FF ニ次小説
 先を行くクラウドにザックスが追いついて、白いコートの肩を叩く。
「クラウド、ちょっといいか?」
「ん?なぁに?」
「お前、下級ソルジャーにむやみに声かけるのやめろよ。」
「セフィロスがかけないんだから、仕方がないだろ?」
「それがどう言う事か知っているのか?」
「俺がセフィロスの代わりになってるって事なんだろ?」
「お前知っていて…」
「二番目でもかまわない。俺だって上官から誉められた時の嬉しさは覚えてるよ。ましてやそれがセフィロスだったらどれだけ嬉しいと思う?セフィロスがしない事でも俺がする事で効果が同じなら、俺はそれでもいいと思う。」
「だからアイドルになっちゃうんだろ?!」
「特攻服にフリルやリボンが入っているわけでもないのに?」
「やめれ〜〜!!想像してしまうだろ?!」
 ザックスが両手をばたばたとさせてクラウドを止めようとする。クラウドはくすりと笑ってザックスに話した。
「ば〜か、俺がそんなカッコして見ろ一発でばれちゃうだろ?!」
「え〜〜?!やらないの?絶対可愛いと思うんだけどなぁ。」
 横からリックが突っ込みを入れると、途端にクラウドの顔が拗ねる。
「男に可愛いだなんて言われたくないよ。」
「へぇ〜〜。あ、そう。」
「ほぉ〜、ほぉ〜。そうなんだ。」
 ザックスとリックが何か言いたそうな瞳でクラウドを見ていたが、あえて無視して特務隊の執務室の中に入った途端、今度はセフィロスの強い視線を感じた。
「私のパスで調べられる事など何も無かっただろうに。」
「あ、バレちゃってる。」
「なぜ私に直接聞かない?ブライアンやエドワードを使っても、得られる情報などたかが知れているぞ。」
「エディに頼んだのは、彼がサー・パーシヴァルの副官だからです。隊長殿に聞いても何も教えてくれないと思っていたから…」
「心外だな、任務にプライベイトを持ち込むつもりはない。」
 セフィロスの一言にザックスが突っ込みを入れる。
「そう言いながらどれだけプライベート持ち込んでいるんだか…」
「まぁ、この部屋がピンク色に染まらないだけマシとしようぜ。」
 リックがザックスの肩をポンとたたいていると、そこへカイルとジョニー、ユーリがあわてて駆け込んできた。
「すみません遅れました!」
「警らの戻りで渋滞に巻き込まれて遅くなりました。」
「ミッションですか?!」
「いや、先日のルビーを倒した時の報酬だ。」
 そう言ってセフィロスが通知を手渡す、隊員達の顔に笑顔がのぞいた。
「うわ〜〜!!凄い金額!!」
「こんなに出して治安部持ちますか?」
「俺はそんなに無いぞ、どれだけもらったんだよ?」
 そう言ってザックスはジョニーの手元にある通知書をのぞき込む、丸の数を数えたらじぶんよりも2個も多い。驚きのあまり大きな声で叫んでしまった。
「うわぁ!!実戦部隊の危険手当ってこんなに違うのか?!」
「お前は今回昇格扱いでも、後方支援だったもんな。」
「姫は?」
「う〜ん、いつもよりは多いけどそんなにかわらないよ。」
 危険手当は敵に対して与えたヒットポイントで決まる。当然召喚獣で攻撃しているクラウドと、その真似をしているリックは多いはずだった。
「俺なんて年末調整が恐ろしいぜ。」
 リックが真っ青になって通知書を睨みつけていると、ザックスがセフィロスにすり寄った。
「なぁ、セフィロス〜〜〜。なんかおごってくれ。」
「なぜ私がお前におごらねばならん?」
「当然だろ?!俺を後方支援に飛ばしていつもなら入る収入が入ってこなかったんだぞ。」
「いつもわが家に来ては食事をして帰るお前がそれを言うか?」
「あ、そういえば母さん来てた時なんて、ケラーのワインから高いのばかり出して一人で飲んでいたよなぁ。」
「ギク…ギク、ギク!!」
 死線を潜り抜けるような戦いをした後とは思えないほど、この隊に所属する隊員達はいつものように振る舞っている。しかしその隊員達の中で一人だけ青い顔をしている隊員もいた。クラウドがその隊員に近付いて話しかける。
「ジャン、どうしたの?」
 ジャンと呼ばれた隊員は、特務隊所属暦がクラウドの次に短く、一般兵でもトップクラスの実力を持ってはいるが、隊では1番実力が無い隊員だった。
「いえ、なんでもありません。」
 ザックスもジャンの顔を見て近寄ってくる。
「そうかぁ?何でもないって顔じゃないぜ。」
「目の下にクマ作っちゃって、おまえここ数日寝てないんじゃないのか?」
 リックの言葉にジャンと同僚のゲイルがそれに答えた。
「それだけじゃないです、ジャンの奴先日のミッション以来、食事をロクに取っていないんです。」
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)か」


  PTSD 心的外傷後ストレス障害

 命の危険にさらされるような事件、事故が起こったり、それを見たりした場合その事件、事故の事がいつまでも記憶に残りその後の生活に支障をきたす。

 特務隊の隊員達は精神的に強く、過去そういった状態に陥る隊員はいなかった。しかしどうやらジャンは先日の戦闘をいまだに引きずっているようである。
「自分は…もっと強い人間だと思っていました。しかし目の前で姫、リック、ジョニー、カイルが倒れるのを見て……自分はなんて無能な人間なんだって…。」
「責めるなら私を責めろ。こいつらの考えを見抜けなかった。」
「お前がそう思ってもしかたがないな。なにしろウチの隊のナンバ−2からナンバー4までが自分で自分を刺したんだから。俺だってあの時は『こいつらパーサクかかったか?!』って思ったぜ。」
「やり方が正常じゃなかったことは認める。でも、あれしか方法がなかったんだ。」
「姫はまだいいよ。あのあとぶっ倒れて殆ど動けなかっただろ?そのあと俺とカイルとジョニーがどれだけ隊長に叱られたと思う?」
「あの時はマジで酷かったぜ、『なぜこんな馬鹿な戦い方をした!』とか、『なぜ止めなかった』とか、久しぶりに張り手も食らったな。」
「ああ、こっちはフルケアしたばかりだっていうのに、遠慮も杓子もなく雷落された。」
 3人の話を横で聞いていたセフィロスがせき払いをすると、ザックスが目ざとくその意味をかぎつけた。
「はぁ〜ん、氷の英雄と呼ばれた男がお優しくなった事で。以前は自殺しようとした兵がいようとも目にもくれなかったのになぁ。」
「いや、それはただ単に愛妻の命に関っていたからだと思うけど。」
「そ〜、そ〜。俺達の事なんざ全然頭に無いって、嫁さんの暴走を止められなかった俺達が悪いみたいな言いぶりだったぜ。」
 居辛くなったのかセフィロスがこっそりと執務室を抜けようとするが、ザックスに見抜かれて扉の前で止められる。
「すっごく人間臭くて好きだぜ、氷の英雄さん。」
「と、言う訳だジャン。俺達が勝手にやった事でお前を傷つけたなら謝るよ。」
「なにも隊長が俺達に指示したわけではないんだ。」
「もっとも、姫は最初からそのつもりだったようだけどな。」
「わかりました。でも、それなら自分も先発隊に入りたかった。」
「何をほざくか1番下っ端が!」
「あの〜。リック、俺の方がジャンより下っ端なんだけど。」
「あっという間に追い抜いて行ったくせに、良く言うよ。」
 ジャンの顔に笑顔が戻ったと思ったら今度はクラウドが厳しい顔をした。
「それで隊長。エメラルドとダイヤの事ですが、本当に何もわかっていないのですか?」
「ああ、そうだ。2体ともまだ未接触だ。エメラルドの方はジュノン南西の海底に潜った潜水艦が、ぐうぜん目の前を横切った緑色のモンスターを写真に取った。ダイヤはどこかの馬鹿の命令で、アイシクルエリアの北にある大空洞へ行った時に、禍々しい気配が飛び去った時に瞬時にとった写真だ。」
「それを接触したとは言わないのですか。」
「いい突っ込みだ。」
「隊長は戦闘状態に陥らないと、接触したとは言わないらしい。」
「次は俺にも戦わせろよ〜〜!!」
 ザックスが肩を回して関節をゴキゴキ言わせた、クラウドが呆れたような顔でその姿を見ている。
「ザックス、その時まで特務隊にいるつもりなの?」
「ああ、実力さえ出さなければ上に上がる事はない。」
「ほぉ、お前にそのような実力があるとは思えないな。」
「ふふん、セフィロスをぶち抜いて、クラウドの隣りをもらうって言っているだろ?それなりの努力はしているぜ。」
「やけに自信満々だな。」
「おう!あと5年以内に絶対叩きのめしてやる!!」

 クラウドはザックスの言葉を聞いて呆れていたがリックが矛盾を突きつける。
「ザックス、残念だがお前に隊長を抜くことはできない。あと2〜3年でガスト博士が魔晄の力を抜く技術を得るだろう。お前はあと数年で元のからだに戻ってしまうんだぞ。」
「だからだよ、ごく普通の人間同士なら互角にわたり会えるだろ?」
「出来るとも思えないな。」
「ありゃりゃ、簡単に言われちゃいましたよ。」
 ザックスが肩をすくめる、あえて逆らおうと言う意志は彼には無かったのであった。やはりセフィロスに憧れて神羅カンパニーに入社した男の一人である。憧れの男を無理やり地面にはいつくばらせるような真似はしたくなかったのである。
「でもよぉ、こいつを泣かせるような真似をした時は…俺、セフィロス相手でも容赦しないぜ。」
「さぁな。ベッドで啼かせるのは得意なんだがな。」
 セフィロスの言葉にクラウドが耳まで真っ赤になり思わず顔を両手で隠す。ザックスとリック、カイルがセフィロスに食って掛かった。
「だ〜〜!!!!いくら自分の嫁だからって言って、喋っていい事と悪い事ぐらいの区別ぐらい付けやがれ!!」
「聞きたくない!聞きたくない!聞きたくな〜〜〜い!!」
「う、うらやまし過ぎる。」
 クラウドはふとジョニーが突っ込みを入れないのが気になった。見るとジョニーは何か思案げな顔で窓際に立っていた。クラウドはジョニーに近寄ると肩を叩いて話しかけた。
「ジョニー、どうしたの?」
「ん?いや。なんでもねぇよ。」
「おかしいぞお前、いつもなら姫に声をかけられたら喜ぶのに。」
「それともなんだ?姫以外に本命が出来たのか?」
「残念だがそれも違うな、隊長の話を聞いているとなんだか…妹を知り会いに取られる気持ちってこんなもんかなぁって…」
 クラウドは先日出会ったジョニーの知人の妹と言う女性を思い出していた。
「あの時の女性の事?」
「いや、もう一方の奴。あいつ、幼なじみの妹分だったんだ。いつまでもガキで…気位の高いお嬢様で…。でもよ、不思議なんだよな、サトルと付き合い出してから急に綺麗になって…妹だとばかり思っていた奴が急に女に見えて…。俺、どうしたんだろうって…。」
 ジョニーの一言にザックスが突っ込みを入れた。
「あ、それはきっと逃がした魚は大きいって奴だぜ。」
「ちょっとは好きだったんじゃないのか?」
「それはあり得ないな。俺はあいつと結婚させられるのが嫌で家出したんだ。」
「美人が一人、他人の男のモノになったのが悔しいんだろ?」
「お、それそれ!!世の中の美人は皆、俺の物!!」
 ジョニーの顔に笑顔が戻ったようにみえたが、陽気に振る舞う姿に陰りがあるのを、見逃すようなセフィロスやクラウドでは無かった。