FF ニ次小説
 ジョニーに見え隠れする陰りが何であるかわからないまま3日が過ぎた時、クラウドは定期警らでエドワードと3番街を歩いていた。目の前のレストランから見覚えのある女性二人が出てきて、クラウドを認めて近寄ってきたのでエドワードが尋ねる。
「お前こんな美人の知り合いなんていたのかよ?」
「ジョニーの知り合い。」
「なるほど、あれは3番街の市民病院の医者だろう?あのお坊ちゃんらしいな。」
 ぺこりとおじぎをする金髪碧眼のスタイルばつぐんの美女も、そのとなりの茶髪でアンバーの瞳を持つキュートな女性も同じように白衣を着ていた、クラウドはあくまでも兵士らしく軽く敬礼をして話しかける。
「何か御用でしょうか?」
「あの…ジョニーを一ヶ月間家に戻していただけないでしょうか?」
「彼が除隊をしない限りそんなに長期間の帰宅は無理です。」
「ジョニーのお母さん、心臓病で再来週にも手術なんです。だから…せめて手術当日と、術後3日ぐらいは…」
 白衣の女性の言葉にクラウドは先日来のジョニーの陰りを思い出していたが、冷淡な瞳で目の前の女性に言い放った。
「あなたは自分がオペをしている最中に、両親が危篤だからと言って仕事を後回しにしてまで駆け付けますか?それと一緒で、我々はカンパニーに所属する時に『親の死に目に会えなくても文句を言わない。』と、契約書に明記してある文章にサインを入れています。」
 クラウドがそこまで喋った途端、目の前の女性の右手が音を立てて頬にヒットした。
「人非人!!悪魔!!」
 さらに食って掛かろうとする女性を後ろにいた女性が抑えた。
「おやめなさい!マイラ。この人が悪い訳じゃないのよ!!」
「でも、でもライザ姉さん!!」
 ライザがクラウドに対しておじぎをした。
「すみませんでした。あなたもお仕事とはいえ辛い事を聞かせてしまいました。」
「いえ、お気になさらずに。こういう仕事でなければ、いつでも行かせるのですが…何しろ我が隊は最前線を任されているうえに、彼は無くてはならない兵なのです、すみません。」
 クラウドが軍人らしく凛とした態度で敬礼をすると、エドワードを促して歩きはじめた。エドワードがクラウドの横に並んで話しかける。
「使われている者の辛さだよな。」
「何とかしてやりたいけどさ、俺達にはどうしてやる事もできないよ。」
 エドワードがうなずくと二人は顔を見合わせて軽く溜め息をついたのであった。


* * *



 定期警らを終えると、特務隊にミッションを言い渡された。ミッションに必要な期間はほぼ3週間、クラウドは思わず先程であった女性たちとの事を思い出してしまった。
「まったく、こういう時に限って長いミッションが入る。」
 クラウドがブツブツ言っていると、後ろからセフィロスに小突かれた。
「何をやっている?ミッションが入ったのだろう?」
「ええ、一人も…外せないですよね。」
 いつもとは違う物憂げな表情にセフィロスは訊ねた。
「何かあったのか?」
「警ら中に3番街でジョニーの知り合いから聞きました、彼の母親が再来週にも心臓手術だそうです。」
「それで…か。しかし、できない相談だな。」
「ええ。」
 セフィロスに続いてクラウドが執務室に入ると、揃っている隊員達にミッションを言い渡した。少し間を開けてクラウドがジョニーをじっと見て言った。
「ジョニー、お前さえかまわなければ、このミッションに限って、サー・トールの隊に編入させてもいいのだが…」
「隊長と副隊長、ザックス以外はろくな高位魔法が使えません。自分は高位魔法を少しとはいえ使えます。自分が行かねばどうするのです?」
「それを言われると少し辛いな。」
 クラウドとジョニーの会話がわからないリックが口をはさむ。
「姫、ジョニー。一体何かあったのか?」
「俺のプライベートな問題だ。そんなもの軍人になった時に捨てている。」
「ジョニー、強いね。」
「あ?もしかして俺の評価が上がった?」
「う〜〜ん、ほんの5cm!」
 クラウドの言葉にジョニーがずっこけた。


 翌日の午後、特務隊はミッションのためにミッドガルを離れた。
 輸送機に乗り込み一路ウータイ南部へと向かう。途中、コスモキャニオンの上空で銀色にかがやくボディを持っている物体が輸送機の目の前を通って行った。セフィロスがいきなり前方のパイロットに怒鳴りつける。
「アン・ノーン・モンスター発見、認識タグ打ち込みの為、左20度回頭!!」
 セフィロスの声を聞いて特務隊の隊員達が装備を確認し、扉の近くに集まる。カイルが認識タグやデータを採取する為の装置を入れた弾が入った小型のバズーカーを持ち出した。ザックスが扉を開けると数十メートル先をダイヤウェポンが飛んでいた。隊員の中で射撃の腕が1番よいクラウドがザックスの肩を借りて狙いを定めると引き金を引いた。
「ちぃっ!!当たれェ〜〜〜!!!」
 発射された弾が一直線にダイヤウェポンにつきささる。ダメージが少ないのかダイヤウェポンは気がつかないまま飛び去って行った。カイルがレーダーをのぞき込んだ。
「認識装置の打ち込みに成功しました。」
「よし、機首を戻せ!!」
「アイ・サー!!」
 セフィロスの命令に飛空挺の操縦士が従うと、輸送艇がウータイに向けて飛行を続けた。
 レーダーの範囲からダイヤウェポンが外れたが、あとは各地にある観測地点の近くを通れば奴の飛行ルートは把握できる。そう思ったのでクラウドはセフィロスに話しかけた。
「これでダイヤは何処に居るかわかるようになりましたね。」
「ああ、だが…しかしこのミッションが終ったら…」
「ええ、わかっています。それまでにせめてバハムートさんと騎士さん達を3回ずつ呼べるようになりたいですね。」
 クラウドの言葉にザックスが反応する。
「うげぇ!!おまえそんなに魔力付けたら魔女になっちゃうぜ。」
「女じゃねぇ〜〜!!」
 クラウドが叫んだ瞬間、正拳突きが見事にザックスのお腹に決まっていた。輸送隊員達が一瞬顔をしかめているのを横目で見てリックがつぶやいた。
「懲りない奴。」
 ぷんすか怒っているクラウドを見てカイルがあることに気がついた。
「あ、そういえば姫、乗り物酔いは?」
「え?あ、ダイヤ見付けたあたりからふっ飛んでいた…」
「何かに集中していると気にならないなら、それは神経から来ている事じゃないのか?」
 カイルの言葉にジョニーがうなずいて説明する。
「乗物酔いって奴は概してそう言う物さ。三半規管が弱いか、神経から来ているか…。三半規管が弱かったら戦闘時の立ち回りでも吐いているはずだ。」
「お、ジョニー。やたら学が有る所を見せるじゃないか。」
「わるかったな、俺は大学卒だよ!」
 そう言いながらザックスをがっしりとホールドして頭を拳骨でゴリゴリやる。
「いって〜〜〜!!」
 ザックスがわざと大声を出した。
 一見陽気にふるまっているように見えるが、クラウドにはジョニーが無理しているように見えて仕方がなかった。


* * *



 目的地についてベースキャンプを設営すると、いつものようにテントに別れた。同じテントの仲間であるザックスとリック、カイルにクラウドが話しかける。
「ねぇ、ザックス。このミッションをなんとか早く終わらせる方法ないかな?」
「ん?そうだな〜俺達が囮になって敵を引っ張ってきた所に、お前がバハムート呼んで一掃でおしまい…って言うのはダメか?」
「実にお前らしいやり方だ。」
「囲い込みをやって一掃と言う手が一番確実だが、それだと予定通り3週間ぐらいはかかりそうだな。」
「なんとか2週間以内に終らせられないかな?」
「どうしてそこまで無理をする必要が有る?」
「ん?ちょっとね。」
「は〜〜ん。何かあるな?いいぜ、お前がそこまで言うのならちょっとぐらい無理しましょうかね。」
 リックがにやりと笑った時にセフィロスが悠然とテントに入ってきた。当然彼には4人の会話が聞こえていたようである。
「3週間のミッションを2週間で終らせるとは、かなり無理な相談だぞ。」
「でも…でも隊長…。」
 涙で濡れたような青い瞳で、クラウドはまっすぐセフィロスを見つめてくる。その表情にセフィロスはメチャクチャ弱い。いや、クラウドに見つめられる事自体に弱かったりもする。
 セフィロスが思わずたじろぐと、すかさずザックスがチャチャを入れた。
「おお!!氷の英雄がたじろぐのを始めて見た!!」
「はぁ〜〜、隊長殿もやっぱり最愛の嫁さんには弱いか。」
「もう!!」
 クラウドが真っ赤な顔で抗議をしようとするが、最近では何を言っても無駄と諦めてしまっている。
 軽く溜め息をつくと物憂げに髪を掻き上げると、その仕草の色っぽさは万年氷河と言われた氷の英雄のハートをぐらぐら煮えたぎるマグマに変えてしまったほどである。見つめるリックとカイルどころか、エアリスと言う美少女のフィアンセがいるザックスですら思わず生つばを飲み込んだ。

 とたんに空気が冷え込み氷が張り巡らされた

 ザックスが恐る恐るセフィロスを見ると、絶対零度の怒気を周囲にまき散らして、自分たちをにらみつけていた。
「ひっ!」
「うわっ!」
「め、メチャクチャ懐かしい!!」
 男3人で抱き合いたくは無かったが、おもわず3人が3人とも、それぞれの身体に手を回していた。その時不意にクラウドが大きなくしゃみをした。
「くしゅん!!」
「大丈夫か?クラウド。」
 セフィロスが絶対零度の怒気をいきなり解除して、あわててクラウドに駆け寄ると、額に手を当てて熱を計った。
「大丈夫です。ところで隊長、先程の事ですが…」
「あ?ああ、ミッションの早期終了か?」
「はい、自分が思うにはこことここ…」
 そう言うと地図を取り出していくつかマーカーで丸を描く。
「このポイントとこのポイントは罠を仕掛けて…」
 いつしかクラウドのまわりに、テントに居た全員が集まっていた。
 クラウドが一通り自分の立てた戦略を言いおえると、その場に居た全員がうなずいた。
「よかろう、それならうまくいけば2週間で終るだろう。」
「あくまでも、うまくいったら…ですけどね。」
「すっげー、そう言うやり方が有るのか。」
「脳味噌筋肉男には考え付かないだろ?」
「で?なぜ早く終わる事に執着する訳?」
「ん?茶髪でアンバーの瞳を持つお姉さんを泣かせない為。」
 クラウドの言葉にザックスが目を見開いた。
「おねぇさん??クラウド、おまえとうとうノーマルな恋愛に目覚めたか?!」
「違うよ。俺は…セフィロスのその…妻だし、セフィ以外の人、考えられない。実は、ジョニーのお母さんが再来週にも心臓手術なんだそうだ。」
「なるほど、それであの会話だった訳ね。」
 出発前に執務室で交わされたクラウドとジョニーの会話を思い出して、リックが納得していた。
「まったく、この隊がここまでお人好し揃いになったのって、絶対に姫のせいだぜ。」
「え?何の事?」
「お前がこの隊に入ってくる前までは誰が入ってこようと、大事な物は”自分の命”って奴ばかりで、自分の身は自分が守るのが鉄則だった。ところがお前が入ってからは180度方向転換してしまってるんだよな。」
「とうぜんだろ?隊長が隊長だ。俺達は隊長の駒だったんだから、隊長に従って行動するだけだった。」
「まあ、それが今やいい方向に向いているなって思うぜ。そう言う意味じゃお前が副隊長になって正解だったかもな。」
 それまで黙って会話を聞いていたセフィロスが、誰にもわからないほどだが、ゆるやかに微笑んでいたのをクラウドだけが見ていた。