クラスA執務室にリックが帰ってきた。いつもなら陽気な男が黙っていたので仲間が騒ぎ出す。
「お?どうしたリック。お前らしくないぞ。」
「さっき統括室に呼ばれていたけど、何か緊急ミッションか?」
「おい、ランディ忘れたか?ミッションだったら姫が呼ばれるって。たぶんザックスの事だろ?」
「ん、まぁな。」
「ザックスと戦略シュミレーションをやってきたんだろ?どうだったんだ?」
「ボロ負け、あいつ凄い手を使うんだ。1vs1で広く布陣を敷いたかと思うと、一気に取り囲んでくれるわ、3つ巴戦で山の中腹に陣取ったかと思うと、平野の俺の陣を水攻めにするわ、山頂の陣を火攻めにするわ…隊長と1vs1で河を挟んでの布陣で朝もやの中単騎で敵将落すわ…まったく思っても見ない戦い方だった。」
リックの話を聞いていたクラウドが思わず吹き出した。
「リック、それみんな使い古された戦略。まさかザックスが知っているとは思わなかったけど、俺が去年クラスAに上がる前に隊長相手にやった戦法と一緒だよ。」
「え?おまえ…一年前にあの手で隊長に勝っているの?」
「うん。だって俺、特務隊入隊と同時に、この手の戦略を隊長に叩き込まれてる。ザックスの手を覚えているなら再現出来るよね?パソコンつないでやって見ようよ、破り方を教えてあげる。」
「ブライアン、頼む。」
「聞いただけで再現出来るか〜〜!!」
「え?再現出来ないの?じゃあ俺がやって見るわ。」
エドワードが自分のパソコンを立ち上げてクラウドのパソコンとリンクさせる。クラウドがキーを何個か叩いたら戦略シュミレーションゲームが起動した。
エドワードがザックスの手を再現するが、クラウドが隊を3分割して三角形に配置した。
囲いに来た隊を、後ろに控えさせていた隊で叩くと、中央の隊が後ろに下がらせる。すると囲い込みが不発に終わっただけでなく、今度はエドワードの隊が囲われる寸前まで追い立てられていた。
「なるほど。囮部隊を作って囲い込みをワザと誘ったのか。」
「たぶんもっと効率のいいやり方があると思うけど、とりあえずコレが一番引っかかりやすいと思う。」
再びクラウドがパソコンのキーを叩くと、山と河に囲まれた地形が出てくる。
パソコンの画面を指差しながらリックに振り返ってクラウドが話しかける。
「リックはココで兵糧攻めにしたんだろうけど、いきなり山を焼けば上の2隊は手も足も出ないだろ?」
ランディがそのやり方のひどさに声を上げる。
「うわ!!ひでぇやり方!!」
「うん、そうだよね。でも俺、実際にやったことあるんだ。」
「あ、そういえば、そんなこともあったな。」
「もっともあの時はモンスター相手だったけどね。」
そして再び画面を切り替えて、河を挟んで1vs1の対峙の時に、言われたとおりに朝もやの中を単騎で敵の本営を襲ったエドワードに対してクラウドは本陣の中に身代わりのかかしを置いて、敵将が本陣に突っ込むと同時に、本陣を囲い込むと敵将を一気に捕らえてしまった。
「なるほど、これは来ると思って身代わりを置いておくのか。」
「うん、気象条件を見ると朝にもやがかかるのは目に見えている。その見えない時を考えて敵が突っ込んで来るとしたら、少数精鋭で本陣を付くのは目に見えているからね。」
クラウドの言葉にリックがふと気がつく。
「おまえがやった戦法だったら隊長がなぜ防げなかったんだ?」
「もしかすると隊長は、ザックスの能力を過小評価していたんじゃないかな?」
クラウドの言葉に、その場にいたクラスAソルジャーたちがうなずいた。
* * *
クラスAソルジャー達がザックスの実力を再認識していた頃、クラスS会議室の円卓に27人のソルジャー達が集まっていた。
ランスロットが皆を集めた理由を話しはじめていた。
「クラスBソルジャーのザックス・フォードですが、実力、魔力、戦略とも十二分にクラスSでやっていける力が有ります。しかし経験が少なく、いくら規定を満たしているとはいえ、いきなりクラスS編入は戦略的に不安があります。戦略面では第13独立小隊に入れておくのが一番良いのですが、そうなるとすでに副隊長および副隊長補佐のいる特務隊での彼の位置づけを考えなければいけなくなります。そこで諸君の意見を聞きたい。」
パーシヴァルが手をあげて発言した。
「姫をクラスSにあげる事は無理ですか?」
「軍歴が規定に1年足りないから、規定を変えなければ無理だな。」
「だいたいキングから姫を離せないのですから、どうしようも出来ないですよ。」
「かといってリックをよそに回せと言うのも無理な事ですな。姫の補佐から降ろしてしまえば下手すれば自決しかねん奴だ。」
「姫をクラスS見習いのクラスAとして、隊長のキングに補佐として付け、ザックスを副隊長、リックを副隊長補佐とするのはいかがです?」
「27人の小隊で士官が4人か。多くないですかね?」
「多いが…どうもそれしか残っていないようですね。」
「一個小隊にしては、力のある奴ばかりが集まっているからな。個人的にはザックスをガーレスの副官として鍛えてほしいが、別の考えはあるか?」
セフィロスが円卓についたソルジャー達を一瞥するが、異論のある連隊長は誰も居なかった。
* * *
クラスB執務室で、仲間のソルジャー相手に雑談しまくっていたザックスの元に、ランスロット、セフィロス、パーシヴァルがやってきた。
3人の顔を見るとザックスの顔が一気に青ざめた。
「セフィロス、統括、サー・パーシヴァル。うわ!やべぇ!!」
あわてて逃げ出そうとするが、そこは慣れたクラスSソルジャー達である。3方向に散らばるとザックスを取り囲んだ。
「何がヤバいんですか?ザックス。」
「貴様、またなにかやらかしたのか?!」
「まったく、君は日ごろの素行を直さないといけませんね。」
「やはりガーレスのところに渡すか…」
「じょ、冗談じゃない!!俺は特務隊以外の何処にも行きたくはありません!」
「ならばその素行を直さないと、姫に迷惑をかけることになるぞ。ザックス・フォード、君のクラスA昇格と特務隊副隊長昇任を命ずる。」
統括のランスロットの言葉に一瞬ザックスは疑問を感じた。
「え?特務隊副隊長って…じゃあ、クラウドは一体どうなるんですか?」
「クラスS見習いのクラスAで隊長のキングの補佐だ。」
「え〜〜?!俺がクラウドとペアを組むんじゃないんですか?!ちぇ!!」
「貴様にクラウドの隣を譲るつもりなど無い、もっと修行しろ!!」
セフロスの鉄拳が頭にヒットすると、ザックスが頭を抱えてうずくまる。
「いてててて……セフィロス、ひどぉ〜い!!」
「気色悪いいい方をするな!もう一発食らいたいか?!」
「ひ〜ん、いけずぅ〜〜優しいくせにつれない御方。」
いつものような砕けた振る舞いにセフィロスが切れて、ザックスの首をつかまえると、引きずるようにクラスA執務室に放り込んだ。
いきなり現れたザックスと、その後ろから現れた絶対零度の怒気をまとった英雄に、クラスAソルジャー全員が凍りついたように敬礼する。ひとりフリーズから逃れることができているクラウドが、青い瞳をくりっとさせて笑顔でセフィロスを見た。その笑顔の可愛らしいこと…後ろに続いていたランスロットとパーシヴァルが、クラウドの笑顔に思わず赤面するが、セフィロスに睨みつけられて凍りついた。
クラウドが一歩前に出て上官たちに尋ねた。
「統括、隊長、サー・パーシヴァル、ザックスのランクアップですか?」
「ああ、このバカを素行面から再教育してほしい。そうだな、ブライアン頼めるか?」
憧れの英雄から名指しで呼ばれたブライアンが、直立不動で敬礼した。
「承知致しました、山猿をせめて人畜無害に教育いたします。」
「ええ?ザックスと組みたかったのに……」
「残念ですが姫、ザックスが貴方と組むと更に自由奔放になり、士官としては不適任になってしまいます。」
「ザックスの所属は移動ですか?」
「移動なしで第13独立小隊の副隊長に昇任だ。」
ランスロットの言葉にクラスAソルジャーたちがびっくりする。
「ええ?!」
「じゃあ、姫が移動ですか?」
「そんな事して大丈夫ですか?!」
「別の隊に移動すると、ミッションも別になってしまいますが、大丈夫なのですか?」
「まったく、詳しいのも考えものだな。姫は第13独立小隊の隊長補佐でクラスS見習いになる。」
「え?クラスS見習いって、何でしょうか?」
クラウドの疑問にランスロットが答えた。
「姫は軍属3年以上という規定さえなければいつでもクラスSに昇格出来ます。ですからキングに付いてクラスSの任務を覚えていただきたいのです。」
クラウドがランスロットの言葉に何とも言えない複雑な顔をした時、エドワードが統括に尋ねた。
「姫のクラスS見習いはいいのですが、そうなるとクラスAがやっているミッドガルの巡回警らや3直勤務はどうなるのですか?」
「一応クラスA扱いなので、以前と変わらずやってもらうが、クラスSの会議があればクラスSの用事を優先する。」
「今とあまり変わらないと言う事ですね。」
「ええ、まぁそう言う事ですね。」
クラウドは自分の位置づけが変わらない事に喜んではいたが、クラスSの会議があるたびに呼び出されることは、正直嫌だと思っていた。
それでもこの通達が治安部に回れば、自分は表立ってセフィロスと一緒に居られる。
クラスA所属ではあるが、セフィロスに付く事にクラウドの異論は無かった。
パーシヴァルが自分の副隊長とクラスAトップの男に話しかけた。
「ああ、エドワード、それとブライアン。君たち二人もクラスS見習いになるから覚悟しておけよ。」
「え?エドワードならまだしも、自分もですか?!」
「ちょっとまてブライアン。俺ならまだしもって、どういう意味だよ?!」
「あれ?知らなかった?エディは姫と特務隊のおかげで、クラスSに一番近い男って、俺達噂してたんだけど。」
「言われたくないな、クラスSってだけで舞い上がってしまう。」
「右に同じく。」
青い顔をしている二人に統括が命令した。
「それを直さないといけないな。これから君達にもクラスSの会議に出てもらう事になるからな。」
「ブライアンとペアを組むザックスも、特務隊副隊長になったのだから、クラスSの会議に出席してもらうぞ。」
「うげ〜〜〜、俺クラスBに戻りたい。」
「俺は一般兵に戻りたい。」
「姫、それは無理!!」
「バハムート3兄弟とナイツ・オブ・ラウンドのような強い召喚獣を従わせている一般兵など聞いた事がない。」
「何かっていうとそればっかりだ。俺がバハムートを召喚出来たのだって、偶然の産物だったのかもしれないのに。」
「それでも貴方はたしかにバハムートを持ち召喚した。私はあの時、貴方の持っていたマテリアを触ろうとしても弾かれた。あの時、私にもてない召喚獣を一般兵が召喚した事実に驚きましたよ。」
ランスロットの言葉に、クラウドがはにかむような笑顔を浮かべた。
|