FF ニ次小説
 スタッフとともにクラウドがスタジオに入ると、ミッドガル銀行の頭取、取締役をはじめ重役陣に交じって、見覚えのある茶色の髪にアンバーの瞳を持つ男が立っていた。
 クラウディアの姿を認めて、取締役が一歩前に出てへつらうような笑顔を向けた。
「はじめましてLady Cloudea 本日は我がミッドガル銀行の…」
 そこまで言ったところで、クラウディアがぷいっと横を向いてしまった。
「ティモシー、どうしてこんな人達をスタジオに入れたの?」
「うわ!!ちょっとプロモーター!!契約違反です、重役なんて入れないで下さい!!」
 あわててプロモーターが重役を追い出す。
 せっかく世界の妖精にお近づきになれると思っていた重役達が、契約違反と聞いて渋い顔で出て行った。
「もう、私に近づくのはどうせサーの力が欲しいからだわ。迷惑にはなりたくはないっていうのに…」
 クラウディアの青い瞳に涙が浮かぶ、マネージャーがプロモーターを怒鳴りつけた。
「何度も言っているではないですか!!クラウディアはCMのクライアントには、あいたがらないって。こういうことになるからそう言っているのに!次に同じことをしてごらんなさい、二度と依頼を受けないからな!」
 ティモシーの剣幕に、プロモーターが青い顔をして平謝りする。
 銀行側のCM出演者らしい数人の男女が一連の騒動に恐縮していた。

 中から一人クラウディアに近寄ってくる男が居た、クラウディアがその男を認めてにこりと笑う。
「まぁ、あなたは…あのパーティー以来ですわね。えっと、Mr…」
「サトル・アンダーソンです。」
 クラウディアのさし出された白い手をサトルがそっと握って握手すると、白くて細い手にあり得ない感触を感じて一瞬びっくりしたような顔をした。
 その反応がなんであるかクラウドにはすぐにわかった。

(なるほど.ジョニーが言う通り,かなり鋭いようだな)

 自分の右手にある剣を握る時に出来たタコを、この男は感付いたようだ。それでもクラウドは英雄と言うバックを持っているので逃げ切る自信は多分に有った。
 ゆるやかな笑顔で目の前の青年が話しかけてくる。
「どうされたのですか?これは何かを強い力で握った物ですよね?」
「サーに身を守る統べとして、ミスリルソードでの剣術を教えていただいていますの。凄く重たいんですけど…それでもサーにご迷惑をおかけしたくないので一生懸命やっていますわ。」
 サトルが肩をすくめると、何も言わずにその場を去った。

 CM撮影は銀行員の場面をとった後、クラウディアがスタッフにワイヤーを付けられて、きょとんとした顔をしていたら、ブルーバックの背景の前でいきなりつり下げられた。
「きゃぁ〜〜!!!き、聞いていないわよ〜〜!!」

 クラウディアがきゃんきゃん騒ぎながら青い瞳に涙を浮かべている。下でティモシー達があわててプロモーター達に怒鳴りつけている。その様子を眺めながら、サトルは先程思った推測がもろくも崩れていた。
「すっげーキンキン声、ありゃライザより煩いんじゃないのか?」
 自分のフィアンセである金髪碧眼の美女を思い出しながら、サトルは自分の推測を思いっきり否定していた。

 (ワイヤーで釣り上げられた程度で、泣き喚くようなソルジャーなど絶対いない。ましてや彼は反抗勢力が名前を聞いただけですくむような士官だ。キンキン声でわめくどころか…目に涙を溜めるだなんてあり得ないな。)

 いつのまにか苦笑を漏らしていたやり手のトップトレーダーに、一緒にいた行員が目を丸くしていた。

 ミッシェルに泣きついているクラウディアにプロモーターがひたすら謝り、ADがあわてて美術担当者に連絡を入れた。
 ブルーバックに透明なプラスチックボードで急遽階段を作り、そのうえでクラウディアが裸足になってあちこち歩く事になった。
 CG合成であとはどうにでも成るからである。
 プロモーターが設置の合間の休憩に有名パティシエの作ったケーキを差し入れると、クラウディアの顔が一瞬ぱあっと輝いた、しかしすぐにくらい顔をする。
「ご、ごめんなさい。それ一切れどなたかが食べていただけませんか?」
 以前、反抗勢力に囲まれたと聞いているプロモーターが、あわててクラウディアの目の前でケーキを少しきり、目のまえで口の中に入れる。5分経過した所でクラウディア・スタッフが紅茶を入れはじめた。
「今日は何にしますか?」
「ミディールの霧の山かな?あ、でもロイヤル・ミルクティーを頂こうかしら?」
 ミッシェルがミルクを軽く煮立てた物に紅茶の葉を入れる。
 ベルガモットの香が漂ってくるとクラウディアの顔に満面の笑顔が浮かぶ。その様子にミッシェルが思わず笑顔になる。
「クラウディアはこのケーキが大好きですものね。」
「んふっ、ここのパイってさくさくしていて大好き。」
 しかし、プロモーターが甘そうなケーキとミルクティーと言う、女の子の好みそうな物で、クラウディアの機嫌をつろうとしているはミエミエだった。ティモシーが厳しい目で一言釘を刺した。
「ケーキと仕事は別です。二度とクラウディアの機嫌を悪くしたら…その時はわかっていらっしゃいますね?」
 銀縁眼鏡のなかから冷たい瞳でティモシーがプロモーターを睨みつけていた。

 撮影は順調に進行し、仕事が無事終了したクラウディアにもう一度サトルが近寄った。
「あの…サー・セフィロスにお伝え下さい。親友のジョニーが母親の手術に間に合って…立ち会わせていただけて…ありがとうと。」
「まあ、ジョニー様のお友達でしたの?たしかサーの部下でグランディエ会長のご子息ですわね。そうですの、わかりましたわ。私からも…ジョニー様に「いつもサーを守って下さって、ありがとうございます。」とお伝え願えますでしょうか?」
 そう言うとスタッフに囲まれて、にこやかにクラウディアが去って行った。


 翌日、5日ぶりに出社してきたジョニーが、クラウドの顔を見るたびげらげらと笑う。
 あまり笑い転げるのでリックが突っ込みを入れた。
「なに笑い転げているんだよジョニー?おまえ、変な物でも食べてきたのか?」
「いや、なに。地獄の天使とも呼ばれている男がだよ、ワイヤーで釣られてキンキン声で泣き喚いたって言うからさ、もう想像しちゃって…クックックックック!!」
「バ、バカ!!あの男、俺の剣ダコを感付きやがったんだ。それでワザとやったんだってば!!」
「とにもかくにも…隊長とお前と、無謀な作戦に付き合ってくれた、皆に感謝しなきゃな。」
 ジョニーの言葉にザックスが自分を指して言った。
「お?俺も入ってる?」
「よ、お坊っちゃま!!さすが太っ腹!!」
 ジョニーが手元に持っていた写真を隊員達に見せびらかした。
「ほれ、この間のクラウディアの誕生日の生写真。」
「おお〜〜!!レア物レア物!!」
「売りさばいて美味い物でも食べるか?!」
「うっしゃ!!クラスB持って行って高値で売ってやる!!」
「ば、ばか!!よせ!!」
 大量の写真をジョニーから奪おうとするクラウドと、それを押さえつけるリックとカイル、落ちている写真を拾うザックス…という騒々しさの中に、扉を開けてセフィロスが入ってきた。
「静かにしないか!!馬鹿共が!!」
 隊員達が思わず固まった所に、セフィロスが写真をすべて横取した。
「隊長…」
「写真〜〜〜」
 わめくザックスを尻目にセフィロスはジョニーを冷たい目で睨みつけて話しかけた。
「ジョニー、これはどう言う事だ?」
 セフィロスに睨みつけられてジョニーがフリーズする。
 しかし手の中の写真を見ると、美しく可憐な世界の妖精の姿をした愛妻が、自分の腕の中で微笑んでいる写真だったので思わずセフィロスの口元がにやけた。
「うわ…嫁さんの写真見て喜んでる。」
「はぁ〜〜、臨時収入が…」
 さっさと写真をふところに入れたセフィロスが軽くせき払いをする、クラウドがそそくさと隣に走り寄って、隊員に向き合うと同時に、隊員達が整列していた。
 セフィロスの手にはミッション通知書が握られていたのであった。
「クラスSミッションだ。ダイヤウェポンを叩く。」
「あいつ、止まったんですか?」
「いや、飛行ルートを追跡して行動を割り出し、次にミッドガル付近に到達する日が判明したのだ。3日後にミッドガル北部だ。まずは奴の足を止める。地上に降りた所で戦闘開始だ。」
「隊長、飛んでくる奴にどうやって攻撃しろと?」
「リック、忘れた?俺の召喚獣は飛べるんだけど?」
「そうだな、見えた所でバハムートでも呼べば嫌でも止まるな。クラウド、今回はリーの所の補佐は必要か?」
「いえ、今回はザックスもいる事ですし、特務隊だけで何とかなるでしょう。」
「と、言うことだ。各自万全の体調で臨めるように調整しておけ!」
「アイ・サー!!」
 隊員たちが敬礼した後、解散となった。とたんにザックスがクラウドをつかまえて聞く。
「な〜、レア物の写真くれよ〜〜」
「だ〜〜め!!恥ずかしいんだから!!」
「エアリスもくれないんだぜ〜〜、どうせお前が止めてるんだろ?」
「当たり前じゃないか!あんなひらひらしたカッコで写った写真なんて見せたくも無いよ。」
 クラウドの言葉に隊員たちが横から口をはさむ。
「モデルの発言じゃないな。」
「あれ?あっちが本職じゃなかったのか?」
「副業の方が稼ぎが多かったりして。」
「う〜ん、実戦手当が入ればこっちの方が収入あるかな?でも。今年はカレンダーとか写真集も出るって言うし…」
「カレンダーも出るの?今年は無かったじゃない。」
「もう!この話はおしまい!俺は特務隊の副隊長だ!」
 そう言うとクラウドは強制的に隊員達を執務室から追い出した。


 それから1時間後、クラスA執務室に戻って報告書を書いていると、クラスSのパーシヴァルとリーが扉を明けて入ってきた。直属の部下であるブライアンとエドワード、バージルが敬礼して出迎える。
「隊長殿、お呼びいただければこちらからうかがいますけど?」
「魔法部隊との共同ミッションですか?」
「ブライアン、バージル、どうやら違うようだぞ。」
「ほぉ…わかるのか?エドワード。」
「ええ、お二人とも入ってきてすぐに、私達でなく姫を探されていました。ですから私達ではなく姫に直接用事があると判断しました。」
 エドワードの返事にリーが感心する。
「パーシヴァル、ペレスの所から引き抜いただけあるな。」
「なにしろ私の隊は大所帯なのでね、このぐらいの士官でないと副官は勤まりませんよ。」
「お二人が姫にご用事というと…ダイヤウェポンですか?」
 ブライアンの言葉にクラウドが返事をした。
「今回は第9師団も第15師団の力も使わないですむと思うのですけど。」
 パーシヴァルとリーがクラウドに詰め寄った。
「ですから…どうしてそう思われたのか理由をお聞かせ下さい。」
「貴方も、キングも、隊員達誰一人も失うことはできないのです。」
「ダイヤウェポンのHPが30万だと言うのが第一の理由です。ルビーのように先発隊の一人を残して瀕死にならないと、攻撃が効かないと言うのでしたら別ですが、そのぐらいなら私の召喚マテリアと”ものまね”があれば比較的楽に勝てるとおもいます。」
 すらすらと理由を言うクラウドに、二人のクラスSが頭を抱えていた。