つんのめるように自分のところへやってきたクラウドを抱き止めて、セフィロスがその場に居たクラスAを一睨みする。
 クラウドはあいかわらず真っ赤な顔で涙をはらはらとこぼしていた。
「泣くな、お前に泣かれるとどうしていいかわからん。」
「ごめ……ひっく……うぇっく……。ごめんね……えぐっ…」
 ぼろぼろと涙を流しているクラウドを見てブライアンが隣にいるエドワードにたずねる。
「で?賢いエドワード君。この場合どうすればいいんだ?」
「俺に聞くな!」
 あわてるクラスAソルジャー達に片手を上げてランスロットがセフィロスに聞いた。
「話は聞こえてきていました。キング、あの事はまだ姫にも話されていなかったのですか?」
「ああ、クラウドが望まぬ限り教えるつもりもなかった。」
「あの事?クラウドが望まない限り??何ですか?それ?」
「私も何がなんだか解りませんが?」
「ガスト博士の研究の一つだ、今は詳しくは言えぬ。」
「しかし、その研究がうまくいけば、子供をもてなかった夫婦でも、真実の子がもてる事になるのだそうだ。」
 ランスロットの言葉にザックスがいきなり大きな声を出した。
「ま、まさかあの親父さん。娘のエアリスにおねだりされて…マジで始めちゃっていたんですか?!」
「流石によく知ってますね。」
「あれって…冗談だと思っていました。」
「どこかの科学部門統括殿は誰かさんと一緒で、可愛い一人娘のお強請りにメチャクチャ弱いようです。もっともミッドガルでの同性婚の比率は多くなってきています、そう言うカップルに子供を望む声を叶えてあげられれば、カンパニーにとっても収入になりますからね。」
「そ、それじゃ俺…ずっとモデルやっていなくても…」
 クラウドは一抹の希望を感じた。


■ ■ ■



 落ち付いた所でパーシヴァルが気をきかせてコーヒーを持ってきて、その場に居るランスロットとセフィロス、そしてクラウドにサービスした。
 クラスAソルジャーの多くは自分達の執務室へと帰って行き、クラウドのためにザックスだけがその場に残った。
 ランスロットがクラウドに話しかける。
「キングと姫が共同でクリスマスパーティーを開くと聞きましたが?」
「ええ、かなりの数招待されていて、出席しなければいけないので、それならいっそ…と、思ったんです。」
「キングが?パーティーの主催?!」
「出来るんですか?!」
 ふたりの戦友の意地の悪い一言に、セフィロスが正宗へと手を伸ばそうとするが、それをランスロットが見とがめた。
「きっとジョニーを味方に引っ張り込んだのでしょう。しかし、よく今ごろ部屋が取れましたね?」
「それが…ジョニーの父親が、自分の会社の為に抑えてあった部屋を貸してくれることになっているんです。」
 クラウドの言葉にパーシヴァルがびっくりした。
「グランディエ財団の会長が、自らのパーティーをキャンセルしたのですか?!」
「ええ、おかげでジョニー親子には頭が上がらなくなってしまいました。」
「なるほど、だからシェフォード・ホテルの一番広い部屋を23日の夜といういい日に取れたのですか。」
「これから仕事が終わったら会いに行くつもりなんですが、ジョニーが言うには居抜きで出来るって言うんです。居抜きってなんでしょうか?」
「スタッフとか料理の手配が既に終っていたのだと思います。すべてそのままで場所をお貸しして下さるんですよ。」
 クラウドがトリスタンの言葉を聞いて再び青くなる。今更ながらなんて無謀な事を実行しようとしたか実感したのであった。
「そ、そんなに早く計画しないと出来ない事なんですね。」
「そうでしょうね。特に大人数の場合、場所、料理、スタッフ。手配すべき事はたくさん有ります。」
「居抜きだとそのへんは何も考えなくてよいですが、姫、会長に我が侭言われても知りませんよ。」
「アハ、ハハハ…ハ…、どうしよう?ザックス。」
「今更遅いって。覚悟しておけ、世界の妖精さん。」
 ザックスがいつものようにクラウドの髪の毛をわしゃわしゃとかき乱すように頭をなでた。その様子をほほえましく見ながらもランスロットがセフィロスにたずねた。
「しかし、キングにはわかっていらっしゃったようですが?」
「私はクラウドがやりたいと言った事ならさせてやりたい。それに伴うあまたの事などそのためなら気になどならぬ。」
「うっわ〜〜!出ましたよ。べた惚れ発言!!」
「我々がなんといっても無駄です。さあ、仕事しましょう。」
「そのようだな。ともかくお招き頂きありがとうございます。」
 そう言うとランスロットはコーヒーカップをパーシヴァルに返すと統括室へと戻って行った。
 ザックスがクラウドを誘ってクラスA執務室へと戻ると、クラスS執務室はいつもの静かさを取り戻した。


■ ■ ■



 午後7時、シェフォード・ホテル ロビーにロイヤルブルーのワンピースを着たクラウディアをエスコートして、セフィロスが入ってきた。
 ロビーに居た客達が究極の美男美女カップルを思わず見つめる。
 その一歩後ろではジョニーがスーツ姿でドアボーイを怒鳴りつけていた。
「ジェローム!客に見とれてるようではホテルマン失格だぞ!!」
「す、すみません、お坊ちゃま!」
「お坊ちゃまはやめろ!俺はもう20歳を過ぎた男だ!」
「は、はい若。」
 平謝りするドアボーイを苦々しげに見てからジョニーがロビーへ入ると、セフィロスとクラウディアはすでにジャック・グランディエと握手をしていた。
「隊長、済みませんでした」
「貴様、何をやっているのだ?」
「何って?隊長とクラウディア様にドアボーイが見とれていたから叱っていただけですよ。」
「貴様の仕事ではないぞ。」
「ついでですよ、ついで。あんな奴にドアボーイをやらせているなんて親父の目も落ちたもんだな。」
「サー・セフィロスとクラウディア様に見とれないような奴は、お前ぐらいなものだぞ。」
「へーへ、どうせ俺は隊長と毎日顔を付き合わせてますからね!で、親父。マジで居抜きでいいのか?」
「その話は長くなりそうですので、食事でもどうでしょうか?最上階のレストランでフルコースをご馳走いたします。」
 そう言うと3人の先に立って最上階のレストラン専用のエレベーターへと乗り込んだ。肩をすくめてジョニーが乗り込むと、クラウディアの肩を抱いてセフィロスが乗り込む。
 エレベーターの扉がしまり、ロビーに居た人達の視線がそれぞれ本来向くべき所へと戻った。

 食事をしながら交わされた会話では、ジャック・グランディエ氏が本来開く予定のパーティーの為に手配したスタッフや料理をそのまま使えるという話を聞いた。パーティーを開く手順を全く知らなかったクラウドにはとてもありがたかったが、ある疑問が浮かんでいたのでそれを素直に尋ねた。
「グランディエ様が本来だったら開くパーティーはどうされましたの?」
 クラウドが至極普通の疑問をぶつけるとジャック・グランディエは豪快に笑い飛ばして答えた。
「実はですな。今回呼ぶはずだったゲストの多くは政財界の人間で、みんな貴女に会いたいと私に頭を下げてきたんです。もうパーティーなんて開かなくてもそれだけで十分実利を得ました。」
「政財界の方々ですの?私の存じている方たちでしょうか?」
「いいえ、貴女様はご存じ無い方が大半です。サー・セフィロスと、関係が有る方も少ないですね。ゲストが余ったら呼んでやってください。」
「ずるいな、それ。俺がいなかったら言えない余裕の発言だぜ。」
「いつも言っておるだろ?ある物で使える物はなんでも使え、と。」
 にやりと笑うジャック氏にワイングラスを軽くあげるジョニー、クラウドは今朝、特務隊の執務室でジョニーが言っていた言葉を思い出した。

(ああ、父親の影響だったのか…)

 セフィロスも同じ思いだったのであろう、ジョニーに話しかけた。
「この親にしてこの子あり…だな。ジョニー、血は争えんぞ。」
「嫌ですね。こんな策士のタヌキ親父と一緒にしないで下さい。」
「何を言う、今回のクリスマスパーティーの参謀を引き受けたのは、財団に戻ってくる布石なんだろ?お前、素質は有るぞ。」
「ちぇ!おもしろくねーの!!コレだから親父に会いたくなかったんだ。でも、まだ当分先だぜ。カンパニーをリストラされるまでは居るつもりだ。」
 口ではなんだと言い会いながらもどこかで信頼しあっている。不思議な親子関係を二人に見てクラウドがゆるやかに微笑んだ。
「お二人とも、私の為にありがとうございます。このご恩は忘れませんわ。」
「そうだな。せっかく知り合いになったのだ、ジャック氏が言われるように使える時は使うのも一考だな。」
「それっていつものことじゃないですか、酷い上司。」
 ぼやくようなジョニーの言葉にジャック・グランディエ氏が再び大きな声で笑った。

 そこへオーナーシェフがわざわざ挨拶にやってきた。
 シェフの顔を見てクラウドはにこりとほほ笑んだ
「ムッシュ・ルノー、やはりいらっしゃったのですか?」
「ええ、お久しぶりですサー・セフィロス。お味はいかがでしたか?Lady Cloudea。」
「頼んでいないキッシュが来たから、どなたの差し入れかしらと思っていましたわ。」
 クラウドの言葉にのんきにジャック氏が尋ねた。
「おや?頼んでいなかったかね?」
「ああ、頼んでねェよ。もっと気をつけろよ。」
「サーもお前も動かなかった。それだけで十分だろ?」
 目の前にいる信頼できるソルジャーが動かないということは、たしかに何も危険ではないと判断してもよいであろう。ムッシュ・ルノーは笑顔で話を続けた。
「ええ、サー・セフィロスを敵にまわして生きていられるとは思いません。差し入れたキッシュはクラウディア様のパーティーで出そうと思っていた物です。」
「え?!ではムッシュがお料理を?」
「ええ、サーとクラウディア様を満足させられるのは、このホテルでは私だけだと自負しております。」
「それは嬉しいのですが、その日はスー・シェフがこのレストランを動かす事になりますわ。スー・シェフの味で満足されない方がいらっしゃったらどうされます?」
「そう言う方はいらっしゃらないと思うので大丈夫ですよ。すべてあなた様のパーティーにいらっしゃる事になると思います。」
 ルノーの言葉にジャック氏がにやりと笑う。ジョニーもセフィロスもうなずいている、クラウドもゲストの事を考えるとそうなりそうなので何も言わなかった。
 自然とパーティーのメインシェフが決まってしまった。
「よかった。料理人としてでもクラウディア様のパーティーに参加出来るのは光栄です。では、失礼いたします。」
 一礼してキッチンへと戻って行くルノーの背中を見送りながら、クラウドが思わず溜め息をついていた。