セフィロスの精神的な疲労を取るべく、クラウドはエアリスに電話を入れた。
「あ、エアリス俺クラウド。うん、実は相談なんだけど、精神的な疲労を取るのになにかいい方法知らない?」
「ん?そうね、ラベンダーの香なんて癒し効果が有るけど、彼、疲れているの?」
「うん。いつも何か考え事しているみたいで、最近ため息が多いんだ。そんなの、見ていたくないもん。」
「そうね〜〜。あ、いいものあるわ、今日何時に終るの?」
「え?ああ、6時の定時だけど。」
「じゃあ、デートしよ!!いいお店知ってるの〜待ってるわよ、クラウディア。」
「げぇ〜〜!!俺また女装するの?!」
「当たり前でしょ?!男の子が行くような店じゃないの。」
「しょうがないなぁ、じゃあ6時半に店に行くよ。」
携帯をたたむとザックスがじろりとクラウドを睨みつけていた。
「ゴメン、エアリス借りるぜ。」
「ああ、いいぜ。女同士のデートならいくらでもエアリスを貸すぜ。」
ザックスがにかっと笑うとクラウドが拗ねたような顔をする。後ろで苦笑をこらえているクラスAソルジャー達がいた。
「せいぜい綺麗になって行けよ。」
「そのまま部屋に帰れば、旦那も喜ぶんじゃない?」
ランディの言葉を聞いた途端、クラウドが暗くなった。彼の言葉は常に自分の中にあったわだかまりを正面からついた物だった。急に黙ってしまったクラウドにすぐに気がついたエドワードがランディに声をかける。
「ランディ、禁句だぞ。」
「え?な、なんで?」
「至極簡単な問題、姫のパートナーの性別は?」
「もちろん男。」
「ではかなり込み入った問題。姫の場合女性としても、男性としてもキングの隣に立てる。この場合パートナーであるキングが求めているのはどっちの姫なんだ?」
「あ、そう言う事か!」
リックがすっとエドワードに近寄って怒気を発していた。
「エディ、おまえかなり姫の事に詳しいな。」
「だ、だから俺のせいじゃない!!一緒に仕事している時に、話しているうちだんだんわかってきた事だ。」
「いいんだ、これは俺が結論を出さなければいけない事なんだ。」
そう言うとクラウドはクラスA執務室を後にした。
* * *
一旦、8番街のエアリスの店に行き、そこで持っていたクラウディアの服に着替え、一緒に8番街のアロマショップへ行く。扉を開けて中に入ると、ピンクのギンガムチェックのカーテンが、この店の雰囲気を女の子向けにしてしまっているので、白のロングで来なくてよかったとほっとするのであった。
「アロマキャンドルとかポッドで部屋にハーブオイルを香らせるの、キツくない香だけどラベンダーなら癒し効果があるわよ。」
「ラベンダー?ああ、この紫のお花?」
目の前のポプリの袋を手に取ると、ふわりと優しい香りがする。店員が近寄ってくると、一瞬体を固まらせた、目の前の少女が世界の妖精の姿と一致したのであった。
「あ…あ…ク、クラウディアさん?」
「え?ええ。プライベイトだから、あまり騒がないで下さらないかしら?」
「え、あ、はいすみませんでした。」
店員がやっと仕事に戻る。
「お疲れなのですか?そちらのお嬢様がおっしゃるように、ラベンダーには癒し効果が有ります。こちらのオイルをこのポッドの皿に乗せてロウソクを付けると香がほのかに広がりますよ。」
「バスソープとかは?」
「はい、こちらに。これには保水効果のあるカモミールが入っています。」
「あ…優しい香。」
「カモミールにもいやしの効果がありますよ。カモミールティーはグッドナイトティーと言われているぐらい、精神を安定させます。」
「カモミールティーね、どういうお味なのかしら?」
「そうですね、アップルティーみたいな感じです。」
「あと…ゆっくり出来るとしたら、バスタイムかな?このオイルってバスの中にも入れていいかしら?」
「それでしたら、もっと良い物がこちらにあります。」
そう言ってクラウドを店の奥に導く。目の前の棚には綺麗な色のさまざまな入浴剤が並んでいた。
「うわぁ…バラの形の入浴剤?」
「香もバラですよ、お湯の温度で次第に溶けて無くなります。」
「あ、でもバラって、精神が興奮するって聞いたけど?」
「それでしたら紫色のものをどうぞ。形はバラですけど香はラベンダーですわ。」
「さっきのポプリ、あれのリースってないかしら?」
「はい、あちらにあります。」
結局、クラウドはその店でラベンダーのアロマキャンドルと、入浴剤、そしてポプリのリースとカモミールティーを購入した。エアリスと一緒に彼女の店まで帰ると、白のロングに着替えてバイクで部屋に戻り、大あわてで夕食の支度をはじめた。セフィロスが好きな料理をせっせと作っているうちに、インターフォンからチャイムが聞こえてきた、セフィロスが帰ってきたようだ。テーブルにアロマキャンドルを灯して、いそいそと玄関までお迎えに行くと、タイミング良く玄関の扉が開いた。そこには最愛の人が立っていた。
「お帰り…セフィ。」
いつものようにちょっと背伸びをして、軽く触れるだけのキスをすると、照れて赤くなってしまいうつむいてしまった。
すでに一緒に暮らしはじめて1年半が経つと言うのに、初々しいままのクラウドを思わず抱きしめて、思うまま深いキスをする。
「あ……んっ…」
セフィロスのキスに思わず高められたクラウドが甘い吐息を漏らす。そんなクラウドを見るとほのかに赤く染まった頬、朱に染まった唇、潤んだ青い瞳が見上げるように、セフィロスを見つめている姿は、何ともいえず彼の中の欲情を昂ぶらせていた。
「なにか…良い香りがするな。」
「ん?わかる?ラベンダーのロウソク買って来たんだ。セフィ、最近疲れてるみたいだったから…癒し効果があるんだって。」
クラウドの言葉にセフィロスが思わずびっくりしたような顔をして見つめた。
セフィロスは自分の事を心配していてくれる者がいる事に慣れていなかったのである。
「そうか…ラベンダーか。しかしそれだけではないな。」
「うん、いい香のするポプリと入浴剤それとハーブティー買って来たんだ。」
「そうか…。」
柔らかな花の香が自分の尖った神経をやさしく撫でて行く。
着替えてキッチンに行くと美味しそうな料理と共にクラウドが笑顔で待っていた。
(まったく…この笑顔さえあれば…何も要らないと言うのに。)
自分の為に一生懸命あれこれと考えてくれているクラウドがとても愛しい。愛しい少年が自分だけを見つめて微笑んでくれる事が、セフィロスに取って何物にも代えがたいものであった。
美味しい食事を堪能した後リビングでくつろいでいると、いつもとは違った香が漂ってきた。
「今日買って来たハーブティー、カモミールだって。」
「カモミール?」
「アップルティーみたいな味がするんだって。」
カップをセフィロスの前に置くと、自分もちょこんと愛しい人の隣りのスペースに座る。飲み口の広いティーカップを口元に持ってくると柔らかな香りがした。一口、口に含むとリンゴのような味がする。どこかほっとする味だった。きっとクラウドなりに自分のためと選んで来てくれたのであろう、その気持ちがセフィロスには嬉しかった。
「そういえば入浴剤も買ったとか言っていたな。」
「うん、紫のバラの形をしているんだ。でも次第に溶けるんだって。」
「クックック…クラウド、それは誘っていると取ってもよいのだな?」
この言葉を聞いて、思わず真っ赤になりながら後ずさりする愛妻を逃がすようなセフィロスでは無い。がっちりと抱きしめて、ひょいと抱き上げるとベッドルームへ歩き出す。
「ちょ、ちょっとセフィ、そっちはベッドルームじゃ…」
「後で楽しませてもらう…」
「…………。」
真っ赤になりながらも、セフィロスの胸に顔を伏せているクラウドに、思わず抱きしめる腕の力を強めてしまいそうになるのを必死でおさえた。
やがてベッドルームからクラウドの艶やかな声と、ベッドのきしむ音がかすかに伝わってきた。
* * *
翌朝、いつものようにたくましい腕の中でクラウドは目覚めた。
顔を上げるとゆるやかに自分に向かって微笑む愛しい人がいた。この笑顔があればどんなことにだって耐えられると、クラウドはいつも思う。
首筋にセフィロスが顔を埋めてきた。
「いい香だな。」
「そんな…覚えていないよ。」
いつものように逝かされて意識が朦朧とする中、バスでセフィロスに、いいように身体を触られつつ、洗ってもらったに違いない。そうもうとクラウドは恥ずかしくて思わずシーツに隠れてしまった。
そのまま抱きしめられて、しばらくじっとしていたが、そろそろ起きて食事の支度をしないと、出社時間に間に合わないと言うのに、なかなかセフィロスが離してくれない。
「あの…セフィ。食事の支度が…。」
「もう少し…もう少しこのままでいさせてくれ。」
そう言うとセフィロスはクラウドをゆったりと抱きしめた。
クラウドとてセフィロスに抱きしめられるのは大好きなので、そのまま逞しい胸に頬をすり寄せて愛しい人の体温を肌で感じていた。
しかし無情にも目覚まし時計のベルが二人の優しい時間を引き裂いた。
「……セフィ……」
何か言いたげにクラウドがセフィロスを見上げると、ちょっと長いため息を付いて額にキスをくれた。
「ありがとう、クラウド。」
なぜ”ありがとう”なのか伝えられなくても、クラウドにはなんとなくわかっていた。
いつものようにふわっと微笑むと、シャツを羽織ってぺたぺたとキッチンへ走って行く、そんな愛妻の後ろ姿をセフィロスは慈しむような眼差しで眺めていた。
サイドテーブルに置かれている衣服を身にまとうと、リビングにクラウドの剣から赤い晄が漏れていた、召喚獣が何か話したがっていたようだった。
セフィロスがクラウドの剣から光り輝いている召喚マテリアを抜くと、手のひらに乗せて軽く握った。とたんに頭の中に声が響いてくる。
”おぬしか…我が君が悩んでいるのは知っておろうな?”
”バハムートか、まったく主には従順なくせに…そのぐらいは知っている”
”知っておるなら良い。おぬしはどうしたいのだ?”
”それがどちらであろうとクラウドに変わりはなかろう?”
”それを何故 伝えてやらぬ?”
”伝える物なのか?こういうものは?”
”ふっ…、それもそうだな”
セフィロスの手のひらの中のマテリアが、柔らかい晄に戻った。
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