クラスA執務室で仕事をしていたソルジャー仲間たちは、扉を開けて真っ赤な顔をしたクラウドが飛び込んできたかと思ったら、いきなりデスクの下に入り込み隠れてしまったのを見て集まりはじめた。
キースがクラウドの入り込んだ机をのぞきこみながら声をかける。
「姫、なにやってんの?」
「避難訓練じゃないよな?」
「何、机の下にもぐりこんでいるんだよ?」
わらわらと集まり出したクラスA仲間たちに、クラウドはなんと説明していいのかわからずただ恥ずかしくて小さくなっていた。
そこへ特務隊から逃げ出したクラウドを追いかけて、セフィロス以下、特務隊の隊員達が乱入した。
「クラウド、何処だ!!」
「ああ、姫ならこのデスクの下です。」
「やだーーーー!!来ちゃ嫌だ!!来ないでーーー!!」
「き…来ちゃ…嫌だ、だと?!」
クラウドの言葉にいきなりクラスA執務室が氷河期と化していた。セフィロスが周りに絶対零度の怒気をあふれさせていたのであった。クラスAソルジャーがほぼ全員フリーズするなかを、セフィロスが珍しく愛妻に対してどなっていた。
「なぜ私がそばに行ってはいけないのだ?!答えろ!!」
今にでも正宗に手をかけてクラウドが隠れたデスクを叩き斬ろうとしている。
それを見てあわててザックスが止めた
「わ〜〜〜!!旦那、正宗使ったらクラウドまで切れちまうぞ!」
しかしセフィロスは今何も聞こえてはいなかった、クラウドにはっきりと拒絶されたのはコレが初めてだったりする。そのショックでぶち切れていたのである。
「煩い!!この私が愛しい妻にケガなどさせるとでも思っているのか?!」
セフィロスの叫び声にどよめきのような声が後ろから聞こえてきた。ザックスとリックが恐る恐る後ろを見ると、騒ぎに集まってきていた下級ソルジャー達が真っ青な顔をして突っ立っていた。
「た、隊長殿。う、後ろ…」
「うわっ!!いつの間にこんなに集まってきていたんだ!!」
っていうか…扉ぐらい閉めなさいと言ってやりたいのであるが、何しろクラスA執務室に入った途端セフィロスの怒気でフリーズしたので、扉を閉める暇など無かったのである。
「何だ、下級ソルジャー達ではないか。それがなんだ?!」
ギロリと睨みつけられてクラスA執務室をのぞいていた下級ソルジャー達が凍りついた。ザックスが頭を抱えて説明を始める。
「あのなぁ、セフィロス。あんたは今こいつ達の前で、大声でクラウドは自分の愛しい妻だと叫んだんだぜ。」
「何が間違っているというのだ!!」
セフィロスの声に凍りついている下級ソルジャーの後ろから反応があった。騒ぎを聞きつけてクラスSと治安部統括のランスロットがやってきていたのであった。
「今後、姫の立場が悪くなると思います。キング、早く訂正されたほうがよいのでは?」
「いくらご自分の隣にたたせたい戦士だからとはいえ、愛妻呼ばわりは姫が可哀想ではないですか?」
「キングともあろう御方が冗談が過ぎるのではないのですかな?」
クラスSとランスロット統括が機転をきかせはじめたのである。下級ソルジャー達がフリーズからやっとほぐれはじめた。
クラウドがあわててデスクの下から出てきて、部屋の中と外をぐるりと見渡して真っ青になっていた。
「た、隊長殿。お願いです訂正して下さい」
青い瞳が潤みはじめている、クラウドを鳴かせるのは好きだが泣かせるのは嫌なセフィロスが軽く舌打ちをしてランスロットを振り返った。
「馬鹿な?!私にはクラウディアと言うフィアンセが居るのだぞ。冗談と本気の区別も付かないのか?!」
「キング、あなたが冗談などおっしゃるからこれほど騒ぎになるのです。もっとも、あなたが打ち解けようとしていらっしゃるのは認めますが、やり過ぎるとカンパニーどころか世界中がひっくり返りますよ。」
ランスロットの言葉に何も答えずに、冷たい瞳でその場にいた下級ソルジャー達を軽く一瞥し、セフィロスはクラスS執務室へ悠然と入って行った。
下級ソルジャー達が安堵の表情を見せてそれぞれの場所へと戻っていく。関係者以外が居なくなった所を見はからってリックが扉を閉めた。とたんにクラウドの周りをクラスA仲間が囲い込んだ。
「説明してくれるんだろ?」
「それとも、俺達全員を相手に一戦する?」
「ど、どっちも嫌だーーー!!」
囲まれて泣き出しそうになっているクラウドを見かねてザックスが助け舟を出す。
「エディ、ブライアンあんまり突っ込んでやるなよ。どこかの隊長補佐殿があまりにも奥様していたんでこうなったんだよ。」
「はぁ?!意味不明だぜ。」
「要するに姫が生まれてくる性別間違えたんじゃないかって事。」
「あ、また可愛らしい事でも言ったのか?!」
「またって何だよ、またって!!」
「どこかのカフェバーでランチタイムサービスにデザートが付くんだけど、姫が頼んだのがチョコパフェだった話を忘れたわけじゃないよな?」
「うわ!!お前はガキか?!」
びっくりするクラスAにザックスがけらけら笑いながら答える。
「いや、こいつ実は大好きだったりする。エアリスと一緒に何処の何て言うパフェが美味いかとか、しょっちゅうやってる。」
ザックスの言葉にクラスA仲間が苦笑を漏らしている。しかしそれだけで机の下に隠れただけでなく、最愛のダーリン相手に「来ないで」発言した理由にはならない事ぐらいクラスAソルジャー達は全員知っていた。
「で?クラウドは一体何を爆弾発言した訳?」
「もろに妻の発言、どう聞いても男のセリフじゃなかった。」
「はぁ?!こいつがそんな事を言うのか?!」
「特務隊鬼の隊長補佐の顔はどこへやら…だな。」
クラウドの顔がこれ以上無いぐらい真っ赤になって青い瞳から涙がボロボロとこぼれはじめていた。
クラスAソルジャーともあろう男共がクラウドに泣かれた事で思わずうろたえる
「ひ、姫!!」
「わわっ!!エディ!!頼んだ!!」
「あ〜〜?!俺、まだ死にたくない!!」
ザックスが周りを見ながら声を上げた。
「何かかぶるような布無いか?!」
「あ?!バンダナでいいか?!」
ランディがポケットから傷を負った時に縛るようにと持っていたバンダナを手渡されたとたん、ザックスがそのバンダナを広げてクラウドの顔を隠して指示を出す。
「エディ!こっち来い!皆、周りを固めろ!!クラスSに行く!」
「ほー、これはこれは機転の効くことで。」
「ダテに特務隊の副隊長張ってないって事か。」
「俺も見直した。」
リックが思わず苦笑していた。
ザックスに言われた通り数人でクラウドを囲むように固めて、そのままクラスS執務室になだれ込んだ。
いきなり入ってきたクラスAソルジャー達にクラスSが注目した。
囲みのまん中にいる自分達の仲間に引き入れたくてしかたがない男が、まるで少女のように泣きはらしているのを見ていきなりあわてる。
「貴様達!!姫に何をした!!」
「リック、警護隊長失格だぞ!」
上官達に詰め寄られて思わず退きそうになる中で、ザックスだけが平然としていた。
「そこにいるセフィロスが悪いんだよ。めずらしく嫁に戻っちまった発言聞いて、テンパっちまったんだから。」
「先程からそんなに時間がたっていないと言うのにどうしたと言うのだ?」
「はい、あまりにもの奥様発言を姫自身が自分で恥ずかしいと思われたのでしょう。」
「と、言うことは…貴様達の執務室での騒動が発端ではないのだな?」
「はい、元々は特務隊の執務室での会話が発端のようです。」
「おまえら…一体なんといって姫を苛めた?!」
トリスタンが腰にはいでいた拳銃をリックとザックスに向ける。ザックスもリックもトリスタンが射撃隊の隊長である事を知っていて真っ青になる。
「あ、あの。隊長殿にお聞き下さい、自分には言って良い物か悪い物か判断が付きかねます。」
「こいつにも色々と問題が有るようでね。旦那のそばに居たいが女装は好きじゃない。好きじゃないけど契約の関係で縛られてるうえに、世間はそのモデルが男であるとは微塵にも思っていない。モデルよりも先にカンパニーのリストラにあいそうだから何か仕事をするにはモデルしか残っていない…矛盾ですよ。」
「それで特殊マテリアでうまく誤魔化して仕事を辞めたいって…。」
「特殊マテリア?誤魔化す?」
ブライアンの言葉を聞いてキースが首をかしげた。そんな彼に答えを導こうとエドワードが話しかけた。
「やや複雑な問題。姫は同性婚で女装の姿が世間に知られている。うまくその姿を辞めるいい方法は?」
「結婚しました…じゃダメか?」
「ダメだろうな。英雄の恋人から英雄の奥様に格上げされただけだ。男とばらすか、そうでなければ、体型を大きく変えるかだ。」
「男と正体を明かすと法的措置に取られる可能性が有る。ならば体型を大きく変えればよいが、その方法は大きく太るしかない。」
「あ、それ無理。こいつこう見えても結構大食いなんだ。」
ザックスがクラウドを指差してにっかりと笑った。
「いくら食べても華奢なまんまだもんな。食わしてないのかって思ったこともあるぐらいだ。」
「ならば、残る方法は特殊マテリアで身体を変える?」
やっとキースの口走ったことに問題が戻ってきたが、魔法部隊の副隊長が突っ込みを入れた。
「どんな特殊マテリアで誤魔化すって言うんだよ?変化のマテリアではカエルにするのがせいぜいだぜ。」
「妊娠とか女体化なんてマテリアはこの世のどこかにないのか?」
「そんなマテリア聞いた事ないぞ!」
ブライアンの突っ込みにエドワードが結論を言う。
「いや、さっきリックが言った”妻の発言”から考えると、それしかないようだぞ。さしずめ場所も考えずにトリップして、そんな特殊マテリアが有れば愛しのダーリンの子供も産めるとか、大手を振ってモデルから引退出来るとでも言ったのではないかな?」
思わずリックとザックスが拍手していた。そしてその拍手がエドワードの推測を正解と認めたと、その場にいる誰もが納得していた。
クラスS執務室のもう一つの扉が開いて、治安部統括のランスロットとセフィロスが出てきた。
執務室に入ってすぐにセフィロスの目に飛び込んできたのが、クラウドの泣き顔であったのは言うまでもないであろう。
「貴様達、なぜクラウドを泣かせた?!」
今にでもつかみ掛からんとするセフィロスを止めようと、ザックスとエドワードがクラウドの背中を軽く押すと、勢いで華奢な体がセフィロスの元へとつんのめって行った。
|