リックは以前ザックスから教えてもらっていた。
 セフィロスが自分に正宗を向けたりするのは一種のスキンシップであり、正宗を向けられて避けられると信じている者にしかやらない行為だと…。
 ならば今まさに自分は憧れの英雄からそのスキンシップをされたことになる。リックは思わずなきたいほどの気持ちになっていた。
 隊員たちがそんなリックに気が付いて茶々を入れる。
「あ、鬼の目に涙。」
「へー、リックでも泣くんだ。」
「泣いてない!!」
「どう見ても泣いているけど?」
 意地を張っているリックに、クラウドが小首をかしげて答える。
「襲われたいか!!」
「貴様、本気で殺されたいか?!」
 いつものようにわいわいとやっている隊員達にジョニーが怒鳴りつけた。
「ったく!!うるせーんだよ!!こっちが必死で手配してるのに!!」
「あ、ゴメン。で、どう?」
「さすがの親父でも今からじゃ大きい部屋を押さえられそうも無いよ。だいたいクリスマスパーティーなんて一年前から予約で押さえる企業だってあるんだ。」
「そう、ヤッパリ一か月前では無理かなぁ。」
 その時ジョニーの携帯が再び鳴った。
「あ、親父か。ん?え?いいのか?マジで?!そ、そりゃ喜ぶだろうけど…あんたはどうするんだよ?!はぁ?!クラウディアの為ならかまわんって…あんたなぁ!!何処まであのモデルにぞっこんなんだよ?!取り引き先、無くすぞ!!ああん?まぁそりゃそうだけど…わかった。あんたがそのつもりなら俺は何も言わない。サーには伝えておくよ。」
 携帯を切るとセフィロスとクラウドに向かってやや青ざめた顔をむけた。その表情と先程の会話で何かが起こったと言う事をクラウドは察した。
「ジョニー、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも…あの馬鹿親父自分のパーティー用に抑えていた、ウチのホテルの一番大きな部屋をアンタ達にかすって言うんだ。もうパーティーの案内とかを発送してしまったと言うのにだぞ!!」
「うわ!!ど、どうしようセフィロス?!」
「ふむ…、グランディエ氏はかなり深読みするな。クラウディアと私の共同企画ならば二人に恩を売ることになる。経済界に興味のない私を味方に付ける理由はわからんが、私が頭を下げると言うステータスは凄いものだぞ。」
「それってステータスになるの?」
 クラウドの問いかけに少し考え込んでいたジョニーがうなずく。
「ああ、経済界の大御所にはクラウディアのファンがたくさんいるんだ。清楚で高貴で是非にも自分の企業のイメージモデルになってほしいって、俺も隊長の直接の部下だと財界人に知られて以来かなり接触された。もちろん俺の親父なんて太刀打ちできないような企業だって中にはあった。その中で姫が直接会った事があるのはほんの一握り。しかも親父は姫が望んで会いたいと言う人物になれる上に、英雄セフィロスに貸しを作った男になるんだ。これはなろうと思ってもなれるもんじゃないよ。」
 ジョニーの思ったことは正解だった。
 自分とセフィロスが連名でクリスマスパーティーを開く事で、ティモシーに日時とかを連絡して1時間ほどたった時にいきなりデヴィッドとマダムセシルから連絡が入ったらしい。
 二人が言うのは「ドレスは必ずうちで作ってね!」という念押しであったが、2枚も着たくないクラウドがお互いに連絡をとって、誕生会みたいにオリジナルドレスを作ってと頼んだのをきっかけに、クラウディアの事務所には問い合わせの電話がひっきりなしに入ってきた。

 ほぼ同時にグランディエ財団会長のジャック・グランディエ氏にも電話がかかりはじめた。

 その電話の相手はほとんどが自分が主催するクリスマスパーティーに招待したゲストの財界人達ばかりだったのだが、誰一人もパーティーを中止した文句を言わなかったばかりか、是非自分を招待するようにクラウディアに頼んでほしいと懇願された。
 2週間以上前に送った招待状の返信すらまだだと言うのに、息子から電話が入ってまだ2、3時間しか経過していないと言うのに…この反応の良さは何だとジャック・グランディエ氏は思わずお腹を抱えて笑ってしまったのであった。


■ ■ ■



 クラウドが招待状の文面を一生懸命考えている隣りでリックとザックスが茶々を入れていた。
「その空きスペースにキスマークでも入れてやったら?」
「おお〜〜〜!!俺が欲しい!!」
 ザックスとリックにセフィロスの鉄拳が炸裂した。涙目で頭を撫でている二人にクラウドが話しかける。
「ザックスは友達だから来てくれるよね?リックは隊の連中と警備しながらこっそり美味しい料理食べててよ。」
「特務隊全員つれて行くのか?」
「うん、皆にもお世話になっているからね。」
「た、隊長…」
「警備してくれるなら来るがよい。」
「隊長の関係では統括とか社長とか…クラスSの中でもトップ4は参加ということになりそうでしょうか?」
「ジョニー、その部屋でパーティーやるなら何人ぐらい入れそうだ?」
「はい、たしか1フロアぶち抜きだから軽く3000人ぐらい収容出来ます。テーブルを入れて椅子を入れればその半分ぐらい、料理とかスタッフとか入れると1,000人ぐらいですね。」
「1,000人?!そんな大勢を招くの?!」
「何言ってんだよ姫、英雄と妖精の共同企画なんだろ?出たい人ならその倍は軽くよ。」
「あとでティモシーにめぼしい人達をリストアップしてもらおう。」
 招待客をリストアップしようとしたクラウドに、リックが急に声をかける。
「姫、自分自身はどうする気なんだよ?!」
「え?!」
「あ、そうか!!特務隊隊長補佐で、クラウディアの身代わりになったことのある男を彼女が呼ばないわけにはいかないだろ?!」
「ああ、俺か。入れ代わるわけにもいかないから、その日からニブルに帰ったことにしておくよ。」
「ニブルに帰ったよりはお前が人前にでるのが嫌の方がカンパニーで作ったクラウド像に近いんじゃないのか?」
「俺達もホールでひっそりと警護したりバイトしたりで忙しいからな、ジョニーはまた表舞台か?」
「に、なるのかな?この二人じゃパーティーを仕切る事なんて出来ないだろうからな。」
「そうやって次第に親父さんの手のひらの上で躍らされるのであった」
「ぐお!!クリティカルヒット!!」
 ジョニーがわざとらしく苦しんだのでカイルとリックが呆れたような顔をする。しかしそれを真面目に取るのがクラウドであった。
「あ、ゴメン。ジョニーそう言うのが嫌で家出したんだよな。」
「お前の為なら何でもするって言ってるだろ?」
「貴様、何を望む?」
「い、嫌だなぁ隊長。俺が望むのはただ一つ。隊長達がうちのホテルのイメージモデルになってくれる事!」
「ズルい奴だな、OKという返事しか出来ないではないか。しかし、貴様はそれでいいのか?」
「いいも何も…、自分は姫と一緒でもうすぐここを去らねばなりません。ならば今からその伏線を引く事に費やしますよ。」

 あまりにもジョニーらしい発言だった。
 策士だなと、クラウドも素直に思うほどジョニーは自分で自分の道を切り開いている。
「…って事は、俺はお前が飽きるまでクラウディアをやらなきゃいけないって事?」
「そう言う事。だいたい姫は隊長の奥様だから、どこか一緒にでる時は絶対的にクラウディアにならざるをえないだろ?」
「そうだよな。それが一番問題、治安部辞めた途端に殆ど女装かそれに近い格好をしていないとどうなるか…」
「カミングアウトはしない方針?」
「う、うん。」
「私はかまわんとずっと言っているのだがな。」
 その場に居る一同が呆れたような顔をして隊長のセフィロスを見ていた。ただ一人、クラウドだけは真っ赤な顔で上目使いにちらちらと見あげていた。リックとカイルが思わず溜め息をつく。
「ったく、何でそんなに自信が無いのかね?」
「お似合いだと思うけどな」
「今更クラウディアが実は男でしたとも言えないし、そっちを解決しないと、俺はいつまでも女装しないとだめって事なんだ。」
 言われて見ればそうである。
 世界の妖精とまで呼ばれているのは実は男でした…では、世間がどれだけ混乱する事であろうか?
「なんかいい解決方法ないもんかね?」
「そんなもんあったら今ごろ全面解決だ」
「トードみたいに身体を変化させるマテリアがあるんだから妊娠のマテリアとか女体化のマテリアなんてのは…無いか。」
「そんなもんあったら今ごろうちの科学部門が大喜びしてるぜ。」
「あ、でもそんなマテリアがあったら欲しいな〜〜セフィの子供が産めるし、引退も出来るし…うふっ。」
 幸せそうに微笑むクラウドに隊員達はフリーズし、セフィロスは何とも言えないような顔をしていた。
「ク、クラウド…お前、頼むから女みたいな事を言うな。」
「なんだか…姫らしいや。そんなに隊長が好きなんだ。」
 クラウドはリックの一言に一瞬で首まで真っ赤になってしまい、逃げるように特務隊の執務室を飛び出してクラスA執務室へと逃げ込んだのであった。