自分の戦友であり、一番親しい仲間のランスロットが、セフィロスはクラウドに勝てないという事を見抜いている事が、彼にはなぜか嬉しかった。
 実際クラウドと対峙するような事になるとは思わないが、もし今の状態で彼と対決すると言う事があれば、あまりの愛しさについつい手を抜いてしまいかねないのである。
 もっとも、そんなことをすればクラウドはすぐに見抜き、怒り心頭で自分にかかってくるであろう。そんな状態の自分がクラウドに勝てるとは思ってはいなかった。
 そんなことを思いつつセフィロスはガスト博士に答えた。
「そうだな…クラウドに泣かれたら、私はお手上げだからな。」
 セフィロスがゆるやかな笑みを浮かべながらつぶやいた。それを見てクラウドの唇が拗ねたようにとんがった。
「酷いや、俺がまるで女みたいじゃないか。」
「女の子だったら堂々と『セフィロスの奥さん』になれてたのにね。」
「エ、エアリス!!」
「あ、でもミッドガルは同性婚も認められているのに、なんでクラウド君はセフィロスとの事を隠すの?」
 エアリスの素朴な疑問にクラウドは悲しげな笑みを浮かべながらポツリ、ポツリと話した。
「セフィは…神羅の英雄だよ、世界の人の憧れなんだよ。そんなセフィが俺みたいな少年と恋しているなんて、世間の人達が絶対ゆるさないと思うんだ。」
「も〜〜う!!世間が認めなかろうが何だろうが、クラウド君はセフィロスに望まれてそばにいるんでしょ?!」
「そ、それはそうだけど。」
「だったら堂々としていればいいのよ!!『どうだ、いいだろう。俺はセフィロスに望まれてそばにいるんだぞ!』ってね。」
 ウィンクをしながらエアリスの花のような笑顔をクラウドに向けると、ガスト博士とイファルナがうなづいていた。
 ナタリーはその様子を見て(クラウドにはいい友達がたくさんいるのだ)と実感していた。
 セフィロスがちらりとエアリスを見てつぶやいた。
「ほぉ、たまにはいい事を言うな。」
「うふっ、ザックスの受け売り。私も他人の事いえないのよね。ザックス、ああ見えてもてるのよ。私と一緒にいてもあちこちの女の子から声かけられちゃって…そのたび不安になっていた時に同じ事いわれたの。」
 エアリスの言葉にガスト博士が青くなった。
「な、なにぃ?!彼はお前と一緒にいてもよその女の子に目を向けるのか?!」
「ええ、特にクラウディアにはついつい目が行っちゃうみたいよ。いっつもぼけ〜〜っとして見とれているの、男の子によ!悔しい〜〜!!」
「今度そう言う事があればいつでも呼べ、二度とそのようなことがないよう、厳しく言いつけておく。」
「だからって正宗で脅すような事だけはしないでね。」
 エアリスとてクラウディアに見とれているザックスが、セフィロスにどういう扱いを受けるかこの一年で嫌と言うほど見てきた。決して傷つける事はないが天下の英雄にその愛刀”正宗”を向けられて、まともで居られる人などいないはずである。慣れているザックスですら一瞬青い顔をするのを何度か見ていた。
 エアリスが青い顔で切り返したのを見てクラウドは思わず口をはさんだ。
「エアリス、大丈夫だよ。セフィが敵でもない人に正宗を向けるのはね、よほど親しいか信頼出来る人であることなんだよ。”確実に避けることのできる人物”にしかそう言う事しないもん。」
「え〜〜?!じゃぁ何でセフィロスはクラウド君には正宗向けないの?」
「馬鹿者、愛しい者に刀を向けるような事などせぬ。」
 3人のやりとりを聞いてナタリーはセフィロスの事を見直した。本当にクラウドの事を愛しいと思っているうえに、いたずらを仕掛ける相手もいるとは思わなかったのである。
「クラウド、良かったわね。」
「ん?母さん、何の事?」
「ニブルに居た頃はこんなに自分の事を思ってくれる人達は、貴方のまわりに居なかったもの。」
「あ…うん。でも、俺ソルジャーに結局なれなかった。母さんやティファとの約束守れなかった。」
「そんな事気にしていないわ。それに記憶がなくならなくて良かったって、私は思っているわ。」
「おやおや、ナタリーには嫌われていると思っていたが、少しは役に立っているのかな?」
「博士が?母さんに嫌われている?」
「まだおっしゃるんですか?主人の事故は故意だとは思っていません。それに博士のおかげで主人と出会えてクラウドが産まれたのですから博士には感謝しています。」
「それはそれは…そうだ、セフィロス。例の実験だがな、D.N.A.の分離結合に成功したぞ。あとは育てる方だ。」
 いきなりの言葉に思わずセフィロスが飲みかけているコーヒーを吹き出しそうになり、クラウドが一瞬何の話か理解出来かねていた。
「は、博士!!」
「はははは…セフィロスがそう言う反応をするとは思わなかった。もっと確かな物になってから私から伝えておくよ。」
 ガスト博士の笑顔にセフィロスは安堵した

 クラウドとエアリスの作った食事は、何処のレストランで出してもおかしくないほど、美味しくて見栄えの良いものであった。

「なるほど…ムッシュ・ルノーの評価は間違ってはいないな。」
「エアリス、どのくらい手伝ったの?」
「味つけは殆どクラウド君。私は下ごしらえだけよ。」
「どうりで。ほら、きゅうりが切れていない。」
「あ〜〜いやぁ〜〜ん!!」
 母親が見せる蛇腹のきゅうりをエアリスがあわててもぎ取った、食卓には温かい家族の雰囲気があふれていた。
「クラウド君並みになれとは言わないけど、もうちょっと上手にならないと彼との結婚は許せないわよ。」
「それなら大丈夫だ。あいつの胃袋は鉄壁だ。」
「うん、きゅうりだろうとニンジンや玉ねぎが丸ごとだろうと、肉や魚が生焼けだろうとザックスなら大丈夫!!」
「それって誉め言葉じゃないわよ!!」
 ナタリーはこの場にいない”エアリスの彼”に会って見たい気がしてきた、きっとその彼が二人と共にいなかったら今の息子達がいるとは思えなかった。

「エアリスちゃんの彼という方にもお会いしたくなっちゃったわね。」
「ああ、ザックスなら放っておいてもそのうち会えるだろう、なにしろ呼ばなくても現れる奴だからな。」
「明日は部屋に来てくれるんでしょ?ならその時にきっと来てくれるよ。」
「そういう人なの?」
「う〜〜ん。そういう人…かな?」
 エアリスとクラウドが爆笑していた。


* * *



 神羅カンパニーのソルジャー寮食堂で大きな音を立ててくしゃみをしていた男がいた。
「ハァ〜〜〜ックショイ!!」
「うわ!!ザックスつば飛ばすなよ!」
「きったねぇなぁ。」
「馬鹿は風邪引かないんじゃないのか?」
「馬鹿だから引くんだろう?」
「ううう。。てめぇら、コレが目に入らないか!!」
「うわ!!敵の技マテリアか?!」
「や、やめろ!!食堂で”臭い息”なんて放つな!!」

 一般兵の寮よりも遥かに広く綺麗な食堂に、特務隊トップソルジャー達が揃って食事をしていた。
 カイルがまわりを一通り見渡した後、小声でザックスに話し掛ける。ソルジャーの寮に入ってから、セフィロスとクラウドの事を話す時は、こうしてまわりを確認して、話す事をお互い約束していたのであった。

「なぁ、ザックス。隊長って姫の母親と知り合いな訳?」
「おれも詳しい事知らないんだけど、それはないみたいだぜ。でもまあ、息子の結婚相手で申し込みにも行ってるんだから会っているのは確かだな。」
「あの隊長殿が一般人に頭を下げに行ったってのが俺には信じられないけどなぁ。」
「でも、年齢が年齢だろ?保護者の許可がないと正式には出来ない事だ。ところが、あそこのマネージャーが言うには正式なものだって言うじゃないか。」
 リック、カイル、ジョニーはセフィロスとクラウドの挙式に立ち会っている3人である。当然マネージャーとも何度かあっているうえに、ジョニーに至ってはそのマネージャーからクラウディアの誕生会の司会を頼まれていた。
「まあ、ティモシーが言うなら間違いではないだろうな。ルーファウスも凄いやつを見つけて来たもんだよ。」
 そこまで話していた時、ソルジャーが食堂にはいって来たのを察して3人は急に押し黙った。

(敏い連中だぜ)

 ザックスは目の前のトレイに有る食事をかきこみながら、わざとらしくつぶやいていた。

「ちきしょう。セフィロスの奴、今ごろ俺のエアリスや美人の嫁に囲まれて、一流レストラン並の手料理食ってるんだろうな〜〜」
 ザックスの機転に気が付きリックが調子を合わせた。
「お前はたまにおこぼれにあやかれるじゃないかよ!!」
「そうだぜ、いくら恋人の親友だからってあまり羨ましい事するな!!」
「へへへ…俺、19日のクラウディアの誕生会、呼ばれてるんだぜ〜〜」
「あん?!貴様みたいなクラスC扱いがなぜクラウディア様の誕生会に行ける?!」
「俺、お金持ちのお坊っちゃまだもん。」
「自分で言うな!!このぼんくら息子!!」
「そりゃ、グランディエ財団の御曹司じゃ呼ばないわけにはいかんわな。俺、タキシード持ってねえんだよな…ジョニー、いい店教えてくれよ。」
「んなもん、マダムセシルに行けばいいじゃないか。」
「ジョニー、貴様は俺に一年彼女とデートするなっていいたい訳か!」
「うわ〜〜、顔見知りじゃなくてよかった。」
 ジョニーもカイルもリックに合わせて話を変えていると、そこに先ほど入って来たソルジャー達が近寄ってきた。

「え?何々?クラウディアの誕生会だって?」
「いいなぁ、お前ら。キングの部下だけあって、世界の妖精に何度かあっているんだろ?」
 ソルジャーたちに話しかけられて自慢げにリックたちが答える。
「あ、俺。そういえば笑いかけてもらえた。」
「俺はことばをかけてもらえたぞ〜。あの天使のほほ笑みで「ありがとう、カイルさん」だって。ヘヘヘヘ…」
「俺の勝ち〜〜!なんつーたって隊長の許可をもらってダンスをしたし〜〜」
 寄って来たソルジャーたちはクラウディアのファンなのか、自慢げに話すジョニーの首を軽く絞めて、こめかみをげんこつでぐりぐりと押した。
「ジョニー!貴様おいしすぎるぞ、それは!!」

 その場に居た全員が爆笑している。思わずザックスは笑顔で眺めていた。