7月も下旬になろうとしている頃、特務隊にミッションが言い渡された。
 2週間もあれば終るようなミッションだったのだが、途中で手順が狂ってきた。反抗勢力がいきなり蜂起してかかってきたのであった。
 しかしトップクラスの兵士を集めた特務隊の敵では無かった。少してこずったが、予定より10日ほど遅れてミッドガルへと帰還した。
 トラックから降りていつものように、実力通りの順番に並ぶ隊員たちを前に、セフィロスの隣に並んだクラウドが姿勢を正してミッションの終了を伝える。
「ミッションコード04922556、コンプリート。第13独立小隊解散!」
「アイ・サー!」
 クラウドの解散命令と共に、ザックスがいきなり近寄ってきてクラウドをホールドした。
「目標確保完了!」
「よし、移動開始!!」
「アイ・サー!!」
 首をホールドされたままザックスに引きずられるようにクラウドが連れ去られるが、セフィロスは何も動かなかった。
「こ、こら。ザックス!何考えているんだよ!!」
「楽しい事!!」
「隊長殿、止めてください!!」
「残念だが、私にはどうしてやる事もできないようだ。」
 セフィロスが苦笑いをしていると、ジョニーが何かを見つけた。
「お、ナイスタイミング!!」
 クラウドを引きずて歩いていた特務隊の隊員たち前に軍用トラックが横づけした。トラックから運転席の扉を開けてエドワードが降りてきた。
「またギリギリに帰ってくるんだな。間に合うかどうかひやひやしたぞ。」
「実は俺もちょっと心配した。」
「時間だろ?!リック頼むぜ。ほれ旦那二人組、拉致れ〜〜!!」
 ザックスが声をかけると、エドワードがクラウドの左腕を、セフィロスが右腕をがっちりとつかみ、ひょいとクラウドの体を持ち上げた。そのままトラックに乗り込むと、そこにはクラスAとクラスSソルジャー達がひしめいていた。
 その異様な光景にクラウドが思わずたじろいた。
「え?何?一体何があるんですか?」
 答えが戻ってくるどころか、セフィロスに耳元でスリプルの魔法をかけられ、クラウドは一瞬で眠り込んでしまった。
 クラウドは魔力があるが故、魔法防御力もそれなりに高いはずであった。そんな彼を一瞬で眠りこませたセフィロスを、クラスAソルジャーたちが感激の面持ちで見つめていた。
「さすが…」
「凄い、なんか感激するよ。」
 魔法部隊の副隊長であるブライアンが言った言葉に、カイルがあきれ顔でつぶやいた。
「魔法部隊の副隊長が何、感激してるんだか…」
 その時、軽いショックを伴ってトラックが動き出した。

 シェイカーと呼ばれるほどクッション性もなく、人を載せて走るには不向きな軍用車が、リックの腕に寄ってあまり揺れる事なく進んで行くので、輸送部隊・陸運チームの隊長であるペレスがびっくりしていた。
「これは凄い。キング、すこしリックをうちに貸してくれませんか?」
「クックック…後であいつに聞いておこう。」
 いつもの表情ではあったが、穏やかな雰囲気で仲間と会話しているセフィロスをうれしく思いつつ、ザックスは隣にいたエドワードに訪ねた。
「ところでサー・エドワード。一体この人数で何処を抑えたんです?」
「2番街のホワイトウッドだと聞いている。それにしても壮観だな。」
「ああ、今ここでアバランチが暴れても5分で終りそうだよ。」
「5分ではないな。どこかの隊長殿が奥様の秘蔵のマテリアで、竜王でも呼べばおしまいだよ。」
「連隊長殿、それではすべて消滅してしまい報告書が書けませんよ。」
「こんなときに限って真面目に報告書を書くつもりか?お前は。」
 上官と副官であるライオネルとランディが顔を見合わせて笑う。その時、派手にトラックが上下に揺れた。
 それぞれ足を踏ん張って、そのゆれを耐え、眠り込んでいるクラウドは、しっかりとセフィロスの腕の中で姫抱きにされていた。その様子をザックスが揶揄する。
「セフィロス、起きたらまた怒鳴られるぜ。」
「フフフ…いささか、それにも慣れたな。さて、そろそろ時間だ。ザックス。」
「おうよ!エスナ!!」
 セフィロスの言葉を聞いて、ザックスが眠り込んでいるクラウドに向けてエスナの魔法をかけると、ゆっくりと眠り姫のまぶたが開き、黒のロングコートに包まれた英雄のたくましい胸が視界に飛び込んできたのか、顔をあげた。
「あ…セ、セフィロス?」
「大丈夫か?間もなく目的地だ。もう酷いショックは無いと思うがな。」
「目的地?あれ…?エディにパーシー、それに…」
 クラウドが首をめぐらせた。自分の置かれた状況をしっかりと把握した。
 いつものようにセフィロスに姫抱きにされているので思わず怒鳴ってしまう。
「また俺を姫抱きにして!!いくら俺が車に酔うからって、ひどいよ。」
「クックック…こんな美味しい仕事、他人に任せられるか。」
「もう、いいから早く降ろして下さい!!」
 セフィロスの腕から降りたクラウドの頭をぐりぐりとなでながらザックスが話しかけた。
「耳元でキャンキャンわめくなよ。ほら、着いたようだぞ。」
 ザックスの言葉とほぼ同時にトラックが停車し、後部ドアが開く。扉の向こうにはリックがいた。
「姫様、パーティー会場へ到着しました。」
 まるで映画に登場する騎士のように一礼しすると、クラスA仲間が揶揄する。
「よ、王女警護隊長!!」
「王女警護隊長ねぇ。」
「我らが使いたかったな。」
「姫の護衛は譲りませんよ。」
「フッフッフ、あとどのくらい言ってられるかな?姫の力なら規定さえ満たせばすぐにクラスSだ。」
 にやりと笑ったクラスSガーレスを先頭に、扉に近い者からトラックの荷台を降りて道を作る。
 セフィロスがクラウドを降ろすと、二列に分かれて並んでいるソルジャーたちの前を、さっそうと歩き出す。クラウドがその後ろをいつものクセで追い駆けていた。しかしセフィロスもトラックを降りた途端ぴたりと止まり、後ろから来るクラウドに手をさし伸ばした。
「早く来い。お前がいないと始まらないのだ。」
「え?何?一体どうしたっていうの?」
「え〜〜?!おまえまだ判んないの?!今日はおm…」

  ばこん!!

 派手な音を立ててザックスの頭にセフィロスの拳が炸裂した。
 それを見てリックがつぶやく。
「進化しない奴だな。」
「やっぱ山猿は山猿か。」
 特務隊の隊員には見慣れた光景だったが、ほかのソルジャーたちにはあまり経験がない。思わずキースがつぶやいた。
「うわ〜〜痛そ〜〜」
「いてててて、ったく!乱暴なんだからぁ。」
「煩い!貴様が何も考えていないから悪いのだ!まったく、これだから貴様は力が有ってもクラスB止まりなのだ!」
「ひ〜〜ん、いけずぅ〜〜。コレでも一生懸命に言われた通りシュミレーションやってんのに〜〜!!」
 ザックスの一言にキースがびっくりする。
「え?!行き当りばったりで有名な猪武者のおまえが?!うわ〜〜〜、ミッドガルに雪でも降らせる気か?!」
 ザックスには実力が有る。それなのに昇進出来なかった理由の多くは、戦略など考えずに、猪突猛進する戦い方を好む為だった。
 しかし3月の定期査定の時からクラウドがザックスに張りついて、ずっとシュミレーションをやらせていたおかげで、戦略もクラスSまで進んでいた
 苦手の魔法も魔法部隊隊長のリーに直接指導を受けていて確実に上がっていた。
 そして創立記念日のクラスS、クラスA合計30人抜きが認められて、クラスBまでランクアップしていたのであった。

 クラスSの隊長セフィロス、クラスAの副隊長クラウドと副隊長補佐のリック、クラスBのザックス、クラスC扱いのカイルとジョニー、そして1st扱いのブロウディー達と、特務隊も一個小隊にやっとふさわしくなってきた所だった。
 但しその実力は一個小隊ながらどの連隊にもひけをとるものではなかった。

 セフィロスのさし出した手を取ってクラウドがトラックから降りると、目の前に見覚えのある町並みが広がっていた。
「え?2番街?」
「そうだ。行くぞ。」
 そう言うとセフィロスはクラウドの背中を押すように目の前にある建物に入って行く、その建物の前には大きな看板が掲げてあった。

 ”WHITE WOOD"

「え?な、なんでこんな所に?」
「つべこべ言わんと付き合え。」
「キング、それでは余りにも強引ですね。」
 ニヤニヤしながらランスロットが後ろから付いてきた。その後をぞろぞろとソルジャー達が付いてくる。
 店の中はほぼ貸し切り状態だった。
 クラウドの目の前に美味しそうなフルーツたっぷりのケーキが丸いまま”でん!”と居座っていた。
 そこへ隣に座ったランスロットがロウソクを立て出し、セフィロスがピンポイントでファイヤをかけて、ロウソクに火をともす。クラウドがそれとなくロウソクの数を数えて見たら17本立っていた。

(え?!ま、まさか?!)

 問いかけるような顔のクラウドに、セフィロスがゆるやかに微笑んだ。
「やっとわかったようだな。誕生日おめでとう、クラウド。」
「セ、セフィ。」
 思わずクラウドの青い瞳に涙が浮かんだ。そのとなりでランスロットがむくれていた。
「ズルいですね、セフィロス。貴方いいとこ取りですよ」
「クックック…。さあ、クラウド、早く吹き消さないとロウが垂れるぞ。」
「あ、はい。」

 自然とHAPPY BIRTHDAYをその場にいる全員が口ずさむ。
 クラウドがその歌を聞き終わりロウソクを吹き消したとたんに、ザックスが陽気に声をあげた。
「うっしゃ〜〜!!おっぱじめるぞ〜〜!!」
 その声で全員がグラスをもって乾杯を始めた。

 楽しそうにはしゃぐ仲間を見て、クラウドは隣にいるセフィロスにつぶやくように話しかけた。
「俺、こんなにたくさんの人に誕生日を祝ってもらうのコレが初めてなんです。」
「お前の誕生日を祝っているのか、それとも、ただ単に騒ぐ為のダシにしているのか、よくわからないがな。」
「それでも、きっかけが俺の為なんだもん。すごく、嬉しい。」
 ランスロットがクラウドの言葉を聞きながら微笑んでいた。
 一年ほど前にミッションの為、ニブルヘイムへと派遣された時にクラウドの母親に会っていたのである。
 その時会ったクラウドの母親に聞かれた事が今でも忘れられなかったのであった。
「あの子は、クラウドには友達や仲間が出来ましたか?」
 何の事だかよくわからなかったが、あまりにも母親が必死に聞いてきたので、ランスロットも丁寧に答えたのであった。
「ええ、一個小隊の仲間にとても大切に思われていますよ。」
 答えを聞いた母親が安堵の為息と共に涙を流したのを見たのであった。
 あとでクラウド自身に聞いたのだが、彼の故郷であるニブルヘイムでは、金髪碧眼は一人としていなかったという。自分の父親がよそ者だった為、金髪碧眼に生まれ、村の子供に仲間はずれにされていたと打ち明けられたのであった。

 そんな過去があったため、大勢の仲間に囲まれた誕生パーティーなど初めてだったのであろう…
 ランスロットはそんな事を思いつつ、グラスの中の液体を口に流し込んだ。