神羅カンパニーに出社したセフィロスは、まっすぐ本社ビルへと向かう。
 ここ最近ずっと社長のルーファウスとガスト博士、そして治安部統括のランスロットと、魔晄炉封鎖やソルジャーの魔晄の力の抜き方から治安部縮小と、色々な面でカンパニーの行く末を会議していた為であった。
 その余波はクラウドが第13独立小隊を事実上率いているという事になってしまっていた。

 おそらく今日も一日、それで時間を取られてしまい、精神的苦痛を味わう事にセフィロスはいささか辟易としていた。
 昼休みの間にせめてクラウドと一緒に食事を取ろうとしても、ルーファウスやランスロットに止められて、なかなか愛しい少年のそばに行けない。おかげでため息も出ようと言う物である。
 そんなセフィロスの様子を、さすがのルーファウスとて多少気にかかってはいたのか、配下のタークス主任を呼び寄せる。
「ツォン、セフィロスは何をあんなに辛そうにしているのだ?」
「はい、たぶん愛妻のそばにいられない事が辛いのだと…」
「はぁ?!まったく、あの氷の英雄ともあろうセフィロスがか?!それでは隣りに立たせるのも考え物だな。」
「ええ、私も彼がそんなにあの少年に恋い焦がれているとは思いませんでした。」
「しかし、それではコチラまで暗くなるな。何か良い手はないものか?」
「彼の奥様に協力してもらいましょうか?」
「そうだな。…そうだ、ツォン。こういうのはどうだ?!」
 ルーファウスがつい先程思いついたいたずらをツォンに耳打ちする。ツォンはルーファウスの言葉を一瞬目を見開いて聞いた。
「では社長、すぐ用意してまいります。」
「いや、私も行く。こんなに楽しいことは1年ぶりだな。」
 まるで鼻歌でも出るような雰囲気で、ルーファウスが外出の支度をすると、ツォンを伴って6番街へと出掛けて行った。


* * *



 6番街のラブ・ワールドという店に入ると、女性店員が驚いたような顔をする。
 ルーファウスがその顔をさも気に入らないとばかり睨みつけると、すかさずツォンが割ってきた。
「どういった物がよろしいので?」
「そうだな、並の衣装ならすでに着ているからな。契約で着られないのは水着かバニーぐらいか?」
「そうですね。ですが、本当に着ていただけるのかと?」
「それは後で考えよう。」
 ツォンがバニーガールの衣装を選ぶと、ルーファウスがツケ耳まで取った。店員が受け取ると意味深な笑みを浮かべて会計へと誘う。丁重に包まれた紙袋を手にさげながらルーファウスが先程の店員の笑みを思い出していた。
「あの店員、なにを意味深な笑みをうかべていたのだろうか?」
「さぁ?まさかとは思いますが、この衣装を我らが使うとでも思ったのでは?」
 ツォンの言葉に思わずルーファスが真っ赤になって怒った。
「な、なにを?!あの店員に文句を言ってくる!!」
「若!今さら何を言っても無駄です。二度とあの店に行かないようにすればよい事ではないですか?!」
「そ、それもそうだな。」
 ルーファスはいまだに収まり切らない気持ちを他に向ける事にした。

 車に乗り込もうとするときに、ツォンが何やら携帯を取り出した、どうやら電話がかかってきていたようだ。
「私だ。ああ、レノか。ああ、とりあえずそれで行って見るか…わかった。」
 携帯をたたむとまっすぐな瞳でルーファウスを見つめた。
「若、レノが例の物を入手してきたようです。」
「そうか、クックック…ガスト博士には手を回してあるのか?」
「はい、あの博士にしては珍しく乗り気でした。」
「それはそれは…ずいぶん博士も変わられたようだ。」
 含み笑いをしながらルーファウスは神羅カンパニーへと戻って行った。


* * *



 本社の社長室に入るとルーファウスは内線電話でクラウドを呼び出した。やがて何も知らないクラウドが扉をノックして入ってきた。
「クラウド・ストライフ、入ります。」
「やぁ、久しぶりだね。君に来てもらったのは他でもない、君のパートナーであるセフィロスの事だ。彼が最近わが社の行く末の事で、我々と色々話し合っているのは知っているね?」
「ええ。」
「彼の奥様である君なら、きっと彼の精神的な疲れに気がついて、それをどうにかしてあげたいと思っているのではないかな?」
 ルーファウスがクラウドの気にしている所を真っ正面から突いてくる、そのおかげで一気に顔が暗くかげった。
「え…あ、うん。やっぱりソルジャーだから会議に不慣れみたいなのか、かなり苦労しているようです。」
「君はそんな彼を癒してあげなければいけないのではないかな?」
「ルーファウスさん、何か良い方法があるのですか?」
「そのまえに聞こう。君は戦いに疲れた時どうすればその疲れが取れるかな?」
「え?その…セフィの笑顔を見るだけで…愛されているな〜って思うから十分なんだ。」
 クラウドが真っ赤になりながらつぶやくように話した言葉が、あまりにもトップソルジャーらしくないので、ルーファウスとツォンが呆れるような顔をした。
「まったく、君は一年前と何ら変わっていないな。」
「え?あ…す、すみません」
「君はそれで十分かもしれないが、セフィロスがそれで満足していると思うかね?私には思えないな。君は自分のパートナーを満足させていると思っているかな?」
「そ…それは……」
 クラウドとて気になっていた事であった。
 いつも夜の生活は自分ばかり逝かされて、セフィロスは満足しているのかどうかは、よくわかっていなかった。

「そこで、だ。我々が思うには…君から彼を誘うようすれば良いのではないかな?君だとて男だろ?愛しい人から積極的に求められたら嬉しいだろ?」
「え?お、俺の場合セフィの方が積極的だから…」
「ああ、そうだったな。君はいつも求められる方だったな。」
 クラウドが勝ち気をなぶるようなルーファウスの言葉にまんまとはまったようであった。
「お、俺だって誘う事ぐらいある!!年に数回だけど…
「男として、だろ?たまには私がプレゼントした衣装を使ってくれているかね?」
「そ、そんなもの!!つ、使っているよ、年に一度くらいは。

 一々突っかかるように答えるクラウドが何ともいえず可愛らしい。真っ赤に照れながらうつむいて話す姿はトップソルジャーではなく、まるで世界の妖精をセクハラで苛めているような感覚を持つ。
「クックック、どうせ新しいものは持っていないのだろう?彼とて男だ、最愛のパートナーが可愛らしい衣装で自分を誘惑すれば、どれほど嬉しいだろうかな?」
「…………。」
 流石はルーファウス、口八丁手八丁で生き残ってきただけある。闘う事しか知らないクラウドを言い負かすぐらい、何てことはない!次第にクラウドがルーファウスの話に乗ってきた。
「お、俺、どうすればいいのかな?」
「セフィロスに精神的苦痛を与えているのは、我々にも責任が有る。だから君に彼が見たら喜びそうな衣装を買ってきてあげたよ。」
 そう言うと6番街のラヴ・ワールドで買ってきた紙袋を手渡す。ほぼ同時にツォンが扉をノックして入ってきた。
「ああ、ツォン。間に合ったかね?」
「はい、若。これでございます。」
 そう言いながらツォンはルーファウスに一本のペットボトルを手渡した。
 透明なペットボトルの中にはオレンジ色の液体が入っていた。それを見せながら話しかけた。
「これはな、ソルジャーで無い君がトップソルジャーであるセフィロスを相手にするには体力が無いだろうから、ガスト博士に頼んで一時的に体力を付けるジュースを開発してもらったんだよ。もちろん悪いものは入っていない。それはガスト博士が証明してくれるよ。」
 そう言って一枚の紙切れをクラウドに手渡した。紙にはこのジュースを作った原料がかかれていた。
「ゼイオの実、いちじく、オレンジ、蜂蜜…一応食べられる物ばかりだけど、このゼイオの実って言うのは何?」
「それかね?精力が付くと言われている実でピーナッツの一種だ。」
「ふ〜〜ん、まぁ悪いものではなさそうだから試して見ようかな?」

 そう言うとルーファウスに片手を上げて挨拶をして部屋を出て行った。


* * *



 帰宅したクラウドはいつものようにGパンにざっくりとしたスウェットを着て、エプロンをかけてせっせとセフィロスの為に料理を作っていた。
 一通り作りおえるとルーファウスからもらった紙袋を開けて見る。出てきたのはバニーガールの衣装にウサ耳へアーバンド。手にした途端クラウドが真っ赤になった。
「こ、こんなのを着るの?!」
 しかしセフィロスが満足する為なら…と、思って衣装を身につけようとしてハタ!と手が止まる。この衣装を着る為には日ごろ着ているランニングにトランクスと言う下着では衣装からはみ出してしまうのである。仕方なくクラウディアの衣装からTバッグのパンティを引っ張り出す。さっと着替えて首に衿を巻くと真っ赤になりながらもエプロンを重ね着する。
 そうこうするうちにセフィロスが帰ってきた事をインターフォンが知らせてきた。
 クラウドがペットボトルに入ったジュースを一気に飲むと、パタパタと出迎えに行った。
 扉を開けるといつものように少し疲れたよなセフィロスが立っていた。クラウドが精一杯背伸びをして軽く唇に触れるような口づけをする。
「お帰り…セフィ。」
 その時、身体のどこかがドキリと疼くようなざわめきを感じた。
 セフィロスがいつものようにクラウドに深く口づけると、からだの疼きが次第に酷くなって行く。その疼きにたえながらクラウドがセフィロスを見上げる。

       ”ドキッ!!”

 セフィロスの心臓がいきなり跳ねた。
 クラウドの青い瞳が濡れるように燃えている。艶やかな唇が…ほんのりと染まった頬が、まるで自分を誘っているようだった。
 ふとよく見ると戦士にはみえない細い肩があらわになっている。その白い首筋がかすかに震えているのを感じ取っていた。
「クラウド、一体どうしたと言うのだ?」
「な、なんでもないんだ。疲れたでしょ?セフィ。食事の支度出来ているよ。」
 掠れたような…やや上ずった声がセフィロスの雄をくすぐる。
 リビングに誘い、黒のロングを受け取るクラウドの様子は、いつもと違う事をセフィロスが感じ取っていた。