。」
「いって〜〜〜。まったく、俺の女神は手が早いんだから…」
 クラウドが料理をよそってエアリスとザックスをテーブルに座らせる。テーブルの上の酒に手を出そうとしたザックスが今度はクラウドにはたかれた。
「ザックス!飲酒運転は事故のもと!エアリスを乗せてきたんだったら、なおさら飲んじゃダメ!!」
「へいへい…ちぇ!!美味そうな酒なのに…」
 ザックスはぶつぶつ言いながらクラウドの料理を食べはじめた。