誕生日パーティーなんだか、ただの飲み会なんだかよくわからないが、総勢80人近い戦士達が食べて飲んで騒ぐのである。たくさんの料理が並べられあっという間に無くなって行くのはいささか壮観でもあった。
 クラスA仲間のパーシーが声をかけた。
「クラウド〜〜、ケーキ切れよ。」
「え?お、俺が?」
「はい、姫。ケーキナイフです。」
 ランスロットがナイフを手渡すと、すかさずランディとブライアンがチャチャを入れる。
「おお!新郎新婦のケーキ入刀か?」
「それにしては小さいんじゃないのか?」
「うわぁ。姫、真っ赤〜〜!!かっわいい〜〜!!」
「う、煩い!!」
 真っ赤になって怒鳴るクラウドのとなりで、セフィロスが苦笑をもらしている。クラウドはむすっとしてセフィロスをにらみつけてから、ケーキにナイフを入れると、すかさず皿がどどどっと出てきて、切り分ける暇もなくケーキが消えて行く。
「も〜〜う!!俺のぶん残してくれよ!!」
「出た!姫の甘いもん好き!!」
「事務のアメリアちゃんから聞いたって!ザックスの彼女と一緒にケーキバイキングに行って、20個近く食べたんだって?」
「違うもん。25個だもん。」
「うげ〜〜!!よくそんなに食べられるな。」
「お前ら、まだいいぞ。俺なんてそれを目の前で見てたんだからな。あの時はさすがに”もういいよ!”ってなったぞ。」
 ザックスの言葉を聞いてランスロットがセフィロスに訊ねた。
「セフィロス、貴方も当然それを見ていたのですよね?」
「ああ、そうだが?」
 目の前のケーキをにらみつけながら、セフィロスがつぶやいた。
「うわ!甘いものを見るだけでも嫌だといっていたはずのキングが…ですか?!」
「可愛らしい奥様の為とはいえ、よく我慢されましたね?」
「おかげで今では見るだけで胸やけがしそうだ。」
「そうですか、それはいい事をお聞きしました。」
「キングのお誕生祝いにはぜひ奥様お手製のケーキで祝いましょう。」
「おお!!それは妙案だ!!」
「誰が貴様達となど過ごすものか。」
 ケーキを取り分けながら仲間に対して怒鳴っているクラウドを眺めながら、セフィロスはおせっかいな自分の戦友共にそれと知らず笑みを浮かべていた。

 一方、クラウドは自分のお気に入りの果物の載っているところを確保すべく声を荒げていた。
「あ〜〜〜!!そのイエローピーチの所、俺のだぞ!!」
「まったく…まだまだガキだな。」
「そのガキに惚れてるくせに良く言うよ。」
「むう〜〜〜〜、リック。覚えていろよ。」
「一々そんなことを覚えていたら頭の中がパンクしちまうよ。」
 仲間と楽しく騒ぐクラウドを見て、ランスロットがセフィロスにそっと話しかけた。
「キング、去年ニブルに出兵したときに姫の母君にお会いしたのですが、母君は「姫に仲間がいるか?友達は出来たか?」と聞いてきたのです。」
「ああ…、ずいぶん仲間はずれにされて、苛められたらしい。この姿を見れば安心するかもしれんな。」
「見せて差し上げれば良いではないですか。」
「そうだな、一度呼んで見るか。」
 セフィロスは手に持ったグラスを煽った。


* * *



 その日の夜、クラウドはセフィロスの言った言葉にびっくりしていた。
「ええ?!か、母さんをここに?!」
「ああ、旅費ぐらいだしてやる。お前にたくさんの仲間や友達がいる事を知ってもらえ。」
「で、でも…俺達が結婚している事を母さんは知らない訳だし…」
「同棲していることは知っているのだろう?ならば書類一つの違いだけだ。ただ、来たら色々と説明は必要になるであろうな。」
「うん、ありがとうセフィ!!今から電話する!」
 嬉しそうに自分に飛びついて、破顔の笑顔を向けるクラウドを尻目に、セフィロスは義母が来た時の事を考えて、何をどう説明すればいいのか考えはじめていた。
 クラウドがその間に実家に電話をしていたらしい、不思議そうな顔でセフィロスの方を振り向いた。
「あのね、母さんミッドガルに来る事は来るけど、うちには来ないって言うんだ。なんでだろう?」
「私からお前の母に話をして見るか?」
「うんお願い。俺、母さん一人ホテルに泊めたくないよ。」
 切実な顔で「お願い」と言ったクラウドにゆっくりうなずき、セフィロスがニブルヘイムの義母の元へと電話をかけた。
「はい、ストライフです。」
「セフィロスです。先程クラウドから電話が行ったと思いますが、なぜコチラではホテルに泊まると?」
「あら。だって、新婚家庭に邪魔に行く姑みたいな真似なんて、出来ないし、やりたくも無いわ。」
「それではクラウドが悲しむ。」
「お部屋には行くわよ。でも、泊まらない。それだけじゃない?だいたい私はクラウドの母であってクラウディアの母じゃないわ。サー・セフィロスと一緒にいる訳にはいかないと思うの。」
「それはその通りだが。」
「とにかく好きにさせていただくわ。」
 そう言うとクラウドの母親はさっさと電話を切ってしまった。
 困惑顔のセフィロスを見てクラウドが溜め息をついた。
「母さん、俺達が結婚したの知っているんだろうか?」
「いや、そうは思えない。自分はクラウドの母であってクラウディアの母ではないと言っていた。」
「そうだろうね。ここに来たらきっと、母さんティファにも会いたいだろうし、クラウディアの母として表舞台に出すわけにもいかないもんね。」
「仕方がない。部屋には来てくれるというから、今回は我慢するのだな。」
「うん。」
 クラウドはしぶしぶ納得した。


* * *



 クラウドの母親がミッドガルへ来る事は、あっという間にカンパニーの中に広がっていた。
 ガスト博士すらその話を聞いて、セフィロスに接触してきた。
「セフィロス、クラウド君の母親が来るそうだな。」
「はい。」
「彼女とは17年もあっていないが、知らない間では無い。ここに来たらあわせてもらえないかね?」
「クラウドに聞いておきます。」
 ガスト博士とセフィロスが話している所へ、ゴンガガの魔晄炉まで物資を輸送していた第23師団が帰ってきた。
 連隊長のトールがセフィロスを見付けて声をかける。
「キング、ゴンガガ北西で車のエンジントラブルで困って見えたご婦人を見付けましてね、どこかで見たような顔だちなので。行き先をお聞きしたらミッドガルと答えた方がいらっしゃったのです。」
「その夫人は?!」
「今、ユージンが姫の元に案内しています。」
「そうか、わかった。」
そう言うとガスト博士を伴ってクラスA執務室へと歩きはじめた。

 クラスA執務室の扉をノックしてセフィロスが中へとはいっていくと、執務室の中には半年前に別れたクラウドの母親が、彼のとなりで笑っていた。
 上官が入ってきたのに気がついたクラウドが、立ち上がって敬礼をする。
「隊長殿、ご用事でしょうか?」
「いや、お前の母親に会いたいとガスト博士が言うのでお連れした。」
 セフィロスの後ろにいたガスト博士が、クラウドの母親の前に歩み寄った。彼女もガスト博士の事を覚えていた。
「お久しぶりですな。」
「ええ、博士がこちらに戻っているとは存じませんでした。」
「ここはソルジャーの執務室、いくら息子さんがいても落ち付かないでしょう。私のプライベイト・ラボでよろしければコーヒーぐらいはお出しいたしますよ。」
「ええ、そうですね。仕事の邪魔をしてはいけないから…じゃぁクラウド。皆さんに迷惑かけないようにね。」
「か、かぁさん。」
 困惑するクラウドを見て、笑顔でクラスAトップソルジャーであるブライアンが口をはさんだ。
「迷惑をおかけしているのはこちらの方です。クラウドは我々の頼もしい仲間ですよ。」
「クラウド、お前休暇たまってただろ?しばらく巡回も無い事だし、母親をミッドガル中案内してやれよ。」
「ちょっと足を延ばしてチョコボファームにでも行けば、お前のお友達もたくさんいるぞ。」
「リック〜〜〜!!!貴様、覚えていろよ!!」
「だから、言っただろ?そんな事一々覚えていたら頭がパンクするって。」
 いつものようにクラウドの頭をわしゃわしゃとなでつけて、リックが軽くウィンクする、となりでエドワードがいつものように笑っている。ランディもブライアンも、他のクラスA仲間も何ら変わった所はないが。ただ一つだけ違った所があった。セフィロスに対する態度だった。
 一番対応に慣れているリックがいつものように姿勢を正して敬礼をした。
「隊長殿、クラウドと母君は私が責任をもって送り届けます。いつもの執務にお戻り下さい。」
「そうか、では後を頼んだぞ。」
「アイ・サー!」
 リックが敬礼すると同時にクラスA全員が敬礼してセフィロスを送り出す、ガスト博士がクラウドの母親を促すとプライベイト・ラボへと歩いて行った。

 ガスト博士とクラウドの母親がエレベーターに乗ったのを確認すると、一気にクラスA執務室の雰囲気が変わった。
「姫って、ついつい呼んでしまいそうだったな。」
「俺なんて”奥さま”って呼びそうだった。」
「カンパニーに来る事はもう無いだろうけど…ユージン、お前何も喋っていないだろうな?」
「まさか!!話したらあれだろ?」
「あれ…だろうな。」
「正宗取り出されてThe End。」
「多分ね。」
 クラスAソルジャーたちはどっと安堵の息を吐き出した。

 化学部門統括 プライベート・ラボで、コーヒーを飲みながらガスト博士とクラウドの母親が話し合っていた。
「そう、それで博士は統括職に戻られたのですか。」
「ええ、息子さんは魔晄になんて浸しませんからご安心下さい。」
「博士、ずいぶん変わられましたね。なんというか…凄く優しくなられました。」
「それをおっしゃるのでしたらセフィロスにいうべきでしょうね。クラウド君と出合った事でずいぶん変わりました。今では仲間に囲まれてワイワイやってる時もありますよ。」
「まぁ、そうですの。」
「そういえばウチの娘もクラウド君には世話になっていましてね。料理をならっているようだが全然上達しないんだ。」
「クラウドは本当に男の子か女の子かわからなくなっちゃったわね。」
「ははは、恋した相手が英雄セフィロスではどうしてもそう見えますな。」

 複雑な気分で飲んだコーヒーはほろ苦かった。


 しばらくガスト博士と談笑した後、彼女はクラウドが用意してくれたホテルへと荷物を持って移動した。
 ホテルに入って受け付けで名前を言うと、コンシェルジュが荷物をもって部屋に案内してくれる。エレベーターに乗り案内された部屋はニブルヘイムの家よりも広いスウィートルームで、窓から見える景色ははるか眼下に広がっていた。
「あの、私こんな部屋に泊まるようなお金を持っていませんけれど。」
「いえ、料金は既に頂いております。ごゆるりとお過ごし下さい。」
 コンシェルジュはそう言うとコーヒーをサービスして部屋を出て行った。
 彼女は広い部屋にぽつんと残されていた。