クラウドの行動が、いつもの彼らしくないのをセフィロスが首をかしげて見ていた。
しかしクラウド自身はもうセフィロスの事で頭が一杯になっていて、彼の声を聞くたび…視線が合うたび…彼に触れられるたびに、身体が疼いてしかたがないのを必死で我慢していた。
それがルーファウスに寄って与えられたジュースのせいだとは全く知らずに、心のどこかでセフィロスに抱かれたくてしかたがなくなってきている自分を責めていた。
一方どことなく色っぽいクラウドに思わずほくそ笑むセフィロスは、じっと愛妻を観察する。いつものざっくりとしたスウェットではなく、胸までしかない黒い服をきているようだった。しかし首には衿と蝶ネクタイがしっかりとあった。
手首にもカフスが有るのをみて答えが導かれた。
ク…クラウド、まさかバニー衣装を着ているのか?!
セフィロスの頭の中にクラッカーが弾けまくり、ファンファーレが鳴り響いた。
細い肩を抱き寄せながら、こっそりと指で感じる所を触ると、途端にクラウドが頬を赤くして身をよじる。
クックック…コレは何かあったな。
ふとダスターを見ると、見慣れないペットボトルが置いてある。それを手に取り中身を確かめようとすると、クラウドがあわててセフィロスからペットボトルを取り上げた。
「こ、これ凄い甘いジュースだったんだ。ルーファウスに試飲だからともらったんだ。中身はオレンジや蜂蜜、いちじくとか書いてあったよ。」
「それだけではないな、何の匂いだ?これはピーナッツか?」
「え?あ、ああ。ゼイオの実って言ってたよ。」
「はぁ?!ゼイオの実って…ルーファウスの奴何を考えているんだ?!」
ゼイオの実とはチョコボをカップリングして、子供を産ませる時に使うチョコボ専用精力剤のようなものである。たしかに人間に害は無いが、その成分が人間に効くとも思ってはいなかった。
それよりもルーファウスの名前が出たのは少し気になる。が、クラウドが自分の為に着たくもない衣装を着たりしている気持ちは受け取らねばならない。そう思ってわざと気がつかないふりをする事にした。
キッチンのテーブルに付くと普通にクラウドの正面に座り食事を取る。視線が合うたびにクラウドは赤くなってうつむくのでセフィロスに取っては楽しくてしかたがなかった。
食事を終えるといつものように素知らぬふりでリビングのソファーに学術書を手にとってすわる。やがて食器を片づけたクラウドが頬を赤らめておずおずと近づいてきた。
「ねぇ…セフィ…」
熱く見つめながらするりとエプロンを取ると、華奢な白いからだにバニーガールの黒い衣装があまりにも似合っていた。 「ク、クラウド。一体その格好は?!」
「ルーファウスもザックスも言っていたんだ。男ってこういうカッコを彼女にさせたいって…セフィだってそう思うのかな?って…」
「お前は日ごろから普通にしていても可愛いではないか。それなのになぜ…」
「だって…俺…セフィロスのためになることをしたかったんだもん。」
「それは嬉しいが…」
やや掠れたような声に濡れたような瞳、せつなげに眉を寄せ、軽く開かれている唇、クラウドの全てが自分を誘っているのを感じていたが、セフィロスは抱きしめたい気持ちを必死に押さえ、日ごろと同じように表情に出さないようにしていた。
クラウドは誘うような視線を投げかけていても、愛しい人は全く気が付いてくれない。もう体の疼きが押さえきれなくなってきているので、実力行使をする覚悟を決めた。
「ねぇ…セフィ…」
「ん?なんだ?」
クラウドはゆっくりとセフィロスに近づくと、そっと彼の座っている横に上がり込み、首に腕を回して唇を重ねた。
「お願い……抱いて。……お、俺…もう、どうにかなりそうなんだ。」
「こんな可愛らしいお強請りなら何度でも聞きたいものだな。」
満面の笑みを浮かべると、クラウドにキスを贈りながら軽々と抱き上げる。いつになく積極的なのはやはり例のジュースのせいなのか?と思いつつ、その華奢な身体をベッドルームへと誘うセフィロスであった。
* * *
翌朝、クラウドが目を覚ますと、すでに目の前にセフロスはいなかった。
あわてて飛び起きようとするが、身体が鈍りのように重たくて動く事もかなわなかった。
「いった〜〜い!!」
クラウドの悲鳴が聞こえたのか、あわててセフィロスがベッドルームに飛び込んできた。
「クラウド、大丈夫か?」
「あ〜〜ん、もう!セフィの馬鹿ァ!!腰が痛くて立てないじゃないか!」
「おまえ…あれだけ私を求めておきながらそれを言うのか?」
「あ?!え?!お、俺が?」
「ああ、可愛かった。可愛すぎて押さえがきかなかった。」
セフィロスの言葉にクラウドが一瞬パァッと華やぐような顔をして、すぐさま真っ赤になった。
「やっぱり…俺ってあなたに取っては…お…女…なの?」
「クラウド、ならば聞いてもよいか?お前は男のくせになぜ男の私に抱かれても平気でいられるのだ?」
「え?だって…それはセフィロスが好きだから……あ!!」
クラウドが言葉を止めてセフィロスを見上げる。
セフィロスはただクラウドを優しく見つめてうなずいた。
「やっとわかったか?」
「……う…ん。」
真っ赤になってうなずくクラウドは誰よりも可愛らしい。セフィロスは頬を真っ赤に染めた愛しい少年の横に座り込み、細い肩を抱きすくめる。裸の上半身のあちこちにちりばめられた自分のキスマークを眺めながら、ゆっくり流れる時間を楽しむようにしていた。
「あ…そういえば今日の予定は?」
「お前が美人になる日だ。」
「ええ〜〜?!もう。またこんなにキスマーク付けて〜〜ミッシェルに苛められちゃうよ。」
「クックック…言わせておけ。私とお前があまり仲がよいから焼きもちを焼いているだけだ。」
まるで楽しむようなセフィロスの言葉に思わずめまいがしそうだった。
でも”幸せだからいいか…”と思ってしまうクラウドだった。
セフィロスに抱き上げられるようにキッチンへ移動して、彼の用意した朝食を食べる。なんだか子供扱いに思っていたけど、今朝は違う、セフィロスが自分の事を大切に思ってくれている事がわかったから、幸せすぎてこのまま溶けてしまいたいぐらいだった。
「うふっ…セフィ。…あ…あ…」
「ん?何だ?」
「愛してる。」
まるで顔から水蒸気が出るのではないかと思うほど、クラウドは真っ赤になっていた。
そんなクラウドの愛の囁きに心なしかセフィロスが喜んでいた。
「こらこら、そんなに私に襲われたいのか?」
「え?!だ、だめぇ!!マスコミ相手の仕事に行くのに、セフィに抱っこされていたら、それこそマスコミの餌だよ。」
「ならば、そんなに私を誘うな。」
「誘ってなんか…ないつもりなんだけど。」
今は何を言っても無駄だろうと半ば諦めてはいた。
食事を終えてなんとか立てるようになったクラウドが皿を片づけると、時間を確認してクラウディア仕様へと変貌して行く。
シンプルなブラウスとチェックのスカートを身につけると、胸まである髪をクルクルドライヤーで巻き髪にしていき、後頭部の上の方で大きなリボンで結わえる。軽く化粧をするとそこには一人の美少女が座っていた。
Lady Cloudea
神羅の英雄と呼ばれるセフィロスと、すでに同棲中の婚約者。ポスターとCMでだけお目にかかることができる天使の微笑みを持つ少女。”世界の妖精”とまで呼ばれる人気モデル。
それがクラウドのもう一つの顔だった。
支度が終ってドレッサーの前から立ち上がると、後ろに黒のスーツをりゅうと着こなしたセフィロスがゆるやかな笑顔を浮かべて立っていた。
”俺、セフィロスにいっぱい幸せをもらっているよな。
その分俺はセフィロスに返しているんだろうか?
もっとセフィが幸せだと感じられるように頑張らなくちゃ!”
差し出された手を取りながら、クラウドがふわりと微笑む。どんなに辛い仕事でもセフィロスの為なら頑張れる気がしていた
その思いが伝わってきたのかこの日のクラウディアの仕事は順調だった。
スタッフがびっくりするぐらいいい笑顔と、ほのかに見え隠れする色気が増してやたら艶っぽい、その視線の先には必ずセフィロスがいた。
「ま〜〜ったく、見せつけてくれるわね〜」
「ええ〜〜、そんなんじゃないけど?」
「それにしてもやたら乗り気だね?いい事あったのかな?」
「え…ええ、私って幸せだな〜〜って…うふっ!」
満面の笑みを浮かべながら照れる今のクラウドは、何処をどう取っても反抗勢力すら名前を聞いただけで震え上がる神羅カンパニーのトップクラスのソルジャーにはみえなかった。
「うわ〜〜〜ゲロ甘、どうしちゃったんだろう?」
「そうだな。この間電話でメチャクチャ強いモンスターを排除し終わったって言うから、モデル業に専念出来るかって聞いたらまだ並みに強い奴がいるからダメって言ってたんだけど。」
「彼氏との関係はベタLOVE状態なのは相変わらずよね?」
「ミッシェル、お口が悪いぞ。ずいぶん彼に影響されていない?」
「だ〜〜って、クラウド君かわいいんだもん。一生懸命お化粧を覚えようとしてくれたし、洋服のチョイスもだんだんと自分に似合うようになってきたし、このまま妹にしておきたいんだけどなぁ〜〜」
「ミッシェル〜〜〜、誰が誰の妹ですって?」
「あ…地獄耳。」
スタッフに交じって笑顔ではしゃぐクラウドが、この場にいる誰よりも一番可愛いと思えるのはセフィロスの欲目であろうか? いや、ただ単に作者の趣味だと思うが。
その可愛いクラウドに、どうやら再びルーファウスが食指を動かしはじめているのを昨日の夜のペットボトルやバニー衣装の事で感付いているセフィロスは、送られてくるラブラブな視線もOUT.OF.眼中で、ひたすらルーファス一味をどうやって締め上げるか考えていた。
(まったく、…何考えているんだあいつらは?!)
クラウドはセフィロスを見つめるたびに、彼が難しい顔で何かを考えているので、次第に暗い顔をするようになってきていた。
クリスマス商戦用のポスター撮りがまだ終っていないので、カメラマンのグラッグがクラウディアに声をかける。
「クラウディア、暗い顔してちゃダメだよ。いつもの笑顔はどうしたんだよ?」
しかしクラウドの瞳には既に涙が浮かんでいた。
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