ソルジャー達の会話はまだ続いていた。
「でもさ、リックがクラウディアのファンだなんて、知らなかったなー」
「ん?どうしてだよ?」
「おまえって副隊長のサー・クラウド一筋じゃないのか?」
「ああ、本命は姫。クラウディアは隊長の恋人だからね。」
「そういえば、お前もカイルも俺達と一緒で、サー・セフィロスの熱狂的なファンだったものな。」
「さすが隊長フリークのハンスだ、よく知ってるや。」
まわりのソルジャー達が陽気に笑っていた。
* * *
母親をホテルに送り届けてバイクで帰宅したクラウドを、セフィロスが玄関まで出迎えていた。
部屋に入ったとたん、クラウドはくしゃみをしてしまった。
「クシュン!!」
「バイクで体を冷やしでもしたのか?おいでクラウド。ゆっくりと風呂に入って暖まろう。」
「え?あ、だ…だい丈夫だよ。」
「万が一お前が今風邪引いたら、ミッシェルに怒鳴られる。」
そう言うとセフィロスはクラウドの身体を姫抱きに抱えてバスルームに入る、バイクが駐車場に入った時から溜めておいたおかげでお湯がたっぷり張ってあった。
一旦クラウドを降ろすとあっさりと衣服を脱がし自分も服を脱いでいった。
「ちょ、ちょっとセフィロス!」
あわてるクラウドを再び抱き上げて湯船の中に入ると耳元でささやいた。
「たまには…良いだろう?」
「……確信犯……。」
自分のすぐそばに愛しい人のたくましい胸とやさしい笑顔が有る。はずかしさと、その笑顔を見ていたい気持ちとがクラウドの中でぶつかる。そしてそのせめぎあいの中でクラウドの頬が赤くなっていく。
セフィロスの武人とは思えないすらりとした指がクラウドの頬をなで、ゆっくりと細い顎を持ち上げた。魔晄を浴びたアイスブルーの瞳がまっすぐにクラウドの瞳をとらえていた。
クラウドの顔が一気に赤くなった。
「…俺、のぼせちゃいそう。」
「クックック…本当にお前は可愛いな。」
軽く唇をついばまれるようなキスを何度もうけると、次第にクラウドの碧い瞳に妖艶な炎が見え隠れしはじめた。
「もう、このままの方が風邪ひいちゃうよ。」
「そこまで言うのならベッドまでお連れしましょうか?」
「……ばかぁ…。」
真っ赤になって上目づかいに拗ねたような瞳を向けるクラウドは、セフィロスに取って”もう、どうにでもして”状態でしかない。身体を洗うのもそこそこにシャワーを浴びてさっさとクラウドをバスタオルに包み、自分も軽く身体を拭いてクラウドを抱き上げベッドルームへと歩いて行った。
翌朝、いつものように朝食を作るクラウドはなぜかメチャクチャきげんがいい。思わず鼻歌なんて歌っちゃっていたりしています。
その理由はただ一つ。
セフィロスはカンパニーで仕事をしている時は昼食を食堂で取らず、会議などで外出した際に適当に済ませているのである。しかし今はサマー・ヴァケーション・シーズン真っ盛り、カンパニーに所属する多くの社員は実家に帰宅したり、恋人と旅行に行ったりしている。
そのおかげで寮の食堂は開いてはいるが、開店休業状態でろくな物は出ない。
そんな理由でクラウドはセフィロスのためにお弁当を作っていたのであった。
「ん〜〜、我ながら美味しそう〜〜」
一人満足げに出来上がったお弁当をみて満面の笑顔を浮かべていると、不意に後ろから抱きしめられた。
「何やっているんだ?」
「あ、セフィロス。コレ見て。」
「ほぉ、ずいぶん美味しそうなバスケットだな。」
「俺セフィのためにお弁当作ったんだ、まさかクラスSソルジャーのセフィが寮の食堂に行けないし、ミッドガルのランチ食べれるような店はほとんどお休みなんだ。ね、持って行ってくれるんでしょ?」
眩しいほどの笑顔と共に差し出されたバスケットをよく見ると、クラウドの努力を無にする事もできず、渋い顔をしてセフィロスが受け取る。
その様子を見てクラウドの顔がちょっと暗く沈んだ。
「あ、もしかして嫌なの?」
「嫌なわけがあるか、毎日でも作ってほしいぐらいだ。しかし、コレを見た連中がどう出るか、わかるだろ?」
「???」
「わからぬか?私の口に無事はいると思うか?」
「大丈夫だよ。今日のカンパニーは絶対閑散としているから。」
それはそうであろう、サマー・ヴァケーション・シーズンは大手を振って有給が取れる。一部のソルジャーはクジにはずれて待機人員に回されていたが、進んで出社しようと言う社員はあまりいない。
セフィロスはゆっくりとうなずくと食事を取る為テーブルに座ると、クラウドがコーヒーをそっとさし出した。
いつもの朝食が始まり食べ終わると、セフィロスだけがいつもの戦闘服に着替える。いつも見て慣れているとはいえびしっとした凛々しさに、クラウドは思わず笑みを浮かべる。
ランチボックスと正宗をクラウドが持ってセフィロスの後に続き、玄関先で正宗とランチボックスを手渡して軽く唇を重ねる。
「行ってらっしゃい。」
「ん、行ってくる。」
ランチボックスを軽く持ち上げてセフィロスがエントランスへと出て行った。
エレベーターホールの前まで見送るクラウドが少し悲しそうな笑顔で手を振る、その仕草が何ともいえずに後ろ髪を引くが、手に持ったランチボックスがセフィロスをカンパニーへと向かわせた。
クラスS ソルジャー 執務室にセフィロスが扉を開けて入っていくと、出勤しているのは2、3人しかいない。
安心してランチボックスを机の上に置くと目ざとくガーレスが気がつく。
「おや?キング、ランチボックスとは珍しいですね。」
「ああ、食べる所が無いだろうと妻が作ってくれた。」
「奥様の手作りですか、それはそれは…さぞ美味しいでしょうな。」
「貴様達にはくれてやらないぞ。」
「わかっておりますよ。わたしとて奥様の泣き顔など想像したくもありません。しかしキング、管理をしっかりさせないと、どこかの腕自慢な隊員たちが奪いに来ますよ。」
「クックック…このランチボックスにはパスコードが付いていて、私でないと開かないようになっている。」
「なるほど。」
出勤している者が少ないと言うのに、セフィロスの持っているランチボックスの事はあっという間にカンパニー中の待機ソルジャーに知れ渡っていた。
ザックスが特務隊の執務室で喚きまくっていた。
「け〜〜〜!!!羨ましい事!!愛妻弁当だってさ!」
「奪ってやりたい。」
「無理、パスコード付なんだってさ。」
「ところで、リックもカイルも実家に帰らなかったのかよ?」
「俺は隊長と姫がミッドガルにいるのならここに残る。」
「同上。」
「はぁ〜〜、エアリスに会いたい…」
「ザックス、おまえガスト博士のところに居候すれば?そうすりゃ毎日会えるぜ。」
「くっくっく、入り婿状態になるなそいつは。」
「ぶ!!バーロー!!そんなこと出来るわけねえ!!」
ザックスのひときわ大きな声が特務隊の執務室に響き渡った。今まで『女と見れば誰彼かまわず口説き回る』と有名だったザックスがエアリスと知り合ってからぱたりとナンパを辞め、付き合いはじめてからは信じられないほどの純情さを見せていた。
「それよりもザックス、お前かなり間違ってない?昨日のうちに確認しておいたけど、例のパーティー別にタキシードで行く必要なさそうだぜ。」
「あん?そうなの?」
「ああ、スーツは必要とは思うが、今日にでも本人に聞けば?」
「おお〜〜!!!ジョニー サンキュ!!うまい飯にありつける!!」
「ジョニー おぬしも悪やのォ。」
「クックック、隊長の顔が目に浮かぶぜ。」
「だろーー?さすが俺!」
「お前ら、一体誰の味方な訳?」
「当然、自分の味方!!」
きっぱりと言い切った3人にザックスは頭を抱えた。
* * *
閑散としたカンパニーの中でそれぞれが執務をこなしていた。
クラスBの執務室でザックスが真面目に書類と格闘していた、クラスA執務室でリックは居残りの仲間と開店中の店の情報交換を、クラスC執務室でカイルとジョニーが巡回警らの準備をしていた。
そしてお昼のチャイムが鳴り響いた。
ザックスとカイル、ジョニー、リックが執務室から飛び出して来て鉢合わせした。
「お、お前ら…」
「考えることは一緒か。」
「当たり前だろ!!」
「時間がない、行くぞ!」
4人の男がほぼ同時にクラスS執務室に駆けだした。
男たちがクラスS執務室に到着したとき、目の前で扉が開きガーレスが出てきた。
「サー・ガーレス。隊長は?!」
「ぷっ!!おまえらランチボックス狙っているのか?セフィロスはもういないぞ。とうの昔にランチボックス持って出かけた。」
「っきしょう!!嫁さんお手製の弁当独り占めする気か?!」
「どっちに行けばいい?!」
「隊長の性格なら一人になれる所だ!」
「訓練所の裏の木の下だ!!」
「なるほど、ザックスお前見込みがあるぞ。」
「ふふん、ダテやざらでセフィロスの元に3年も居ませんよ。」
そう言うとザックスが一目散にかけ出した、その後をリック達が追いかけていく。ガーレスがその後姿をゆっくりとした歩調で追いかけ始めた。
10分もかからずにザックスは目的の木の下に到着した。しかし木の下にセフィロスの姿は無かった。
「あっれ〜〜?!ここじゃないとしたら何処なんだ?」
「ここって?」
「ヘヘヘ、実はなセフィロスとクラウドの待ち合わせ場所。俺、何度かクラウドと一緒にここで稽古のふりをしていたことがあるんだ。」
「なるほど、あれ?ザックスあの子。」
カイルが指を差す方向は駐車場の門の所だった、見覚えのある茶色の巻き毛の女の子が立っている。
「エ、エアリス〜〜〜!!!」
ザックスがダッシュでエアリスに駆け寄った。
「エアリス、一体どうしたって言うんだよ?」
「クラウド君が教えてくれたの。今日食べるお店が無いんですって?だから、お弁当持ってきたの。」
「え?ほ、本当?!超嬉しいぜ!!」
「でも、あまり上手じゃないから、他の人のいない所で食べてね。」
「OK、いい所知ってるんだ。一緒に食べようか?」
「え?本当?うれしい!!」
ザックスがエアリスを伴ってどこかへ歩いて行ってしまった、入れ違いにガーレスが現れる。
「おや?ザックスは?」
「たった今、姫のわなに落ちて脱落しました。」
「あいつの彼女が姫の入れ知恵でお弁当持ってきたんですよ。」
「ハハハハハ!!さすがだな!!姫の方が上手だったか、ほら、おまえらキングを探していないでさっさと飯食ってこないと、昼抜きで仕事する事になるぞ。」
「ヤバい、行くぞカイル、ジョニー!」
「アイ・サー!」
3人が敬礼してガーレスの前から走り去って行った。
ガーレスはニヤニヤしながら3人を見送った後、本社ビルへと歩いて行った。エレベーターに乗り込み67Fまで上がると統括室へと入って行く。そこにはカラになったランチボックスを前にコーヒーを飲みながら一人笑みを浮かべているセフィロスがいた。
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