FF ニ次小説
 クラウドの立てた戦略がうまく行ったおかげか、想定以下しか敵がいなかったのかはわからないが、ミッションは10日で終ってしまった。

 撤収作業をしながらクラウドがジョニーに近づいた。
「ねぇ、ジョニー。一つだけ聞いていい?」
「ん?何だ?」
「ジョニーみたいに就職に困るような事もない人がどうして治安部になんて就職したの?」
「親の引いたレールの上を走りたくなかった事が1番の理由だが、2番目は大学時代の親友に、ありとあらゆる事でこてんぱんにやられたからかな。3番目は家の名前で近寄ってくるような奴らとは縁を切りたかったからだ。」
「どうやら2番目が一番効いているみたいだね。あの時の人でしょ?」
「ああ。あの野郎、俺の得意だったテニスや射撃だけでなく、学科でもぶっちぎりで、俺の鼻っ柱をへし折ってくれた。ま、今じゃそれも感謝しているけどな。」
「それだけで普通 軍隊になんて入ろうだなどとは考えないよ。」
「姫だって似たような物だろ?」
 ジョニーに言われた通りなのかもしれない。

 クラウドが10才の頃、母親に先立たれたティファが『死んだ人はニブル山に行って天に登る』という村の迷信を信じて、ニブル山へと出掛けて行った。
 その後をクラウドは心配して追いかけたのだったが、10才の子供にはニブル山は険しすぎた。ティファは足を滑らせて登山道から転げ落ちた。当然クラウドもティファが転げ落ちる場面を見ていたのだが、何もできずにただ涙を流しながら座り込んでしまっていた。
 そこへ『ティファがニブル山に登った』のを見た子供の知らせで、ティファの父親とその仲間が到着したのだった。
 崩れた足場とその場で泣いているクラウドを見て、この少年が突き落としたと勘違いしたのであろう。
 それからずっと、事あるごとにティファにケガをさせた事で、村の大人たちからクラウドは苛められていた。
 クラウドはその時からティファを助けられなかった自分を責め、今度何かあった時は、彼女を助けられるほどの男になりたくて身体を鍛えていた。

 そんな時に『神羅の英雄・セフィロス』の話を聞いた。

 クラウドがなりたいと思っていた、強くてたくましいという漠然としたイメージが、神羅の英雄と重なった事で、彼はセフィロスが身を置く神羅カンパニーの治安部へ入る事が最善の方法にみえたのであった。

 それが今ではセフィロスのそばにいたい。彼を守れる戦士でいたいが為に戦っている。

「そうだね、俺も人のことは言えないな。」
「ハハハハ…お前は隊長のそばにいたいからか?でもよぉ、軍に入って思ったんだけど、戦いの駆け引きって、案外企業戦略ににてるんだよな。仕掛けるタイミングを間違えるとやられてしまう。俺もこの世界に入って、自分が通用するとは思わなかったけど、実際こうして生きていられるのは、鼻っ柱を折ってくれたアイツと、家出するような環境を作った親父のおかげだったら…笑えるよな。」
 クラウドはジョニーのその言葉を聞いて、彼が命の危険を冒してまで、なぜ軍に身を置いているのか解ったような気がした。

「そういえば、ティモシーからミッドガル銀行のCMが来ているって聞いたっけ。もし会う事があったら御礼でも言っておくよ。」
「やめれ〜〜!!あいつ、ああ見えて結構鋭い奴だから下手すると正体バレるぜ。」
「鋭い…ねぇ。サウス・キャニオンの宝石卸商のご子息でしょ?」
「ああ、やっぱり知っているんだな。」
「うん。Dr・ライザさんだったっけ?あの人が誕生パーティーの時にちょっと…ね。」
「なるほど、サトルの奴、エリカおばさんに頼まれたか。あのミッションの時、逢えず終いでミッドガルに帰還したからなぁ。」
「うん、いい人だね。たぶんすごく心配してくれたんだと思うよ。」
「まあな。おばさん、お前のことクラウディアだと信じているからな。二度と華奢なモデルを任務に使わないでと、しょっちゅう言われているよ。実態はカンパニーでも1,2を争う有能なソルジャーだというのにな。」
 そういうとジョニーはさっさと撤収作業を終えて荷物を輸送機に運び込んだ。

(いろいろな理由があるもんだな、まあ当然と言えば当然か…)

 クラウドはそんな事を思いながら輸送機に乗り込んだ。


* * *



 ミッドガルに帰還した特務隊を待っていたのは、ダイヤウェポンをいつ退治するか?という問題だった。

 ダイヤウェポンに埋めこんだ認識装置から、銀色のモンスターのデーターが、近くのアンテナを通してミッドガルの神羅カンパニーに送られてきていた。それによるとHP300000、毒・重力無効で炎半減、雷・聖魔法に弱いとあった。
 クラスS執務室の隣にある会議室の円卓に座って話を聞いていたクラウドが声を上げた。
「聖魔法?召還獣のアレクサンダーしか思い浮かばないのですが…」
 パーシヴァルがクラウドの言葉にほくそ笑んだ。
「ふふふふ…嬉しいですね、今回はお呼びがかかりそうだ。」
「なにも貴様でなくとも、アレクサンダーなら私でも呼べる。」
「クックック…甘いなパーシヴァル、リー。この程度のHPならば、クラウドのナイツ・オブ・ラウンドを2度ほどまねて、バハムート3兄弟を呼べば、あと一太刀ほどで倒せるではないか。」
「は?こいつよりもルビーの方が強いと?」
「そう言う事だ、ちなみにルビーのHPは80万だから、こいつの倍以上あると言う事だな。」
「ならば簡単ですね。どこか人気のない処で止まったら、即戦闘に突入してさっさと倒しちゃいましょう。」
 まるでピクニックに行くかの如くなクラウドの発言に、その場に居合わせた全員が頭を抱える。パーシヴァルなど思わず隣に座る唯一のクラスAソルジャーの肩を揺さぶっていた。
「姫!!私は貴方と一緒に戦いたいのです!!」
「う〜ん、そうおっしゃっても…サー・パーシヴァルの一隊は大人数だし、大半の一般兵なんて足手まといにしかならないですよ。」
「そうだな、おとなしくアレクサンダーを貸せ。私がついていく。」
「くそっ!!俺も魔力が欲しい!!」
「一個大隊が邪魔になるなんて思わなかったな。」
「う〜ん、今回はそんなに補助攻撃班も沢山必要とも思えませんが…いかがいたしましょうか、隊長。」
「そうだな、リーの所だけでよさそうだな。」
「クックック…特務隊に魔力が足りないうえに、我が魔法部隊はソルジャーしか居ませんからね。」
 魔法部隊の隊長であるリーが思わず笑顔を撒き散らしてると、仲間のクラスSソルジャーがら嫉妬の眼で睨みつけられる。しかしリーも連隊長クラスの男である。仲間の嫉妬の視線を軽く受け流していた。
 そんなことも我関せずで、クラウドは「星の厄災」と呼ばれているウェポンの写真を睨みつけていた。
「とにかく、ミッドガル付近で止まってくれないと戦闘にも持ち込めない。居場所が判明してもそこまで行くうちに移動されたらおしまいですからね。エメラルドなんて投網でもしかけて引きずり上げるのですか?」
「姫、冗談にしては笑えませんが。」
「冗談を言うのでしたら、姫に白いドレスを着てもらって、ミッドガルの近くの海岸に立っていただいて、奴を引きつけると言うのもありですよ。」
 そこまで話すとガーレスが瞬間的に固まった、セフィロスの雰囲気が最低最悪になっていたのだった。そのとなりでクラウドがハニーブロンドを逆立てて怒っていた。
「あ、まずい…」
 真っ青になるガーレスを、誰一人庇おうとするクラスS仲間はいなかった。セフィロスだけならまだしも、憧れの姫君を怒らせてしまったのである。
 怒りでチョコボヘアーがほのかに揺れているクラウドが、感情を押し殺したような声でガーレスに答えた。
「自分に女装させて…モンスターが寄ってくるとも思えませんが?」
「どこかの国の神話だ、クラウド。自分の娘を海の精より美しいと言ったがため、クジラの化け物ティアマトに苦しめられた王妃が、娘の王女を海岸に鎖でつないでティアマトの生贄にしたのだ。それを救ったのがメドゥサを退治したペルセウスと言う事だ。お前が美しいのは認めるが、生贄になど誰がさせるか!」
「なるほど…そう言う事ですか。上官命令なので、やれと言われれば、やらざるをえませんけど。」
 クラウドの睨みつけるような冷たい瞳に、ガーレスが首を垂れた。クラスSとクラスAの立場が完全に入れ代わっていた。


 会議が終わり、クラウドがクラスA執務室に戻ってからしばらくして、パーシーとフレディが近寄ってきた。
「姫、ちょっといいかな?」
「ん?なあに?」
「ウチの連隊長が姫に何かしたの?すんげー真っ青な顔で、俺達に姫のご機嫌取っておいてくれって言うんだ。」
「ああ、サー・ガーレスなら俺の爆弾の起爆装置を踏んだだけだよ。」
「へ?意味わかんねえよ。」
「お前の爆弾って…まさか女顔ってこと?」
「そう、俺にクラウディアになって海岸で突っ立ていれば、海底にいるエメラルドでも釣られてあがってくるって言うんだ。」
「…………了解、隊長に姫の事は諦めろと言っておく。」
 パーシーとフレディは肩を落して溜め息をついた、そしてクラウドには聞こえない離れた所で、こっそりと内緒話を始めた。
「たしか…そういう話しがどこかの神話にあるんだよ。親馬鹿な女王の犠牲で海の化け物の生贄にする為、岩にくくりつけられた美人の王女の話。」
「なるほどね、キングからも睨まれているんだろうな、きっと。」
「ああ、いくら自分の嫁さんが美人だからと、生贄にされたらぶち切れるだろうな。」
 二人はもう一度盛大に溜め息をついてほぼ同時につぶやいた。
「一か月のアイシクルエリア行き、決定だな。」
 二人のソルジャーは自分達の装備を確認するべく、クラスA執務室を出て行った。


 帰宅後、クラウドは食事の支度をしながら自分が脱いだ白い革のロングコートをまじまじと見詰めた。
「サー・ガーレスに悪い事しちゃったかな?俺が睨みつける事なんて出来ない方だもんな。」
 いくらクラスA扱いされているとはいえ、クラウドは自分が一般兵でしかないと、いまだに思っている。そんな自分がトップソルジャーの一人であるサー・ガーレスを、女顔と言われたとはいえ、睨みつけてしまったのである。本来ならば体罰ものである。
「それにしても、パーシーとフレディの言っていた「アイシクルエリア行き」って何の事だろう?」
 首をかしげていると、インターフォンがセフィロスの車の到着を知らせた。あわててテーブルをセッティングしてパタパタと玄関へと迎えに出る。
 チャイムの音と同時に小窓でセフィロスの銀髪を確認すると、躊躇せず扉を開ける。
「おかえり、セフィ。」
 満面の笑みは疲れて帰ってきたセフィロスを一瞬にして回復させる効果を持つが、下手なエリクサーよりも効果が有るのが珠に傷である。がしっと抱きしめられて深く口づけされる。
「んんっ〜〜〜!!!」
 息が続かなくなって、クラウドが思わずセフィロスの髪の毛を引っ張ってしまった。少し顔をしかめたが目の前で青い瞳をうるませ、唇は朱がさしたように赤くなり、頬を桜色に染めたクラウドが立っているのを見ると、しかめっ面もゆるやかな笑顔になってしまう。
「ただいま、クラウド。」
 セフィロスが歴戦の戦士とは思えない華奢なクラウドの身体を抱き寄せて、部屋の中に足を入れるとキッチンからいつものように食欲をそそる香が漂ってくる。ふと小脇を見ると可愛い愛妻が自分だけを見つめてくれている。そんな些細な事がセフィロスに取っては何物にも変えがたい物であった。
「ねぇ、セフィ。お仕事の事でちょっと聞いていい?」
 小首を傾げるようにして尋ねる姿は、小悪魔のごとく色気と可愛いらしさにあふれている。そんな顔で尋ねられてはセフィロスに”喋らなくてもよい事まで話せ”と言っているような物だ、満面の笑顔でうなずく。
「何だ?」
「あのね、今日クラスA仲間のパーシーとフレディが言っていたんだけど、”アイシクルエリア行き決定”って、どう言うこと?」
 治安部を統べる力のあるセフィロスは、当然その二人の事をよく知っている。その二人の上官が誰であるのかも知り過ぎているぐらい知っていた。
「第7師団の連中か。連隊長自らアイシクルエリア行きを希望したのだが、お前に嫌われたとでも思ったのだろうな。」
「お…俺、悪い事しちゃったかな?一般兵のくせにクラスSソルジャーのサー・ガーレスをついつい睨んでしまった。」
 クラウドの青い瞳からポロポロと涙かこぼれ落ちる。その涙を指ですくいながらセフィロスがクラウドの唇を軽くついばむようにキスをした。
「お前が気を病む事はない。アイシクルエリアには元々ガーレスに行ってもらうつもりだったし、あれはあいつが悪い。」
俺様主義の英雄は自分の愛妻に難癖付けようとする者すべてに容赦なかった