一通りクラウドの料理を堪能したエアリスとザックスに、クラウドが緑茶をさしだしながら話しかけた。
「ところで…電話で聞けない事って何?」
「クラウド君の副業の事でなの。彼女のお誕生日来月なんでしょ?私、マダムセシルに呼ばれちゃったの…お友達なんでしょって…」
「それでいいんじゃない?クラウディアの誕生日なら来月の19日だよ。」
「問題が有るの!私だってクラウド君のお誕生日を祝いたいの!だけど11日と19日とほんの10日の間で2回もなんて私には無理だもん。」
「無理して2回も祝ってくれなくてもいいよ、クラウディアの方だけで…エアリスの気持ちすっごく嬉しいよ。」
「だけど、本当は11日なんでしょ?本当の誕生日をお祝いしたいのになぁ。」
エアリスがさもつまらなそうな顔でごねていると、ザックスが横から口をはさんだ。
「でもよぉ…エアリス。なんも2度も祝わなくてもいいんじゃないの?クラウディアの奴にはセフィロスも俺も呼ばれてんだぜ、一緒にいられるし〜」
「ほぉ…貴様のような山猿がなぜクラウディアの誕生会に出られる?!」
「エアリス一人だけ一般人なんだぜ、あとみ〜〜んな業界の関係者。だからクラウドのマネージャーに呼ばれて…俺も引っ張り出されることになったんだ。」
「それに、だいたい次のミッションで11日にミッドガルにいないかもしれないんだ。」
クラウドの一言にエアリスがびっくりした。
「え〜〜?!そうなの?!そんなの可哀想!!去年はどうだったのよ?!」
「アイシクルエリアに遠征中だったな。セフィロスったら夜中にキャンプを抜け出して、クラウドに何を話しているかと思ったら、この兄さん強引にプロポーズしてんだぜ。」
”ごいん!!!”
派手な音を立ててセフィロスの拳骨がザックスの頭に炸裂した。
「いって〜〜〜〜!!!!」
「貴様、聞いていたのか?どうやら命が要らないらしいな。」
「いります!!いります!!大変必要です!!」
頭を撫でながら真っ青な顔でセフィロスのにらみつけを逃れたザックスは、隣に座る自分の恋人エアリスを横目で眺めた。彼女は目を丸くしてクラウドを見ていた。
「ええ〜〜〜?!誕生日にプロポーズしたの?キャアーーーー!!素的!!だってクラウド君その時まだ16歳になったばかりでしょ?よくOKしたね。」
「え?エヘヘヘヘ…だって、セフィが好きだったもん。」
テレテレに照れまくりながらのろけるクラウドに、さすがのエアリスもあっけにとられた。一方セフィロスはというと、照れて頬を赤くする愛妻に目を細めてひとりご満悦の表情をしていた。ザックスはそんな「元・氷の英雄」を冷めた目で見ながら完全にあきれまくりながらつぶやいた。
「ったく、甘くなったもんだなぁ。これがあの冷血司令官様なんだぜ、治安部の連中には見せられない顔だよ。」
「うふふふ…でも、それって二人がラブラブだってことだもん。すごいなぁ、16歳で結婚かぁ…あ、でもクラウド君のご両親ってご存知なの?」
「あ…そういえば、まだ母さんには知らせていなかったっけ。」
ニブルヘイムにいるクラウドの母親はセフィロスとの結婚をすでに認めてはいた。母親の許可を公式書類で記していたので、二人の結婚は正式なものとなっているのである。しかし、その報告を全くしていなかったことに今更ながら気がついた。
「早く教えないといけないよね?」
「まだよかろう?お前が最前線に出ないなら…と、いわれてもらった許可だ、それなのに最前線に出ていると知ったら約束が違うといわれかねない。」
「うん、そうだね。もう少し後じゃないと、何か言われるかもね。」
二人の会話を聞いていたエアリスが首をかしげて口をはさんだ。
「それ、ちょっと酷くない?結婚しているのは事実なんだし、教えるのが普通なんじゃないの?!それなのに内緒だなんて、まるで隠れてこそこそしているみたい。」
エアリスの言うとおりだった、いくら周りの仲間たちが知っていても、戸籍上は婚姻関係にあっても、表向きにはそれを隠して同じ部署で働いていることになっている。もし婚姻関係が知れ渡ったら…世間の憧れであり英雄と呼ばれるセフィロスの結婚相手としてふさわしくないからバッシングが来るのは目に見えていた。
「仕方がないよ、俺男だし…モデルよりもソルジャーになりたいんだ。」
「でも、パパは魔晄を使わない、ソルジャーももう作らないって言っていたわ。クラウド君はソルジャーには成れないのでしょ?」
「そういうことになるのかな?うん、そういうことになるんだよね。」
すこし悲しげな笑顔でクラウドはエアリスに答えた。
エアリスに取って弟のような、友達のような、不可思議な存在。そんなクラウドを凄く気に入っているのは確かだった。まるで泣き出しそうなクラウドに思わずいじめてしまった気持になった。
「あ…ごめんなさい。ソルジャーになるの、夢だったんだよね?」
「ううん…いいんだ。いつかはあきらめないといけないことなんだもん。」
あきらめなければ…といいながらも、さみしげな笑みはそのままだったため、クラウドはやはりソルジャーへの憧れがまだ強いままなのだと、その場にいる3人は痛感した。
「クラウド、ソルジャーっていいもんじゃないぜ。魔晄酔いはひどいし、ソルジャー手術の後一カ月は監禁される。おまけに下手すれば人格破壊、そこまでいかなくとも記憶喪失なんてザラな事なんだぞ。」
「え〜?!なにそれ?クラウド君が違う人になっちゃうの?私たちのこともセフィロスのことも忘れちゃうの?そんなの嫌!そんなの…そんなのって…ない。」
エアリスが涙をぽろぽろとこぼしながら大声で叫んだ。
「私、クラウド君が好きだよ。今の幸せそうなクラウド君を見ていると、私まで幸せに思えてくるの。それを忘れ去ってまでソルジャーになりたいの?そんなの嫌!絶対にいや!」
「わ…わかったよ。わかったから…もうソルジャーになんてなれないんだから。頼むから泣きやんでよ。」
クラウドとてエアリスを泣かせるつもりは全くない。あわててハンカチを渡そうとすると、彼女の隣に座っているザックスが優しく肩を支えているので思わずうらやましくなる。
支えてくれたザックスに涙を拭きながらにこりと笑うと、エアリスは話を切り替えた。
「ごめんね、ところで、クラウド君。私、どうすればいいの?」
「11日はまだわからないよ。本当にミッションが入るかもしれないし…だから確実に開いている19日の奴においでよ。」
「11日がよかったなぁ……」
「19日、19日。だいたい11日は俺達…」
ザックスが何を言おうとしているかセフィロスにはピンと来た。しかしそれをクラウドに知られたくないので、手のかかる部下の口にきゅうりの浅漬けを突っ込んだ。
「ザックス。これはな、浅漬けと言って箸休めだ。クラウドが漬けたのだぞ。どうだ、うまいだろう。」
「ふが…もご…」
ザックスも特務隊やクラスAの連中に、クラウドに喋るなと口止めされていたのを思い出し話をそらした。
「んぐっ…俺達、本当にミッションに行っちゃうかもしれん。それにしてもこのきゅうり美味いな。」
「ありがとう。たくさん有るから持って行く?」
「そんなもん寮に持って帰ったらすんげー争奪戦になるぜ。」
「やっぱりクラウド君人気有るんだ。」
「違うって。俺今日セフィロスの部屋に行くって言って出てきたんだぜ、寮の連中はここにクラウディアがいると思っている。まぁ、間違ってはいないが…ここでもらった料理はどうなる?」
ザックスの言葉にクラウドちょっと考えて答えた。
「俺じゃなくてクラウディアが作ったって事になるのかな?」
「どう考えたってそうだろ?それにクラウディアの手料理となると…ムッシュ・ルノーに誉められてるだろ?そんな美味い料理なら誰だって食べてみたいって思うから、持って帰れば激しい争奪戦だな。」
ザックスの言葉にエアリスがうなずいた
「そいうえば…パパも言っていたわ、一度セフィロスの部屋に行って奥様の手料理を食べてみたいって。」
「ガスト博士までそう言う事を言うのか。」
セフィロスは少し呆れてエアリスの言葉を聞いていた。
「ママだって私がクラウド君にお料理を習っているなら、もっと上手になってもいいのにって言うのよ。」
「エアリスは上手になっているよ。最初包丁もってじゃがいもの皮をむいたのを見た時、危なっかしくてひやひやしてたもん。」
「くやし〜〜〜!!!なんで男の子のクラウド君よりも下手なんだろう?」
「男よりも女の方が料理がうまかったら料理人は男よりも女の方が多いはずだが?」
「あ、言われて見ればそうね。」
エアリスがクスリと笑う、しかしセフィロスはザックスを見て溜め息をつきながら続けた。
「だいたいこの山猿が悪いのではないか?どうせお前の事だ、安っぽいファミレスにしかつれて行かないのだろう?うまい料理を作ってほしかったら彼女をうまいレストランにつれて行け」
セフィロスの言葉にザックスが思わず飲みかけていたお茶を吹き出してしまった、そのとなりでエアリスが思わずコクコクとうなずいている。
「そうそう。いつもファミレスだわ。道理で安っぽい味しか出せないのね。」
「う〜〜ん、美味しい物を食べて舌を肥えさせると言うのも本当だけど、やっぱり食べてくれる人がすぐそばにいて微笑んで居てくれて、美味しいといってくれるのが一番上達する方法だと思うけど。」
クラウドが頬を染めながら柔らかく微笑んでいる。エアリスがそんな彼に尋ねた。
「なんでも美味しいって言うのはだめなの?」
「ザックスだったら言いかねないね。でも、本当にうまくなる為にはまずかったらマズイと言われる事も重要なんだよ。だって、本当はまずいのに美味しいっていわれたら、その味が正しいって思っちゃうでしょ?」
エアリスがコクコクとうなずくのをみながらクラウドが話を続けた。
「でも、ザックスの味覚はかなり凄いと思うよ。ミッションでキャンプしていて、モンスターを狩ってきてさばいて…ちょっと焦げていようと、半生だろうと平気でむしゃむしゃ食べてけろっとして「うまかったぞ」だもん。」
「あ〜〜、やっぱり!!」
「こいつがコンガガ原人だからなんでも食えるんだ。」
「ひでぇ〜〜俺、セフィロスにソルジャーは何でも食えないと駄目だといわれて実践していただけですけどね!」
「ミッションでの携帯食ってそれよりもましだと思うけど、ソルジャーってなんでも食べられないとやっていけないって本当だね。」
「おう、戦地で食料を確保するなんて当たり前だ、エルクなんて何度つかまえてジャーキーにして食ったか。」
「あれは美味しいよな!!でも流石にタッチミーのから揚げは、いくらお腹が空いていても食べたくないよ。」
「何だ、鶏のササミみたいでうまいぞ。」
ソルジャー3人の会話にエアリスが少し青い顔をしていた。
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