クラスS執務室に現れた特務隊のトップソルジャー達。カイルもジョニーに教えてもらったのか、冷淡な笑みを浮かべているが、一人呼ばれた事がわかってい無さそうなのがザックスだった。
「リック、俺がなんでクラスSに呼ばれなきゃいけないんだ?」
「ああ、ちょいと協力してほしいんだけど。」
「なにを?」
「サー・パーシヴァル、サー・ガーレス、サー・リーをシメる。」
「はぁ?!な、何でクラスSソルジャーを……って、クラウドが原因か?」
「あたり。さすがよくわかってる。」
「ったく、一体何があったんだよ?」
「姫を抱きしめただけでなく、隊長とハイタッチをして喜びをわかち合ったらしい。」
リックの言葉を前半は聞き流していたザックスが、セフィロスの話しになった途端、ぴくんと眉を跳ねた。
「セフィロスとダチの俺が、まだやったこともないハイタッチをしたって?シメテやる!!」
ザックスの髪の毛が怒りで逆立っていた。 いっつもじゃん!
リックとカイルが3人のクラスSソルジャー達を拉致して、武闘場へと歩いて行く。後ろからぞろぞろと、クラスAやクラスSソルジャーが続く。セフィロスがにやりと笑うと席を立った。
「やれやれ、コレでザックスも本気で闘うことができるな。」
「隊長、まさかと思うけどそこまで考えて?」
「いや、偶然の産物だ。」
武闘場に歩いていこうとすると、すぐ後ろからクラウドが付き従う。セフィロスが武闘場に到着すると、ザックスが3人のクラスSソルジャーと対峙していた。
ザックスが珍しくマジになっていた。その雰囲気にクラスS3人が押されている。
「ザックス、本当に一人で大丈夫か?」
「ああ、今は思いっきりやりたい気分だ。」
この所、危険なミッションでは置いて行かれたり、サポート部隊に回されたあげく、憧れの英雄とタメ口を聞ける自分よりも先に他の奴に砕けた態度を見せた事が、ザックスをマジでぶちギレにさせていた。
「はじめ!!」
カイルの合図と共に、3人のクラスSソルジャーが一気に飛び掛かるが、ザックスが一蹴した。その回し蹴りの強さに見ていたクラスAソルジャーがびっくりする。
立て続けにザックスが一番小柄なリーをつかまえて、背負い投げをかけると、技の切れとスピードに負けて、リーがぶん投げられた。飛ばされた先にガーレスが居た。
「うわ…すげぇ。」
「あれで、クラスBだぁ?!」
「メチャクチャ冷静じゃないか。」
「ザックス、すっごぉ〜〜い!!!」
外野でさわぐクラスAソルジャーたちの声が聞こえているのか、いないのか、ザックスが冷淡な顔のまま、立ち上がってきたガーレスとリーを相手に、ショルダータックルをかける。即座に体をひねってあしげりをして、あっけにとられていたパーシヴァルにつかみ掛かる。反応が遅れたパーシヴァルが、綺麗に投げ飛ばされると、3人のソルジャーが固まった。
ザックスvs3人のトップソルジャーの戦いを、腕を組んで見つめているセフィロスがにやりと笑った。
「クックック……やるようになったな。」
一方的にザックスの繰り出す攻撃を、受ける羽目になっていた3人のクラスSが反撃をしようとも、冷淡な瞳のまま正面から攻撃を受けず、うまく横に流すことをしている。ザックスが何度と無くクラウドと組み手をやっているうちに、弟分がやっていた技をいつの間にか覚えていたようだ。
エドワードが隣に立っていたクラウドに話しかける。
「あれって、お前が良くやっている奴じゃないのか?」
「うん、自分よりも力が強い人と組み手をやる時は、ああやって正面から受けないで横にながすとダメージが少ないんだ。たしか、サー・ガーレスに教えてもらったんだけどなぁ……」
「お前が教えた訳でもないだろうに、良くとっさに真似出来る物だ。」
クラウドとエドワードの会話にパーシーが加わった。
「って事はなんだ?ザックスって本当にクラスSの実力を持っているのか。」
「そう言う事なんだろうな。」
「あとは強い召喚獣を従えることができれば、間違えなくランクアップだよ。」
クラスA仲間が感心するように、ザックスの動きを見ていた。
* * *
激しい組み手は30分以上過ぎた当たりで、魔法部隊の隊長のリーが脱落、一人脱落したら後はつるべ落としのように、ザックスの前に片ひざを付いていた。
セフィロスが冷たく笑いながらザックスに近付いて肩をたたいた。
「クックック…ザックス。お前、覚悟はいいのだろうな?」
「はん?何の事?」
「クラスSを1vs3で抜いたソルジャーは私以外にはお前が始めてだ。さて……どうなるかな?」
「あ……は…ははははは……は……まさか?!なぁ、冗談よせやい。俺特務隊から移動しねぇぞ!!だいたいあんたからクラウドを守らなきゃいけないだろうが!!」
「え?なんで俺がザックスに守られなきゃいけないの?」
「そりゃ…おまえ。このセクハラ上官にしょっちゅう苛められてるだろ?」
「ば……バカ!!隊長は俺を苛めてなんていない!!」
「だぁ〜てよぉ、お前を抱きしめてチューするんだろ?この英雄さんは!だから俺はセフィロスを追い出して、クラウドの上官になるまで、特務隊から動かない!!俺がお前にチューするんだい!!」
クラウドが目を見張ると、ザックスはリックとカイルに横から小突かれた。
「おまえは!!あんなに美人の婚約者がいるだろうが!!」
「そ〜だ!!だから姫のほっぺは俺達のもの!!」
「だ、誰がそんな事決めた〜〜!!!」
怒ったクラウドの回し蹴りがザックスに炸裂すると、腹を抱えてうずくまってしまった。
「な……なじぇに俺だけなの?」
「ふむ。クラウドの蹴り一発でうずくまるようでは、クラスSなどマダマダだな。」
「って、待てよセフィロス。クラウドの蹴り一発ぐらいで、うずくまらないのは、あんたぐらいなもんだってば!!」
「そうなのか?ガーレス。」
「さぁ?姫もずいぶん強くなられましたので、なんとも……」
「所でキング、ザックスの件はあとでクラスS全員召集ですか?」
「その前にランスと話を付けておく必要があるな。」
そう言うとセフィロスは武闘場を後にした。
* * *
統括室ではランスロットが含み笑いをしながら、セフィロスを迎え入れた。
どうやらクラスS仲間だったソルジャーから聞いていたのであろうか?セフィロスを見るなり、いきなりザックスの事を切り出した。
「キング、どうされるおつもりなんですか?」
「どうすればいいのわからん、あいつは特務隊から動きたくないらしい。」
「クラスS見習いのクラスA扱いではだめですかね?」
「所属はどうする気だ?」
「ザックスと姫ではどちらが上ですか?」
「魔力、剣技、戦略、スピードすべてクラウドが上だが、体力とパワーはザックスの方が上だ。」
「ではリックとザックスでは?」
「ザックスだ。」
「リックの副隊長補佐とザックスの副隊長補佐では?」
「戦略しだいだな。」
「ならば、やるべき事がもう一つありますね。」
「そうだな、チャンスを一度くれてやるか。」
セフィロスがそう言うと携帯でザックスとリックを呼び出した。即座に二人とも統括室までやってきた。
「お呼びでしょうか?隊長。」
「あ、俺もしかして移動?」
「いや、それはこれからだ。そこへ座れ。」
セフィロスが指を差した場所には、2台のパソコンが置いてあった。それぞれが背中合せに設置されていて、リックもザックスも首をかしげながら、とりあえず言われた通りにパソコンの前に座った。
セフィロスが統括のテーブルにあるパソコンで何かを操作してから二人に話しかけた。
「パソコンを起動させて中のプログラムをクリアして見ろ。」
パソコンを起動させたら画面に”大戦略”だなとと出てきたので、ザックスが喜ぶ。
「おひょ!!ゲームじゃん!!」
「うわ、なんだ?このハニカムの地図は?!」
ザックスが手駒をあちこちに展開させるが、リックはとまどいながらも敵の薄そうな中央を突破する事にした。画面中央に展開していた部隊が一旦退くのを見ると、リックがその部隊を追いかけるように展開させた。
すかさずザックスがパソコンを操作して両翼に展開させていた部隊が周りを取り囲んだ。
「へへへ………わりぃなリック、袋の鼠だぜ。」
「あ……畜生!!」
ほぼ80%勝敗が決まった所で、ランスロットが自分のパソコンをちょいちょいと触る。しばらくして画面が切り替わると3つの部隊がにらみ合っている画面になった。ザックスが地形を見て山の中腹に隊を進める。リックは平地に展開していた、もう一つは山の上に陣地を取っている。
リックが兵糧攻めを仕掛けてきたが、ザックスは河をせき止めて、水攻めをしかける。あっさりとリックの隊が半減した。
山頂の陣には水を止めたせいで飲み水がいかず、30%のダメージを受けていた。
「うわ!!やり方が酷い!!」
リックが叫んだ時には、ザックスは木を切り倒して、ある程度まで切り開いた後、下草に火をかけて山を焼きはじめたのであった。
山頂に陣取っていた隊をほぼ殲滅させて、ザックスは隊を山の中腹から平原へと降ろし、半減したリック達の隊に正面から戦闘をしかけた。手持ちの駒の多さであっという間に戦局はザックスのひとり勝ち状態。
パソコンの画面を見つめていたランスロットが溜め息をつくと、セフィロスと席を変わった。
画面が切り替わり、リックの画面がフェードアウトした。どうやらセフィロスとザックスの対戦モードに切り替わったらしい。
「なに?セフィロスが相手をしてくれる訳?」
「お前が思ったよりやるのでな、せいぜい楽しませてもらおう。」
パソコンの画面は河を挟んで布陣を張ると言う古典的な画面だった。
気候と時間の経過も加味されているので、普通の戦略ゲームとは違って、日の出日の入りの時間も計算に入れて戦わなければいけない。
セフィロスが手広く布陣を敷いていたが、ザックスは固まって陣を張っていた。
そしてゲームの中に夜の帳が降りてきた。
セフィロスはそのまま布陣を動かさずに一夜を過ごす事にした。日が登る時間になると川面に霧が立ちこめてきた。前が見えない程の霧の中で動く事もできないセフィロスが様子を見ていると、いきなり目の前に敵将が現れて切りかかった。
「敵将取ったり!!!」
「なに?!」
セフィロスのパソコン画面にGAME OVERの文字が表示された。
朝もやを隠れ蓑にして近づき、単騎決戦で敵将を落してしまったのである。これには隣で眺めていたリックもあっけにとられている。
「ザックス、何も考えていないで突進したのか?それとも計算尽くで突っ込んで行ったのか?」
「ん?気候を見ると気温の変化が激しかった。河があるってことは川霧が出る可能性が高かったからね、最後はカケだったけど、いや〜!うまくいったな!!」
けらけらと笑うザックスにランスロットが思わず口走った。
「ザックス、お前は知らない間にウータイ国の大昔の戦国武将の戦法をまねていたんだぞ。」
「あ?なんだ、俺が初めてじゃないでんすか?いや〜〜、こんな事考えて俺って何て頭いいんだろうって思ったけど。なんだ、俺だけじゃないんだチェ!!」
ザックスの一言に感心していたはずのランスロットが頭を抱えた。セフィロスが呆れたようにザックスに告げる。
「お前はクラウドと対戦したら負けている。まだ戦略に関しては学ばなければいけないだろうな。」
「そうなると特務隊以外では実戦経験が少なくなってしまい、場数を踏むと言う意味では、キングの元が1番になってしまいます。」
「クラウドはどうなる?」
「姫を動かすと貴方が動けなくなってしまいます。かといってリックを降格させるわけにもいかないし……久しぶりの円卓会議にかけますか?」
「仕方がないな。」
セフィロスがついっと席を立って統括室から出て行った。
|